Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
妖精國には多くの滅亡要因がひしめいている。
そもそも成り立ちからして聖剣の鍛造が行われなかったことによる地表の壊滅に端を発しているというどうしようもなさだ。
『はじまりのろくにん』と呼ばれる妖精たちの聖剣鍛造のサボタージュによって対抗するための聖剣が得られずに、宇宙からの侵略に敗北したのだ。
結果としてわずかな微生物を残して海しかなくなった地球で、彼らを裁くためにやってきたケルヌンノスという神を謀殺して、その体をリソースに妖精國の最初の大地が生まれた。
記述を見るに最初はそこまでの規模ではなかったらしいが、始まりの六人をもとに増えていった妖精たちの屍によって大地は拡張されていったという。
なお妖精國に存在する人間はケルヌンノスに同行していた人間の巫女を殺害してその遺体をもとにクローニングのような技術で増やすことで生み出されていたりする。
技術的な問題か、情報の劣化か何かか、妖精國の人間の寿命は実はとても短い。
大体30年くらいという話だ。
しかも大部分の人間は、工場のような場所で生産されて妖精に出荷されて、その短い寿命をペットや備品、あるいはおもちゃのような扱いで消費される。
ご覧のように根の部分からしてもう、本当にどうしようもない。
業も闇も深すぎることこの上ないのだ。
その業と闇の集積というか、妖精國にはいくつかの厄災というものが存在している。
そのうちの一つが呪いの厄災。
まあ凄く端的に言うと謀殺され巫女すらも殺されて、自身も巫女も死体すら使い潰されているケルヌンノスの呪いを大元にした妖精たちを殺す呪いの発露のようなモノ、という理解で良い。
この國の妖精たちがモースという影のような怪物に変わったり、そのモースに他の妖精が触れるとゾンビ映画みたいにモースが感染ったりするのも根っこは、妖精國の成り立ちと積み重ねられてきた業による呪いの堆積の結果に他ならない。
つまるところ妖精國はその成り立ちからして続けば続くほど呪いが堆積していつかどこかで限界を迎える事が決まっているのだ。
獣の厄災という妖精の中から生まれた外れ値も、あるいは黒妖犬の妖精の性質のみならずこの辺の影響もうけているのではないだろうか。
まあ、三つの厄災の中でも炎の厄災だけは言うなれば完全に外様で、妖精國の呪いとは無関係な爆弾の類なんだが。
さて、この時点でもうお腹いっぱいな感じなんだが、ぶっちゃけこれは滅亡要因の基礎みたいなものである。
大体の滅亡要因はこの厄災があることによって、最後はこの厄災に要因ごと呑み込まれる末路ではあるんだが、妖精國の末路は末路として、滅亡の要因は他にもある。
まず、妖精の性質がそもそも国家というシステムに合わないという大前提とか。
モルガンという一人の超抜の存在に依存し過ぎている事とか。
氏族ごとの仲が悪すぎるとか、翅の氏族の最後の生き残りの深い恨みなんて問題もある。
ただ厄災から始まるこれらの問題は、ある種の構造や積み重ねの問題だ。
一部そう仕向けられた部分はあるにせよ。
そう、一部は仕向けられたものなのだ。
妖精國における滅亡の要因で、明確に能動的な要因が二つ、存在している。
一つはオベロン。
不自然な形で存在している妖精國の滅びを望む世界意思のようなモノの代行者である奈落の虫。
俺の共犯者で競合者の彼。
まあ彼は良いのだ。
いや、少なからず悲劇の下ごしらえみたいなものはしているから良くない部分もあるんだが。
でも、ぶっちゃけ彼のやった事って、もとからあった綻びをつついたりして、顕在化を早めるような行為とかがほとんどで、俯瞰すると割と妖精國の自業自得に帰結する部分が多くて、俺的にはあんまり責める気になれないんだよなあ。
だから問題はもう一つの方だ。
名をオーロラ。
妖精國の物語を知る者に、この物語における人間から見て最低最悪の妖精を述べよ、と問いを投げたなら、かなりの割合が彼女をあげるであろう妖精だ。
要するに今、目の前にいる彼女である。
「あらあら、噂の座長さんはこんな顔をしていたのね」
見た目は美しいと言って良いだろう。
彼女のやってきた事を知っているせいか、優しげなはずの笑顔がどうも嘘っぽく見えてしまうけど。
ソールズベリーでこれだけ人気を博していたらそのうち呼ばれるだろうとは思っていたとも。
でも、特に悪意は持たれていないというか、むしろ気に入られている風ではある。
彼女のルールに抵触しないように、いい具合に彼女を持ち上げているからな。
俺達が有名になり人気が出るほど、彼女の人気も上がる様に動いているわけだ。
誰よりも自分がいちばん愛されること。
それが彼女の妖精としての果たすべき目的だ。
妖精は生まれ持った目的に逆らえない生き物であるという。
しかもオーロラは妖精の中でも特にその目的に忠実な妖精である。
その性質が妖精國に多くの悲劇をもたらしていて、あるいはオベロン以上に滅びの要因として大きかったりもする。
だが、だからこそというべきか。
行動の指針、その動機のど真ん中がはっきり分かっているならば、これほど転がしやすい相手もいない。
言ってしまえば、オーロラという妖精の急所とも言うべき部分をはっきりと知っているわけだからな。
「お初にお目にかかります、オーロラ様。拝謁の栄にあずかりました、神薙統夜と申します」
膝をついて仰々しく礼を取ってみせる。
彼女にも、そしてそれ以上に彼女の周囲に、俺が彼女を上に置いて尊崇しているというポーズをわかりやすく示した。
目の端に思わず表情を崩しそうになっているキャストリアの顔が。
うわぁ、って顔になるところだったんだな?
