Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
第58話 俺と二世とライネス
現実世界に戻った俺は、とりあえず一息、とはいかなかった。
特異点内との時間差の為に、突入から脱出までにかかった現実世界視点の時間は一日程度だったために、ひとまず建前として、調査隊の全滅はゲートを越える際の問題によるものとした。
要するにアトラス院の協力で問題なく突入出来た自分たちにとっては、問題の原因解決自体はたいして難しくなかったことにしたわけである。
まあ、当然あちこちに疑念は生まれた。
でもそれ自体は織り込み済み。
時間さえ稼げればよかったからだ。
稼いだ時間で二世の協力のもと、時計塔の貴族派閥を一枚岩にするのが本当の目的だ。
最初にあたったのは、貴族派の中核で盟主ともいえるバルトメロイ。
ここについては、現ロード・バルトメロイがもともと協力的だったのもあって非常にスムーズに行った。
あの家は選民思想はひどいが、我が道を行くというか力と伝統で真正面から圧倒するというか、ある意味わかりやすいので、交渉の価値のある相手と認められているとかえって交渉は楽だった。
次にあたったのは、意外かもしれないがアニムスフィアである。
これについてはBBからの提言だ。
曰く、この世界の現状的にカルデアスは便利なツールにはなりえても特効薬にはなりえないので、ある程度の情報を流した時点で、変な動きを封じたうえで味方に引き込める、とか。
前周においても結局、死ぬまで裏切ることはなく協力的であったらしい。
結果としてはこの交渉も成功。
これをもって貴族派閥において盟主の位置にいるバルトメロイ、なんだかんだで長い歴史を持つアニムスフィア、一時落ち目となったが今は飛ぶ鳥を落とす勢いであるエルメロイの三家が共同することとなった。
こうなると政治感覚に長けた降霊科のユリフィスのロードは、政治的にもそして、この三家が積極的に協同する事態である事も察せざるを得ず、協調姿勢を見せて他のロードもそれに続く。
ここに時計塔でも非常に珍しく、一つの派閥のロード達が完全な一枚岩となるという事態が起こった。
「くっ、交渉材料が多いから何とかなったが、二度とやらんぞ……!」
お疲れ二世。
交渉はだいたい任せっきりで、まことにすまない。
一応は俺が二世の後ろに立っているだけで、割と助けにはなっていたらしいが。
「ぐぅ、胃が痛む。だが、君の置かれている状況を思えばこれくらいは――――」
水と胃薬を渡すと、二世が一気にそれをあおった。
もうわかったと思うが、二世には既に事情をほぼ全て説明済みだ。
いや、もう、この状況で時計塔の連中から変な横やりとか受けると、ガチ目に時計塔解体ルートを考えないといけなくなるからね。
その場合は多分アトラス院は俺につくし、今回の交渉は割と真剣に時計塔の存亡がかかっていたりするのである。
「とりあえずこれで、時計塔からの妙な干渉は避けられるだろう。他の派閥も貴族派閥のこの状況を見れば事態の深刻さを理解せざるを得ない。仮に変なちょっかいをかけてくる者がいたとしても、それは少数派になるし、そうであればこの件に関しては完全に一枚岩となった貴族派閥の力で容易くはねのけられる」
胃薬を飲んで気分的なものが少しは落ち着いたのか、ずっと胃をおさえていた手を離して二世は言う。
ほんとに、この短期間でよくぞやってくれたとしか言えない。
今回の特異点で手にいれた素材も最大限に活用してもなお、まさしくタフネゴシエーションであった。
「ほんとに助かりました。流石にこの手の政治までは勝手がわからないし、手も回らないので」
俺の礼に二世は鼻を鳴らし、懐から葉巻を取り出した。
口にくわえたのを見計らって横から俺が魔術で火をつけてやれば、軽く目で礼を返して、深く煙を吸う。
多分溜息も兼ねていたのだろう、深く煙を吐いてようやく肩の力が抜けたようだった。
「あんな話を聞かされては、これくらいはやってみせないわけにはいくまい。何しろ大きな目で見れば、世界の存続がかかっているんだからな」
自分で言っていてまた胃が痛くなってきたのか、二世は胃のあたりを葉巻をもっていない方の手で撫でた。
「むしろ君の方こそ大丈夫なのか? このような問題を、手助けがあるにせよ一人の人間に背負わせようなどと」
