Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
興行の準備が一通り済んで、少し余裕が出来たころ。
俺はキャストリアと共にグロスターの街を歩いていた。
情報収集を兼ねたちょっとした息抜きみたいなものである。
ただまあ、実際に息抜きになったかというと。
「トラブル多すぎないか?」
あの鎮圧するはめになったネズミとかFGO世界線でも逃げ出していたと思うんだが、しょっちゅう逃げ出してたりするんだろうか。
妖精のすることだし、否定しきれないものがあるな。
他にも何か細々と面倒ごとに巻き込まれた。
なお何人かの妖精は、道の石畳から足を生やすことになった。
また団員が増えるな。
まあ、いつもの事である。
「何か妖精の足が地面から生えている光景をすっかり見慣れてしまってるの、ちょっとどうかと思う」
キャストリアがジト目で言ってくるが、肩を竦めてみせた。
「すぐ絡んでくる妖精が悪い。なんであいつら懲りずに俺にちょっかいかけてくるんだろうな。俺にちょっかいをかけた妖精がどうなるかって話はグロスターでも、もうだいぶ流布してると思うんだが」
俺が割と本気で疑問に感じて首を傾げていると、キャストリアは頬に人差し指を添え少し考える仕草をしてから軽く頷いて、その答えを口にした。
「統夜といる妖精たちが、みんなすごく楽しそうだからじゃないかな」
言われてみれば、うちの団員達って最初のうちはぶつくさ言うんだがいつの間にかどいつもこいつもいきいきと楽しそうに働くようになっている気がするな。
割とこき使っていると思うんだが。
「統夜と一緒にいると、いろんなことを知れるし学べるから妖精たちにとっては飽きが来ないし、サーカスとしての興行を行えばそこには笑顔も熱狂も生まれて日々が凄く楽しい充実したものになる。モースの事もあって本来なら難しい筈の旅だって、統夜たちが護ってくれるから安全に景色を楽しむ余裕すらある」
なるほど。
刹那的で享楽的な妖精にとって、飽きが大敵であることを考えれば、俺と共にあることはその大敵を遠ざける非常に効果的な対処法でもある訳か。
「それに何より、統夜は身内になった妖精は凄く大事にするでしょう?」
――――胸を衝かれるような笑顔にしばし言葉に詰まった。
嬉しそうな、誇らしそうな、様々な感情のつまった、目を焼く様な笑顔だった。
「俺は、率いる者としての責任を果たしてるだけ、の、つもりだったんだが……」
だけど、そうだな。
確かになんだかんだ言いながら、団員として面倒を見ている妖精たちに、それなりの愛着が生まれている事は否定できない。
「悪戯をして、ごはん抜きになったり。お仕事を頑張ったら、ご褒美のお菓子を作ってくれたり。妖精國の人間たちとの間にあるものとは違う、ある意味でこれこそが本物って言えるような妖精と人間の関係性がこのサーカスには息づいてる」
胸に手をおいて、目を閉じて。
キャストリアが慈しむように、言った。
「だからきっと、それを見た妖精たちは貴方に近づきたくなるし、関わりたくなるんだと思う」
それから照れ隠しなのか、ちょっと表情を崩して眉尻を下げて、困ったように苦笑交じりに言った。
「不器用だったり、今までの在り方の問題とかもあって、ちょっかいのかけ方の質が悪くて、地面に埋まることになるんだけどね」
この子も、そして、モルガンもだが。
妖精たちの多くが決して良いものではないと知っているのに、結局は完全には見放さない。
本当に不器用なのは果たして誰なんだか。
「統夜は一度も明確にそれを口にしたことはなかったけど、私が予言の子であることを知っているよね?」
街を歩いているうちに迷い込んだ周りに人気が無い路地の小さな噴水の前で、キャストリアが足を止めた。
俺の言動からわかり切っていた事実を、敢えて口にした彼女に俺も足を止めて向き合った。
「まあ、そうだな」
まっすぐに真剣な顔で目を見て話すキャストリアに、俺も内心で腹を据える。
