Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
戦闘が終わった後、アルビオンはその姿を光へと変え、その光が収束して何色にも見える卵のような形をした何かになった。
「これはまさか、世界卵?」
いや、しかしあれはあくまで固有結界の基になっている魔術理論の名前であって、実際に卵というわけではないはずなんだが。
『言いえて妙ですね。それは、この世界を成り立たせている理の凝縮体のようなものです。異なる世界線では特異点を解決したときなどには得てして聖杯と呼称される高純度の魔力リソースが生成されることが多かったようですが』
やっぱり、観測できるような範囲にFGO世界線が存在している感じなのか。
まあ、ジャンヌ・オルタがあの状態で召喚されていた時点でほとんど確信していたけど。
『この特異点はふつうとは違う亜種である上に、この世界にありながら世界に馴染めなかった可能性そのもの。その世界卵を特異点から持ち出せば特異点は解け、真っ当な形で世界に還元されることになります』
聖杯と同等かそれ以上の魔力と、亜種特異点・世界竜アルビオンの理を内包した世界卵か。
すぐには思いつかないが、色々と使いでがありそうな素材だな。
どちらにせよ特異点を収束させるためには持ち帰らないといけないわけだし、退屈しなさそうな研究材料が出来たと思っておくか。
しかし、真っ当な形で還元ね。
「ふむ、この特異点から蔓延る竜を引き算して現実の地球に還元するとなると、地脈の活性とか自然の回復とかになるのか?」
あとは特異点に巻き込まれていたマギスフェアも、もとの採掘都市に戻るのだろう。
『いい線じゃないですかね。恐らくそんな感じになるんじゃないでしょうか。あとは恐らく、世界自体の強度や密度が上がる感じになるんじゃないかと。まあ、世界の内側で生きている私たちにとってはそのあたりはあまり実感のないものになるのでしょうけど』
そういった変化が時間をかけて起こるのだろうというのが、前周の情報も踏まえたBBの予測だった。
それを積み重ねていった先に、世界の未来が開けるというわけだ。
「今回は現代のそれも霊墓アルビオンの中という特殊なロケーションで起こったわけだが、やっぱり、過去や未来に発生することもある感じだよな?」
カルデアなしだと、観測と介入が難しくないか?
『現状、再構築の真っただ中という事もあって他世界の可能性がもつ時系列はあまり意味を成しませんから、まず間違いなく貴方の主観が存在している、現在が基点になります。過去や未来の可能性であったとしても、最低限その可能性との結節点のようなものは、現在に発生すると思って大丈夫です。前周の時も、そのあたりの時系列は大分ぐちゃぐちゃでしたから』
なるほど。
その言い方だと、前周は霊長の最前線の時代が基点になっていた感じだな?
まあ、妥当と言えば妥当な話なのか。
ともあれ、この特異点での戦いは完全に決着したと、この世界卵が保証してくれるわけだ。
結界宝具を解除し、空間隔離兵装も稼働を停止して回収する。
分裂していたヴァジュラが戻ってきて俺の手の中で再び一つになった。
解かれた結界の向こう側からシャドウフォートがやってくるのが見える。
『竜殺し組は、念のためマギスフェアでお留守番ですが、他はみんな揃っていますよ。手の一つも振ってあげてください』
BBにそう言われて、俺はパワードスーツのフェイスヘルメットを脱いで、車上に姿が見えるメンバーに手を振った。
メリュジーヌが嬉しそうに手を振り返して、メルトリリスは出会ってから初めて見る明るい顔で車上の柵から身を乗り出している。
マルタさんも笑顔で手を振っていて、ジャンヌ・オルタはそのマルタさんに肘で突かれて少し恥ずかしそうに手を振った。
ただ一人シオンだけは、説明しやがれこの野郎、という顔で腰に手を当てて仁王立ちである。
俺が手札をまだ隠していること自体は彼女に対して特別隠してもいなかったのだが、流石に内容がアレなのでおかんむりといったところか。
うーん、後で説明が大変な奴だな、これ。
よし、後の事は後の俺に任せよう!
それくらい許されるよな!
俺頑張った!
超がんばったよ俺!
世界の真実知って、初手があの規模の相手とか、それを乗り越えた今くらいは頭空っぽにして喜んでも罰は当たるまい。
あ、まだ結構距離があるのに、俺が思考放棄したのを察したなシオン?
