Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第76話   俺と新たな仲間と妖精の変化

 

 グロスターに到着した俺達はオーロラからの紹介状もあって、スムーズに興行の許可を取り付ける事が出来た。

 ただ、流石にムリアンとの謁見はすぐには無理なようでしばらくは待たされそうである。

 ムリアンは妖精としてはかなり頭の回るタイプだし、会う前にもう少し様子を見たいと言ったところだろうか。

 とりあえずは、さっさと設営を済ませてしばらくは興行を行いながら街に根を張るとしよう。

 

「座長、こっちの荷台はこの辺で良いのでしょうか、ヒヒン」

 

「……ああ、そこで問題ない。悪いな、手伝ってもらってしまって」

 

 思わず少し言葉に詰まった。

 ほら、急にぬっと横から馬面が出て来て流暢に人語を喋るくせに、わざわざヒヒンとか言って馬であることを主張されるとね?

 

「いえいえ、座長にはソールズベリーからこっち、ずいぶん良くしてもらっていますからブルルン」

 

 察しのいい人はすでに気がついていると思うが、レッドラ・ビットが付いてきたんだよね。

 レッドラ・ビットは馬面のケンタウロス、というのが一番適当であろう外見の、一応は牙の氏族に属するらしい変わり種の妖精である。

 俺たちの様子を定期的にオーロラに伝える役目もあるらしいが、半ば厄介払いも兼ねてたんだろうなあ。

 でも俺達的にはかなり助かっているので、儲けものだったけどな。

 別に知られて困るような動きは今の所は特にしないし。

 

「はぁ。なんで私まで」

 

 そのレッドラ・ビットの後ろからため息をつきながら現れたのは、オーロラの側近だったコーラルである。

 彼女については、半ばオーロラから押し付けられたレッドラ・ビットとは違って、俺が故意的にオーロラから引きはがした。

 コーラルの性格的に、FGO世界線であの末路を迎える以前からオーロラに少なからず煙たがられていたんじゃないかとは思ってたんだ。

 その予想が見事に的中して、思ったより簡単に引き抜けちゃったんだよなあ。

 

「不足分の物資の補充状況です。確認を」

 

 そう言って書類の束を差し出してくるコーラルは、口では不満そうに言っているが言うほど不満そうには見えない。

 

「ありがとう、コーラル。正直すごく助かる。君が来てくれてよかったよ。ポンだけだと流石に書類仕事の手が足りなくてな」

 

 書類を受け取って目を通せば実に丁寧な仕事で、なるほどこれはオーロラとは合わないだろうなと妙に納得してしまう。

 

「事務が出来る者は座長と私くらいでしたからね。最近は団員も結構増えてきていたので、そろそろ限界が近かった」

 

 横で書類を処理していたポンが手を止めないままに深々と頷いた。

 そのポンの姿を見ながらコーラルはどこか感慨深げであった。

 

「まさか貴方とこんな形で再会するとは思いませんでした、ハロバロミア」

 

 この二人、どうも知り合いだったらしい。

 まあ、ハロバロミアは風の氏族で言動からして結構上の方の官僚的な位置の奴だったぽかったから、不思議ではないんだが。

 FGO世界線でも知り合いだったりしたんだろうか、この二人。

 

「さて、ハロバロミア? 知らない妖精ですね。私はしがないサーカス団の経理のポンです」

 

 一応は羽を斬られるような形で追放された立場だからか、ポンは韜晦してみせる。

 そのポンにコーラルは少し目を伏せた。

 

「わかりました。そういう事にしておきます」

 

 ポンに対して罪悪感でもあるのかも知れないな。

 多分ポンは、その真面目さでオーロラに疎まれて適当な罪でもでっち上げられて追い出されたんだろうし。

 側近の位置にいて、妖精にしては珍しい考える事が出来るタイプでもあるコーラルなら、薄々は察していたのかもしれない。

 

「……そうじゃないかとは思っていましたが、貴方が私をオーロラ様から引き離したのはやはり――――」

 

 コーラルが口にしようとした言葉の先を、自分の口の前に人差し指を立ててみせる事で封じた。

 色々な意味で、そこは言わぬが花だ。

 

「俺はサーカス団での書類仕事の仲間が欲しかった。そういう事にしておくのが今は一番いいだろう」

 

 横で話を聞いていたレッドラ・ビットに目をやって、片目をつぶってみせれば、レッドラ・ビットがいなないて見せてから言う。

 いや、お前、そんな本物の馬みたいにいななけたのかよ。

 なら普段のわざとらしい馬アピールも、もうちょっとちゃんとやれよ。

 

「ええ、そうしておくのが一番いいですね。オーロラ様には、座長が事務仕事で助かっていると感謝していたと伝えておきましょう」

 

 ほんっと、優秀なんだよなあ、レッドラ・ビット。

 直訳すれば赤い兎なんて名前なのに、馬面のケンタウロスだけど。

 事あるごとに言動で馬であることを主張してくる、キャラが濃い妖精だけど。

 

 なお、赤い兎という意味になる名前はレッドラ・ビットが瓜二つなサーヴァントの赤兎馬が名付け元と思われる。

 この名前って名付けられるとしたらFGO世界線を知っている必要があると思うんだが、まさか名付けたのモルガンだったりするんだろうか。

 だとしたらちょっと面白いな。

 

