Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第8話    銀髪金眼の少女と新たな未来

 その日、ライネスの要件でイタリアの街を訪れていた俺は、一人で街の路地を歩いていた。

 今回ライネスが訪ねた相手は信頼できる筋のエルメロイ派の魔術師だ。

 要件は、どうも外来の魔術師が怪しい動きをしている件についての相談らしい。

 悲しいかな、現在エルメロイ派に残っている魔術師は言ってしまえば沈む船から逃げ出す体力もなかった小物の部類であり、自力での解決が難しいという事らしかった。

 

 今まさにその内容についてライネスは改めて細かい説明を受けているだろう。

 事前にライネスから概要は教えられているので、相手の魔術師のプライドに配慮して俺は席をはずしたのである。

 儀礼的なやり取りをする必要もあるので時間がかかるし、ちょっと先行して様子を見ておいて欲しいとライネスに依頼されていたのもあった。

 そして、俺は観光を兼ねた街の下見といった感じで、いま、街をぶらぶらと歩いているというわけである。

 

「————っう」

 

 そんな時、小さな呻き声が耳に入った。

 声の方に走ると、昼とはいえ、奥まった路地で人通りは少ないそこで一人の少女が路地の端にうずくまっていた。

 口を押えて、その口の端からは血が垂れていた。

 そして、喉には異様な感じの痣。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 慌てて駆け寄り体を支える。

 辛そうな様子で俺に縋りついてきた少女にチート由来の回復薬を飲ませた。

 しかし一時的には良くなるが、すぐにまた悪化する。

 これは、現在進行形で何かの干渉を受けているとしか思えない。

 そう直感した俺は、今度は状態異常避けのアイテムを少女に持たせた。

 

 回復薬が正常に作用を始めて、異様な痣も消えていく。

 少女の顔も、だいぶ安らいだものになった。

 そして今更ながらに気が付く。

 

 ウェーブのかかった銀髪。

 このFate世界でもあまり見る事がない、金の瞳。

 どこか静謐な雰囲気を漂わせる、そんな少女。

 

 ――――いや、この子、カレン・オルテンシアじゃん!?

 年齢的にはライネスと変わらない、まだ10歳にもならないであろう姿だが間違いない。

 まって、どういう、いや、時系列的にはそこまでおかしくないな。

 世界線ごとに多少の前後はあるかもだが、この時期にカレンがこの歳でイタリアの街にいるのはむしろ正しい。

 でもこの街、だったのか。

 カレンは設定によれば、幼少期を教会の下働きとして過ごし、聖痕を現したことで手に負えないとして、恐らくは聖堂教会関係の特殊な修道院に送られて、代行者の道へと誘われたそうだ。

 

 その教会のある街がここで。

 多分というか十中八九、さっきの喉の痣が、聖痕だ。

 まあ、あれは実のところ字義通りの聖痕ではなく、悪魔が周囲に存在している事によって発生した被虐霊媒体質による反応なんだが。

 

 え、ちょっとまてよ。

 カレンの体が反応しているという事は、周囲に悪魔がいるってこと?

 俺がここに来たのって、怪しい魔術師の調査であって、悪魔祓いじゃないんですけど?

 二つは別件、というのは希望的観測が過ぎるんだろうなあ。

 

「……ありがとうございました。あの、貴方は一体?」

 

 どこかに傷があったりするわけじゃない。

 異常にやせ細っていたりもしない。

 だが、これは――――。

 

「あの……?」

 

「ああ、悪い、ちょっと考え事をね。俺はあれだ、通りすがりの配送屋だよ。まあ、今はほとんど休業中なんだけどな。今日は、観光と、ちょっとした探し物をね」

 

 いかんいかん、不安にさせてどうする。

 ただでさえ、現在時点では自覚のない体質で、良く分からん怪我をしたばかりなんだぞ。

 

「これ、お返ししないと」

 

 俺が渡したネックレス状の状態異常避けのアイテムをカレンが差し出してくるが、それ受け取るとまた元の木阿弥なんだよねえ。

 

「いや、それは君にやるよ。ちょっとしたお守りなんだけど、霊験はちゃんとあるやつだから。肌身離さず装備、じゃなくて身につけておくことをお勧めする」

 

 優しくネックレスを持って差し出された手を取って、その手に改めてネックレスを握りこませた。

 

「これは、君にとって必要なもののようだから。さて、それじゃあ、送ろう。君の家はどこかな?」

 

 まだ何か言いたそうなカレンを勢いで押し切って、手を引いた。

 やはりというべきか、たどり着いたのは教会だった。

 中に入ると、いかにも真面目そうな神父が訝しげに俺を見た後、カレンにひどく冷たい目を向けた。

 

 あ、これ駄目だわ。

 設定上の情報として聞いていた時点でもきついと思っていたが、実際に見るとなお無理である。

 仮にも神職が、こんな子供に自分のえり好みで親の罪被せて冷遇とか、マジ許容できねえ。

 設定だと模範的で信仰深いとか評されていたが、頭が固くて、信仰者が教えをもってなすべき本当の事を一つも理解できてないただの阿呆じゃねえか。

 

「じつはちょっと、お話がありまして」

 

 今の俺の笑顔は多分、最高にヤバい笑顔だと思う。

 だって、まだ幼いとはいえ、かなり動じないタイプのカレンがびくっとしたし、直接向けられている神父の顔が、みるみる真っ青になっていくからネ!

