Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ホープに許可をもらって、彼女の寝床のあたりを拠点に妖精たちの集落の様子を窺う。
実はそのあたりはオマケで、一番の目的はホープにもうちょっと心を開いてもらう事だったりするんだが。
しかしあれだな。
人間視点で見るとやっぱりクソだな妖精。
なんていうんだろう。
ナチュラルに悪意なく悪をなすというか。
そりゃ人格が人間から見てまともな妖精は損をすることになるよな。
でも実際に見て観察を続けていると、微妙に評価が変わる部分もある。
言ってしまうと妖精って言うのは、そう言う生き物なんだな、という見え方がしてくるのだ。
移り気、享楽的、刹那的。
この世界では結果的に群れで社会を形成して生きているが、本質的には恐らく社会性を持つべき生物でもない。
本質的に社会性を必要としていないために、社会を安定させるための規範や土台となる法や道徳といったものを必要としないし、その結果としてそれらが生まれる事がない。
なまじ知性があるがゆえに勘違いしてしまうんだが、アレは人間の基準で評価すべき生物じゃないという事だ。
ありていに言ってしまうと一歩引いて妖精という生物を見た時、人間から見て好意を感じるような人格を持っている個体は、例外とか外れ値とか、あるいは言い方は悪いがいっそ欠陥を持った異常個体といった方が近いのではないだろうか。
まあ、だとしても俺は人間で、やっぱり人間としての視点しか持ちえないので、人間である俺の視点から見て好意を感じる事が出来る妖精を贔屓にさせてもらうけどな。
しかしこうして見てみると、曲がりなりにも社会や法を形作ったモルガンの苦労が逆説的に浮き彫りになるな。
モルガンは妖精國の妖精たちをだいぶ厳しく縛っている様な話だったが、それはそうもなるだろう。
笑う事を許す、楽しいことを許す、つながりを許す、発展を許す、だったか。
物語を読んだ時は、そんなことも本音では許したくないくらい妖精に失望していたのだなと軽く考えていたが。
なるほど、妖精の性質を考えると妖精國を存続させる上では大分優しい設定なのかもしれない。
実際、存続のみを考慮するなら其処はきっちりと禁止しておくべきだっただろう。
妖精はぶっちゃけ善悪の分別が根っこから存在しないから、ガチガチに縛らないと少なからぬ割合で必ず人から見たところの悪を為すからだ。
これら妖精が自然に生きる限り為さずにいられない悪が妖精國にどれだけの影を落としたかは、FGO世界線の妖精國を見ればあまりにも明らか。
皮肉なのは、モルガンの救いたかった、優しく設定した動機の元たるある妖精も、それくらい雁字搦めにしておけば逆にひどい目に遭わずに無事に回収できていたのではないか、と思われるところだな。
「あの、鍋が吹いていますよ?」
ぬあ!?
やっべ、思考に没頭し過ぎてた!
慌てて鍋を火から離す。
うん、焦げ付いたりはせずに済んでいるな。
「ありがとう。助かった」
礼を言うと、ホープは嬉しそうに笑う。
この数日で大分親しくなれたし、それに伴ってホープの状態も改善されているように見えた。
妖精にとって人間の存在は重要、みたいな話だったがこれは妖精がどちらかというと概念存在寄りだったりするのか?