「――――そうですか。では、そのように。でも一応、お礼は言っておきます」

 

 それだけ言って、コーラルはまた仕事に戻っていった。

 レッドラ・ビットもまた、荷台をひいて指示した場所へ移動していく。

 二人がいなくなったところでポンはぽつりと言った。

 

「貴方は、そうして多くのものを拾い上げていくんですね」

 

 しみじみと、噛み締めるような言い方だった。

 最近、サーカスの妖精たちは少し人間臭くなってきた気がする。

 特に俺と接する機会の多いアン、ポン、タンの三人は、その傾向が顕著だ。

 

「別にそんな大層な話じゃない。基本的に好きにやっているだけだし、思惑もある。それに、やり方も割と乱暴だからな」

 

 ホープとかコーラルとかは妖精の中でも例外の部類だから穏当な形で引き入れたが、他の妖精はほとんど地面を耕すのに使ったうえで式に降しているわけだし。

 なお、地面の穴は自分で埋めさせている。

 穴が開いたままだと危ないしな。

 レッドラ・ビットは、まあアレもホープたちとは別ベクトルの例外だから。

 

「きっと、座長のような人こそが、本当の人間なんでしょう。そういう意味で、妖精國の人間も、それに依存している妖精も、偽物なのかも――――」

 

「それは違う」

 

自嘲するようなポンの言葉を俺は強く遮った。

 

「この國は確かに歪だ。そこに生きる者たちもまた。だが、そうであってもそれは偽物と蔑まれるべきものじゃない。そもそも、その歪さだって元々はお前たちの責じゃないんだ。まあ、生きていく中で犯した過ちや罪はあくまでお前たち自身のものではあるけどな」

 

 ポンは目を見開いて、それからまた何かを噛み締めるような顔になった。

 本当に真面目な奴だ。

 しかし、そうか。

 そんなことも考えられるようになるんだな。

 

 FGO世界線ではダ・ヴィンチちゃんと長く関わった一般妖精が明らかに成長していたという事例があった。

 そして今、ポンがこうして今までの妖精だったら考えない様な事を考えている。

 やはり妖精には変わる余地がある。

 しかも、それはひと握りの妖精だけの特別な力ではない。

 

「あと横から補足しておくと、その人を一般的な人間だとは思わない方が良いわよ」

 

 作業を手伝っている途中に通りすがったジャンヌ・オルタが、さらりとそんなことを言って通り過ぎた。

 

「よし、ちょっと待て、ジャンヌ・オルタ。作業の手を止めて良いから、ここに座れ。お前とは少し話さなければならないようだからな」

 

 力はともかく、人格はそこまで逸脱しとらんわ。

 こらまて、逃げるな。

 

「はいはい、作業が全部すんだらね。アルトリアやホープも交えてしっかり話そうじゃない」

 

 三対一は卑怯じゃないか?

 なんか、アルトリアって俺の扱いが君の影響であれだし、ホープは何か言わずもがなというか、カレンのそれに近い感じなんですけど?

 せめてオベロンを、いや、あいつもダメだな。

 面白半分でそっちにつく未来しか見えない。

 

「あのう、私の存在を無いものとして扱わないで欲しいのですけど。いや、でも、わりとアリかも?」

 

 俺達と一緒に事務仕事をしていたヒストが自分の存在を主張するが。

 

「おまえ、今日の夕飯抜きだからな。レッドラ・ビットに縄を括り付けて引きずられようとするんじゃねえよ」

 

 あのレッドラ・ビットがドン引きしてたじゃねえか。

 ポンも俺に同意といわんばかりに何度も頷いている。

 今回のヒストの奇行にはポンも流石にドン引きだったようだ。

 俺と一緒にヒストをいないものとして扱っていたくらいだからな。

 

「そんなあ、座長が用意してくれる料理ってすごく美味しいから、毎日の楽しみなのにい」

 

 ちょっとは反省しやがれ。

 お前、飯抜きくらいでしか反省しないんだから。

 

 





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小話

コーラルはFGO世界線に比べて早い段階でオーロラから疎まれ始めています。
この時点ではFGO世界線より余裕があるせいで、ソールズベリーをよくする為にあれこれと進言を行っていたことが原因です。
さらに統夜との関りについて頻繁に苦言を呈していたことが大きく影響して関係悪化が加速していたので、そこにつけこんだ形。

またコーラル自身も徐々に疎まれてきていた自覚はあって、一歩引いた視点でオーロラを見始めていたために、薄々ですがその本性の部分に疑念を持ち始めていました。
ハロバロミアと再会して改めて今までを振り返った結果、疑念が確信よりになった感じ。

サーカス団の妖精たちは、主人公と関わりの深い妖精がまず人間臭くなり始めていて、その影響が他の妖精たちにも伝播し始めています。
特にアンポンタンと名付けられた三人は、だいぶ人間的になってきていて、善悪という概念が理解出来始めています。

ヒスト?
アレはほら、良くも悪くも、もうとっくに普通の妖精の規格からは外れちゃってる類だから。
頭も良いし、善悪の概念もいち早く理解はしているんですが、自分の趣味を優先している駄目な奴なんです。
まあ変な子ではあっても、悪い子ではないんですけどねえ。

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