Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第72話   俺と名無しの森からの旅立ち

 

 名無しの森を抜けると、オベロンの姿が目に入った。

 ふむ、出待ちか。

 彼なら俺がモルガンのロンゴミニアドをしのいでいた様子をどこかから観測していても不思議じゃないし、結果として森を出るまでは放置という選択をしたとして特に不思議はない。

 でも、一方で彼の方は俺の行動に予想を外されたようで目を大きく見開いていた。

 

「えっと、その背後の彼らは一体……?」

 

 軽くお互いの自己紹介を終えた後に、開口一番でオベロンが口にしたのはその問いだったあたり、相当驚いたのだろう。

 

「うちの団員たちだな」

 

 端的に答えると、オベロンは再び目を丸くする。

 背後に宇宙の画像とか置いたらぴったり合いそうな感じだ。

 

「団員」

 

「そう、ちょっと色々思う所があって、サーカス団を結成したんだ」

 

 なお結成に際して、妖精たちの同意は得ていない。

 完全に強制である。

 というか、乱闘になった後で俺は妖精たちを陰陽道で言うところの式に降している。

 日本で色々やっていた時に知り合った陰陽師から学んだ技術を応用した手法だ。

 

 使い魔という言い方をあえてしないのは、この手法がより支配的というか縛りの大きい術式だからだ。

 まあ行動については色々制限をかけているものの、支配的で一方的ではあるが契約状態ではあるので都市部を出入りしても俺との契約が優先されて、モルガンに存在税として強制的に魔力を徴収されたりはしないという利点もあったりする。

 

 ちなみになんでわざわざ連れていくのかというと、理由は結構色々ある。

 妖精という生き物に対する実験的なアプローチであるとか。

 あの森に置いたままにした場合、おおむね碌な終わりは迎えないというのが目に見えている事とか。

 他にもいくらか。

 

「座長、ちょっとくらい休ませてくんねえ? 流石にちょっと腰が痛くなってきてるんだけど?」

 

 土の氏族の妖精がこの位で腰を痛めるわけがあるまい。

 木箱を運びながら通りかかった土の氏族の妖精が文句を言ってくるが、俺は笑顔と共に答えた。

 

「また地面と仲良くしたいならそう言え。いくらでも休めるぞ、アン」

 

 地面の中でな。

 

「あ、大丈夫です。働きます。あと俺の名前、オンファム……」

 

 まあ、式に降したからと言って、丁重に扱うかというと話は別だ。

 この世界の妖精は、一部例外を除くと本当に生臭ばっかりだからな。

 

「よし、いい勤労意欲だな、頑張れアン」

 

 通りがかった羽なしの風の氏族の妖精が、肩を落として木箱を持っていくアンの肩を叩いてからこちらに歩いてきた。

 

「これが指示のあった集落の者たちの名簿になります」

 

 書類を受け取ってざっと目を通した。

 

「よく出来てるな。というか、こんな仕事できるのに何でポンはあんな所にいたんだ?」

 

 俺が純粋に疑問を口にするとポンは肩を竦めてみせた。

 

「私は、ハロバロミアという名前なんですが……まあ、言っても無駄ですか。私があそこにいたのは、多分、固すぎたからなんでしょう」

 

 名前のくだりはするっと無視しつつ、後半だけ真面目に聞いて考えた。

 

「あぁ、ポンは風の氏族だもんな。長がアレの所でその性格をしていたら疎んじられもするのか」

 

 実際、現在時点の腹心も別世界線だと結局その真面目さが災いして虫に変えられて踏み殺されたりしてたもんなあ。

 

「ええ、まあ。あまり大きな声では言えませんが」

 

 言葉を濁すポンにちょっとだけ同情してしまった。

 何気にあの村でも、ダントツにまとも寄りだもんな。

 

「座長! この荷車を俺達が引くってマジか!?」

 

 俺とポンが微妙な空気になっているところに、大きな声で牙の氏族の代表として聞いてきたのは俺がタンと呼んでいる妖精である。

 

「マジだぞタン。お前らが一番体が丈夫だし」

 

 あわせてアンポンタン。

 それぞれの部族で中心的な妖精を俺は勝手にそう呼んでいる。

 覚えやすいし。

 

 それ以外?

 風の氏族Aとか。

 人権?

 そんなものは、もうちょっとちゃんとメルヘンな生き物になった時に考える事にしている。

 

「おれ、ドーガなんだけど。いやもう、呼び名はタンで良いけどよう。うーん、まあ、重さ的にこれくらいなら行けるか?」

 

 なにげに牙の氏族が一番従順なんだよなあ。

 やっぱりあれかな。

 氏族的に力こそ正義って感じが強いんだろうか。

 

「ご主人様~、荷車の割り振り、全部すみました! ご褒美、ご褒美に今度こそ埋めてください!」

 

「ヒスト、お前なあ――――! ……とにかく、埋めるのは別にご褒美とかじゃないからな。まあ、仕事はご苦労様」

 

 っく、思わず口汚く罵りそうになった。

 でもこやつ、それをすると恍惚とした顔をするからな。

 リーダー格以外で仕方なく呼び名を付けたのは、露骨に変わり種なのと、悲しいことに非常に有能だったからだ。

 

 あと、屈辱的な呼び方すると喜ぶという問題もあったりする。

 名前の由来はとうぜん、マゾヒストから。

 マゾの方だと罵りっぽくて絶対喜びそうだから、ちょっとだけひねった。

 

「頑なにご褒美を拒否られる……、いや、でも見方によっては、これはこれで?」

 

 無敵かコイツ。

 

「サーカスというか、コント集団か何かなの?」

 

