Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
「結局こうなるのか」
海岸でジャンヌ・オルタと二人、現状に遠い目をする。
「まあ、私は忘却補正持ちだし、貴方はあの手の概念的な干渉はまともに効かないから、状況的にはましな方じゃないかしら」
目の前には名なしの森が広がっている。
何でこうなったのかというと、島にある程度近づいたところで、ロンゴミニアドが飛んできてね。
俺が迎撃に出て時間を稼いでいるうちにシャドウフォートは虚数空間へ退避した。
戦力的にメリュジーヌはシャドウフォートに残り、水流を操作してシャドウフォートの回避行動を助けていたメルトリリスも残留。
必然的に俺の方にはジャンヌ・オルタが付いてくることになった。
いやでも、ひどくない?
シャドウフォートが虚数空間に退避した後も、複数回ロンゴミニアド飛んできたんだけど?
あれって、つまり最初からシャドウフォートじゃなくて俺狙いだったてことだよな。
都度相殺したけど、最終的に名無しの森が存在しているあたりの海岸まで押し込まれた。
「……正直、相手の気持ちも分かっちゃうんだけどね。とんでもない怪物が自分の国に上陸しようとしていたら、水際で叩こうとするのは凄く合理的な判断だと思うわよ?」
むしろ相手に同情するような調子で言ってくるジャンヌ・オルタである。
「人を怪獣か何かみたいに言わないでくれないか?」
否定できないじゃないか。
正論は時に人を傷つけるんだぞう?
これ、ワンチャン森で記憶失って大人しくしていてくれないかなって期待されてるよな。
残念ながらそうはならないわけだが。
モルガンもそこまで期待はしてなさそうだけど。
「……まあ、名無しの森も捜索対象だからちょうどよかったと思っておくか」
アルトリア・キャスター、そのままだと長いから頭の中ではキャストリアで良いか。
キャストリアの確保は色んな意味で必要だし、シャドウフォートとの合流は名無しの森の捜索後に考えるとしよう。
どうせここの捜索は、俺とジャンヌ・オルタでしかできないわけだし。
「霧が出てきたな。どうだ、影響は?」
忘却補正がどの程度効果あるかは未知数な部分もあったし確認は必要だ。
「とりあえず、問題はなさそうではあるわね」
感覚的に俺とのパスも忘却の呪いに対して耐性として作用している部分がありそうだという事だった。
ともあれ第一関門はクリア、ってことでよさそうだな。
それじゃあ、森の探索と行きますかね。
お互いに目を合わせてから頷きあって、森の中へと歩き出した。
まずはFGO世界線でのあの集落を見つけて遠目に状況を確認しよう、と思っていたんだが。
「あ」
ある日、森の中、キャストリアに、出会った。
木々の間から現れて俺達と目のあったキャストリアが、ちょっと間抜けな声をこぼした。
ドンピシャかよ!
ここまでタイミングが良いと、何か作為的なものすら感じるな。
前周の時の話を聞いていて予想はしていたが、やはり時間軸はこのタイミングなのか。
まあ、この世界線って島以外まで巻き込むレベルで盛大に滅びる可能性を持つには、このあたりの時間軸までは確定している必要があるもんなあ。
この時点で複数の案件が手遅れになっている事が確定してるんだが?
オノレ。
人の心とか……そりゃこの世界にそんなもんあるわけないよなあ!?
