Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第75話   俺と妖精國のメリュジーヌ

 

 ソールズベリーではすでに結構な期間をすごしている。

 断っておくと急いでいないのにはそれなりに理由がある。

 まず今回の特異点が時間軸的に本来の時間の現在からはズレていて、虚数潜航による行き来の際にある程度の時間の融通が利く点。

 特異点内での時間経過は現実の空間に出現していたアルビオンの特異点とは違って完全に独立している感じだという。

 

『そうですね。説明すると長くなりますけど、聞きます?』

 

 声だけで小悪魔スマイルがありありと思い浮かんでしまいそうな声音のBBを思い出す。

 彼女から色々原理を説明してもらったが、正直何となくしかわからなかったのが本音だ。

 ただ、現実世界に発生した点を考慮しても、時間の流れがずれているだけである程度現実世界と同期していたアルビオンの特異点の方が特殊だったというのは一応分かった。

 

『必要な要点はちゃんと理解出来ているからOKで良いと思いますよ?』

 

 ついつい難しい顔をしてしまっていた俺に、BBは笑ってそう言った。

 しかしFGO世界線の特異点と違って存在証明が必要なかったりするし、便宜上は亜種特異点の呼称を使用しているものの、やっぱり厳密には違う現象なんだな。

 まあとにかく、そう言う事情で現実世界での不在を限りなく短い時間に圧縮できる算段があることが、急いでいない理由の第一だ。

 

 次に、FGO世界線と違って今の時点だと土の氏族の拠点であるノリッジにまだ厄災の兆候がないこと。

 

「異聞帯の妖精國とは少なからず差異があるものね。ズレが出ない方が不自然ってものでしょ」

 

 とはジャンヌ・オルタの談である。

 モースの数自体は明らかに増加傾向にあるという話は聞いているので時間の問題ではあるのだろう。

 だが、あのノリッジの厄災問題が起こっていないとなると、予言の子の名声を高める手っ取り早い手段がない。

 

 しかも、巡礼の鐘をアルトリアに鳴らさせるためにはオーロラとの交渉が必要だが、ノリッジの厄災が起こっていない現状だと交渉の為の材料不足が否めない。

 ここについては、いくつかの腹案があるにはあるので対応はできるけどな。

 

 そして三つ目。

 単純に俺が目指している結果にたどり着くには、それなりに準備が必要だからという理由もある。

 だからソールズベリーで妖精たちと関わりその生態を観察し、サーカスの団員を増やして使える駒を増やした。

 さらにはオーロラに取り入って、彼女の動きをある程度誘導するとともに、さらなる便宜を引き出していった。

 

 いくつか想定外だったこともある。

 まず、思った以上にオベロンが協力的だったこと。

 俺に見えないところでも暗躍はしているようだったが、それ以外では俺が妖精國で根を張るうえではかなり能動的に協力してくれた。

 その分は俺もサーカス等で稼いだ金銭とか、シャドウフォート経由の情報とかは流したけどな。

 

 もう一つは、妖精國側のメリュジーヌになんか、ものすごく避けられている事だ。

 オーロラとは結構関わる機会があって、必然的に妖精騎士でありながらオーロラの子飼い的な立ち位置にあるメリュジーヌとも顔を合わせる機会はあったんだが、俺を見ると最低限の礼儀として挨拶くらいはしてくれるんだが、そそくさと離れていってしまう。

 

「ああ、今日は君が呼ばれている日だっけ。邪魔になるといけないから僕は失礼するよ。今日もオーロラを楽しませてあげてくれると嬉しい」

 

 と、こんな感じである。

 見た目は俺たち側のメリュジーヌと変わらないから、なんか微妙に傷つく。

 

 何なんだろうか。

 最初は俺の力を見抜いているとか、あるいはモルガンあたりから何か言われているのか、と思ったんだけど。

 別に怖がられている感じでもないし、命じられてそうしているって感じでもないんだよなあ。

 しかし俺とかち合うとすぐにいなくなってしまうので、観察する隙もほとんどなくて正確な意図がわからない。

 もう少し関わって、その感触から諸々の対処を構築したかったんだが。

 

 いや、あるいはこの企みが透けて見えてるのか?

 うーん、でもわずかながらに見た表情とか反応的に、そう言う感じでもなさそう?

 わからん。

 メリュジーヌは思考の根っこが竜としてのモノで人間とは結構ズレているタイプだからなあ。

 

 妖精國でも屈指の戦力の彼女を色んな意味でちゃんと捕捉しきれていないのは、実際に結構な想定外だ。

 もうちょっと関われると思ってたんだけどなあ。

 

「邪魔なんて、そんなことはないのよ?」

 

 なんてオーロラがやんわり口添えをしてくれたのに、それでも適当に理由をつけて避けるって相当だぞ。

 しかし、このまま行動の意図が読めないというのは如何にもマズイ。

 なので、俺は最後の手段をとった。

 

『あーうん、そうだね。そっちの僕がそういう行動になるのは、なんて言うか……』

 

 定時連絡の際に、俺たち側のメリュジーヌに直接尋ねたのである。

 通信越しに、メリュジーヌが珍しく言い淀んでいるのを聞いた。

 聞いた甲斐はあって、メリュジーヌにはある程度予想がついたようなんだが、何が言いにくいんだろうか。

 

