Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第66話   俺と妖精国の遠景

 

 準備を済ませてから向かったシャドウフォートの操縦室には突入メンバーがそろっていた。

 メインオペレーター席に座っているシオン。

 複数あるサブオペレーター席にはメリュジーヌとメルトリリスがいる。

 操縦室の壁に背を預けているジャンヌ・オルタ。

 

 うん、何故かジャンヌ・オルタは特異点内でも問題なく存在できそうなんだよね。

 メルトリリスは未来の技術によって半ば実体を有していて、実は存在としてはデミサーヴァントに近いらしいので、人類史という英霊の存在の基盤が存在しない妖精國でも存在できるそうだ。

 

 このあたりの技術は、前周において何らかの事情で英霊の存在が難しい特異点の攻略が必要になったケースに備える形で発展したらしいので、ある意味では当然の結果と言える。

 メリュジーヌは、彼女と同根の妖精國における彼女の存在によって存在を許されているのだろう。

 ここは、FGO世界線において円卓の騎士が妖精國内で存在が許されていたことと近いんだろうと理屈としてわかる。

 

 しかしジャンヌ・オルタは、どういう理屈だ?

 今の彼女の存在の基盤となっている逸話が、既存の人類史に依存していない?

 もしかして、FGO世界線の旅路が彼女の逸話として成立しているのか?

 だがそうだとして、その逸話の存在を担保しているのは……俺かぁ!?

 

 あの旅路を当事者の次に、あるいは個人としてではない神様的な視点で見る事が出来ていたという点では当事者以上に知っている存在が俺である。

 しかも、俺という存在の持っているリソースの量と質の問題なんだろうが、一種の観測者的なポジションらしい。

 結果的に存在の確立経緯が特異なジャンヌ・オルタにとって、英霊としての存在を担保している情報のソースみたいなものの比率が、俺の存在に起因する部分の方が大きくなっているんじゃないか?

 

 ……あれこれ、俺個人が、たとえば異聞帯サーヴァントを成立させるような概念規模を持っているってことぉ?

 よし、とりあえず、今は保留だな!

 まずは目の前の特異点に向き合おう!

 

『はい、何事か考えていた統夜さんも思考を打ち切ったようなのでそろそろ、いけますかね!』

 

 人の思考を読むなよ。

 

「今のは君にしては割とわかりやすかったぞ。考え事をしている顔から、悟りでも開いたような顔に急に変わったからね」

 

 指揮官席に座っていたライネスが笑って言う。

 そう、今回はライネスが同行している。

 その椅子の前のコンソール脇には、黒猫の姿をしたトリムマウが。

 

 何故黒猫の姿なのかというと、演算能力をなるべく消費しないためにである。

 別の部分で大きく演算能力を食われているのだ。

 その黒猫型のトリムマウが口を開く。

 

「思考を放棄するのは感心しないな。君は言うなればこの部隊の指揮官。最後の最後まで考える事を諦めるべきではないと思うが?」

 

 声がライネスのそれなので、腹話術のように見えるがそういうわけではない。

 現在トリムマウ、というかそこに宿っている彼は、ライネスと契約状態なのでその影響である。

 

「今放棄したのは、今回の件とは関係のない与太の類の思考だから気にしないでくれ、司馬先生」

 

 俺の回答に猫が毛繕いする仕草をしながら――――それ、どういう感情の表現なんです、司馬先生?

 

「これから特異点に挑もうという時に剛毅な事だ。その豪胆さは買いと言って良いかもしれないな」

 

 おおう、彼の三国時代に幕を引いた軍師殿に褒められるとは、ちょっと嬉しいかもしれない。

 そう、あの黒猫の中身の司馬先生はつまり、司馬仲達あるいは司馬懿ともよばれた軍師の事である。

 FGO世界線においてはライネスを依り代として疑似サーヴァントになっていた司馬先生が何故、黒猫姿のトリムマウに宿っているのかというと、ちょっと説明が長くなる。

 

 事の起こりはハートレスとの決着の際にグレイの持つ聖槍ロンゴミニアドを封印しているアッドが損傷したことだ。

 最終的にはなんやかんやあって機能を取り戻したのだが、一度大きな損傷を受けたことは確かな事。

 それで、グレイとアッド自身に検査を頼まれたのである。

 グレイにせよ、アッドにせよ、いくら懇意にしていると言ってもこんな特級の神秘の塊を他者に委ねるとかどうなのかと思ったんだが。

 

「統夜さんなら悪いようにはしないと思いますし」

 