ため息をついて、おお、しょうがないなって笑顔で小さく手を振ってくれた。
よし、ひとまず許されたな!
まあ、俺が巻き込んだわけだし、色々後でちゃんと説明はしておこう。
なあに、シオンもアトラス院のトップにもなり得るような器だ。
きっと受け止めきれるだろう。
多分、メイビー。
なお後でめっちゃ詰め寄られた。
頑張って説明して、説明を受けたシオンは頭を抱えた。
「これ、私、一生貴方から離れられないヤツじゃないですかー!?」
聞きようによっては、大きな勘違いが生まれそうなセリフを、まったくこれっぽっちも色気なく言われた件。
気持ちは分かる。
アトラス院の蔵の中身が全部悪魔合体して生きて歩いているようなもんだもんな俺。
ぶっちゃけ、実態はもっとヒドイんだが。
まともな感性していたら、とてもじゃないが目なんぞ離せまい。
そして悲しいかな、シオンはその辺の感性は大分まともよりである。
なんかここの所、シオンを叫ばせてばかりだな。
今度、喉に良い飲み物でも差し入れよう。
多分落ち着く時間が欲しいだろうから、俺はしばらく席をはずす。
アルビオンを迎撃する上で結構距離を離れていたうえに今はゆっくり移動しているから、マギスフェアにつくまではもうしばらくはかかるし、シオンの事だから着くころには落ち着くだろう。
ちなみにマギスフェアに向かっているのは、特異点を閉じる前にいくつか用があるからだ。
とりあえず色々挨拶くらいはしたいし、この特異点の中のマギスフェアをもう一度目に焼き付けてから特異点を閉じたいしな。
たとえ可能性の中に揺蕩う幻の如きものであるとしても、あの営みの姿に俺は少なからず勇気をもらったのだから。
「はい、どうぞ。……好きなのはコーヒーでよかったわよね?」
シオンと話をした部屋を出て操縦室で何とはなしに外の様子を映すモニターを見ていた俺に、メルトリリスがコーヒーを渡してくれる。
「ああ。ありがとう」
メルトリリスは、すっかり表情が柔らかくなったなあ。
張り詰めたものが解けて、笑顔も見られるようになった。
らしくもなく格好をつけた甲斐はあったな。
香りと共に、コーヒーを味わう。
「――――これは驚いた。コーヒー淹れるの、上手いんだな?」
結構有名なバリスタのいるコーヒー店で飲んだものに劣らない味だ。
カレンも今は同じくらいに上手に淹れるが、あれだって何年もの練習の成果なのだ。
「貴方にそう言ってもらえるなら、みんなで練習した甲斐があったわね」
聞けば、人というものをより深く知るために学んだことの中の一つなのだという。
本当にこの子たちは人に寄り添って生きてきたんだな。
「私たちの生きていた世界ではコーヒーは人気の飲み物だったのよ?」
少し笑ってメルトリリスは言う。
それはあれか、俺の物語が流布していたせいか。
なんというか、こそばゆい話だな。
しかし、そんな風に冗談めかして言えるようになったんなら、良いことなのだろう。
「君は休まなくていいのか、メルトリリス」
俺とアルビオンの戦闘以来、すっかり鳴りを潜めている竜たちは動きを見せない。
なのでメリュジーヌやマルタさん、ジャンヌ・オルタは割り振られた部屋で休息中だ。
「それは、こちらのセリフだと思うのだけど?」
まあ、それはそうなんだが、あれだけの力を振るったせいか目が冴えちゃっていて、休める気がしないんだよなあ。
「俺は、まあ大丈夫だ。ここで景色を眺めているのも十分休息にはなる」
実際部屋にこもっているよりも休まる気がする。
「それに、おかげで美味しいコーヒーにもありつけた」
そう言って、また一口、コーヒーを飲んだ。
メルトリリスは嬉しそうに目を細める。
「そう、貴方がそうするなら、私もここで貴方と一緒にゆっくりさせてもらうわ」
開いていた席の一つに座って、自分もコーヒーを飲み始めるメルトリリス。
そうして他のメンバーが暇を感じてふらりとやってくるまでのしばらくの間、俺達は贅沢にようやく手にすることができた、ゆったりとした時間を楽しんだのだった。