Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第63話   はくのんのイギリス進出

 

 はくのんの暮らしていた場所の人々と挨拶を済ませて、ちょっと驚くくらいに少なかった彼女の私物と共にイギリスへと旅立つ。

 はくのんはちゃんと戸籍もパスポートも持っていたので、飛行機を使っての正規の入国である。

 本音を言おう。

 まさか、何事もなくすんなりイギリスにつけるとは思ってなかったんだぜ!

 

 え、マジで何も起こらなかったの?

 いや、それが普通ではあるんだけど。

 今までの俺とはくのんが揃っていた時の事件遭遇率的に絶対何かあると思って構えてたが、無駄になって良かった。

 

「ふう、飛行機って乗る時はちょっとワクワクしますけど、降りてみると今度は解放感を感じますね」

 

 飛行機から降りて体を伸ばしながらはくのんは言う。

 荷物を受け取り、キャリーバッグを引いて歩く。

 

「新たな生活の場へ向かう旅を楽しめているなら何よりだ。空港の外に迎えが待っているから、まずはそこまで移動しようか」

 

 はくのんの少し前を歩いて、行く先へと先導する。

 雑談を交わしながら空港の中を歩く。

 しばらくして空港を出ると、エルメロイから出された迎えの車が待っていた。

 

「この長細いフォルム――――! こんな見るからにブルジョワな車体の実物、初めて見た!」

 

 なんかはくのんが、ちょっとズレた方向で戦慄してるな。

 いや、俺も初めて見た時は謎の感動を覚えた気がするから、人の事は言えないか。

 根が一般人な俺達には本来は縁のない代物だもんな。

 そんなことを考えていると、車の扉が開いた。

 

「おかえり、我が弟子。そしてイギリスへようこそ、孫弟子」

 

 わざわざ迎えの車に同乗してきたのか。

 

「ただいま、師匠。彼女が話していた俺が弟子に取った岸波白野だ」

 

 はくのんの背を軽く押して、前に出るように促した。

 まさかここで出くわすことになると思っていなかったのだろう。

 驚きで固まっていたはくのんが、俺に促されて慌てて頭を下げた。

 

「は、初めまして、ライネス大師匠! 統夜さんの弟子になった岸波白野です!」

 

 そのはくのんの様子と自分への呼び名に、何か悪い顔をしていたライネスは目を丸くして、毒気を抜かれた様に笑った。

 

「そんな堅苦しい呼び方をする必要はないさ。統夜と私も普段は名前で呼び合っているしな」

 

 ライネスの笑顔に肩の力が抜けたのか、はくのんもわずかに笑顔を浮かべる。

 

「それじゃあ、ライネスさんって呼ばせてもらいます。私の事もどうか気楽に呼び捨てにしてください」

 

「では、私からは白野と呼ぼう。さあ、こんなところでずっと立ち話をすることもないだろう。乗りたまえ」

 

 二人が話している間に黒服のお兄さんが荷物を預かってトランクへと格納してくれた。

 車内に入るとはくのんは興味深げに車内を見回す。

 

「こういう車の中って、ホントにこんな感じなんだ」

 

 感心したようにしみじみと独り言をこぼすはくのんをみて、再び過去の自分の姿が重なった。

 今となっては特に何も感じないあたり、考えてみると俺もだいぶ染まったんだなあ。

 

「飲むかい?」

 

 ライネスが冷蔵庫からボトルを取り出して、扉を閉める。

 そして空いた手にはグラスを持ってはくのんに聞いた。

 

「あ、それ冷蔵庫だったんですね。でも、私まだ未成年なのでワインはちょっと……」

 

「これはノンアルコールだよ。そのあたり、統夜もうるさくてね」

 

 いやいや、若年とはいえ魔術師の体にアルコールが害をなすのかはわからないが、そのあたりは一応は守っておいた方が良いと思うぞ。

 それにぶっちゃけ飲み慣れてない酒とかそんなに美味しいものじゃないぞ?

 

「というわけで、こいつはワインじゃなく葡萄ジュースだ。遠慮せずに飲むと良い」

 

 ライネスからボトルを受け取り、はくのんの受け取ったグラスに中身を注いだ。

 注がれたジュースをはくのんが口にして、目を見開いた。

 

「すごい、美味しい」

 

 そうなんだよ。

 このジュース、めっちゃ旨いんだよ。

 まあ、その分だけ値段も相応以上なんだけどな。

 でも、その辺の事は、はくのんが気兼ねなく楽しめるように黙っておこう。

 

「だろう? 私も気に入っているんだ」

 

 ライネスがちょっと自慢気に言って、俺の方に目配せをした。

 意図を汲んでライネスのグラスにも注いで、自分の分も注ごうとしたところで、ライネスが俺からボトルを受け取って俺のグラスに注いでくれた。

 

「今は、カレンがいないからな。特別だ」

 