 なんて、グレイは言うし。

 

「興味はあるんだろうに、一度として調べたいと口にするどころか、その素振りすら見せないでくれたお前になら任せられるって話だ」

 

 アッド自身にまでそんな風に言われてしまっては断る理由もなかった。

 で、情報の取得も検査の範囲なら報酬としてご随意にという話になってな。

 結果的にロゴスリアクト・レプリカの各種データが手に入った。

 

 その研究成果を基にトリムマウに反映。

 英霊の人格を再現できるその機能を流用して、英霊の座から疑似サーヴァントの依り代にする程度にはライネスと相性の良い司馬懿の人格をトリムマウに降ろすことに成功したわけである。

 

 もう少しブラッシュアップすれば、トリムマウを纏う事でライネスの体に大きな負担をかけることなく疑似的なサーヴァントのように振舞う事も可能になると思うんだが、現状は知恵を借りるのが関の山。

 しかし、あの司馬懿の知恵を借りる事が出来るというのは非常に大きいといえる。

 現状のチームには参謀役が不足していたしな。

 

 何故に猫の姿かって?

 人間体よりは演算の負担が少なくて、魔術師の連れた使い魔としてそれっぽい中でライネスが選んだのがその姿だったんだ。

 他にも鴉とか、ハムスターとか、いくつか候補があったけど、まあ司馬先生もそれなりに気にいっているみたいだから良いんじゃないだろうか。

 

「車内各部チェック終了。いつでも行けます」

 

 サブオペレーターの席に座っていた最後の一人であるカレンが報告を上げてきた。

 ……今回に間に合わせてくるとはなあ。

 シオンが覚えの早さを褒めるとか、相当だぞ。

 優秀なのは知っていたが、それ以上にシオン曰く、意欲がヤバかったらしい。

 

「愛されてますね」

 

 と、ジト目と共に言われることになった。

 否定はしなかった。

 つい、目は逸らしたが。

 

 まあ、ともあれ以上が今回の突入チームである。

 妖精國では通常のサーヴァントが存在できないのがかなり痛い。

 それでもメリュジーヌにメルトリリス、更にはジャンヌ・オルタまでいるので突入当初はマシュしか戦力がいなかったFGO世界線よりはマシっていうね。

 カルデアのみんな、ホントに頑張ったなあ。

 

 こっちは、単純戦力なら俺とメリュジーヌがいる時点でかなり恵まれているしな。

 まあ、妖精國はただ滅ぼすわけじゃない場合、戦力だけあってもどうしようもない部分がでかいんだが。

 そのあたりはむしろ、ライネスや司馬先生のほうが助けになるかもしれない。

 

『それでは、皆さんシートベルトを。結節点より特異点へ突入します。ゼロセイル、スタンバイレディ!』

 

 俺も現状の定位置となっている操縦席に座って、シートベルトを装着した。

 なお操縦は基本BB任せだから、俺が操縦しているわけではない。

 

『潜航開始します!』

 

 虚数潜航に伴う独特の感覚が襲い、眩暈を覚える。

 しばらくして、モニターに光が差し込み、海上にシャドウフォートが浮上する。

 シャドウフォートは海上での活動も可能であるため、これは狙い通りだ。

 

 そして、モニターに映るその島の遠景。

 緑豊かな、表面上は美しいその姿を目に収める。

 目で見ただけでは、あの島が実は厄そのものだなんてとても思えない。

 

 改めて実感がわいてきた。

 そうか。

 俺はこれから、あの妖精國の大地を踏むことになる訳か。

 予感なんて言うにはあまりに明らかな未来の予測として、苦労が目に見えるみたいな気がするなあ。

 

 でも、やると決めたからにはやるまでだ。

 まだ見ぬ、あの島で待つ出会いの数々を想う。

 

 ――――それじゃあ、物語を始めるとしよう。

 

 

 





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小話

黒猫司馬先生は割と最初の頃から考えていたネタです。
発想のもとは作中でも出ている通りロゴスリアクト・レプリカがある円卓の騎士の人格をエミュレートしている事に由来しています。

トリムマウは結構主人公の手が入っていて色々強化されているんですが、今回の改造で完全に一線を越えました。
ライネスは、自分の引退の際には絶対に元の状態のトリムマウにダウングレードさせようと決めています。
あんまりにも価値が高すぎるからです。
死後に残したら絶対にろくなことにならないもんね!

主人公はライネスに結構振り回されているのですが、一方でライネスもまた、実は結構主人公に振り回されていたりするのです。

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