Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
何とも言えない表情で俺と二人きりで向き合っているムリアンの最初の言葉が告げられた。
「見る範囲だと別に変な色はしていないというか、凄く平凡な色というのがかえって怖いですね、貴方」
なんか本当にこの國だと怖がられるな。
しかし、ムリアンの妖精眼から見ると俺は平凡な色に見えるのか。
そう言えばキャストリアもぱっと見は普通って言っていた。
しかし、わざわざぱっと見と断っているという事はよく見ると違う感じなんだろうか。
何か微妙に言葉を濁されたというか、キャストリアの様子的に表現に困ったという感じに見えたが。
そもそも妖精眼自体どんな感じで見えているのかわからない俺には想像のしようもない。
「別に敵対もしていない相手に無体な真似をするような趣味もないから、そんなに怖がることもないと思うんだがな」
持参したボードゲームをテーブルに並べながら言葉を返す。
ボードゲーム自体は、おおむね普通のすごろく。
人生を模したアレみたいな奴である。
「あのモルガン陛下がわざわざ招集をかけて、可能な限り敵対を避けるように厳命した人間を怖がるなというのは、正直無理があると思いますが」
なるほど。
思った以上にロンゴミニアドをしのいだのが効いていた感じかあ。
冷静に考えると、そりゃそうかって話ではあるんだが、前回のアルビオンが大概だったからやっぱり感覚がちょっとズレていたんだな。
「第一ですよ。貴方、私の妖精領域の影響を完全にレジストしてるじゃありませんか。こうして対面でちゃんと会って応対しているだけ感謝して欲しいくらいです」
妖精領域は最上位に位置する妖精がもつ、自らの真理によって世界を作り替える特性だ。
わかりやすく言うなら自身を中心にした一定範囲を、閉じていない固有結界で常時覆うような感じ。
俺がコレの影響を受けていないのは単純にムリアン側の出力不足だろうな。
「そこは実際に感謝してるぞ? 君との会談は俺以外の誰かを介する形になると思ってたからな」
候補としてはキャストリアと、サーカスの団員から何人か見繕う感じ。
シャドウフォートと合流した後であれば司馬先生を連れたライネスが第一候補になっただろう。
「どうにも調子が狂いますね。こうして実際に会ってみればモルガン陛下が警告を行うに十分な力を持った相手であるのがはっきりとわかるのに、貴方からは敵意というものを感じません」
それはそうだろう。
俺は妖精という生き物の生態からくる言動は正直どうかと思うが、妖精それ自体にはそこまで敵意はない。
罪を憎んで人を憎まずというとちょっと違うが、そもそも人間とは違う別種であるという所を無視して人間の価値観ではかるのは色んな意味で危ういとも思うからだ。
それはそれとして気に食わない物事は、目に映る手の届く範囲であれば俺の趣味として手出しはするけどな。
その意味でもムリアンはどちらかというと妖精らしい残酷さや傲慢さは持ってはいても、妖精國ではマシな部類だし、どちらかといえば助ける方向で手出しをしたい相手でもあって余計に敵意からは遠い。
「君とは色々と協力できると思うしな。敵対する必要がそもそもあまりないから、敵意を持つ意味がない」
ゲームの準備が整ったのでお互いにダイスを振って先攻と後攻を決める。
俺は3でムリアンは5。
「では私が先攻で。……協力できると言いますが、結局のところ貴方は何を目的としているんですか」
ダイスを手の中で弄びながらムリアンは問う。
目的か。
「大目的としては、この妖精國の存在が外の俺達の世界に悪影響を及ぼすことがないようにすること、という答えになるな」
俺の答えを聞いて頷き、ムリアンはダイスを転がした。
そして出た目の数だけ自分の駒を進める。
順当に資産が増えるマスだな。
「大目的はそうでしょう。そこは分かり切っていますし、疑う余地もありません。だから問題は、その為の手段としての妖精國に対する対処の方針。貴方がこの妖精國をどこに連れて行こうとしているのか、です」
ムリアンが手渡してきたダイスを受け取って、思考をまとめるように手の中で転がす。
そして、ある程度考えがまとまったところで、ダイスを持っていない手でフィンガースナップを行って魔術を行使した。
ムリアンはそれが攻撃の類でないことを理解していたようで慌てることなく受け流す。
「この部屋は最初から防諜の対策はしてありますよ?」
まあ、そうだろうけど。
万全にしておきたいからな。
何しろ内容が内容である。
「ムリアン。今からする話は全部本当のことだ。その証明として俺は敢えて君の妖精眼をレジストしない。しっかりと見極めたうえで、よく聞いてくれ」
ダイスを転がし、その数だけ駒を動かす。
イベントマスに止まり、ダイス分の資産が増加した。
そうしてお互いに双六を続けながら俺が語るのは、妖精國の成り立ちとそれ故に妖精國が迎えざるを得ない結末の話だ。
妖精國の原罪ともいえる『はじまりのろくにん』の下りで、流石にムリアンのダイスを転がす手が止まった。
「――――それが、この妖精國の始まりだというんですか。そんな、どうしようもない愚行の上にこの國は存在していると――――?」
ムリアンは妖精としては珍しい学ぶ事を好む翅の氏族の氏族長だけあって知識が豊富で知恵も回る。
それ故に妖精眼で俺を見た結果だけでなく、持っている自分の知識からもその真実の正しさを理解してしまったようで呆然としていた。
