Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第62話   俺とイリヤスフィールとそれぞれのスタンス

 

 スキャナーによる解析が終了して、イリヤスフィールを収容していた医療ポッドの扉が開く。

 モニターの数値をざっと見てみるが、これなら大丈夫だろうと思える数値になっていた。

 

『全体的に改善されているとみて良いんじゃないでしょうか。これなら寿命の問題は起こらないかと』

 

 BBからも太鼓判を貰えた。

 上手くいくとは思っていたが、やっぱりちゃんと目に見える形で結果が出るとほっとするな。

 

「結局どういう事なの?」

 

 医療ポッドから出てきたイリヤがモニターを見ていた俺に近付いて来て聞いた。

 俺が見ていたモニターを覗き込んでくるが、疑問顔である。

 

「そうだな。ネタバラシをしてしまうと、君の今の心臓には君の体を修復するための仕掛けが施してあったんだ」

 

 イリヤの体は、マスターとしてそしておそらくは聖杯として機能させるために色々とアインツベルンの技術で手を入れられていたりして、寿命が著しく消耗していた。

 だから心臓を入れ替える際に、仕掛けておいたわけだ。

 チート由来の完全回復薬と、継続回復アイテムのナノマシンをね。

 

「……割と最初から思っていたんだけど、今の私の心臓って、ある意味元の心臓よりよっぽどじゃ……?」

 

 まあ、それはねえ。

 完全回復薬とかほとんどエリクシルだろうし、ナノマシンはあれだ、言ってしまえば人間に無理なく適応するテオス・クリロノミアだし。

 

「はっはっは、まあ推定神代レベルの魔術薬二つを組み込んだ現代魔術科ロードのお墨付きの魔術炉に、あの神代の魔術師でも指折りのメディアが手を入れた逸品だからな」

 

 おおう、イリヤの表情が、あんまり見た事のない類のものに。

 まあ魔術薬と言いつつ、チート由来アイテムだからな。

 割と在庫はたっぷりあって、俺的にはそこまで貴重という感じではないんだが。

 

「人の! 心臓を! 勝手になんてものに入れ替えてくれてるのよ!?」

 

 バシバシと隣り合っている状態のために叩きやすいのであろう腕を何度もたたかれた。

 

「ちなみに、その心臓はちゃんとスタンドアローンだから、冬木を離れても出力変わらないぞ」

 

 しれっと追加情報を投げたら、俺を叩く手の力がさらに強まった。

 

「このうえさらに! とんでも情報を付け足さないでくれない!?」

 

 うんうん。

 大分、素直に感情表現するようになったな。

 

「っく、ぜんぜん堪えてないし……! こうなったら、やっちゃえ、シロウ!」

 

 おっとぉ、そこでそれを持ち出すか。

 結局、例のぬいぐるみ、いくつかイリヤ用に作ってプレゼントしたんだよね。

 まあ、心臓がヤバイ代物なのは言ったとおりだから、護衛は必要だし。

 あとは本来の心臓ももらっているし、アインツベルンとしての協力も約束してもらっているから。

 

 イリヤによってけしかけられた、あげた中でもお気に入りのシロウと名付けられた白熊モチーフのぬいぐるみとじゃれ合う。

 いや、俺以外の普通の魔術師だったら、じゃれ合うとかいうレベルじゃないだろうけどな。

 というかこうして戦ってみると、このぬいぐるみ、技量が割と洒落にならないな。

 流石にイーリアスの戦闘データを流用したのはやり過ぎだったか?

 

 まあ、スペック差で押し切れるけどな。

 なんというか、自分の動きとして既視感しかない動きで殴り掛かってくる白熊のパンチをあえて受けて捕まえて抱き上げてから、イリヤに投げ渡した。

 

「気に入ってくれているみたいだな。プレゼントした甲斐がある」

 

 だからと言って、義弟の名前を付けるのはどうかと思わなくもないが。

 投げ渡された自分の身長に近いぬいぐるみを受け取って抱きしめるイリヤ。

 

「まあ、とっても気にいってはいるわ。これについては感謝してあげる」

 

 それは重畳。

 

「で、本人からも一応は体の状態を聞いておきたいんだが?」

 

 一通り感情を発散して落ち着いた様子のイリヤに問いかける。

 イリヤは、深く溜息をついてから真面目な顔になってその問いに答えた。

 

「調子はすこぶるいいわ。バーサーカーへの魔力供給も、大聖杯の方でかなり負担してくれているから、まったく苦になってないし。……洒落にならない代物を勝手に体に入れてくれた文句とは別に、これについてもお礼は言っておくわ」

 

 表情なんかを見ても変に我慢したりしている様子もなし、と。

 本人的にも問題を感じていないなら、上々だ。

 

