Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
「つまり、彼女は滅亡した世界に何らかの因果を持つものである可能性が高い、と?」
二世の執務室で向かい合って座って紅茶を飲みながら、俺と二世は今後の事について話し合っていた。
今話題に上っているのは、こちらに連れてきたばかりの、はくのんについてである。
「確実とは言えないんですが、俺はその可能性を疑っています」
俺が士郎君や遠坂嬢を冬木に置いたままにしつつ、はくのんだけはこちらに連れてきた理由の一つがそれだ。
彼女については、この時代の冬木には存在しない世界線が大半を占めているという事実は結構重い。
これが他の人物なら、こういう世界だからそういう事もあるだろうと見逃しても構わないんだが、はくのんは何しろ別世界線では複数回世界を救っている主人公のオリジナルにあたる人物だ。
その彼女が本来的に存在していないはずの所に存在しているという事実はちょっと見逃しがたい。
実際に彼女と顔を合わせたメルトリリスの表情の変化は劇的だった。
後で事情を聴いてみれば、彼女を基にしたと思しい人物が、前周においては滅亡した世界からの協力者であり、世界の滅亡に対抗していた組織の末期における最高幹部の一人でもあったという。
「彼女に対する扱いが君にしては性急だと思っていたが、そういう事だったか」
結果的に俺の疑念はさらに深まり、はくのんをなるべく身近に置いておくことにした判断の正しさが補強されることとなった。
まあ、俺に絶対ついて行くという、はくのんの気迫に押された部分もある程度はあったりするんだが。
その辺の事情がなければ、士郎君や遠坂嬢と共に冬木でじっくりと日常をすごしながら成長してもらったんだけどなあ。
本音を言えば最低でも高校卒業くらいまでは、慣れ親しんだ地元で暮らさせてあげたかったんだが。
なお、公的には留学扱いとなる様に手を回した。
高校の単位相当の勉学は修めさせて高校卒業の資格は与えられるように手配する予定である。
将来的に一般魔術師として、表向きは普通に生活できる可能性もないではないからな。
未来の選択肢を狭めるようなこともあるまい。
「しかし、そうか。彼女はそう言う立ち位置か。私はそんな子に魔術を教えねばならないわけか」
胃のあたりを撫でながら言う二世。
すっかり癖になったそのしぐさに、哀愁を覚える。
「気苦労をかけてすみませんが、あの子が自分の運命と向き合わねばならない時が来た時の為に、どうかよろしくお願いします」
親しき仲にも礼儀あり。
たとえ後ろ盾としての意味合いが大きいとしても、はくのんは俺の弟子だ。
ちゃんと頭を下げて、真剣に頼み込んだ。
「滅亡案件の解決にかかり切りなとき以外は、なるべく俺の傍に置いて見ておくつもりですが、自身にも力があるにこしたことはありませんから」
二世は一度息を吐いてから紅茶を一口のみ、カップをソーサーに戻した後、今度は深く溜息をついた。
「何でもかんでも自分一人で抱え込もうとするな、馬鹿者。彼女の教育については、私がしっかりと請け負うから、君はそれ以外の部分だけ気にしてやればいい。君の拾ってきた人間の教育を任されるのも初めてではないから、この程度は慣れたものだ」
なんだかんだカレンの魔術面の教育も手を抜かずにしっかりやってくれていたもんなあ。
いや、ホントに、俺は良い友人を持ったな。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
話がひと段落付いた頃、どこか遠くで、大きな音が鳴った。
「しかし、なんだな。一見すると大人しい真面目なタイプに見えるから、あの癖の強い教室の生徒達に馴染めるか心配したが、杞憂だったな」
こめかみのあたりを押さえて二世が零し、俺もまた頭痛を覚えた気がして目頭を押さえた。
大きな音の後に、はくのんの声が聞こえた気がしたからだ。
少し遠いから、はっきりとは聞こえなかったが、多分、おいこらフラット、かな?
流石フラットは距離を縮めるのが上手いな、もう呼び捨てか。
なんて、誤魔化しだよなあ。
「本人は、自分から悪さをするようなタイプでもないんですけどね……」
悪ノリはするが、自分で問題を起こすタイプではない。
ただなんというか、巻き込まれ体質ではあるかもしれない。
主人公の宿命ってヤツなんだろうか。
呪腕先生が上手いこと助けてくれているおかげで、彼女はほんの短い期間で教室内にそれなりの地位を築いていた。
なんか良く分からん、ヤバいやつとして。
俺は席を立って二世に頭を下げた。
「行くのかね?」
端的に聞いてくる二世に頷きだけで返した。
「いつもすまん。正直、かなり助かっている」
悲しい実感のこもった感謝であった。
いちいち自分でおさめていたら、紅茶もおちおち飲めないもんなあ。
「まあ、何故か皆からはボス扱いですし、今回は弟子も関わっているようですから」
肩を竦めてみせてから、部屋を出た。
さて、方向はあっちだな。
フラットめ、俺の弟子が教室に来てはしゃいでいるのかもしれないが、今度は何やらかしやがったのか。
場合によっては、げんこつくらいじゃ済まさんぞ。
足早に通路を歩いて、音の源となった中庭へ移動して、はくのんを見つけた。
傍にはグレイの姿もある。
そして、二人の前には正座させられているフラットがいて、周囲にはまたあの教室の連中かといった視線を向けながらも関わらないように遠巻きにしている者たちが。
まっすぐにそこへと近づいていくと、フラットがしまったといった顔をして逃げ出そうとするが、足が痺れていたのか、がくりと倒れこんだ。
「で、何をやらかしたんだフラット?」
容赦なくアイアンクローの刑に処しながら、釈明を求めた。
「痛ったぁあぁあぁ!?」
痛みに叫びをあげてじたばたするフラット。
しかし返答が返ってこない。
「答えはどうした?」
重ねて聞くが、痛がるばかりで答えようとしない。
「ええと、師匠。多分その状態で答えられる人間はいないと思います」
……なるほど、力加減を誤ったか。
はくのんに指摘されて、思わず必要以上の力が入っていたことに気づかされる。
力を緩めるとようやく、少しはまともな反応が返ってきた。
「ごめんなさぃぃぃ。授業の内容がいまいちわからないって、グレイちゃんたちが話してたからぁぁぁ!?」
まだ、強いか?