 

 だがこの神薙、容赦はせん。

 実際問題、カレンの歩む人生って、ぶっちゃけどうかと思ってたんだよね。

 将来入るはずだった埋葬機関から彼女がいなくなる分の補填は後日どうにかするとして。

 カレンには目の前の、俺の手の届く範囲に現れた以上は諦めてもらう。

 

 その後はもう、完全に俺の独壇場であった。

 神父とか、最後の方は号泣しながら、俺と神に許しを乞うていたからね。

 もうマジ勘弁してくださいとか、神よお許しくださいとか。

 

「神は許すかもしれんが、俺は許さん」

 

 イラっとしながら俺がそう言ったら、神父がとうとう膝から崩れ落ちて、同情したカレンからストップがかかったのであった。

 

 

 

 

「貴方は、子供に見えますけど、実は高位の聖職者の方なのでしょうか?」

 

 え゛?

 

「いや、何で神父こき下ろした俺への判断がそれになるんだ?」

 

 結局、神父は半ば精神崩壊のごとき有様となり。

 いや、実際に精神いっちゃったわけじゃないが。

 とにかく俺は見事、カレンの身柄を手に入れた。

 今は、しばらく逗留予定の依頼人の屋敷に向かう道すがらである。

 

「私の怪我を、事も無げに治してくださいましたし、それに神父様への言葉です。『信仰も教えも、人を救うためのものであるべきであって人を縛るためのものじゃない。教えにかこつけて己の嫌悪感を晴らそうとするな』なんて、なかなか言えないと思います」

 

 まあ、年齢にはそぐわない言説だったかもだが。

 

「君のような子に言うのは申し訳ないんだけど、俺は神様とか胡散臭いと思ってる口だからな? でもまあ、その教えのもとに、誰かに手を伸ばすような人には一定の敬意を持つことにはしてるが」

 

 あの神父はなあ。

 良き信者には良い神父だったのかもだが。

 ないわー。

 

「神を信じていない、いえ、神を必要としていないんですね、貴方は。あくまで、人の行いにこそ重きを置いている」

 

 祈るように両手を組んで、噛み締めるようにカレンは言った。

 この仕草、この頃にはもう既に癖になっているわけか。

 

「別に俺に合わせる必要はないからな? 何ならずっと一緒にいる必要もない。ひとまずは俺が預かった方があそこよりはマシそうだったから、ちょっと強引に引き取ったが」

 

 俺がそう言うと、少しジトっとした、将来のカレンを彷彿とさせる視線を向けられてしまった。

 

「突然現れて、突然まったく別の未来に手を引いておいて、放り出すつもりですか?」

 

「そうじゃない。ちゃんとお前が自分で自分の生き方を選べるまでは世話を見る。でも、その時の判断に、俺に対する借りだの負い目だのを入れるなって言っているんだ」

 

 ただでさえ今回の事は自己満足の色が濃い。

 原作のカレンは、端から見ると過酷な己の人生を、それでも静かに受け入れているように見えた。

 俺がしたのは俺自身の為の余計な横やりと言って間違っていないだろう。

 

「あの閉じた世界とは違う場所で生きて、自分自身の目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、頭で考えて、心で受け止めろ」

 

 横を歩くカレンの頭に軽く手を置いて撫でてやりながら言う。

 

「お前の人生を勝手に別な方向に引っ張った俺が、神ならぬ人の身で、カレン・オルテンシアに与える、精一杯の祝福がそれだ」

 

 カレンは金の瞳をまん丸にして、こちらをまじまじと見ている。

 

「これは貸し借りの話じゃなく、俺の選択と責任の話。お前も大人になったら、自らの責任で自分自身の道を選べ」

 

 頭を撫で終えた手を、カレンは迷いながらも自分から握ってきた。

 俺はその手を引いて逗留先の屋敷に帰った。

 ライネスに誘拐犯扱いされたが、否定しきれないのがつらい所である。

 色々強引な手を使って身柄を俺の元に確定させたからな。

 その中傷、甘んじて受け……いや、幼女趣味はねえよ!?

 

 

 

 

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