Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第6話    師匠と弟子とボディーガード契約

「あー、無事か、ライネス?」

 

「君が渡してくれた礼装のおかげで傷一つないとも。まあ、一番危なかったのは君が最後に放った一撃の余波だったけど」

 

 あ、はい。

 それは大変申し訳なく。

 

「しかし、上級死徒を一撃で跡形も残らずか。……君がまさか伝承保菌者とはね」

 

 ああ~。

 そうか、そうなるのか。

 この世界で、オデュッセウスの鎧と俺のパワードスーツを混同したら、そういう結論になるのか。

 

 伝承保菌者、ゴッズホルダーとはごく簡単に言ってしまえば神代の魔術特性を現代まで伝えきっている魔術師を指す。

 オデュッセウスの鎧と同タイプの宝具を完全稼働させ得る魔術特性を備えた伝承保菌者。

 つまりは、それがライネスが考えた俺の正体というわけだ。

 

「あの鎧のイーリアスという名称も、オデュッセウスの伝説を考えると実に意味深じゃないか。イーリアスは今となっては叙事詩の名前として有名だが、もとは都市トロイアの旧名だ。オデュッセウスとあの都市の因縁は言うまでもない。トロイの木馬の話はあまりにも有名だからね」

 

 ノリでつけた名前が、えらい誤解を生んでるんだが。

 

「あー悪いが実のところ、俺は自分が持っている力がどこから来たのかっていうのは良く分かってないんだ」

 

 これは本当の話だ。

 俺のチートが前世でプレイしていたSFライクなMMOの自キャラをかたどっているのは分かる。

 でも、この力がそもそもどこからのリソースで形作られたのかとか、何故俺に宿ったのか、なんていうのはサッパリである。

 

「ああ、ご両親は亡くなっているんだったか」

 

 その辺の話はライネスが俺を探すために調べた時に既にばれている。

 でも、今なんでその話になったかな?

 

「君の母上はイギリスと日本のハーフだったようだから、怪しいのはその母方の祖母の家だろうな。君の事のついでに調べた時は特に不審な点はなかったが、そういう家は魔術協会からも距離を置く事が少なくないからな」

 

 俺の出自に、それっぽい素性がしっかりくっついているのは何なのだろうか。

 

「とはいえ、母方の家系はどちらも途絶えてしまって、残った血筋は君くらいだ。調べるのは難しいだろうな」

 

 どこまで遡って調べてるんだよ。

 ちょっと怖いよ。

 いや、そりゃ、俺みたいな素性のしれない異様な能力を持った人間が身近に現れたら、素性を追わないわけにいかない立場なのは分かるけども。

 

「とりあえず、中に戻ろうか。いつまでも列車の屋根の上ってのは間抜けだしな」

 

 とりあえず話を後回しにして、ライネスを担いで出てきた窓から車内に戻る。

 

「お姫様だっことまでは言わないが、もうちょっとましな担ぎ方はなかったのかな?」

 

 脇に抱えられた状態のライネスが文句を言ってくるが、そこはどうしようもない。

 

「窓から入る以外選択肢がないからな。ガラスが危ないし、諸々考慮するとこれが一番安全だと思うが?」

 

 俺の主張の正しさにライネスは黙り込んだ。

 車内に立つと、多少は機嫌が直るように、丁重に立たせて部屋にエスコートする。

 このまま、なし崩しに話を打ち切りたいところだったがそうは問屋が卸さなかった。

 部屋に戻ると、ライネスは居住まいを正して俺にまっすぐに目を合わせてきた。

 

「君には多くの借りがある。今回の件も、君がいなければ私は命を落としていただろう。だから、悪いようにはしないから、エルメロイの保護を受けてくれないか」

 

 伝承保菌者云々こそ勘違いではあるが、俺の異常性を考えればこの提案は間違いなく俺の為のものだろう。

 俺も魔術世界に関わって生きるなら、どこかで後ろ盾は必要になってくると分かってはいた。

 魔術師たちと関わらずに過ごすなら、俺のチートがあれば市井に隠れ潜み続ける位は訳なかっただろう。

 

 だが、いい加減に逃避も限界だ。

 世界の未来までは背負えないが、自分の身の回りの平穏くらいは確保したい。

 だから、俺はこの世界の謎に挑まないわけにいかない。

 

 そして、そうである以上は魔術師との関係は避けられないし、後ろ盾無しでは俺のチートの産物を狙ってくるような馬鹿どもの相手に時間を取られすぎるのが目に見えている。

 腹をくくるべき時が来た。

 そういう事なんだろう。

 

