Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
「貴方の状態が明らかに良くなってきていたので、もしやと思っていましたが、まさか本当にそうだったとは。ずるいじゃありませんか、独り占めだなんて」
背が高く、耳のとがった風の氏族の男、ええと、名前は何だったか。
ハシビロコウ、みたいな名前だった気がするんだが。
「ハロバロミアさん……」
妙な圧力のある様子に後ずさるホープ。
そうそうハロバロミアだ。
「そうだ。独り占めは良くねえ。なにしろ、こんな地の果てじゃまず拝めない人間だもんなあ!」
背が低めで足が短いががっしりした体格のずんぐりした印象の土の氏族。
名前は、バイ〇ァム?
いや、流石に違うな。
「待ってください、オンファムさん、この人たちは――――」
オンファムかあ。
うーん、ハシビロコウよりは近かったが、微妙か。
しかし、流れが不穏だな。
「そうだ! 独り占めは駄目だ! みんなで仲良く分けないとなあ!」
囃し立てる牙の氏族の。
あー、なんかモビル〇ーツみたいな名前だったのは憶えているんだが。
「ドーガさん、それは」
そうそれ!
ドーガだ。
うん、すっきりした。
しかしもう、誰もホープの声は耳に入ってない感じだな。
じりじりと包囲網が縮まってきている。
口々に、俺は目だとか、俺は足だとか、物騒なことを好き放題に言っているし。
ほんとこの生臭妖精どもがよう。
なんか所々で同士討ちみたいなのも始まってるじゃん。
あ、なんか牙の氏族がチラホラ悪妖精化しそう。
黒いオーラ出てるじゃん。
流石にそれはちょっと。
しかたない、多少は口でも対話を試みるつもりだったのになあ。
しょうがないよな、うん、これはしょうがない。
俺は悪くない。
言葉が絶妙に通じない、この妖精どもが悪い。
というわけで、ここは一つ、知性あるものならば必ず通じる唯一の絶対言語たる肉体言語で語りあおうじゃないか!
「この生臭妖精どもが。もうちょっとメルヘンに生まれ直してから出直してこい」
最後通牒代わりに告げた言葉は、思った以上に重く、それでいて我ながらちょっと楽しげだった。
踏み込みと共に、地面に放射状のひびが入り、俺は周りからはほとんど瞬間移動にしか見えない動きで、悪妖精へ変じようとしていた牙の氏族の一人の背後に立っていた。
腰をがっちりとホールドして、持ち上げる。
「え!? ちょ! 何!?」
目を白黒させる牙の氏族に構うことなく、勢いよく体勢をブリッジのそれに変えた。
当然のごとく勢いよく牙の氏族もぐるりとひっくり返って、頭から腰のあたりまで地面に埋まった。
要するにバックドロップである。
うーん、犬〇家。
あたりが一気に静まり返った。
キャストリアもホープも他の妖精たちも突然の出来事に唖然としているが、ジャンヌ・オルタだけは明らかに笑いをこらえている顔だった。
周りがフリーズしている隙をついて、また別の悪妖精化しかけている牙の氏族の今度は正面に。
「え、は?」
戸惑っている相手の腹に軽くボディーブローを入れて、頭を下げさせてわきに抱えた。
そのまま腰のあたりのベルトを掴んで逆さに持ち上げる。
「ちょ、まって!? 次もしかして、俺か!? 俺もああなるのか!?」
大正解!
そのまま首を抱えた状態で地面へと垂直に叩きつけた。
ブレーンバスターの形だ。
先ほどの犠牲者と同じく地面へと半身が埋まる妖精。
ついに我慢できなくなったジャンヌ・オルタが大笑いを始めて、キャストリアはうわあ、といった顔。
ホープは驚いて固まったままである。
妖精たちもなんかドン引きしていたが、いち早くハロ、ベロ?
不愉快度の高い妖精の名前だからか、覚えにくいな。
まあとにかく風の氏族の妖精が我に返って叫んだ。
「止めなさい! ただの人間じゃない! 全員でかかるんです!」
はっはっは、良いだろう、かかってきやがりなさい。
いくら生臭妖精とはいえ、無抵抗の連中を端から埋めていくのは流石に気が引けるからなあ。
そっちからかかってきてくれるなら、遠慮の必要がなくていい。
だがしかし。
「かかってくるのは構わないが、ちゃんと覚悟は決めて来いよ? 生臭妖精にくれてやる慈悲はないからな。ことごとく地面と仲良くさせてやる」
俺が淡々と言って、手をくいくいと動かしてかかってこいとジェスチャーをすると、少なからぬ妖精たちが後ずさった。
しかし、同族をやられていた上に元から好戦的な牙の氏族たちは、かえって火が付いたようで一斉に襲い掛かってくる。
さっきのパフォーマンスが効いたのか、悪妖精化しそうなやつはほとんどいないな。
でもチラホラと怪しいのはいるから、まずはそいつだ。
複数の牙の妖精の中でも良くないオーラを纏っている奴を優先して狙う。
ある妖精は首に両足で飛びつき、フランケンシュタイナーで埋めて。
またある妖精は、死角狙いか高々と跳び上がって頭上から襲ってきたところを空中で捕縛して筋〇ドライバーで埋めた。
「どうした妖精ども!? こんな様じゃあ、この周辺の森が妖精の足の生える畑になってしまうんじゃないか、おい!」
なんかちょっと楽しくなってきちゃったなあ!