いろいろ片付いて、ようやくゆっくり話す時間が出来たからか、二世は俺にそんなことを聞いてくる。
「別に一人で背負っているわけじゃないでしょう? 二世も手伝ってくれていますし、助けてくれる人も多い」
まあ、俺にかかる責任の比重が大きいのは事実ではあるんだが、チートのおかげで能力比における負担という意味では他の人間とそこまで大きく変わらないのではあるまいか。
「それに俺はもう、これに向き合う俺らしい理由ってやつを見つけていますから」
俺は笑ってそう言う。
今の俺は、それを笑って言う事が出来る。
二世もそれを聞いて少し安心したように笑った。
「そうか。君がそう言うのであれば、きっと大丈夫なのだろうな」
そこで一度言葉を切って、二世は真面目な顔を作った。
「それで、ライネス達には話すのか?」
そこはなあ。
正直まだ迷っているのだ。
二世については話さないという選択肢がそもそもなかった。
時計塔の横やりは何としても排除したかったからだ。
ライネス達についても、この交渉が終わるまでには答えは出ていると思っていたんだけどな。
「正直迷っていますね」
素直に言えば、二世は軽く頷いた。
「そうだろうな。これについては私からは助言は出来ない。正直、私としても巻き込みたくないという想いは少なからずあるからな」
二世にしてみればグレイについては特にそうだろう。
かといって、ライネスに話せば後は芋づるだろうし、そこも悩むポイントなんだよなあ。
彼女たちはなんだかんだ、みんな仲が良いからな。
「とはいえ、助言と言えるかはわからないが、言える事はなくはない」
「というと?」
意外に思える言葉に思わず聞き返した。
「正直これについては悩もうが悩むまいが、君だけで決められる事でもないという事だ。彼女達、特にライネスは、大人しく待ちの姿勢でいるタイプでもないからな」
ああ。
うん、確かにそれはそう。
そして、そんな二世の指摘の通りに、交渉がひと段落付いたその日の夜。
俺はライネスの自室に呼び出されるのであった。
ライネスの部屋で、二人きり。
ソファーに座るように促された。
実に、良い笑顔で。
当然というべきか、断るという選択肢はなさそうなので、大人しく腰かけた。
「なにか、私に話すべきことがあるんじゃないかな?」
圧が、言外の圧が強いぞう!
「義兄には話せても、雇い主で師でもある私には話せないと?」
いやあ、話せないというわけではなく、まだちょっと、踏ん切りがつかないというか。
思わず目を逸らせば、ライネスは眉を跳ね上げた。
座っていた向かいのソファーから立ち上がって、俺の元に。
ソファーに膝を乗せて、座ったままの俺に至近距離で向き合った。
いや、それ下手したら、スカートの中見えるぞ、と指摘する隙も無く。
「これでも君とは結構な関係を築けていたつもりだったんだが、そうか、まだ足りないか」
怒ったような、しかし少し嗜虐的な愉しさも含んだ目でそんなことを言ってから、って、ちょっと待て!?
「上着のボタン外すな! 脱ごうとするな! 何のつもりだこら!?」
「今の関係で足りないというなら、関係をもっと深めるしかないだろう?」
手を掴んで制止するが、まったく引く気はなさそうである。
「わかった、話す、話すから!」
思わず降参した。
流石にそれは卑怯じゃねえかな!?
「っち、奥手の朴念仁め。君の故郷には据え膳食わぬは男の恥なんて言葉があるんじゃなかったか?」
舌打ちしやがりましたよ、この子!
ていうか、別に朴念仁ではねえわい!
ぶっちゃけそっちに割いてる精神的キャパは流石に今はないだけだっつーの!
それに第一だ。
「こんな状況で、こんな形で関係を進めるには、君との関係は大事に過ぎる」
恥ずかしいのを我慢して、ちゃんとそこは正直に話した。
ライネスの示した覚悟にそのくらいは返すべきだと思ったからだ。
俺の言葉に、ライネスは目を見開いて、それから少し顔を赤くして、目を逸らした。
「そ、そうか」
そそくさと、ソファーから離れていく。
向かいのソファーに座り直して、こほんとわざとらしく咳払いをして、仕切り直した。
「それじゃあ、聞かせてもらおうか、君の話を」
もう、しょうがないから話すけども。
聞いて後悔するなよ?