 片目をつぶって言ってくるライネスである。

 

「ありがたき幸せ。感謝いたします、師匠」

 

 こちらも大仰なセリフでお道化て返した。

 ちなみにカレンがついてきていないのは、BBとシオンからシャドウフォートで後方支援を行うための訓練を受けているからだろう。

 ジュースを飲みながら興味深そうに俺たちのやり取りを見ているはくのん。

 まあ、はくのんに対してはどちらかというと年上の庇護者としてふるまうことが多かったから、こういう態度の俺は珍しいのかもしれない。

 

「さて、一息ついたところで、君のこれからの事についてだ。統夜からも聞いていると思うが、住まいはエルメロイの屋敷の一室を貸し出す形になる。統夜は実質には私の内弟子で、君はその弟子。しかも、元聖杯戦争参加者なんて言う事情付きだからな。そのあたりを含めて色々考慮すると、これが最善だろう」

 

 ライネスがタイミングを見てこれからの事について切り出した。

 いくら呪腕先生がついているといっても、無駄に隙を見せる必要もないからな。

 ここは既定路線だ。

 

「はい。これからよろしくお願いします」

 

 はくのんが頭を下げれば、ライネスは鷹揚に頷く。

 

「そして、君は統夜の弟子という立場ではあるが、魔術については主に時計塔のエルメロイ教室で学ぶことになるだろう。これは弟子の立場はどちらかというと身分保障と後ろ盾の意味が大きく、統夜も忙しかったり未熟だったりで君に十分な教えを与える事は難しいからだ」

 

 そのあたりもすでに伝えてあるので、はくのんも頷いて返す。

 

「エルメロイ教室は、まあ、ちょっと癖の強い生徒が多くはあるが、魔術の素人である君にはおあつらえ向きの教室だ。私や統夜も所属しているからフォローも効くし、何なら教師のエルメロイ二世も私の義兄だからな」

 

 事件簿世界線では二世の子飼い的な色の濃かった教室だが、この世界線では俺の存在などもあって、エルメロイ家の派閥予備軍みたいな色が少し濃くなっている。

 俺の弟子で、エルメロイ家の庇護下にあるはくのんであれば、居心地が悪いという事はないだろう。

 

「もう一人、義兄の内弟子のグレイという子もいる。この子は教室の中では珍しいまともな子だから、私も統夜もいない時は頼ると良いだろう。彼女には折を見て引き合わせるよ」

 

「グレイさんっていうと、師匠の血縁の方でしたよね?」

 

 はくのんが俺の方に顔を向けて聞いてきた。

 

「ああ、そうだ。真面目で大人しい、優しい子だよ。白野とも相性は良いと思うぞ」

 

 時々、特に人を助けようとする時とかびっくりするようなアクティブさを発揮したりもするけどな。

 その辺も含めて、はくのんとはきっと仲良くなれると思う。

 なお、はくのんと二世は顔は合わせてないものの、教育内容を詰めるために電話ではやり取りをしているので、すでに知り合いである。

 

 二世からの評価は、少なくとも生徒としては物覚えのいい優等生といった感じ。

 含みがあるのは、はくのんからにじみ出る主人公力がそうさせているのだろうか。

 あるいは俺の連れてきた子だからか。

 

 そんな風にこれからの予定を改めて確認したりしているうちに、屋敷に到着した。

 カレンや屋敷の面々との顔合わせも問題なくこなし、はくのんはエルメロイ家にスムーズに馴染んでいく事となった。

 なお、カレンとの顔合わせの後で、

 

「師匠の周りって、美人が多くありませんか?」

 

 などと言われたりした。

 

「それを、君が言うのか?」

 

 思わずそんな風に素直に返したら、顔を赤くしながら何かもごもご言ったあとにジト目を向けられた。

 ごめんて。

 

 その後そんなに経たないうちに、グレイとすんなり仲良くなり、教室にも大きな問題もなくなじんだあたり、流石だなと思わされた。

 兎にも角にも、はくのんのイギリス進出はいい具合の滑り出しとなったのだった。

 

 

 





閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。

あと、すみませんが、しばらく投稿が基本隔日くらいペースになりそうです。
熱さに負けて体力と気力が、がりごりと削れてるのです。
皆さんも体調にはお気を付けください。


小話

ライネスは最初、ガツンと言ってきっちり優位を取るつもりだったわけですが、はくのんが凄く素直に敬意を表してきたので毒気を抜かれました。
カレンとは、統夜への感謝やらで通じ合い意気投合。
グレイとは性格の相性が普通によく、順当に仲良くなります。

なお二世は、優等生ではあるんだけど、端々からある種の問題児的な素養を感じ取り、こっそり胃をさすっています。
はくのん視点的には気に入る人が多いし、学ぶ上での環境も良いしで、早く主人公の力になりたいという動機もあって、非常に意欲的。
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