Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
こういってしまうと非常に趣味が悪く聞こえるかもしれないが、説明中のライネスの表情の変化はちょっと面白かった。
最初は、理解が追い付かないといった感じで、徐々に理解が追い付いてくると顔色が悪くなり、だんだんあきらめの表情に変わっていって、最後には虚無顔になった。
さもありなん。
でも、そこはすでに、俺と、シオンと、二世が通った道である。
「とりあえず、君が説明する内容の取捨選択や、タイミングで悩んだのだろうという事は、嫌というほど良く分かった」
体力を消耗したわけでもあるまいに、まるで息も絶え絶えであるかのような言葉であった。
精神的には、息も絶え絶えどころじゃないのだろうけども。
「うん、まずは無理に聞き出したことを詫びるとも。だからその、よく効くという話の君の手製の胃薬を貰ってもいいかな?」
俺は何も言わず、そっと用意しておいた水と胃薬を差し出した。
ライネスはそれを受け取って、俺や二世とは違った優雅な所作で服用した。
「ああ、これは本当によく効く薬だ。魔術薬だからかな、飲んですぐに少し楽になった気がするよ。ははは、これでは義兄を笑えないな」
チート由来の回復薬を参考にしているから、多少はあるかもしれないが、それは多分にプラシーボ的なあれだと思う。
まあ、その胃痛自体がおそらく精神的なものだから、ある意味そのプラシーボ作用こそが特効薬とも言えるのかもしれないが。
しかし、いったん平静になれたのがかえって良くなかったのか。
「……私が直接の原因というわけじゃないとはいえ、だ。多分、そのAI達が私がいなくとも、何らかの形で君を巻き込んでいたのだとしても、だ」
あ、これ結構やばいダメージ入っている奴では?
「私が、君を、地獄に突き落とした切っ掛けじゃないか!?」
よし、まて、落ち着け。
「いやいや、ぶっちゃけ、あの時点ではBBのメッセージがなかったら俺は適当に距離置いてたと思うから、ライネスに過失は一切ないぞ」
ライネスがその方向でダメージを受けるとは。
でも、考えてみればライネス自身も自分に関係のない所からの玉突き事故で人生が脱線した口だからなあ。
「それは! ……そうかもしれないが」
うん、切り替えが早くて結構。
色々と積んでくる羽目になった次期ロードとしての経験が効いているな。
ライネスが大きく深呼吸をして、心を落ち着けるのを待つ。
「すまない、取り乱した。そうだな。責められてもいない事で勝手に責任を感じては、かえって君を困らせるか」
このへん、やっぱり付き合いの長さもあるんだろうなあ。
流石に俺の事を良く分かっている。
「そこについては、いい。他ならぬ君が気にしていないんだからな」
見事に立て直したライネスであったが、しかし、再びなんというか、しおしおした雰囲気になった。
「でもその、それ以外の部分も、もうちょっと手心とか。聞いたことを後悔はしないけど、なんというか、あんまりにもあんまりじゃないか?」
それはそう。
きっと誰だって思うし、当然に俺だって同じことは思う。
だから、俺はただ、ライネスに笑みを浮かべた。
アルカイックスマイルというやつだ。
ライネスはそれですべてを察して、がっくりと肩を落とした。
現実は非情である。
悲しいが、もうちょっとまけてくれないかと言ってみたところで、現実は変わってくれたりはしないのである。
「で、なんだが。カレンとグレイへの説明とか、どうしたら良いと思う、お師匠様?」
「鬼か君は。ここで師匠呼びで、その相談とか。無理やり聞き出した意趣返しか?」
いや、まったくそんな意図はなくて。
「割と真剣に悩んでいるんだ。事情を知ったライネスになら、本気で助言を求めたいくらいには」
俺がそう素直に伝えればライネスも悪い気はしないらしく、大きく息を吐いてから考慮の姿勢になった。
「ずるい言い方だな。そんな風に言われたら、助けるしかなくなるじゃないか」
そんな風に言ってから、しばし考えに沈む。
「カレンについては、正直に全部話してしまって良いと思う。あれでかなり頑丈というか、図太いというか、私たちの中でも一番心が強い人間は多分あの子だからな。それに、黙っていたらきっと凄く拗ねる」
心の強さはともかく、拗ねるのか。
「ピンと来てないのか。だから君は朴念仁だというんだ。今のあの子の行動原理は、君の役に立つこと。これに尽きる。君の労苦を知ることができなかったとなったら、絶対に後でこじれるから、ちゃんと話しておけ」
えぇ。
懐かれているとは思っていたけど、そこまでなの?
