Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第69話   俺と今は名のなき妖精

 

 森をさまよう事しばし。

 俺たちはその音を聞いた。

 戦闘音と、獣が吠えたり唸ったりする感じの音。

 三人ともに顔を見合わせて駆け出した。

 

 木々の合間を駆けてすぐに目に入ってきたのは複数体の狼……狼? と、それに襲われている一人の妖精。

 襲われているとは言ったが、そこそこ応戦できている。

 まあ妖精はなんだかんだ持っている神秘が高レベルっていうか、そこらの一般妖精からして基礎スペックの潜在能力は結構高いみたいだし。

 特にホープは元は結構な高位の妖精だったんじゃないか疑惑のある妖精だからな。

 

 とはいえ相手にしている狼も神秘の濃い世界の影響だろうけど、狼と素直に呼ぶことが憚られる程度には狼離れした狼、なんか狼という言葉がゲシュタルト崩壊起こしそうだなコレ。

 神秘ってなんて言うか、見方によっては汚染物質みがあるよなあ。

 

 そんな益体のないことを考えつつも腰の刀を抜いて狼に斬りかかった。

 ようやく用意できた自作のガンブレイドである。

 まあ、射撃部分は魔力の放出で代用しているが、今のブレイズアトレイラーのクラスを解放した俺でも使える強度と、強力過ぎない性能を持ったとても使い勝手のいい武器だ。

 

 一つとはいえクラスの力を解放しているのは単純にこの世界、生身でウロウロするのは危うすぎるという事情による。

 妖精は言わずもがな野生動物の狼すら、どこの山の神だよといった有様だからな。

 継戦能力面でも見た目の面でもイーリアスを常時装備というわけにもいかないし、後は特異点内なら多少の加減を誤ってもそこまで大きな問題にはならないだろう、という事情もあった。

 ついでに言えば、ようやく実用化出来たシャドウフォートのシミュレーションルームで手加減の練習もできたからな。

 

「ジャンヌ・オルタとアルトリアは、彼女の守りを頼む。俺は狼を追い払う」

 

 ホープを指さして頼んでから、俺は狼たちに向かう。

 見た感じホープは狼への致命的な攻撃は避けていた感じなので、俺もみね打ちで追い払うだけにとどめた。

 襲われていながらホープがそんな風に戦っていたのは、優しさか、それとも単純に力不足なのか、それとも相手に退くという選択肢を残すためなのか。

 

 まず、飛び掛かってくる狼の鼻っ面を柄で叩いて追い返す。

 足に食いつこうとしてきた奴は、回避して蹴っ飛ばした。

 もちろん手加減して。

 本気でやるといくら神秘で強化されている狼でも、アレだ。

 破裂した水風船みたいになるからな。

 

 そんな感じで飛び掛かってくる狼は返り討ちに、ホープたちの方に向かおうとする狼は横から刀のみねで叩いて追い払っていると、ひときわ大きな狼が遠吠えをして、狼たちは退いて行った。

 なるほど、あいつが群れのボスか。

 次があった時はいの一番に叩くとしようか。

 そんなことを考えていると、ボス狼は何か感じたのか身震いをしてから逃げ足を速めた。

 

「これはなかなか。賢い上に勘も良いな」

 

 変な邪悪さがない野生のしたたかさで、小気味が良いというか。

 いかんな、一般妖精より野生の狼の方が好感度が高いぞ。

 まあ、そこは今は考えないでおくか。

 少なくとも今ここにいる彼女は妖精の中でも例外の部類だしな。

 

「さて、狼は追い払えたな。彼女の方はどうだ?」

 

 刀を鞘に戻しながらホープを守っているジャンヌ・オルタとキャストリアのもとへ歩く。

 見るとジャンヌは呆れた顔で肩を竦めているし、キャストリアはちょっと間抜けな感じに口が開いていた。

 ホープも目を丸くしているが、はて。

 

「感覚が完全に狂っているわね。一匹ならともかくあの数であの戦闘力、私でももうちょっと苦戦するわよ? それを瞬く間に一蹴すれば、こういう反応にもなるってものよ」

 

 ……ああ、なるほど!

 くう、前回の特異点だとかなり強化されたワイバーンが畑でとれんのかってレベルで湧いてた上に、俺が戦ったのは片方だけとはいえファヴニールが二体に最後の相手があのアルビオンだったから。

 おまけで、わえ様もいたし。

 そう、俺が悪いんじゃないだ。

 

「わかってる。私は分かってるわ。うん、だからその、そんなに肩を落とさないで?」

 

 ジャンヌ・オルタが可哀そうなものを見る目で肩に手を置きながら言う。

 ふふ、優しいなジャンヌ・オルタ。

 こんな、戦闘力面の勘定がすっかり馬鹿になってしまった憐れな男に。

 おかしいな、ほんの数年前まではせいぜい上位死徒の相手くらいで……、いや、この時点で大分おかしいよな?

