Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第80話   ノリッジへの出発と旅路

 

 遂に、と言うべきか。

 鍛冶の街ノリッジに厄災溜まりが発生した。

 当初は厄災溜まりの状態を見ながらグロスターで興行を行って、タイミングを見て精鋭でノリッジ入りする予定だったんだが。

 

「懐かれたわねぇ」

 

 ジャンヌ・オルタがちょっと呆れた風に言う。

 気持ちは分かる。

 俺もこれは結構想定外っていうか。

 

「座長さんは面倒見がいいですからね!」

 

 あっという間に団に馴染んだガレスが元気に言ってくる。

 キャストリアも困った顔ではあるが、ちょっと楽しそうである。

 最初に同行を希望したのはホープだ。

 

「私はマスターについて行きますから」

 

 ニコニコしているが有無を言わせぬ空気。

 まあ、そこは正直なところ想定内ではあった。

 意外だったのはそこに続いてタンを代表に牙の氏族の面々が同行を希望したことだ。

 

「座長が行くなら俺達も行くぜ。こちとら枯れても牙の氏族だ。厄災なんざ怖くねえ」

 

 ノリッジの被害を抑える事を考えた時にある程度の手勢は欲しいのは事実だし、少し考えてから許可を出したのだが、それを見ていた他の氏族の妖精たちも声を上げ始めたのである。

 

「俺らにもできる事はあるんだろう? 荷物運びでも何でもサボらずやるから連れてってくれよ」

 

 アンが土の氏族を代表して言えば、ポンも当然とばかりに移動の準備を始めた。

 

「全員ついて行くことになるのですから、事務仕事ができる妖精は必要でしょう?」

 

 書類をまとめるポンを見て、ため息をつきながら自分も書類を手に取るコーラル。

 

「今まさに厄災に襲われようとしている街に行こうだなんて、正気とも思えませんが。でも、座長のすることですからね」

 

 コーラルは、俺を何だと思っているのかな?

 

「そんなことを言う割には手際が良い辺り、素直じゃありませんね、ヒヒン」

 

 レッドラ・ビットが茶々を入れるとコーラルはそちらを睨んだが、その様子を見ていた俺に気が付いて目が合うと、フイと視線をはずすと逃げるように書類をもって離れていった。

 なお書類を持っていない方の手で、またレッドラ・ビットに引きずってもらおうとしていたヒストの耳を引っ張りながらである。

 

 そう扱いたくなる気持ちは分かるんだが、気づくんだコーラル。

 そいつ、凄く恍惚とした顔をしてるぞ。

 いや、気づかない方が幸せなまであるなコレ。

 

「もちろん私もついて行きます。貴方の動向を見届けなくてはいけませんし、それに馬車をひくものが必要でしょう?」

 

 レッドラ・ビットがウインクをして見せて、木箱を荷車へ乗せていく。

 そんな様子をずっと俺の横で見ていたキャストリアがほんのりと嬉しそうな声で言った。

 

「結局全員参加かあ。厄災溜まりがある街に巡業に行くサーカスなんてきっとウチくらいだろうなあ。……よし、私も作業手伝ってくる。行こう、ガレス」

 

 キャストリアの呼びかけに、散歩に出かける犬か何かみたいなご機嫌さでガレスが元気よく返事を返す。

 

「はい! アルトリアさん!」

 

 トリスタンとの戦いを見てすっかりキャストリアに惚れ込んでいるガレスは、FGO世界線と同じく予言の子の従者を名乗っているのもあって、キャストリアに対して実に従順だ。

 離れていく二人を見送りながら、俺は頭を掻いた。

 

「状況が状況だから、完全に安全なんて言えないんだけどな」

 

 だがこんな光景を見せられてしまうと、そんなことを言うのは野暮にしか思えない。

 こうなっては仕方がないな。

 上手く役割を割り振って、犠牲が出ないようにしなければならないだろう。

 そんなことを考えていると、額を人差し指で突かれた。

 

「まーた一人で考え込んで。ちゃんと私だって手伝うんだから、そんな難しい顔してんじゃないわよ」

 

 なるほど。

 ちょっと気負い過ぎていたか。

 そうだな、ジャンヌ・オルタもいるし、アルトリアもいる。

 モースが相手になるからモースにある程度の耐性のある牙の氏族以外は前面には出せないが、別に戦う以外でも手が多いに越したことはないし、本人たちにやる気があるなら頑張ってもらうとしようじゃないか。