気持ちは分かるが我慢してね。
色々台無しになりかねないから。
事前に言い含めておいてよかった。
「そんな風にかしこまらないで欲しいわ。あなたには感謝しているのだから。ソールズベリーに素敵な彩を加えてくれたのだもの」
よし、キャストリアの様子には気づかれなかったっぽいな。
俺の殊勝な態度に、更にはサーカスの人気が自分の評価になって返ってきている事もあって大分機嫌がいいらしい。
「いえ、オーロラ様の美しいお顔をあまりマジマジ見てしまっては、私のような凡人には目の毒ですので。外から来た未熟な男の情けなさと、笑ってお許しください」
おいこらオベロン。
めっちゃ愉快そうに笑ってるんじゃないぞ。
お前に笑えって言ったんじゃないんだからな。
「ふふ、口が上手いのね。外の人間ってみんなそうなのかしら?」
俺がわきまえた態度をとっているから、側近のコーラルも含めて周囲のものは大人しい。
「いえ、私はそこまで口の上手い方でもありませんね。口の上手いものはもっと上手に囀りますよ」
あんまり固くしすぎても好みから外れそうなので多少のユーモアも交えつつ。
「まあ! 一度聞いてみたいものね!」
「しかし、それを言ったらオベロンは中々のものだと思うのですが……」
さっきから笑ったままのオベロンにじろりとした目つきと共に顔を向けると、急に話を向けられたオベロンがぴたりと笑うのをやめた。
「そうね。彼は中々だわ。でも、人間が彼のように話すというのはちょっと面白そうじゃない?」
それはちょっと、分かる気がするかもしれないな。
この世界の人間って、基本奴隷根性が染みついているからあんまり面白い性格の奴っていないもんな。
しかし、誰か当てはまりそうな奴いたかな。
うーん、急には思いつかんな。
弁が立つ方向に口の上手い奴は思いつかなくもないが。
あとは、フラットとか?
いや、あれはちょっと方向が違うか。
「私の弁舌でオーロラ様を興じさせることができないのは残念至極です」
俺が残念そうに言ってみせれば、オーロラは首を横に振って微笑む。
「そんなことはないわ。貴方との会話はちゃんと楽しいもの」
ほんとに、見た目は非常に良いんだよなあ。
声も良い。
そういうものとして生まれついているのだから、ある意味当然なんだろうけど。
謁見の後は応接室に通されて、特異点の外の世界の事などを色々聞かれた。
重要な情報は避けつつ、娯楽や文化の事を中心に話す。
そっちのほうが聞いていて楽しいだろうし、ちらほら手持ちの土産も渡したりしたから非常に喜ばれた。
ちなみに以後、飽きやすいオーロラには珍しく俺は複数回にわたって呼び出されることになる。
「素敵な時間だったわ。何かお礼をしないといけないわね」
そろそろ終わりという時になってオーロラはそう言った。
コーラルは少し苦言を呈したが、街に活気を与えてくれた分の褒美も必要だとオーロラはそれを退けて俺に微笑む。
うん、狙ってやったとはいえ思った以上に気に入られたなコレ?
「断るのも失礼にあたりそうですし、そうですね……」
遠慮してみせつつも、ありがたく享受する。
これが目的の一つだったしな。
そんなわけで俺はオーロラからソールズベリーでの興行の正式な許可と、他の街への紹介状、サーカスへの参加希望があった場合の徴用権などを得る事になった。
妖精がサーカスに入りたがるのかって?
入りたがる奴はいないんだけど、楽しそうにしてる団の妖精たちを見て、変わり種の人間の俺がいるからだと思って俺にちょっかいかけてくる妖精はいるんだ。
そうするとほら、好都合、じゃなくてちょうどいい、でもなく。
うん、あくまで仕方なく。
自衛だよ自衛。
まあ、つまり、地面と仲良くしてもらって式に降してるわけだね。
地味に数が多くてさあ。
いやあ、実にありがた、いや、迷惑この上ないよな。
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小話
妖精國の大戦犯、オーロラさんの登場です。
たぶん彼女がいなかった場合、妖精國における悲劇は大分目減りすると思われます。
ある意味で妖精國崩壊のMVPでもあり、彼女がいない場合はFGO本編の二部六章が悲劇は減る代わりに難易度かなり上がるのでは?
という疑惑があったりなかったり。
主人公的には、
「人間視点で見ると完全に吐き気を催す邪悪なんだよなあ、でも妖精だしなあ」
っていう、なんとも言えない存在。
一方でオーロラ的には、見目が良いし話が面白いし、人気まで高めてくれる非常に便利なお気に入りといった感じに落ち着きます。
なおその感想は完全に主人公に操作されたものです。
彼女も仮にも数千年生きた大妖精。
普通であればここまで見事に転がされるものでもないんですが、主人公の力の大きさが大妖精であるがゆえに薄々察せられてしまったのが運のつきというか。
本能的に敵対したら詰むのがわかってしまっているために、好意的に見るしかないという心理が働いていたりします。
なお、力を察せられたのもある程度は主人公の故意です。
妖精だからといって、やった事がやった事なので慈悲はない。
あまり分かりやすく無体なことをしないのは妖精國側のメリュジーヌへのせめてもの情けであって、決してオーロラへの慈悲ではありません。