 これだから型月世界は。

 

 とりあえず、今後の色々な加減については留意するとして、今はホープだ。

 あちこちにちょっとした負傷があるし、羽もだいぶくすんでいるな。

 これ、今だけの傷じゃないんだろうなあ。

 よし、まずは、回復アイテムだな。

 

「アルトリア、彼女にこれを」

 

 ホープの横に彼女を守るように寄り添っていたキャストリアにチート由来の完全回復薬を投げ渡す。

 

「これは?」

 

「魔法薬みたいなものと思っておいてくれ。効果は覿面だぞ」

 

 アルトリアが頷いてホープに薬を服用させた。

 ホープは大分遠慮していたようだが、なんだかんだで押し切っていてちょっと笑う。

 こういう場面だと結構押しが強い。

 

 薬を飲んだホープの様子を、少し申し訳なく思いながらも注意深く観察した。

 傷はちゃんと問題なく治るな。

 ここは想定通り。

 しかし羽の欠けやくすみは直る様子がない。

 これも、残念ではあるが想定通りか。

 

「わ、思っていたより効果が凄い! え、傷が一瞬で!? なにこれ!?」

 

 飲ませたキャストリアの方が、ホープより動揺しているが今は思考の外に。

 やっぱり普通の回復薬じゃ、妖精としての存在の基盤の部分までは癒せない。

 

「これも飲ませてやってくれ」

 

 次にキャストリアに渡したのは俺が錬金術で作った魔力の回復薬。

 残念ながらチート由来のアイテムに魔力回復薬はないからな。

 スキル使用時に消耗するエネルギーを回復するアイテムはあるんだが、どうもこれで回復するのって魔力とは別みたいで魔力の回復には効果がなかったのである。

 

「え、その、さっきはこの子の怪我の事もあったから迷わず使っちゃったけど、これ、使って大丈夫なやつなの?」

 

「ただの手製の魔力回復薬だ。妖精にとっては結構な特効薬になりえるだろ。その子は大分弱っているみたいだし、遠慮なく使ってやってくれ」

 

「魔力回復薬!? いや、そんなの、下手したら暴動起こるんだけど!? なんてもの軽く投げ渡してるの!?」

 

 ああー。

 うん、妖精國だと割とガチで禁制品になりかねんかもなあ。

 

「というわけだから、お嬢さん。アルトリアを助けると思ってグイっといってくれ」

 

 手でグイっと飲み物をあおるジェスチャーをして見せる。

 

「統夜が回収してくれればそれで済む話なんだけどなあ! 確かに今のこの子には効果ありそうだからしないけど!」

 

 俺たちのやり取りにずっと目を丸くしていたホープがクスリと笑った。

 お、いいね。

 まだちゃんと笑えるなら、望みは十分ある。

 

「そんな危険物をずっと持たされているのは確かに可哀そうですね」

 

 そういって、キャストリアから薬を受け取って飲み干した。

 羽の状態はそこまで変わらないが、多少元気にはなった、か?

 やはり今の名を失うまで消耗した状態だと、穴の開いた器に水を注ぐようなものか。

 

 こうなるとすぐに解決は出来なさそうだな。

 どちらにせよ集落の様子を窺うつもりだったわけだし、予定通りに動くとしようか。

 

「ところで、ちょっと頼みごとがあるんだが、聞いてもらえるかな?」

 

 ホープに話を切り出す。

 こらこら、ジャンヌ・オルタさんや。

 そんな胡散臭いなコイツみたいな顔するもんじゃないぞ。

 キャストリアも、なんでそんな風に苦笑するかな。

 

「私から見ると悪意がないのは分かるんだけど、だからこそかえって質が悪いような気がしちゃうというか、ね?」

 

 そこでジャンヌ・オルタと目を合わせて頷き合わないでくれるかな?

 そんなに言うなら、あれだぞ。

 みんなで幸せになろうよ、とか、わざとものすごい悪い顔で言うぞ。

 

 




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小話

キャストリアは自分と普通に、というか友達みたいに接してくれる統夜に結構浮かれていてテンションが高くなっています。
いや、主人公がことごとく常識からずれているので突っ込まずにいられないというのもあるんですけどね。

なお、クラスとしては端的に言うとブレイカーが兵器運用のスペシャリスト的な、装備でいろんなことができる万能クラスで、ブレイズアトレイラーは生身で武器を持って戦うタイプの攻撃偏重のアタッカークラスです。
どちらもクラスとしてはクラスチェンジ後の上位クラスの類で、下位クラスからの分岐ツリー的にはどちらも攻撃的な分岐に分類されます。

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