『うーん、これを言うのは流石に、ちょっと可哀そうな気もするけど、統夜のお願いだしなあ』

 

 彼女の周りには他のメンバーもいるので、王子様モードだ。

 そして、周りに人がいる故にかなんとも歯切れが悪い。

 

『ああ、うん、それは言いづらいだろうな』

 

 恐らくは近くにいたことで声が入ってしまったのであろうライネスの納得した声が聞こえる。

 他にも数名のため息が。

 

『うん、まあ、そういう事だね。要するに妖精國の僕は、話したらきっと絆されてしまうと思ったから逃げているんだと思うよ? あと単純に見ているのがつらいって言うのもあると思う』

 

 あー。

 え、でも、それほど?

 

『なんだかんだで、そっちの僕はオーロラって妖精の本性は分かっているんだろうし、いくら恩があって、彼女に抱いたそれがそっちの僕にとっての原初の衝動であっても、目の前に統夜が現れちゃったら、ねえ? オーロラという妖精への想いが強ければ強いほどきついんじゃないかな』

 

 一度喋り出すと、吹っ切れたようで容赦がなかった。

 

『僕たち竜は感覚も感性も人間のそれとはやっぱり違うから、きっと統夜を一目見た瞬間にわかってしまったはず』

 

「わかった?」

 

 何をだろうか。

 話の筋的に、流石に番いだとかの話じゃあるまい。

 

『今の自分が執着している相手とは比べ物にならない、傍に在れば本当の愛を注いでくれる、しかも本来ならあり得ない自分と対等以上になれる相手だってことが』

 

 ……それは、比較対象が悪すぎでは?

 凡俗を自称する俺だが、流石にオーロラ相手なら胸を張って俺の方が人格者だと言えるぞ。

 あくまで比較論だが。

 対等云々はまあ、分体みたいなものとはいえアルビオンだもんな。

 そりゃ俺みたいな例外を連れてこないと中々難しいだろう。

 

『別世界線の我ながら一途というかなんというか。僕が出会ったのは統夜だったから、あっちの僕の心情は予測は出来ても共感や理解はしてあげられないけどね』

 

 あのオーロラを、その本質をしっかり知っていたにもかかわらず、最後の最後まで見捨てなかった子だものなあ。

 あ、やばい、考えただけで目頭が熱くなってきた。

 しかし、そうか。

 俺は妖精國のメリュジーヌにとって、望んで得られなかった幸福の象徴みたいな感じなわけか。

 それは、避けられてもしょうがないだろうなあ。

 

 ある意味で顔が売れすぎているからって理由でうちのメリュジーヌには緊急時以外はシャドウフォート内で待機してもらっているんだが、大正解だったな。

 これ、うっかり顔合わせてたら、ガチでお労しすぎる。

 要は望んで得られなかった幸せを全部持っている自分が、目の前に現れるようなものだ。

 

『考えている事はなんとなくわかるけど、きっと僕たちは戦う事になると思うよ?』

 

 ――――それは。

 

『きっとそうなると思うんだ。そうしてあげるべきだとも。統夜なら僕よりもっとうまくやるのかもしれないけど、その時に統夜の手が空いているとは限らないから』

 

 彼女が敵になるとするならばきっとそれは、オーロラと俺の思惑が誰の目にもはっきりと分かる形で決裂する事になる最終局面だ。

 そして、その時の俺は妖精國側のメリュジーヌを相手にする余裕は多分ないだろう。

 純血の竜の直感というのは未来予知に近しい精度を持っている節があるから、彼女がそう言うのであればそれは低くない確率で訪れる未来の可能性に違いあるまい。

 

『大丈夫。絶対に負けはしないから。相手がどうなるかは、ちょっとわからないけど』

 

 俺の心配に先回りして答えて、メリュジーヌは言う。

 そうだな。

 結局、最後に道を選ぶのは、あの子だ。

 俺に出来るのは、その選択が彼女にとって良きものであることを祈ることくらいなんだろう。

 

 俺達がソールズベリーを発ったのは、その会話があってから数日の事だった。

 ソールズベリーでやるべきことはすでにほぼ済んでいて、妖精國のメリュジーヌの事が最後の気がかりだったのだ。

 だがその気がかりにも、とりあえずの答えは得られた。

 次の目的地は流行と娯楽の街グロスター。

 たった一人残された翅の氏族、ムリアンの治める街だ。

 

 

 





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小話

すっごく俗に言うと、どうしても嫌いになれないDV旦那の友達が、見て分かるくらいめっちゃ優しくて愛情深くて、見た目も性格もすっごい自分好み。
みたいな?

なんで自分が出会ったのはこの人だったんだろうとか、どうして嫌いになれないんだろうとか、そんな風に思ってしまう自分が凄く醜く感じるとか、もう、ぐっちゃぐちゃです。
なので目を逸らすし、逃げ出すわけですね。

あと素直に主人公と仲良くしてしまえば、きっと自分はオーロラを見限ってしまう、という危機感もあったりします。

ようは主人公が読めなかったのは、竜的な思考ではなく乙女心だったというオチですね!

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