人間との関わりによって存在を補完してたりするんだろうか。
「なんか、ずいぶん考え込んでたみたいだけど、何を考えてたわけ?」
周辺警戒から戻ってきていたジャンヌ・オルタが聞いてくる。
「まあ、妖精の生態とか妖精國の成り立ちの必然とか?」
「また難しそうなことを考えてるわね。……アルトリア、食事よ」
俺の答えを聞きながら、周辺警戒を終えて交代で睡眠をとっていたアルトリアを起こした。
「うーん、あ、なんかいい匂いが」
もそもそと起き出してくるキャストリアに鍋から具がたっぷりのスープをよそって渡した。
「うっかり沸騰させてしまったからちょっと冷ましてから食ってくれ」
手に持てばわかるとは思うが、一応注意を促す。
キャストリアは器を両手で受け取り、息を吹きかけて冷まし始めた。
微妙に寝ぼけているのか、目がしょぼしょぼしていてちょっと危なっかしいかもしれない。
「こぼしたりして火傷するなよ?」
ついつい注意すると、キャストリアは寝ぼけ眼をちゃんと開いてから、何か感慨深いような表情をした。
「うん、ちゃんと気を付けるね」
くすぐったそうな、幸せそうな顔。
ああ、そうか、食事中にこんな当たり前みたいな注意を受ける事すら今まではなかったわけか。
食事を一緒に取っていると、いつも妙に嬉しそうだと思っていたがそういうことか。
気付いたその事実には敢えて深くは触れずに、今度はホープとジャンヌ・オルタにスープを渡した。
妖精であるホープは本来飲食を必要としないのだが食べられないわけではないし、折角だから一緒に食べてもらっている。
あと、人間が彼女の為に作った料理というのは彼女の状態に良い影響があるのではないか、という狙いもあった。
ホープが日を追うごとに元気を取り戻していっている様子を見るに、多少は効果があるんじゃないだろうか。
家付き妖精への暖炉の上のミルクだとか、そんな感じの伝承はチラホラあるからな。
妖精以外に範囲を広げれば、超常の存在への捧げものというのは非常にポピュラーなものであるし。
「というか、貴方、結構ちゃんと料理が出来たのね。ここ数日、その事実に一番驚かされたわ」
あー、なるほど。
イギリスだと大体使用人か場合によってはカレンが用意してくれるし、それ以外となると外食だからな。
考えてみるとここ最近、料理をしていなかったかもしれない。
「ちゃんとって言っても、これくらいは雑な男料理の部類だけどな」
肉とかは直火に塩かスパイス。
鍋は具材を切ってぶっこんで味付けも適当だ。
ちゃんと設備があれば、もうちょっとちゃんとした料理もできなくはないけどな。
「でも、ちゃんと美味しいよ?」
キャストリアが冷ましたスープを飲んで言えば、ホープも同意して頷く。
ジャンヌ・オルタも少し遅れて口に含んだスープを飲み下して頷いた。
「そうね、そこは私も同感。たぶん、統夜は味覚が鋭いのではないかしら?」
それはあるかもな。
この体は色々スペックが高いから、舌も人より敏感なのかもしれない。
自分の分のスープも器によそって、火傷しない程度に冷ましてから味を見た。
作っている最中にも味見はしていたから心配はしていなかったが、確かにいい味をしていると思う。
しばらく皆で料理を楽しみ、雑談に興じる。
他愛のない時間だが、優しい価値のある時間と言ってよかった。
しかし、残念ながらその時間は長くは続かなかった。
食事が終わるころ、闖入者が現れたからだ。
「楽しそうじゃねえか。その客人たち、俺達にも紹介してくれよ」
ホープが少し怯えた表情になり、キャストリアは残念そうに溜息を吐く。
ジャンヌ・オルタは不快気な顔だ。
かくいう俺は、まだスープを飲み終えてなかったので無視して食事を進めている。
やってきたのは、集落の妖精たち。
まあ、そのうち来るとは思っていた。
ホープの状態は見るからによくなっていたし、ここは集落からそう離れていないから疑問に思った妖精が様子を見に来るのも時間の問題だろうと分かったのだ。
何なら待っていたと言ってもいい。
流石にこの人数は想定外だが。
これ、集落の妖精のほとんどがいるんじゃないか?
でも考えてみると、妖精たちのこの行動もあり得る話か。
ホープくらい消耗していた妖精がこの数日で見違えるほど回復していたらそりゃ気にもなるだろう。
よし、スープも終わったし、ちょっとばかり対話の時間と行こうかね。