Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
結局、ライネスの助言を実にもっともだと感じた俺は、カレンにすべて話しておくことにした。
そのうえで色々と反応を見て、お互いのスタンスを決めておくべきだろうと思ったのだ。
だから、ライネスとの話し合いの翌日に、専属メイドとして部屋にいる俺の世話を見てくれているカレンに対して話を切り出した。
ライネスから少しは話しを事前にされていたのか、あるいは俺がしばらく忙しくしていたことから察していたのか、カレンは心得た様子で話を聞く姿勢に入ってくれた。
俺の長い話を静かにすべて聞き終えて、カレンが頷く。
「なるほど。それはまた、ずいぶんな話ですね」
俺の前にコーヒーを用意しながら、カレンはさして堪えた様子もなく返してきた。
うん、何となくそんな反応な気はしていた。
そもそも込み入った話になるから座って話さないかって言ったのに、職務中ですからって言って俺の世話やめなかったからな、この子。
「しかしこうなってみると、私に魔術回路がなかったことが悔やまれますね。それさえあれば、もっと直接的に力になれたのですが」
俺は逆に、今こそカレンに魔術回路がなかったことに感謝してるぞ。
何か想像以上に覚悟が決まりすぎてて、身の安全とか度外視しそうで怖い。
「貴方が私を大事にしてくれている事は分かっていますから、自分の身を軽く扱うような真似はしませんよ」
にっこりと笑って言うカレン。
さらっと心読むのやめてもらっていいかな?
「心配が顔に出ていましたよ?」
思わず自分の顔を撫でた。
「それなりにポーカーフェイスをやれているつもりなんだけどな?」
「いい加減、付き合いも長いですし。それに私やライネス様は貴方と過ごす時間の長さが、そもそも他の人とは違いますから」
そう言えばライネスにも結構、読まれていたな。
そうだよな。
なんだかんだでもう、何年も一緒に過ごしているからなあ。
しかもライネスやカレンとは、何かの用で単独行動をとるとかでないと大体は一緒にいるからな。
「一応、確認のために聞いておくが、本当に手伝うつもりか?」
できれば安全に暮らしていて欲しいんだけど。
「力になれる事はあるのですよね? 状況的に雑務をこなす人間が一人いるだけでも大きいと思いますが?」
それは、そうなんだが。
信頼できる人間に、シャドウフォートで細々としたサポートやオペレーターをやってもらえるだけでもかなり助かるのは事実。
最初はBBやシオンの手助けが必要になるだろうが、カレンならすぐに覚えるだろう。
そうすれば、BBもだが特にシオンはだいぶ楽になるはずだ。
まあ、楽になった分で別の専門的なサポートに手が回せるって事だから、仕事自体が楽になる訳ではないんだが、全体として見れば前線部隊のサポートの質が上がる訳なので、大きな助けになる事は間違いない。
そんな風に考えている俺の事を、じっと見つめてきているカレンを見ながら、淹れてもらったコーヒーを一口飲んで、息を吐いた。
「俺は、カレンには平和に幸せに生きて欲しいと思っている」
ちょっと愉悦趣味が見え隠れするが、カレンの本質にはどちらかと言えば平穏な生き方があっていると思うのだ。
埋葬機関に見いだされるまで、日々を祈りと粛々とした勤めの中で生きていた別世界線の彼女を知っているから。
でも、この言葉はかえって逆効果だったらしい。
カレンの表情は、満ち足りたものになって、目にはより強い意志が灯った。
「貴方がそういう人だから、私にとっての幸せは貴方の助けになる事なんですよ、統夜さん」
うん、無理だわ。
こんな目をした状態のカレン・オルテンシアの意思を変えるとか、出来ると思えない。
ある意味、育て方を間違えたかー。
「それとも、私からその幸せを取り上げて、平和の中に生きる事を命じますか? 貴方がそう命ずるなら、従うのもやぶさかではありませんが?」
意地の悪いことを言う。
平和に暮らして欲しいって言うのは結局は俺の願望でしかない。
