Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
オークション。
グロスターでも目玉といえるようなイベントであり、またFGO世界線でも重要な場面でもある。
ただ、この世界はFGO世界線とは色々と差異があるので俺としては特に関わる理由もなかった。
そう、過去形である。
なんでか知らないんだが、どこでどう玉突き事故を起こしたのか。
何故か、ガレスちゃんが競りにかけられるって言う情報が飛び込んできてな。
しかも、妖精騎士トリスタンつまりはバーヴァン・シーが競りに参加するっていうんだよ。
まあ、割と焦ったよね。
妖精國におけるガレスちゃんは本当の名前をエインセルといって、実は正体は鏡の氏族の長であり、非常に重要な役割を持った妖精である。
彼女をモルガン陣営に持っていかれるのがそもそもマズイし、バーヴァン・シーの加虐趣味の的にされて死なれたりするとなおマズイ。
幸い興行で資金も豊富であり、着々と築いていた人脈でオークションの招待状も手に入ったので真っ向からオークションに参加して競りにもそろそろ勝てそうってところまで来ていたんだ。
「ふーん、そっか、アンタがお母様の言っていた外から来た人間か」
なにか恐る恐るというか、妙な感じにジロジロと俺の事を見てくるバーヴァン・シー。
おかしいなあ。
普通に資金力で押し切れるはずだったんだけどなあ。
『噂のサーカスの座長! 妖怪妖精逆さ生やし! うっかり絡むと地面から生やされると噂の、妖精國の外から来たという人間です!』
妖怪ってなんだよ。
ここ妖精國だろ。
もうちょっと妖精的な何かとして呼び名つけろよ。
いや、色々異質だからそんな感じに呼ばれてるって言うのはなんとなくわかるんだが。
『そしてそして、共にあるのは、なんとあの、予言の子!』
そうして会場の中心に立つ羽目になった俺達を囃し立てるのは、司会を務めているグロスターの領主であるムリアンだ。
ちなみにキャストリアの衣装は、すでにあの第二再臨の時の青い衣装になっている。
彼女の決意を聞いた後に、事前に用意していたものを贈ったのである。
そんな新たな衣装に身を包んだキャストリアは表面上はキリっとした顔をしているが、内心は結構いっぱいいっぱいなのが何となくわかった。
あれよあれよと、抗う間もなくこの状況だからな。
気持ちは分かる。
吹っ切れたり自棄になったりすると途端に肝が据わるけど、それまでは割とメンタル揺れるタイプだもんね。
一方でムリアンの意図も、理解はできるのだ。
ちょうどいい当て馬が来たから、俺と予言の子の事を測ってみようという魂胆だろう。
「どうしよう、統夜?」
人前で、しかも予言の子として紹介されてしまったからだろう。
表面上は気丈にふるまっているキャストリアであったが、戸惑いが隠しきれていなかった。
しかしホントにどうしようかな。
モルガンへ表立って敵対姿勢を示す気はまだないから、流石にバーヴァン・シーを他の妖精のように埋めてしまうわけにも、顔を前が見えない様な状態にするわけにもいかないし。
「俺が適当にあしらっても、まあいいと言えばいいんだが」
「はぁ!?」
バーヴァン・シーが俺のセリフにいきり立つが、俺と目が合うと少し腰が引けて目も逸らされた。
あれ、これ、だいぶ怖がられてない?
モルガン陛下め、この子に一体何を吹き込んだんだ。
あのバーヴァン・シーがこの反応とか相当だろ。
「ちっ。アンタには下手に手を出すなってお母様から厳命されてるからな。見逃しておいてやる」
強がるなあ。
その厳命の細かい内容を聞いてみたい気もするが。
だが、キャストリアが俺の肩に手を置いて首を横に振っているので、とりあえずはスルーしておいてあげるとしよう。
「予言の子として名前を売るにもいい機会だと思うし。今回は私がやるね……流石に統夜の相手をさせるのは可愛そうだし」
最後の部分はバーヴァン・シーには聞こえない大きさの声であった。
多分キャストリア的には俺にも聞かせる気はなかったんだろうが、俺の耳は身体スペックの高さと相まって非常に良いのでばっちり聞こえてしまったんですが?