しかし、少しは反省させないと、ここの所は毎日だからな。
俺はさらに釈明を求めようとしたが、このままだと埒が明かないと思ったのか、フラットに代わってグレイが説明を始めた。
「補足すると、拙たちが授業の内容の件でわかりにくかった部分を話していたら、フラットさんがやってきて、手本を見せようと……」
手本のつもりでいつもの即興魔術を使って、新しい後輩に良いところを見せようとした邪念が邪魔でもしたのか、何故か爆発して、二人のとっていた食事が台無しになったらしい。
先日は飲んでいた紅茶を頭からかぶるところを呪腕先生のおかげで事なきを得ていたが、今回は身の安全を守るのが限界で、食事までは守れなかったわけだな。
まあ、あれだ。
はくのんが、呼び捨てになるのも納得の所業である。
「フラット。少し真面目に反省して、しばし身を慎むのと、一週間ほど強制的な断食をするのと、どちらを選ぶ?」
好きな方を選ぶと良い。
「ただし、次があった場合は強制で断食な? 食べ物を粗末にするもんじゃないぞ?」
アイアンクローをやめて、解放する代わりにきつめに睨みつけると、フラットはビシッと姿勢を正して敬礼をしてきた。
「誓って身を慎みます、ボス!」
返事は良いんだけどなあ。
「あのな、フラット。お前が俺の弟子を後輩として気にかけてくれるのは、嬉しいしありがたくもある。実際、白野はそれで早々と教室に馴染めた部分もあるからな」
そこは間違いない。
はくのんが、俺の言葉に頷いている事からも明らかである。
「ただ、もうちょっとだけ加減してやってくれ。上手く対応されて忘れがちになるのも分からなくはないが、白野は教室に来たばかりでまだ何かと不慣れだからな」
その割には、馴染んでる?
そこは、ほら、はくのんだからな。
でも、はくのんのそのあたりの特異性はとりあえず横に置いて、フラットの肩を叩いた。
フラットは敬礼をやめて肩の力を抜き、なんというか素な表情になった。
「あ、うん、そうだよね。確かにちょっとはしゃぎすぎてたかぁ」
表情と目を見て、これならまあ大丈夫そうだと判断した。
「普通に仲良くする分には、むしろお願いしたいくらいだから、そんな固くなることはないけどな?」
言ってはくのんに目を向けた。
はくのんは俺に頷いてから口を開く。
「そうですね。普通に会話とかお茶とかして、やらかさずに普通に教えてもらえるならむしろ助かりますし」
普通を連呼しているあたりに、はくのんのフラットへの評価が伺えて目頭が熱くなるな。
なお、結果としてはこの件以来、フラットの暴走は大分鳴りを潜めた。
問題を起こさなくなったわけじゃないが、頻度はだいぶ減ることになった。
これをもって、はくのんの新たな生活への最低限のフォローも済んで、よし、ちょっと休暇を取れるぞ、となったわけなんだが。
あのBBが、らしくない非常に申し訳なさそうな声で、それを告げた。
『あー。その、ものすごーく言いにくいんですが。コーンウォールで、時空の揺らぎが観測されました』
――――泣いていいかな?
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小話
ボスとして慕って、友人としても仲良くしている興味深い相手の弟子が後輩としてやってきたことで、ちょっと浮かれていつも以上に暴走気味だったフラット君ですが、ようやく落ち着きました。
しかし、頻度が下がっただけでやらかすことは変わりません。
何故ならフラット君だから。
そんな、はくのんの、時計塔での日々なのでした。
余談として、冬木の方は表面上は衛宮ごはん時空的な緩やかな時間が流れています。
しかしイリヤやサーヴァント達は、その平穏が護られているが故ものであることを知っているために、ふとした時にその穏やかな時間を過ごす少年少女たちを慈しむような目で見ています。
そのあたりまえの日常が、とても得難いものであることを知っているからです。
ドロー! 主人公の平穏を犠牲に、少年少女の穏やかな日常を召喚する!
え? 主人公の平穏な日常?
カードの山の底のあたりにならあるんじゃないでしょうか?
いやまあ、冗談です。
物語の途中には、平穏な日々も少しくらいは、きっと多分メイビー。