Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第53話   俺とわえ様との決着

 

 竜の群れの中を力ずくでかき分けるかのように進み、ついに眼前の視界が開けた。

 

「竜の群れを抜けた!」

 

 メルトリリスが声を上げる。

 そこそこ苦労させられたが、その分だけ数も結構削れたはずだ。

 ここまでの戦果は上々と言って良いだろう。

 

 少し離れた場所で複数体の大型竜種を従えたわえ様がひどく愉し気に笑っているのが見えた。

 オノレ、今にその顔、思いっきり歪めてやるからな。

 

「手筈通りに頼む! やるぞ、メルトリリス!」

 

 アロイからメルトリリスが飛び降りて、俺も色々と限界が来ていたアロイを収納して徒歩となった。

 

「き、ひ、ひ。アレを抜けてきたか!」

 

「ああ、抜けてきたとも、お前を倒すためにな!」

 

イーリアスのスラスターを吹かして急接近してエクスカリバーで切りつけると、わえ様はヴァジュラでそれを受けた。

 

「貴様の攻撃は、少しばかり世界の理から外れていそうだし、まともに受けるのは上手くなさそうだのう?」

 

 俺の攻撃を受けてできた隙をついてメルトリリスが後方から攻撃を加える。

 それを、わえ様は防御もせずにそのまま受けているが、概念的な守りを越えられていない。

 霊基の出力的にそうじゃないかと思っていたが、逸話からくる異常な防御性能が十全に発揮されているらしい。

 

 実は俺の武装は世界の外に由来するものであるせいか、一種の概念殺し的な性質を持っている。

 故にわえ様のその防御を抜ける可能性があるんだが、それも見抜かれていた。

 油断したままでいてくれたら、そのまま攻撃を通して決めきってやったのに。

 

 まあ、わえ様は狡猾だからそこまで期待はしていなかったけどな。

 やはり、作戦通りに行くしかないだろう。

 

「おっと!」

 

 上空からの援護射撃をわえ様が避けて少し体勢が崩れた。

 メリュジーヌが上空の敵を抑えながらも、タイミングを見てわえ様に攻撃を加えたのだ。

 さらにそこにメルトリリスが追撃をくわえて、攻撃は通らないながらにさらに体勢を崩した。

 俺はその隙を逃さずに、踏み込んで攻撃を加える。

 今度は防がれることなく攻撃がわえ様にしっかりと入ったが、しかし、これではだめだな。

 

「見事だのう! よく頑張るではないか!」

 

 むしろ上機嫌な様子で笑って言って、与えた傷はすぐさま修復された。

 今の動き的に、今を生きている純血の竜種であるメリュジーヌの攻撃もわえ様には通るようだが、決めきろうと思ったら宝具クラスの全力攻撃が必要そうだ。

 

 しかし、メリュジーヌが空を抑えてくれていなかったら、戦闘自体がもっと混沌としたものになってそんな隙は得られない。

 恐らく手元に残した竜たちはそれを狙ってのものだろう。

 つくづく狡猾だ。

 良いだろう、ひとまずは着実に削ってやろうじゃないか。

 勝負の際はまだ先だ。

 

 俺とメルトリリスのコンビネーションと、時々入るメリュジーヌの援護によって、わえ様との戦闘は一応はこちらに優位に展開していく。

 それでも周囲の竜種の横やりや、わえ様のしぶとさによってこちらも決め手に欠けて、実質としては膠着状態に近かった。

 

「呆れた技量だ。このわえが、まともに攻撃を入れられぬとは。しかも、そちらの細身の娘もフォローしながらとはな」

 

 しばし、真顔に戻って驚きを露わにするわえ様だったが、その表情はすぐに愉悦に満ちたものに変わった。

 

「だが、ならばこれはどうかな! さあ、どう越えてみせてくれる!?」

 

 高まる魔力、宝具の発動の兆候。

 竜種たちに守りを任せていったん距離を空けたわえ様が、宝具の発動態勢に移った。

 

 さあ、ここからが勝負どころだ!