蓄えた知識や学ぶ事を良しとする翅の氏族の特性ゆえか、価値観が人間のそれに比較的近い彼女からすれば眩暈のするような事実であるのだろう。
「流石に、そんな馬鹿なことが。いえ、でも妖精という種族の在り方、その傾向を考えれば……。そうであるならば、じゃあ、牙の氏族の行いももしかして……?」
これは、いったん意識をずらしたほうがよさそうだな。
「君の番だぞムリアン。それとも俺の不戦勝か?」
彼女の手の中にあるダイスを指さしながら言葉で煽る。
ムリアンのゲーム好きはFGO世界線における彼女の要素を持ったハイサーヴァントであるカズラドロップからの予想だが、その予想は正しかったようで俺の言葉にキッチリ反応を返してきた。
「不戦勝だなんて許すわけがないでしょう。そもそも私の手が止まったこと自体、貴方がとんでもない爆弾を投げてきたからではないですか。なんですか、勝つ自信がないから盤外戦術ですか?」
衝撃の事実への驚きを叩きつけられた事に対する意趣返しといわんばかりに、口撃が返ってくる。
ゲームが好きであるならば、往々にして負けず嫌いもついてくるものだが、良い感じに悪い方向への思考の流れは変えられたようである。
「盤外戦術というならもっとダメージの大きそうな話を振るとも」
ダイスが転がり、駒が進む。
今度は俺がダイスを受け取って、また手の中で転がす。
「例えば、君の企んでいる復讐が君にとって無意味である、とかな」
ムリアンからひと際に大きな魔力が発せられた。
感情の表れであって意図したものでないそれは、怒り混じりの悲鳴のようでもあった。
それこそ憎い敵でも前にしたかのように俺を睨むムリアンであるが、俺の方は余裕を持ったままダイスを転がした。
「無意味とは、どういうことでしょう。場合によっては一矢すら報いる事が出来ずとも――――」
死のうとも抗う。
いや、俺に自分の死という不利益でもって報いようという意思が見て取れた。
俺は駒を進めながら噛んで含めるように言葉を紡ぐ。
「無意味だったんだよ。今のままの計画を完遂しても君は何一つ納得を得られずに、それを突き付けられることになる。俺はそれを知っている」
そう。
知っているのだ。
FGO世界線における彼女の後悔と、その末路まで。
「牙の氏族の襲撃は、牙の氏族視点では高尚な理由なんか一つもない。ただ気に食わないからなんて言うどうしようもない理由だし、あんな殲滅という形になったのも後始末が面倒だし収拾がつかないから全部まとめてなかったことにしようなんて動機だ。さらに言えば血に酔って悪妖精化していたなんて言うオマケつき」
ムリアンが絶句して、俺から渡そうとしたダイスを受け取り損ねた。
ゲーム盤の上をダイスが転がる音だけが部屋に響いた。
そのダイスの音も止んで、しばらくしてからムリアンがかすれた声を口から発した。
「そ、んな。そんな馬鹿な事……。なんで、なんであなたの色は、嘘を言っている色にならないの?
冗談でしょう? だって、そんなの――――」
まったくもって救いのない残酷な話だ。
しかし、これは因果の果の部分であって、実は因の部分は別にある。
「あくまで牙の氏族視点の話だ。その事態に誘導した黒幕は別にいる可能性はある」
FGO世界線ではオベロンが自分が唆してやったと主張していたが、さて、どうだろうか。
あれは死にゆくムリアンに対するせめてもの手向けとしての嘘の答え合わせであった可能性も否めないのではないかと俺は思っているが。
だから俺として考えている候補は三つだ。
一つは本当に牙の氏族が気に食わなくてやらかしたというケース。
二つ目は自白通りオベロンが黒幕のケース。
三つめが、人気のあった翅の氏族を邪魔に思ったオーロラが唆したというケース。
ぶっちゃけ個人的には三つ目が一番ありそうに感じてしまうんだが、これは流石に偏見だろうか。
「しかし、そうであっても結局は妖精國という場所の原罪に端を発しているという点は変わらない」
黒幕がいてもいなくても、黒幕が誰であっても。
一応、恐らくという枕詞はつけてはおくが、翅の氏族は似たような結末を迎えていたんじゃないだろうか。
妖精の持って生まれた性質。
妖精國の成り立ちに密接に絡む呪い。
本来続いているはずのない妖精國の矛盾から生まれる反作用としてのオベロンの存在。
そしてよりによって妖精國という場所に、ある意味で最悪の目的を持って生まれたオーロラだっている。
鏡の氏族もそうなんだが、こんな妖精國で生き残れるデザインをしていないのだ、翅の氏族は。
これら氏族は悲しいかな、この妖精國においては滅びるべくして滅んでいると言ってもいい。
「今のままの計画であれば、君が得るのは過ちだけだ。だから、どうだろう。一口、俺に乗ってみないか?」
ほとんど死人のようになっていた顔色が少しだけ変わって、俯いていた顔が俺の方を向いた。
「どこまで上手くいくかは現時点では、はっきりとは示せないけどな。俺の案に乗るのであれば、いろんな相手に一泡吹かせられる。君にとっても、少なくとも今の計画よりは納得が得られる復讐の形にもなるだろう」
俺の言葉に嘘がないことを見て取ったムリアンの目に、再び意志の輝きが戻り始める。
「そして、この國の原罪への一つの答えにもなり得ると俺は思っている」
ムリアンは取り落したダイスを拾い上げて、強く握りしめた。
「まずは話を聞いてからです。そのうえで、可能性を感じたならば」
ダイスを転がして、ムリアンは自分の駒を掴む。
「貴方の仕掛けるそのゲームに、私も乗ってあげます」
そう言って彼女はゲーム盤に強く駒を打ち、はっきりと約束したのだった。