Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ソールズベリー。
妖精國において最も質の悪い妖精が治める街であり、正規の街の中では最も人間の生きやすい街、という事になっている。
まあ、一皮むけば他の街と大して変わらないというか、表向きがマシに見える分かえって悪質、ともいえるんだが。
そんなソールズベリーで俺の引き連れたサーカスは、かなりの人気を博している。
これはある意味では当然の結果だ。
文化を発展させる力に乏しい妖精たちの模倣による娯楽と、何百年も成熟され続けた人間世界の娯楽を知っている俺が提供する娯楽ではどうしても大きな差が生まれるからな。
『なるほど、そちらは予言の子を確保して、妖精の協力者たちも見つけて上手いこと活動しているわけだ』
魔術での盗聴などは難しいチート由来の通信機ごしにライネスの感心したような声が聞こえた。
拠点にしたソールズベリーの酒場兼宿屋の一室でシャドウフォートと情報の共有を行っている最中だからだ。
盗聴の対策やらなにやら整えて、ようやく今日通信を繋げる環境が整ったわけである。
しかし、式に降した妖精たちを協力者と来たか。
ライネスらしい皮肉の効いた言い回しだなと、ちょっと可笑しくなる。
「そっちの首尾はどうだ?」
思わず起こった笑いの衝動をこらえ、こちらの成果を話し終えたうえで相手の方の進捗を訊ねた。
『こちらも順調だよ。なんだかんだで結構広いからまだ時間はかかりそうだけどね』
シャドウフォートの面々には妖精國の土地そのものの調査と、いくらかの細工をお願いしていたのだが、思ったよりも順調であるらしい。
「妨害は特にないのか?」
一番気にかかるのはそこだ。
『ない。君から情報のあったモースと思しき黒い影や、原生生物の類との戦闘はあるが、それもこちらの戦力にとっては敵ではないしな』
想定以上に大人しいな。
最初はロンゴミニアドをバカスカ撃ってきたのに。
まあ、シャドウフォートにはただでさえ妖精國のメリュジーヌと違う縛りのないメリュジーヌなんて言う戦力がある上に、あちらに手を出されるようだと俺も手段を選べなくなってくるから、下手に触れないというのもわかるんだけどな。
だから、せいぜい土地を調査しているだけに見えるシャドウフォートを放っておくという択は理解できる。
俺たちの方も現状はサーカスとしての巡業を行っているくらいで、一見すると何のつもりか良く分からない状態だろうし、こちらに対してもこれといったリアクションがないのも道理ではあるだろう。
下手に手を出せない相手が、とりあえずは害になる行動を見せていないわけだからな。
「あんまり順調だと裏を疑いたくなってくるのは良くないな」
今使っている通信が映像をともなわないものであることを良いことに、ついつい目頭のあたりを揉みほぐすような動きをしてしまう。
現在この部屋には俺一人なので、行動が素直になっている気がするな。
『ありもしない影におびえるのは確かに良くないが、そこもバランスだ。油断しないという事は大切だからな。しかし、今回に関して言えば私はむしろ妖精國の者たちに同情するよ。君のような戦力が相手では、動きがとり難いことこの上ないだろうからな』
通信越しだと同じ声を持つ二人は判別しにくいが、この口ぶりは司馬先生だな?
しかし、そうか。
言われてみると、確かにそうかもしれないな。
そもそもモルガンは初手で切り札を惜しみなく切れるだけ切っていたわけだし。
あれだけの連射、恐らくはケルヌンノスに向けていたロンゴミニアドも少なくない数を動員していたはずだ。
改めて考えてもひでぇな。
いや、あのモルガンの慧眼で正しく俺の脅威を測ったならその対処もわかるんだけど。
『はっきり言って、私なら初手で降伏してその後の交渉に望みをかけるところだ。君の人となりを知れば一定の交渉の余地はあると分かるだろうしな。まあ、この妖精國という幻に執着している女王には選びにくい選択肢だろうが』
司馬先生の言い方は少々露悪的ではあったが、的を射ている。
おそらく、モルガンもわかってはいるとは思う。
この妖精國は、異聞帯として存在していた妖精國以上にある意味で先がない。
なぜなら、あくまでこの妖精國は特殊とはいえ異聞帯ならざる特異点であり、滅びの可能性の具現でしかないからだ。
この妖精國の延長として世界に孵化すればその先には破滅しかない。
あのモルガンがそこに気が付いていないはずもないだろう。
だが、だからと言って納得して大人しく白旗を上げられるかと言えば、性格的にも背負っている物の重さ的にも難しいのだろうな。
彼女とは必ずどこかで一度は向き合わなければならないだろう。
そんな感慨を抱いていると、部屋のドアがノックされた。
中からの音は遮断しているが、外の音が一切聞こえないのはまずいので外からの音はシャットアウトしていないのだ。
「悪い、来客だ。そちらはこれまで通り、事前の計画に沿って動いてくれ」
とりあえず情報交換は済んでいたので、会話を打ち切って来客の相手をすることにした。