 俺と妖精たちの様子を見ていたジャンヌ・オルタが、思わずといった様子で感想を漏らした。

 うん、正直俺もそっちの方が向いているような気もするし、演目はちょっと考えどころだったりするんだが。

 

「別に好きでコントみたいなやり取りをしているわけじゃないんだが」

 

 頭を掻きながら思わずぼやく。

 

「あはは、見ている分には面白いけどね」

 

 軽く笑いながら、あんまりフォローになっていないフォローをしてくれたのはキャストリアである。

 

「文句は言っていますけど、みんな生き生きしていますね」

 

 嬉しそうに素直な感想を口にしたのは、すっかり状態のよくなったホープだ。

 目を細めながら妖精たちの様子を慈しむように見ている彼女の姿は、何一つの傷も欠けもなかった。

 ふと、妖精たちを埋めて、式に降した後のやり取りを思い出す。

 

 妖精たちに森を出るための指示を済まして、キャストリアとジャンヌ・オルタは念のための監督として妖精たちについて行った後、二人きりになった時の事だ。

 

「聞いての通り、俺達も集落の妖精たちもこの森を出る事になる」

 

 ホープに向きあって、まっすぐに目を見て告げる。

 戸惑いと、少しの寂しさの見える表情だった。

 

「そこで提案なんだが、君も一緒に来ないか?」

 

 表情は驚き一色に変わった。

 さっきから期待の色なんかは全くなかったあたり、本当に自己肯定感みたいなものがすっかり無くなってしまっているんだな。

 

「でも、私、何も出来ません」

 

 狼を追い払ったりは出来ていたんだろうし、何もできないってことはないと思うんだが。

 まあ、そういう問題じゃないよな。

 

「別に何かが出来なくちゃいけないわけじゃないんだけどな」

 

 ホープは妖精國でも例外の良き妖精だから、ぶっちゃけ傍にいてくれるだけでも癒されるし。

 うっかり湧き出しそうになる、ちょっとこの國滅ぼしたほうが良いのでは? という感情をなだめてくれる。

 

「それでは納得できないと君が言うなら、君に再び名を与え力を取り戻させてあげよう」

 

 ホープに手を差し伸べて、誘う。

 さながら悪魔の誘惑であるが、別に死後に魂を奪ったりはしない。

 

「私の、名前……」

 

 経緯は知らないが、ホープは元は高位の力ある妖精であったと思われるのに、大きく力を失っている。

 それこそ妖精にとっては大分致命的と言える、名前を失うレベルにまでだ。

 俺が彼女の本来の名前を知っているのは、他の世界線の情報を知っているからでしかない。

 

 この名前を失った状態というのは多分に概念的な、一種の呪いとか、魂の損傷といった状態が近いのだろう。

 だから、ただ俺の知っている彼女自身の名前を教えても彼女の力が急に戻ったりはしないだろうが、一つ裏技がある。

 

「俺と契約を結ぼう。俺は君に名を刻みなおして、魔力を与える。だからこれからの妖精國の旅の中で、君は取り戻した力で俺を助けてくれ」

 

 そう、契約だ。

 魔術的な繋がりを結び、名付けという儀式的な行為によって失われた名前を刻みなおすのだ。

 超常存在との契約において、名付けによる繋がりの補強というのは割とポピュラーな手法。

 今回はそれを利用する。

 

「名前を取り戻せる……? そうしたら、また誰かの助けに、貴方の助けにも、なれる……?」

 

 涙をはらりと零して問う彼女に力強く頷けば、俺の差し伸ばした手に、彼女の手が添えられた。

 

「お願いします、私の名前を、取り戻させてください」

 

 その意思の表明と共に、重ねられた手を通して俺と彼女の間にパスが繋がった。

 手を優しく握り、彼女にその名を告げる。

 

「ホープ。それが君の失われた名前だ」

 

 彼女の目が見開かれて、その体から魔力の光が溢れる。

 羽の欠損は修復され、くすみは無くなり美しく輝きだす。

 体の傷も汚れも瞬く間に消えていき、生命力が満ちる。

 

「これからよろしく、ホープ」

 

 俺がその名前を改めて呼べば、ホープは花のような笑顔を浮かべて応えた。

 

「はい、よろしくお願いします、マスター」

 

 そんな、彼女が全盛期の姿を取り戻した時の光景を思い出しながら、ホープに目を向けた。

 

「どうかしましたか、マスター?」

 

 いや、ちょっと思い出していただけなんだけど、そう言えばなんでマスター呼びなんだろう。

 ホープとの契約は他の妖精たちのものと違ってほぼ対等なギブアンドテイクのもので主従とか無いんだけどなあ。

 あの時からなんかニッコニコで呼んでくるから、不思議と聞けていないんだよな。

 

「いや、何でもないよ」

 

 そして、今回も聞けなかった。

 美少女に懐かれてニッコニコにマスター呼びされても容赦なく呼び名を正せる者だけが俺に石を投げなさい。

 

「これは、なんというか、いろいろ想像を超えてた、かな?」

 

 そんな俺たちの様子を見ての総括なんだろう。

 何とも言えない顔で、絞り出すようにオベロンが言った。

 ふむ、オベロンが動揺している姿とか結構レアなのでは?

 いや、そうでもない?

 

 





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小話

そんなこんなで巡礼ならぬ巡業の旅の始まりです。
まあ、町々でのサーカスの様子はそこまで細かく描写はしないのですが。

なお、モルガン陛下は訝しんで首を傾げます。
鐘を鳴らして回っているのはそうなのだけど、何故サーカス?
みたいな感じ。

まあ、見ての通りオベロンも当初は首を傾げています。

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