 

 グロスターからの出発は結構にぎやかだった。

 興行はかなり成功していたから、出発を惜しむ者も多くて結構な見送りが来ていたからだ。

 なんだかんだで団に所属している妖精は、中核が名無しの森の面々で、その後の入団者も変わり種や俺にちょっかいをかけてくるようなはぐれ者ばかり。

 それ故にか、みんなこういった扱いにはなれていない様で、ソールズベリーの時も今回も誰もが何か照れくさそうなのが印象深かった。

 

 道中は何度かモースに出くわした以外は平穏そのものであった。

 強い力を持った妖精の亡霊とでも言うべき妖精亡主の一人であるドラケイの河を通った時も最初ちょっと混乱はあったが俺が川に近づくと『どうぞお通りください』って書かれた看板みたいなのが流れて来て、それ以降は何も起こらずに素通りした形だ。

 FGO世界線でも魔力切れの時にSOLDOUTの看板流したりしてたが、変なところでお茶目だよなドラケイ。

 

 なお簡単に説明すると、ドラケイは河を見た人の欲するものの幻を見せて水に引きずり込む妖精亡主である。

 架けられていた橋は水に妖精を引きずり込みたいドラケイによって破壊されていたが、俺が魔力で足場を作って代用した。

 

 しかし、やっぱりキャストリアにとっての欲しいものは髪飾りなのか。

 今度時間を見て川に流れてきた物に似せて作ってみるかな。

 前に渡したペンダントは、デザインに手は抜いてないが完全に実用品。

 それにキャストリアが予言の子であることを選んだ以上、アレは必ず失われる運命にあるからな。

 

「えっと、うん、迂闊でした。ごめんなさい……」

 

 俺の視線を勘違いしたキャストリアが謝ってきたので、敢えて訂正せずに軽く笑って帽子ごと頭を撫でた。

 

「ちょっ!? 帽子落ちちゃうってば! ていうか、統夜って時々私の事を子ども扱いしてる節あるよね!?」

 

 慌てて帽子を押さえながら、私は不満ですという主張全開の顔をして見せているキャストリアであったが。

 

「口もと緩んでるんだよなあ」

 

 俺が指摘すると、キャストリアは慌てて口もとに手をやった。

 

「嘘!? え、やだ、嘘言ってる時の色してない!?」

 

 普段はほとんど口に出して言及するようなことはしない妖精眼で見た色の事が出てしまっているあたり、かなり本気で焦っているようである。

 あ、FGO世界線で良くしていた赤面顔じゃないか。

 ふむ、考えてみると俺がこの顔見るの初めてかも?

 おや、今度はこれもよく見たコミカルな時の怒り顔に。

 

「マジマジ観察するな、馬鹿! 統夜! そういうとこだよ!?」

 

 どういうとこだよ。

 というか、人の名前を罵倒に使うんじゃありませんよ。

 しかしあれだな。

 

「そうやってコロコロと表情変わるのを見てると、やっぱり可愛いよな」

 

 うーん、キャストリアに比べると感情表現抑え目なアルトリアと比較しちゃうから余計にそう感じるのかね?

 妙に感慨深く感じるんだよなあ。

 うん?

 キャストリアの表情がFGO世界線でも見た事がないレベルに真っ赤に。

 

「考えてることが口に出てたわよ?」

 

 実に典型的なやれやれというポーズをとりながらジャンヌ・オルタに指摘されて、俺は初めてそのことに気が付いた。

 

 「あー……ゴメン?」

 

 流石に少し気まずくて軽く謝ったが。

 

「~~~~ほんっと、そういうとこだよ! 統夜!?」

 

 うがーっと喚きながら説教が始まった。

 うん、その怒りは甘んじて受けよう。

 流石に今回は俺が悪かった。

 そんな照れさせるようなこと言うつもりはなかったんだよ。

 でもほら、昨夜は移動する馬車の中での書類仕事で寝るの遅くてね?

 

 そんな割と愉快といえば愉快な旅路であった。

 文字通りの暗雲が立ち込めているノリッジへの旅路としては考えられないほどに。

 ノリッジの厄災溜まりを解決すれば色々と動き出すことになる事を考えれば、それはとても得難い優しい時間であった。

 

 

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