そうである以上は、だ。
「それは、カレンの幸福以上に優先するようなものではないさ。だが、そうだな。一つだけ」
親のように、あるいは兄のように、その成長を見守ってきた者としての望みを言わせてもらうのであれば。
「しっかりと自分の事を大事にして、寿命で死ねるように最大限の努力はしてほしい」
まあ、基本は意地でも俺が護るが。
本人にもそのくらいの覚悟は持ってほしい。
カレンはそんな俺の言葉を聞いて、目を閉じて、祈る様に胸の前で手を組んだ。
「貴方が、そう望んでくれるのであれば、そのように」
……信仰かあ。
ライネスも上手いことを言う。
「カレン。君の人生は、君自身のものだ」
俺は、注意を与えるつもりでそんなことを言ったのだが、それを聞いてカレンの笑みが深まる。
「ええ。だから私は、私の望むままに生きています。出会ったあの日に、貴方が言ったとおりに」
まるで歌うように、カレンは言葉を続けた。
「自分自身の目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、頭で考えて、心で受け止めて。自分の責任で、自分自身の道を選んでいます。借りでも負い目でもない、私自身の想いのもとに」
出会った日に俺がカレンにかけた言葉を、見事にそのままに返されてしまう。
「古い言葉を、よく覚えているもんだ。一年二年の話じゃあるまいに」
俺が苦笑しながらそう返せば、カレンは首を横に振った。
「忘れたりしません。あの言葉は、貴方が私に最初に授けてくれた祝福ですから」
神父から引き離したことをカウントしないのは、きっと俺がその行為を自分のわがままだったと思っているからなんだろうと、不思議と察せられた。
結局のところ俺は、恩を返したいという感情は人として当たり前なものだという事を、カレンを育てるのに必死になりすぎて忘れていたわけだ。
カレンが相手でなければ、祝福は呪縛に化けていてもおかしくなかっただろう。
「大丈夫です。私はちゃんとずっと幸せでしたし、今も幸せです。返すに足る愛を受け続けて、それをちゃんと返すために努力することも許されている。これ以上の人生なんて、きっと中々ありません」
そんな顔で、そんなことを言われてしまったら、もはや完全にお手上げである。
ほんとに、ライネスはよく見ているよな。
確かにこれは手遅れである。
俺にとっても、カレンにとってもだ。
話しながら飲んでいるうちにほとんどなくなっていたコーヒーを飲み切って、椅子を立った。
専属のメイドとして、話している間もずっと立って控えていたカレンの前に歩いていき、頭を撫でる。
「……もう。プリムがずれてしまったじゃありませんか」
カレンは口では文句を言うが、口もとは綻んでいるようだった。
撫でていた手を両手で掴まれて、頬に添える形にされる。
「ちゃんと、返させてくださいね。貴方の事ですから、どうせまた私に色々と与えて、きっと一生かかっても返しきれないでしょうけど。一つでも多くを返していきたいから」
ここまで心が決まってしまっているならば、もはや何を言っても無駄だろうなあ。
カレンも大概、意思が強いというか、一度決めてしまった生き方は逸れないタイプだからな。
「君の意思を尊重しよう。俺に力を貸してくれ、カレン」
「ええ、喜んで。……私のわがままを許してくれて、ありがとう」
お互いにしっかりと目を合わせて、言うべき言葉をしっかりと口にした。
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小話
主人公は何とかカレンを、自分から自由にできないかなーと企んでいたわけですが、完全に返り討ちにあった形です。
まあ基本は内面凡人のやつが、心の決まっているカレンにかなうわけないよねという、あたりまえの話ですね。
カレンの言動は主人公から見ると献身に見えるのですが、主人公の自分に対する心配などがわかっているカレンからすると、精一杯のわがままで甘えなのです。