「初めまして」
しまった。
想定外の遭遇で、なんか間抜けな第一声が思わず出てしまった。
「あ、はい、初めまして?」
うん、なんだかんだで礼儀正しいな、キャストリア。
戸惑いつつもこちらに向きなおって、ぺこりとお辞儀までしてくれた。
なるほど。
「それじゃあ、行こうか」
まるでそれが当然であるかのように言って、俺は歩き出した。
「え、はい」
戸惑いを顔に浮かべたまま、大人しくついてくるキャストリア。
ジャンヌ・オルタは何やってるんだこいつ、といった呆れ顔である。
しばらく歩いていると、キャストリアが足を止めた。
「って、なんでついて行ってるの私!? というか貴方、誰!?」
このまま押しきれたりするかなと思ったけど、流石に無理があったか。
周辺に他に気配はなし、と。
さて、何をどこまで話したものかな。
「ちょっと冗談が過ぎたな。とりあえずこのあたりは危険もなさそうだし、少し話そうか」
適当な木の根に腰を下ろして、キャストリアにも座るように促した。
キャストリアもまた、微妙に警戒しつつ苔むしたちょうどいい程度の高さの岩に腰を下ろす。
ジャンヌ・オルタは念のためにだろう、立ったまま周囲を警戒してくれていた。
「俺の名前は神薙統夜という。この世界の外から来た。まあ、厳密にいうとちょっと違うんだが」
キャストリアは少し訝しんでから、驚愕に目を見開いた。
妖精眼の力で嘘がないことがわかったんだろうな。
うーん、これやっぱり素直に話すのが一番ましかあ。
妖精眼がなければ、余計な重荷を知らせない手もあったんだけどなあ。
でも、一応は聞いておくか。
「君にはいくつか選択肢がある。このまま何も聞かずに俺達と別れる選択肢がまず一つ」
この選択肢を選ばれてしまうとちょっと困るが、無理強いはしたくないしな。
「次に、最低限の説明だけ受けて旅を共にする選択肢。そして最後に、すべてを知ったうえで旅を共にする選択肢だ」
「説明を聞いたうえで、別行動をするっていう選択肢は?」
「ないことはない。ただ、聞いたうえで別行動をするという選択を取れるかというと……」
キャストリアの性格だと難しいんじゃないかなあ。
「おすすめは、とりあえず最低限の説明を受けて一緒に来ることかな。より詳しい話を聞くかどうか、あるいはどこかで別れるか。そのあたりの判断は俺たちの事を見て知ってからでも遅くはないだろう」
悩むキャストリアの姿を見ながら、微妙に同情してしまう。
普通はこんな初対面の怪しい男に、こんないかにも怪しい話をされたら即回れ右な案件だと思う。
でも、名無しの森に来るくらいに消耗している時点のキャストリアにとっては、自分を敵対的に見ていない存在との関りってのは手放しがたいものなわけで。
「あの、それじゃあ、とりあえず最低限の説明だけ」
それを選んじゃうよな。
都合は良いんだけど、お労しくてかなわないんですけど。
「わかった。端的に言うと、この妖精國から俺達の世界に悪い影響が出そうになっていてな。俺達はそれを解決するためにこの世界に来た」
最終的にはこの島を破壊しなければならない事や、このまま順当に行けば手を下すまでもなくこの世界が滅びる事は流石にまだ言わなかった。
俺がそんな重要な部分を伏せていることは承知の上でだろう。
キャストリアは少なくとも今の言葉に嘘はない事だけは理解して、再び考え込んだ。
「正直に話すと、この森に来た目的の一つは君を見つける事だ。君の協力を得られるかどうかで大分計画が変わるからな」
変に騙すことはしたくないので、そこは素直に話す。
キャストリアの瞳が揺れて、困ったような顔になって、最後には諦めたような顔になった。
彼女は使命を忘れて少し息をつきたくてここに来たのに、こんな話をするのは申し訳なく思う。
だが、悪い話ばかりでもないのだ。
「ああ、勘違いするなよ? 君の助けがあれば楽になるのは確かだが協力を強制するつもりもないし、協力を求める以上は君一人に押し付ける気もない」
俯きそうになっていたキャストリアの顔が上向いて、目に驚きと期待が浮かんだ。
本音を言えば、ただの少女でいさせてあげられるなら、それが一番いいんだけどなあ。
「君の使命についても、最大限助けよう。そこの利害は完全に一致しているからな」
真偽を妖精眼で見抜いてくれるから、このあたりの話は早いな。
まだ信じられないって気持ちが残っているようだけど、表情に期待の色が濃くなっていく。
立ち上がってキャストリアの前まで歩いて行き、彼女へと手を差し伸べた。
「だから、どうだろう。俺達の世界のため、そして、君の使命を果たすため。俺達と旅を共にしてはもらえないだろうか」
その手が握り返されるまで、さして時間がかかることはなく。
それが俺と彼女の旅の始まりとなった。