 

「メルトリリス! 令呪をもって命ずる! 宝具を発動して敵を押し流せ!」

 

 俺の持ち帰った間桐の資料を基に、俺とシオンでこの特異点に入ってから急ピッチで成立させた令呪の補充技術によってギリギリ用意できた一画。

 今こそが切り時と言って良い。

 令呪の力を受けて、メルトリリスが瞬く間に宝具の使用態勢に入った。

 

魔よ、悉く天地を塞げ(アスラシュレーシュタ)!」

 

 ヴリトラの宝具が発動し、魔軍が姿を現していく。

 一拍遅れて、メルトリリスもまた宝具を発動した。

 

弁財天五弦琵琶(サラスヴァティー・メルトアウト)!」

 

 メルトリリスの宝具は水や風といった自然現象だけでなく、音楽や言葉など流れるものを操るサラスヴァティーを源流とする弁財天の権能を元に、宝具としてカタチにしたもの。

 今回はその性質の中でも、水流としての側面を特に強調して発動されたそれは、まさに自然の猛威を現した洪水そのものであった。

 

 魔軍がもみくちゃになって押し流されて行く中、わえ様は余裕の表情で障壁に守られている。

 わえ様の異名である堰界竜は囲界竜、または井界竜とも言って、その名は「障害」を意味し、水を堰き止め、干魃などを引き起こす力を持つとされる。

 要するに、メルトリリスのこの宝具との相性は非常に悪く、彼女自身にダメージを与える事は難しい。

 

 ただし、それは本来であれば、だ。

 

 俺は量子ストレージから、あるものを十個ほど取り出した。

 まあ、こんな宝具を使えば、あくまで狙いは魔軍だって思うよなあ?

 しかも、これまでの戦闘でメルトリリスは一度もわえ様の逸話からくる防御を抜けていない。

 だからそんな風に無防備に、メルトリリスが生み出した水流の中に身を置いたままでいる。

 

 それがこっちの思惑通りだとも思わずにな!

 

 手に持った缶のようなものをメルトリリスの生み出した洪水の上空へまばらに投げてから、それを全て撃ち抜いた。

 缶が破壊されると同時に吹き出す、そんなサイズにどうやって入っていたのか疑問になるような量の液体。

 お察しの通り、あの缶は俺のチート由来のアイテムだ。

 SFアイテムって時々、なんでそんなものにそんな高度な技術が使われているんだよってやつがあるよなあ。

 

 液体はメルトリリスの生み出した洪水とまじりあって、爆発的な勢いで泡を生み出していく。

 あのアイテムは別に大したものじゃないというか、おまけ的なコンテンツで使用する、宇宙戦艦用の洗浄アイテムで、泡立ち抜群! これ一個で、宇宙戦艦丸洗い! とかいう、フレーバーテキストの、宇宙船へのデバフを解除するアイテム。

 そんな宇宙戦艦規模の洗浄が可能な缶を、十個もぶち込んだらどうなるかというと、まあお察しである。

 

 みぎゃー! みたいなわえ様の悲鳴が響いた気がした。

 わえ様は泡を使って倒された逸話があるために、泡は覿面の弱点なのである。

 ざ・ま・あ!

 おっと、性格が悪いとか言わないで欲しい。

 こっちもいい加減ストレスがいっぱいいっぱいの所にわえ様出てきたら、これくらいの仕返しは許されると思うんだ。

 

 

「鬼か貴様! いくら何でもやっていいことと悪いことが――――!?」

 

 泡の中から何とか飛んで抜け出せたわえ様が叫ぶが、不意にあることに気が付いて動きを止めた。

 

「奴はどこに……?」

 

 そんなわえ様を、嗜虐的な色を含んだ声でメルトリリスは嗤う。

 

「彼が、こんな絶好の機会を逃すような男だと思う?」

 