「使命には言及したし、それを手伝ってくれるって約束もしてくれた。でも一度も私を運命の子とは言わなかったし、使命についてだって急かさなかった。それはどうして?」
つい、目が泳ぎそうになるのを我慢して、適当な答えを探す。
そんな俺にキャストリアは呆れたみたいな顔で溜息をついた。
「ジャンヌさんから色々話を聞いていたし、妖精眼で見えるものもあったからもしかしてと思ってたけど、本当にそうだったんだ」
観念して、目を閉じた。
息を吐いて、正直な答えを口にする。
「出会って共に過ごした君があまりに普通の女の子だったから、そのままでいたいならそれで良いじゃないかと思ったんだ」
俺のプランなら、キャストリアに無理に使命を果たさせる必要がなかったのも大きい。
いや、これは言い訳だな。
彼女が普通の女の子のままでいられる可能性を、俺は残しておきたかったのだ。
だからこそ、彼女が使命を果たしたほうがより良い形を目指せる事実に目をつぶって、彼女に依存しないでも叶えられるプランを立てた。
彼女が消えずに済む可能性はそれなりに用意している。
だが、そもそもこんな重い使命、こんなにも普通の女の子に背負わせなくたっていいだろう?
つい、そう思ってしまったのだ。
「自分の事は棚に上げて?」
――――それは。
「耳が痛いな」
つい苦笑がこぼれた。
「でも俺はもう、この道を自分で選んで好き好んで歩いているからな。だからこそ、まだ選択していない君には、ちゃんと選べる余地を残してあげたかった」
なんだかんだ俺はちゃんと自分で選んだからな。
「選択肢はないに等しい感じではあったが、それでも出会った者たちが納得できる選択をするのに必要な答えを得るために猶予をくれた。俺はそれに感謝している。だから俺がしてもらえた事を似た境遇にある君に、今度は俺がすることにした。それだけだ」
本当にそれだけの話なんだが。
キャストリアは怒ったような顔で、でも泣きそうな空気で俺の顔を両手で包んだ。
「私が普通であることに逃げたら、全部、自分で背負うことになるのに?」
「俺にとって君の使命が果たされることは、多少の助けにはなるが必須じゃない。結果的に背負うことになるものは変わりはしないさ」
この妖精國に幕を引く事は変わりがない以上は、そこは本当に変わらないのである。
「嘘は言ってないかもだけど、余分な重さが増えるのは間違いないよね? そこまで長い付き合いじゃないけど、それくらいは私にだってわかるんだからね」
頬に添えられていた手が、頬をつねった。
「統夜は、私を助けてくれるんだよね?」
つねった後に手は離されて、胸元で強く握られた。
こうなるのがわかっていたから、敢えてこのあたりはぼかしていたのに。
「私、決めた。だから統夜」
こうなると、もはや梃子でも動かないだろう。
やっぱり根っこの部分は、この子もアルトリア・ペンドラゴンと変わらないんだなと、そんなことを思い知らされる強い眼差しだった。
「改めてお願い。力を貸して」
自分の道をFGO世界線よりもずっと早くに定めてしまった彼女に、俺は何も言えなかった。
ただ秘かに、絶対にこの子が消えてしまうような事だけはないようにしようと、心に決めた。
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小話
キャストリアは見るからに自分より大変そうな相手が、自分の為に自分の分の荷物も持ってしまおうとしていたら、黙っていられるような性格はしていないよね、っていう。
しかも統夜の傍にいると、妖精国では珍しい善性の妖精との関わりが多くなるし、生臭妖精たちが変わっていく姿も目に入ってしまうので、使命に対するモチベーションがFGO世界線とは必然的に変わってくるわけで。
そして、統夜ならもしかして自分の約束された結末も覆してくれるんじゃないかっていう期待もあったりするので余計にブレーキがかかりにくいのです。