『また機会を見て連絡を入れるように。私たちだけ話したとなると他のメンバーが拗ねるからね』
ちょっと揶揄うような調子のライネスの言葉を最後に通信が途絶えた。
遮音を解除してドアの向こう側に返事を返して、扉を開ける。
扉の前に待っていたのは、オベロンだ。
他の誰に止められるでもなくするりとやってきているあたり、流石に油断がならないというか。
「やあ、統夜。君とは一度、ちゃんと話をしないといけないと思っていてね」
突然の来訪だけど許して欲しい、なんてどこまで本気かわからない台詞を悪びれない態度で言ってくる。
本当にまったくもって分かりにくい。
まあでも、良く分からない相手なんて、時計塔みたいな魔境で何年も生きていればいい加減珍しくもないし。
既に俺なりの対処法みたいなものも確立されている。
何ならこれは、前世でも割と使っていた手だ。
いう事の全部が全部、嘘で同時に本当でもあるものとして扱う、というやり方である。
コツは真面目には向き合っても、一切相手の言動に自分の判断や行動を左右させない点にある。
あとは、眉唾で話半分に、だけど会話は楽しめれば完璧だ。
「――――なるほど、やっぱり君は面白いね」
厄介な奴だな、という副音声が同時に聞こえた気がするが、そこはお互い様である。
「妖精王にそんな風に評してもらえるなら、俺もなかなか捨てたものじゃないな」
笑って返せばオベロンもまた軽薄な風に笑った。
「自信を持ってくれていい。本気の言葉だから」
本当じゃなくて、本気ねえ。
嘘か本当かは別にして、感情はこもっているぞって感じか。
そこすらどこまで本当なんだか。
立ち話もなんだからと、備え付けのテーブルに向かい合って座る。
「君って、結構怖いやつだよねぇ。サーカスの演目を見ていてちょっとぞっとしたよ」
――――。
意外だ。
結構踏み込んでくるんだな。
そんな考えが思わず顔に出てしまっていたんだろう。
オベロンは少し、してやったりといった風に笑みを浮かべた。
「それで、君がすぐにこの国を滅ぼさなかった意図もある程度わかった。優しいと評すべきか、傲慢と評すべきかはちょっと評価に迷うけど」
俺が演目でもメインに据えたのは演劇。
それも主には妖精たちが主役の物語だ。
話としては別に珍しくもない王道のもの。
予言の子の話を下敷きにしつつ作ったその物語は、近代的な演出の助けもあり妖精たちに大うけしていて、ソールズベリーだけにとどまらない流行の兆しを見せている。
「最終的な終着点をどこに置いているかまではまだ見えないけど、君はつまり、妖精の可能性を測っているわけだ」
ずっとこの妖精國と向き合ってきたオベロンだからか、それとも彼の存在が有名に過ぎる演劇を下敷きにしている部分を持つためか。
その推測は非常に本質をついていた。
別に彼に知られてマズイ類の話でもないから俺は素直に認めるだけなんだが。
「俺は凡俗だからな。世界一つをおじゃんにしようというなら、それなり以上の納得が欲しい。だから、終わらせるしかないというなら、終わらせ方にはこだわりたいわけだ」
俺の答えに、オベロンの瞳の奥が鈍く光ったように見えた。
正しく、俺の彼に対する宣戦布告は伝わったようだった。
そうだ、オベロン。
この世界を終わらせるのはお前じゃなく俺だ。
そして、終わらせ方を決めるのも俺で、お前じゃない。
「ずいぶん、ぶっちゃけるんだね」
スンとした表情だが、そこには期待や面白さみたいなものがもれているようにも見える。
「俺とオベロンは、ある意味で共犯者であり、またある意味では競合者だからな」
この妖精國に終わりをもたらす共犯者であり、そしてその終わらせ方を争う競合者。
それが俺達だ。
だから。
「お前がお前であるがゆえに、そういう風である分だけ、俺はお前に誠意と覚悟を尽くそう。まあ、なんだ。この物語の終わりまで、どうぞよろしくって話だ」
俺が肩を竦めて言えば、オベロンは我慢できないといった風に笑いだして、笑い終わった後に妖精王の姿の彼としては珍しいギラギラした目を一瞬だけ見せた。
「――――やっぱり君は面白いよ。こちらこそ。幕を引くその時まで、よろしく統夜」
その夜が、俺とオベロンの矛を交えない戦いの始まりとなった。
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小話
モルガン陛下は優秀であるがゆえに統夜のヤバさがありありと分かってしまっていて、本音の部分では、こんなのどうしろというのか、といった気分です。
同時に、想定を超えた形ではあるものの、ああ、とうとうこの時が来たか、という諦観もあります。
なお動きが鈍いのは統夜の力以外の部分の見極めの為、といった部分が大きかったりします。
またオベロンとはソールズベリーまでの旅路である程度情報を共有しています。
限られた情報からですが、オベロンは自分の正体がばれていることをある程度察していて、それでも変わらず接してくる統夜には好奇心のようなものを感じていて今回の訪問に繋がりました。