 もちろん、答えはNOだ。

 泡にまみれて中がさっぱり見えなくなっていた泡の洪水の中を、イーリアスのセンサーだよりに進んでいた俺は、わえ様の背後に当たる位置から泡を全身にまとった状態で飛び出した。

 

「しまっ――――!?」

 

 右腕にはすでにホロウ・ピアッサーを展開済み。

 わえ様が振り向き切る前にその霊核の中心へと突き立てた。

 打ち込まれる杭によって、その霊核が砕かれる。

 

「嫌じゃ……! わえの楽しみは、まだ───!」

 

 そう言うのは、もうちょっと余裕のある世界線でやって。

 マジで。

 わえ様は普通の召喚でないからか、霊体が解けるようなことはなく肉体が形を持ったまま、水の引いてきた地面へと落ちていった。

 俺も後を追って地上に降り立つ。

 

「むむぅ……こんな最高の状況なのに、こんなに容易く退場させられる羽目になるとは……」

 

 容易くないけど?

 竜の群れを抜けるのとか凄い苦労したし、宝具使わせるまで身を削るような思いだったし、きっちり決めきるまでずっと気が抜けなかったんだけど?

 

「冗談いうな。本気で疲れた。二度とごめんだ」

 

 俺の言葉にわえ様は実に残念そうだった。

 

「つれないのう。まあ、仕方あるまい。負けは負けだ」

 

 わえ様の体が光に包まれて行く。

 これは一体……?

 あ、わえ様の試練を越えた報酬が現れようとしている感じか?

 

「ははあ、なるほど、こうなる訳か。まあ、貴様には確かにおあつらえ向きなのかもしれん」

 

 現れたのは形状的には短めのヴァジュラだが、それを手に取って驚いた。

 これは、一種の宝具とも言うべきものだ。

 あまたの竜種をリソースにした神霊にも近しい霊基となったわえ様の肉体と、試練を超える事によって発生した一種のかさましが、驚く様な成果を生んでいた。

 

 使用者は、試練を超える際に中心となった俺に固定されている。

 そして効果は、異界にも等しい空間の隔絶結界。

 恐らくはわえ様の障害としての性質の中でも堰き止めるモノとしての側面や、彼女の宝具の持つ天地を覆い隔絶させる側面が形になったものだ。

 

「き、ひ、ひ。まあ、腹いっぱいとはいかぬが、存分に楽しめた。遠慮なく持っていくがよい」

 

 そう言ったあとに、わえ様の体は崩れて、灰のようになって吹き散らされて行った。

 予想外に望外な報酬を得られた。

 これについてだけは、感謝しても良いだろう。

 

 そして再び、世界そのものを震わす咆哮が響いた。

 ……お目覚めだな。

 

 世界を覆う空気が、はっきりと変わった。

 肌を刺すような、空気そのものが重みをもったような感覚。

 遥か彼方から、一匹の巨大な竜が飛んでくるのが見える。

 

 その姿は、メリュジーヌの竜形態に似て、しかし遥かに巨大で、どこか生物的な印象も併せ持っている。

 あれが、世界竜アルビオンの姿か。

 なるほど、見るだけで、尋常ではないとはっきりわかる。

 

 この特異点における最後の戦いの幕が開こうとしていた。

 

 

 

 




いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。

と、いつもの挨拶を挟みつつ。

今回は特に大きな成果があったわけではないですが、日ごろの感謝を込めて、恒例の連続投稿を宣言いたします!


よって19時にもう一度投稿します!


次の投稿はちょっとだけ長くなりそうなんですが、まあ、クライマックスなのでご容赦を。
完全に二話分とは言わないまでも、それに近くなりそうです。

ぜひお楽しみください。


小話

かくして、わえ様へのお仕置きは完了いたしました。
たっぷりの泡で体を洗われて、わえ様もさぞかしすっきりしたことでしょう。

なお、主人公はかなりすっきりしています。
罪悪感はない。
残当。


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