「ねえ、私は本当に直接手伝わなくていいの?」

 

 俺が回答に満足して頷いていると、イリヤが不意に聞いてきた。

 

「今の私の魔力生成量が、冬木の外でも変わらないというなら、私のマスターとしての性能はかなりのもののはずでしょう? 状況を考えれば……」

 

 イリヤを危険にさらすことを良しとするなら、大いにありだろう。

 だがそれはちょっと、気が咎める。

 そして、安全を確保したうえでとなるとシャドウフォート内からサーヴァントを運用することになるんだろうが、シャドウフォート内から出ないのであれば、魔力生成量の多さはそこまでアドバンテージにならないのだ。

 シャドウフォートから離れないのであれば、基本的にシャドウフォートからの供給で事足りるからだ。

 

「君には冬木に陣取って、事情を知る魔術師としてこの土地と大聖杯を守護して欲しい」

 

 実際それも非常に重要な役割である。

 これからも冬木にはサーヴァントがある程度の人数が常駐することになるだろうが、事情を知っている今を生きている魔術師も絶対に必要だ。

 それが、第三魔法に手をかけたことがあるアインツベルンに生まれたイリヤであるならこの上ない。

 ネームバリューが違うからな。

 

「それが現状、一番助けになる。士郎君も遠坂嬢もこの件に巻き込むには、まだ未熟だしな。本音を言えば、君も巻き込まずに済ませたかったんだが。力が及ばずにすまない」

 

 俺がそう言えば、イリヤは呆れたような表情になった。

 

「本当に甘い人ね。ある意味、士郎より魔術師らしくないわ。士郎だってあれで魔術を自分の在り方を突き通すために使っている部分があるのに。私から見ると貴方は利他的すぎるように見える」

 

 少し心配の色を乗せてイリヤは言う。

 だがそれは、勘違いってものである。

 

「俺だって、彼とたいして変わらないとも。しいて言うなら持っている力が大きい分、欲張れる範囲が大きい所が違うくらいか。まあ、あとは俺は理想とかより、手が届く範囲の即物的な結果の為に力を使うと決めているから、より俗ではあるかもな」

 

 結果を見れば利他的に見えるかもしれないが、これで俺はどこまでも自分の納得と満足の為にこそ動いているつもりだ。

 ある意味浅ましくもある生き方なのかもしれないが、そんな自分の凡俗さを笑い飛ばして胸を張る。

 元々嫌いだったわけじゃないが、最近の俺はこんな自分が前以上に好きになってきているのだ。

 

「――――そっか、統夜は、士郎と似て見えたけど、実は真逆の人なんだね」

 

 まあ、己の中身を定めるために己のスタンスに縋っている部分のある彼と、自分の中身がキッチリわかっていてそれを基にスタンスを決めている俺は行動が似たようなものになって見えても、本質は真逆と言っても実際言い過ぎではないだろう。

 俺はこれで、我は結構強い方だ。

 

「だから、君は俺の事まで心配するような必要はない。何、助けが必要な時は素直に助けを求めるさ。それが出来るくらいには、ちゃんと大人だからな」

 

 実際に冬木の事は頼んでいるわけだし。

 なので、心配は士郎君の方に傾けてあげて欲しい。

 彼にはまだまだ色んな人の助けが必要だろうし。

 

「それにきっと、見ていて楽しいと思うぞ。士郎君の周りの色恋沙汰とかしばらく見ていて飽きないこと請け合いだ」

 

 ニヤリと、人の悪そうな顔を作ってみせる。

 折角の青春、存分に謳歌して欲しい。

 それを楽しめる時間と平穏くらいは、何とか作ってみせるとも。

 イリヤも、義姉としてでもそれを楽しんでみればいい。

 失った分の人間らしい時間はきっと、悪くないものだろう。

 

「いいわ。貴方が助けを求めてくるまでは、その言葉に甘えていてあげる。でも、助けが必要な時はちゃんと言うこと。こっちは返さなきゃいけない恩が山積みなんだから」

 

 

 





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小話

士郎君は感情がそこにないわけではありませんが、ある意味で理想や信条のもとに人に手を伸ばしています。
それは、あの冬木の大災害で心に空白を抱えて、自分を救うことで救われた表情になった切嗣を見て理想を抱いた彼の宿痾といえます。

一方で主人公はどこまでも我をもって手を伸ばす奴です。
理想とか正義とか、何なら世界の救済すら結果論で良いと決めています。
格好をつけて言うならば、それがどんなにちっぽけでくだらない理由でも、自分の心が震えた時に主人公は走り出すのです。

ところでイリヤのプレゼントされたぬいぐるみの中には、主人公の前では名前を呼びませんが、統夜と名付けられた黒い熊のぬいぐるみもいたりします。

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