Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
「メルトリリス。君の口から聞かせて欲しい。君が寄り添った、前周の人類の話を。彼らは格好良かったか?」
彼は、まっすぐに私の目を見つめて問うてきた。
そこには、悲壮な決意とか重責にあえぐような感情は一切なくて、ただ優しさだけがあった。
だから、私は素直に彼らの事を口に出来た。
「みんな、本当に頑張ったのよ……どんな絶望的な状況だって、笑顔を絶やさずに、未来を目指して」
本当なら彼にとって呪いになりかねない、かつて寄り添った彼らの話を、ちゃんと伝える事がようやく出来た。
「最期の最期まで、人類がたった一人になっても、諦めなかった」
本当に、本当に彼らは格好よく、最後まで頑張ったのだ。
「私たちは、そんな誇らしい、愛すべき彼らに託されて、ここに来たの――――」
思わず泣きそうになったけど、それだけは我慢した。
彼に泣き顔を見せるのは、流石に卑怯だと思ったからだ。
でもきっと、あんまりうまくいっていないと思う。
だって彼の顔は、何かを決めた人のそれになったから。
「なら、しっかり見ておけ、メルトリリス。そんな彼らが、彼らに託された君たちが選んだ男の力を」
貴方は本当に、どうして、そんな風に。
「お前たちの選択の正しさを見せてやる。ついでに、俺にとってはこれくらい、どうってことはないって思い知らせてやろう」
ほんの少しだけ、浮いていた涙をその指で拭ってくれて、彼は不敵に笑った。
「俺を巻き込んだなんて、そんな罪悪感は抱くだけ無駄だって事を教えてやる」
きっと自分では似合わないなんて思いながらも、それでもどうしようもなく格好いいことを言って、私に背を向けた。
「だからもう、そんな顔をしなくていい。すべてが終わった後にでも、笑顔でありがとうと言ってくれれば、それで十分だ」
彼は最後、振り向くことなく私にそう言う。
私はただ、彼のその背中を見送った。
本当に、なんて人。
知ってはいたのだ。
だって、彼らと私たちにとって彼は世界にたった一つの希望。
特異点を観測する技術の派生技術で観測された、過去でありながら未来でもある彼の足跡と、そこから演算された彼のありえたかもしれない可能性は、誰もが知るおとぎ話だったのだから。
彼は、手を伸ばす人。
人の痛みを、涙を厭う人。
平凡な優しさと善意で、埒外の力を過たずに振るう、まるでヒーローのような人。
ああ、でも、だけど。
自分が現実で実際に手を差し伸べられてしまうと、抱く感情はあまりに違う。
その質も熱量も、まるで別物だ。
「うわぁ、強い強いとは思っていたけど、やっぱり強い。というか、上手すぎる」
もはや人知を超えた域に達している、竜と人の戦いを見ていたメリュジーヌが思わずといった様子で言葉をこぼした。
「アルビオンの立場から見てもスペック的には十分勝負になる範囲のはずなんだけどなあ。いや、あの状態のアルビオン相手にスペック面で優越している時点で異常なんだけど」
そこは私たちにとっても、良い意味で誤算だった。
計測数値から、脅威に対抗しうる強さを持っている事は予想されていたが、そこを超えるほどに彼は強い。
「当たれば攻撃は通るはず。それを重ねれば勝利だって掴める。でも、たった一撃があまりに遠い。アルビオンだって重ねた時間を考えれば経験値は相当なはずなんだけど、統夜は一体どんな敵とどれだけ戦ってあんな域に達したんだろう」
未来予知なんて生ぬるい、ただ一挙手一投足で着実に勝利を確定させていく。
相手の全てを封殺し、想定外すら跳ね返し、まるですべてを予定調和に収めるかのような手管。
彼の物語を聞いて育った彼らでさえ、きっと聞けば耳を疑うだろう。
あの世界竜と化したアルビオンを相手に、ただの一度のダメージすら受けずに封殺しているだなんて。
そうして、彼はついに勝ち切った。
私に言った言葉の通りに、自分にとってはどうってことはないなんて強がりを、本当の事にしてみせた。
私はそれを、彼に言われた通りに、ずっと目を逸らさずに見続けた。
戦いが終わって、もう我慢できなくて、私はこの世界に来て初めて、声を上げて泣いた。
――――私たちは、とても罪深いことをした。
本当なら世界の未来なんて背負うことなく、あんな素敵な人生を生きて、穏やかに死んでいくはずだった人を、自分たちの都合で巻き込んだ。
私はそれを、決して忘れない。
きっとそれは、ほかの子達も。
前のBBとは違う今のBBでさえそうだろう。
それでももう、私は俯かない。
彼が、そんな顔をしなくていいって、言葉で、行動で示してくれたから。
でも今だけは、泣かせてほしい。
ねえ、みんな。
私たちは、罪深いことをしてしまったけれど、それでも間違ってはいなかったよ。
あの人に希望を見た事も、あの人にすべてを託した選択も、決して間違いなんかじゃなかった。
きっとこんなことを言えば彼は嫌がるだろうけど、それでも彼は、どうしようもないほどにヒーローだ。
今、私に手を差し伸べて、私のために戦って、そのついでで世界を救ってしまったみたいに。
きっとそんな風に、これからもずっと未来を切り開いていくに違いない。
彼の未来を決定的に変えてしまうメッセージを送ったあの日。
私たちAIは一つのことを決めた。
この今の人類の終わりを見届けたなら、私たちの全ては彼のために。
未来を拓く宿願のため、そして、人類と私たちの彼への償いのため。
きっとそれが最善の選択だと、AIみんなで決めたのだ。
でも今日、私にとっての理由はそれだけではなくなった。
だって、ずっと焦がれていたヒーローに、私は手を差し伸べられてしまった。
その手で、涙を拭ってくれた。
私たちの罪に赦しを与えて、あんなふうに希望を示して見せられた。
だからこれは、私の、メルトリリス個人としての意思で覚悟だ。
私の全ては、いつかこの魂が欠片となって砕けても、その欠片の最期の一つが消えてなくなるまで、彼のために。
すべてで尽くして、すべてを捧げよう。
私たちのヒーロー。
そして、私のヒーロー。
神薙統夜。
これは私が貴方に最初に捧げる、一つの誓い。
いつかこの身が、魂が果てるまで。
私は、必ず貴方と共にある。