「事前に話していた条件通り魔術について教えてくれ。あと、護衛もきっちりしてやるから、ちゃんと給金も出せよ。配送業は基本休業になるだろうからな」

 

「————っああ! 魔術についても教えるし、給金も今まで君が配送業で稼いでいたものと遜色がないくらい、いや、そこにしっかり色を付けて払うとも!」

 

 花の咲くような笑顔っていうのはこういうのを指すのかね。

 なんだよ、そんな顔できるんじゃないか。

 

「それでは、これからどうぞよろしくお願いいたします、お師匠様?」

 

 ちょっと気取った所作で一礼してそう言うと、ライネスは何か身震いした。

 一瞬口がヤバい感じに緩みそうになった後、思いっきり引き結んで、最後は渋面になった。

 

「すまないが、何か危ない扉を開きそうになるから、呼び名も態度もいつも通りにしてもらっていいかな?」

 

 ……Sっ気の部分に刺さってしまったか。

 難儀な性癖だな。

 

「まあ、お前がそう言うならそうするけど。これから改めてよろしくな」

 

「ああ、よろしく、我が弟子」

 

 あれ、これほんとに自分自身で教えてくれるつもりなのか?

 それはちょっと予想外だな。

 

「お師匠様ってのはちょっとした冗談のつもりで、教え自体はエルメロイの教師なり時計塔なりで受けることになるかと思っていたんだが」

 

「君みたいな、妙に魔術師界隈の知識はあるのに、何故か魔術師的な常識だけはないような人間を下手な相手に任せられるわけがないだろう。どうせ護衛として傍に控えさせるんだ。私が教えるのが一番合理的だろう」

 

 ああ、それは確かにそうかも。

 結局は俺の魔術関連の知識って物語からの情報ありきだから、知識はそれなりにあっても、常識というか行動規範というか、そういう機微みたいな部分は流石にどうにもならない。

 

「そもそもの話として、君は魔術師的には機密の塊も同然だ。あの鎧を固有結界の中に入るまで使わなかったのは実際、良い判断だった。もし今後も使わざるを得ない時があったなら、隠蔽には気をつかう事を勧めるよ。最悪、あの鎧と君が繋がりさえしなければいい。私もある程度は手伝おう」

 

「至れり尽くせりだな」

 

「借り云々の話もあるが、そもそもの話として、上級死徒を一蹴するような戦力を敵に回すのはごめんだよ」

 

 それはそう。

 でも、それでもちょっかいかけてくる馬鹿はいそうだっていうのが、魔術師ってやつはホントにな。

 

 おっと、車内放送が入ったな。

 次の駅で一時停車か。

 異変にようやく気付いたらしい。

 協会には事前にある程度話が通っているらしいから、隠蔽なんかもその時に行われるだろう。

 問題は、送られてくることになってた代行者なんだが。

 

「どうするよ。死徒、跡形も無くなっちゃったんだけど」

 

 ゲームじゃないからドロップアイテムとかないしな。

 討伐証明が出来ない。

 いや、むしろ証明しないほうが良いのか?

 

「連中もプロだからな。倒されたかどうかの確認くらいはどうにかするだろう。問題は君の事をどう隠すかの方だが」

 

「俺たちが苦戦していたら、奴を追ってきた強力な魔術礼装に身を包んだ男が奴を倒して去って行きました、とか? 流石に厳しいか?」

 

「いや、あの鎧を着ない限り君はせいぜい人間離れした怪力と宝の持ち腐れな魔術回路を持っているだけの変な奴だし、私にしてもロード候補と言っても未熟な身で死徒を倒せるほどじゃない。その事実がある以上、案外行けるかもしれない」

 

 どうもサディアスのやつは上級死徒の中でも特にあちこちで暴れていた部類だったそうだ。

 結果的に恨みを買う機会も多く、命を狙われることは珍しくなかったらしい。

 そういえば聖堂協会にとっても仇敵って話だったもんな。

 

 でも、それはそれとして、宝の持ち腐れとか、変なやつとかひどくない?

 客観的に見ると自分でも否定しきれないのが何よりひどい。

 

 なお、結果から言うと、ごまかしは上手くいった。

 俺たちみたいな未熟な子供が上級死徒を殺しきれるわけがないことは、代行者だからこそ自明の理で、疑う余地がなかったようである。

 拍子抜けするくらい、俺たちの主張はあっさり通った。

 

 カレーの人、じゃなく、シエル先輩がきたりするかと思っていたが、別の人だったよ。

 色々確認する上でも会いたかったような、今回はやましい所もあるから会いたくなかったような。

 まあ、ともあれ今回は縁がなかったという事で。

 

 

 

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