ほんと、この妖精どもときたらあんまりにもアレだからさあ!
一度ちょっとシバいてやりたかったんだよね!
……あ、逃げようとしてる奴がいるな?
「おいおい、人様をバラバラにしてシェアしようなんて愉快なホラーをやらかそうとしといて、それはちょっと虫が良すぎるだろう? まあ、つまりだ。逃・が・さ・ん」
後ろから首根っこを掴んで持ち上げて、そのまま頭から地面にたたきつけて埋めた。
他の逃げようとしていた妖精たちに戦慄が走ったのがわかった。
それでも逃げようとしている奴がいるが、あ、こいつは女性型か。
しかもスカート。
流石に逆さに埋めるのは、絵面的にあれだな。
仕方がないので、走って近づいて相手の膝を足場に駆け上がって、顔面に膝蹴りを叩き込んだ。
要はシャイニングウィザードである。
え、容赦?
妖精に男も女もないよね。
なんなら妖精の中でも最悪の奴は、見目が無駄に良い女の妖精だし。
あ、見た目結構な残虐ファイトだからか、ホープが顔を両手で覆ってる。
うーん、あの子はホントにいい子だなあ。
なんでああいう子が種族の主流になれなかったのか。
そうであればほんとに美しい良い世界だっただろうに。
ちょうどいいから、そのまま目をつぶっていると良いよ。
ちらっとキャストリアの方を見ると頷いてホープの目を覆ってくれた。
ふと、キャストリアの口がぱくぱくと動いているのが目に入る。
何々……やっちゃえ?
なるほど、なんだかんだキャストリアも妖精たちには思うところあるだろうしね。
OK、期待に応えようじゃないか。
親指をビシッと立てて答えた。
「フハハハハハ! さあ、埋まりたい奴からかかってこい! かかってこなくても埋めるけどなあ!」
もう、テンションは最高潮である。
ジャンヌ・オルタは笑い転げんばかりであるし、他方の妖精たちの表情はすっごく悲壮だった。
あれえ、なんかこれ、俺の方が悪者っぽくない?
まあでも、最初に始めたのはそっちだからな!
さあ、最後の最後まで、きっちり肉体言語で語り合おうぜ!
おまえらが最後の一人になって、そいつも埋まってしまうまでなあ!
そんなこんなで、男性型の妖精は次々に足だけ出して埋まっていき、女性型は前が見えねえ、な状態になって地面に転がるという地獄絵図が出来上がった。
所要時間、十分に満たない惨劇であった。
残念、男性型を丁寧に埋めていたせいか五分は切れなかったか。
でも途中でさ、凄く嬉しそうな顔で飛び掛かってきた女性型の妖精がいたんだ。
私の事は是非埋めてください、って叫びながらかかってきたんだ。
この妖精だけ、明らかに動きの切れが違ったし、絶対追い出された理由が他の妖精と違うだろ。
どうしたかって?
なんか、流石にちょっと気持ち悪くて、魔術で優しく眠らせたよ。
どこにでも例外っているもんなんだなあ。
あれの相手をしている時だけ多分俺は真顔だったと思う。
いや、大丈夫、他の妖精も一人も殺してはいない。
ちゃんと手加減したからな。
まあ、心にキッチリ恐怖は刻んだし、力の上下は魂の髄にまで染み渡ったと思うけど。
最後の一人とか、実にイイ絶望顔だったし。
閲覧ありがとうございます。
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小話
感想欄で、まともに対話が可能だと思っている人が本当に一人もいなくて、思わず笑いました。
うん、みなさん、大正解です!
なお妖精たちが人間の存在に気が付いたのは、すっかり弱っていたホープが見るからに回復し始めていたからです。
あれ、こいつもしかしてこっそり一人で人間飼ってるんじゃないか?
って疑念がもとで、主人公たちを見て確信に変わった感じですね。
ちなみに主人公はある程度こうなることは想定済みでした。
あと妖精の名前を覚えられないというのは本気ではなく、実際には単に覚える気がないだけです。
でも、この集落の妖精たちですら妖精國基準だと善寄りというか。
弱い者同士で寄り添いあってたりする分だけ、マシな妖精に見えるっていうね。
名前をなくした妖精への冷たさや、人間が手に入るかもとなった時の転落ぶりがその分際立つあたり、流石は型月世界の創造主たる菌糸類の神ですよねえ。