まあでも、ここはキャストリアの覚悟を汲むとしようか。
キャストリアが前に出て、戦う姿勢を見せればムリアンがまた煽りの口上を高らかに歌い、戦いはその生態から魔術を必要としない妖精たちの中にあって非常に希少な魔術使いである二人の魔術比べとなった。
このあたりの流れはFGO世界線と被る流れだな。
まあ他の観客もいる状況でバーヴァン・シーに全力の妖精騎士としての戦い方を許しては、被害がそちらに出ないとも限らないし、オークションの余興の範囲としては実際妥当な判断の範囲だろう。
「何が予言の子だ。この妖精國を治めるのはお母様で、その後継者はこの私。予言の子なんてお呼びじゃないんだよ!」
黒い魔力の、アレは棘なのか釘なのか。
呪詛に近い感じの魔力。
それを次々にキャストリアに向けて放つ。
「正直、王位とかは興味ないけど、私は使命を果たすって決めたの。だから――――!」
迎え撃つキャストリアは魔力を込めた杖で自分へ向かってくる攻撃を打ち払い、魔力弾や円月輪のような魔力刃を飛ばすなどして応戦する。
キャストリアの魔術は少しばかり戦闘面に偏重しているところがあるが、戦闘においては結構芸達者というか。
基本黒色の魔力の杭を飛ばすくらいしかしないバーヴァン・シーとは好対照といえるだろう。
あ、キャストリアがなんか投げたぞ。
ありゃ魔術触媒だな。
オークション会場に何を持ち込んでるんだか。
妖精も妖精で魔術の知識がほとんどないから、ほとんど素通しだったんだろうなあ。
バーヴァン・シーが、不意に投げられたソレに視線を持っていかれて、うん、それは良くないな。
ほら、キャストリアが触媒を魔弾で撃ち抜いて爆発させた。
バーヴァン・シーは直撃は避けたが視界を塞がれて、その隙にキャストリアは背後に。
しかも移動の際に地面にまた別の触媒をばら撒いたな?
「くっ、この!?」
背後のキャストリアに対処するのに意識を持っていかれて、足元がお留守だ。
キャストリアの杖が床を叩いて、魔力が奔る。
触媒がその魔力に反応して、蔓のようなものを生やしてバーヴァン・シーの動きを制限した。
床を叩いたままの杖にキャストリアの魔力が一気に注がれて、その魔力は床を伝いバーヴァン・シーの足元で炸裂。
バーヴァン・シーもあれくらいなら、大きなダメージまでは受けないだろう。
だが、流石に少しの間だが動きは止まって、その首にキャストリアの杖が添えられた。
こうなると誰の目にも勝負の決着は明らかだと言って良い。
「~~~~!」
悔し気に歯噛みするバーヴァン・シー。
もとは普通の妖精で魔術を必要としない彼女であるから、モルガンに習ったとはいえやはり限界があったんだろうな。
あとは妖精騎士としての力の方で戦う事に慣れ過ぎていたのも影響していそうだ。
「手札の数少なすぎ。事前準備の仕込みがぜんぜん足りてないじゃない?」
中々のどや顔で勝ち誇るキャストリアである。
煽られた形になったバーヴァン・シーは妖精騎士としての力も使って戦闘を続けようとするが。
「やめておけ。それは恥の上塗りというものだ」
音もなく瞬時に距離を詰めて腕を掴んで忠告すると、バーヴァン・シーは驚愕に目を見開いて固まった。
『同感ですね。女王に恥をかかせないためにも妖精騎士として王女として、ふさわしい振る舞いを心がけるべきでしょう』
ムリアンが言い添えると、驚愕から悔しげな顔になって一度舌打ちをしてから口を開いた。
「……今回は負けを認める。だから離して」
俺が腕をつかむ際に痛みを感じさせないように加減をしたのを察していたからか、バーヴァン・シーは強引に振りほどくようなことはしなかった。
戦意は確かになくなったようなので俺もすんなりと腕を離し、バーヴァン・シーから距離を取ってキャストリアの傍に移動した。
いや、だって、明らかに怖がられてるんだもんよ。
とにかく、これで決着だな。
ガレスちゃんの確保は成功したし、予言の子のデビュー戦としても悪くない出来だろう。
離れていくバーヴァン・シーがキャストリアを忌々しげに見た後、ちらりと一瞬だけ俺を見て視線をはずした。
……ねえ、ホントにこの子に何を言ってくれたの、モルガン陛下?
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小話
モルガン陛下は何か特別にバーヴァン・シーを怖がらせるようなことを言った訳ではありません。
ただ単に、起こったことをそのままに誇張なく伝えただけです。
え、そんなの怖がってあたりまえ?
それはそう。
モルガン陛下の全力のロンゴミニアド連射を無傷でしのぐ化け物に対する反応としてはあまりに残当ですよねぇ、うん。
バーヴァン・シーはモルガン陛下の力を良く知っているし凄く尊敬しているので、そのヤバさが余計に良く分かってしまうという罠。
でも、怖いけどお母様の為に何とかしなくちゃと強がって、どうにか頑張って倒そうと思っていたりもするわけです。