「あれはもう、信仰の部類だ。嫌がられるのを見こして君に対しては巧妙に隠しているみたいだが」
凄く尽くしてくれるなあ、とは思っていたけどそこまでだったのか。
「どこかで、独り立ちさせないとな、と思っていたんだが……」
「手遅れだから諦めろ。カレンについて言うなら、君は完璧に救いすぎて導きすぎた。手放すならもっと早くに、というか、そもそも手元に置くべきじゃなかったな。あの子にとって、君は相性が良すぎたんだ。素直に死ぬまで面倒を見てやれ」
おかしい。
俺は別にカレンにそんな特別なことはしていないはずなのに。
とりあえずクソ神父の所から連れ出して、親代わりになれる様に世話を焼いて、衣食住と教育を与えて、身を立てられるように職を斡旋して……うんこれ、駄目だわ。
ぐごごご、普通の事しかしてないのに、普通の範囲で出来る事は全力で全部やったばっかりに!
「これ、洗脳みたくなってないか?」
思わず頭を抱えた。
だが、ライネスは鼻で笑って切り捨てた。
「カレンが、洗脳なんてされるわけないだろう。ただ与えられたものにふさわしいものを返そうと必死なだけだよ。まったく健気じゃないか。なあ?」
ちょっと皮肉気に返されたが、返す言葉もない。
「まあ、だから、カレンには全部話して可能な範囲で協力させてやればそれでいい」
良くない。
とても良くない。
なんていうか、数年越しに自分の無自覚なやり過ぎによるやらかしでカレンの人生を思いっきり歪めていたことに気づかされた俺を置き去りにしないでくれ。
いや、歪めたというと違うんだろうけども。
「君はごく真っ当に、拾ってきた子供をとても大事にしただけだろう。本人はいたって幸せそうだから気にするな。まあ、頑張りすぎたわけだが。それに結局は、いまさらだしな」
何事も過ぎたるは及ばざるがごとしだったかー。
仕方なし、そこは後でまた考えよう。
「で、問題はグレイだな。全く話さないという選択肢はない。接触頻度的に、どうせある程度は知られてしまうからな。ただ、ある程度教える範囲は絞って、必要に応じて情報を開示するくらいにしたほうが良いだろう。ただでさえ二世の面倒を見るだけでも大変なのに、君の事まで心配し続ける羽目になるのは流石に精神衛生に良くない。それに、あれで意外と無鉄砲というか、誰かを助けるためになるととんでもない行動力を発揮することがあるからな」
おおう、流石はお互いに数少ない友人同士。
良く分かってるんだなあ。
「だから、グレイについては、必要の範囲で段階的な情報開示を行うのが一番か。なるほど」
「どうやら、助けになれたようだね」
実際凄く助かった。
カレンについては、衝撃の事実に気づかされたけど。
親代わりになろうと必死に頑張った結果がご覧の有様だよ。
「相談にのることで結果的に私も心の整理が出来た。だから、これとはまた別の話も聞かせてもらおう」
おやあ、何か、雲行きが怪しいぞう?
「まずは、アトラス院の魔術師、シオンといったか。彼女の事からだ」
おっとぉ?
「仮で建前とはいえ、表向きにはほとんど婚約者な私としては、そのあたりを聞かせてもらう権利くらいはあるだろう?」
婚約者とか方便だろうとか、そんな権利はないとか、言えない雰囲気ですね。
そんなこんなで、俺はライネスからほとんど取り調べの如き聞き取りを受ける事になった。
主に女性関係の方面で。
「ちょっと人数が多いな。うーん、私に管理しきれるか?」
ねえ、お師匠様、何か不穏なこと言うのやめない?
いつも閲覧ありがとうございます。
前話の感想で何人もノスタル爺が現れていて、つい出先でニヤニヤ笑ってしまいました。
マスクを着けていなかったら(社会的に)即死でした。
ところで、最近気候おかしくないです?
6月の気温じゃないですよコレぇ。
ほんと皆さんも体調には気を付けてください。
小話
カレンにとって主人公は、比喩でも誇張でもなく本当にそのままの意味で自分に全てを与えてくれた人です。
しかも主人公的には経験のない子育てを必死でやっているだけで変な邪念がないので、彼女から見るとガチで無私の愛情に見えていますし、それもあながち間違いではありません。
主人公的には自分の勝手で人生を捻じ曲げた責任を取っているだけで、自己満足で完結していて、カレンに求めるものが精々健やかに育ってくれることしかないからです。
だが奴はやり過ぎました。
なまじチートがあって、財力もあって、出来る事の上限が上がっているのに、子育てなんて経験がないので、マジガチの全力投球をした馬鹿が奴です。
たとえば、例のクマの使い魔を作ってあげるみたいな話が日常的に行われています。
結果はおして知るべし。