Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第81話   俺達と災厄の始まり

 

 ノリッジは鍛冶の盛んな街だ。

 妖精國において本来は妖精の害になる鉄の武器の製造は禁止されていたのだが、モースの増加などを理由に現土の氏族の長であるスプリガンが製造の許可を取り付けた。

 現在では鉄の武器をモルガンの軍などに供給している。

 

 街の雰囲気は、端的に言うと活気のある職人街である。

 土の氏族はいわゆる職人気質であり、妖精國に存在している氏族の中ではある意味で最も社会というものに対する適性が高いと言える。

 まあ、適性が高いと言っても職人気質が過ぎて人間社会にはなじみ切れない落ちになると思われる程度だけど。

 

 スプリガンは土の氏族のその性質を上手く利用して利益を上げている。

 実はスプリガンは外から迷い込んだ人間なので、その狡猾さを存分に生かして妖精の純粋さにつけこんでいるわけだ。

 それ故にスプリガンは妖精國においても特に警戒しておくべき相手の一人でもある。

 実際、俺達がノリッジ入りした後も何とかコンタクトを取ろうとして来て大変ウザい。

 

 あの手の手合いはまともに向きあうと面倒くさいので、基本相手にせずにかわしてここぞというタイミングで速攻で一息に物理的につぶすに限る。

 故に今はとりあえずスルーである。

 他にやるべきことがあるからな。

 

 興行の準備と共にノリッジの地形の把握、興行を行っている土地の有事の避難所としての構築。

 それらを基にした避難計画の策定と団員達への作戦の通達と浸透。

 実際の現場では想定外が山ほど起こるのが目に見えているので、事前の準備位は万全にしておきたい。

 

 そんな風に忙しく興行と並行して事前準備を進めていたある日のことである。

 

「また土の氏族長から会談の申し入れがありましたが……」

 

 コーラルが書類を渡すとともに言ってきた。

元がオーロラの側近で経験値があってそれなりに顔も知られているのもあって書類仕事以外にも対外的な応対も任せているのだ。

 

「無視で良いというのが本音なんだが、建前上は興行に忙しいし、たかがサーカスの座長が氏族長と会談など恐れ多いとでも答えておいてくれ」

 

 書類の処理をしながら軽く答える。

 

「風の氏族長や翅の氏族長とは会談を済ませている上で敢えてその返しですか。なかなか挑発的ですね」

 

 ちょっと呆れたように、しかし確かに笑みを浮かべながら言うコーラル。

 しかし最初に比べると大分打ち解けたなあ。

 呆れながらとはいえ笑顔とか最初の頃だと考えられなかったからな。

 

「それに、厄災だまりの状態もそろそろ限界が近いし……?」

 

 噂をすればなんとやらというべきか。

 

「統夜!」

 

 キャストリアが書類仕事に使っている天幕に飛び込んできた。

 その後ろからジャンヌ・オルタも顔を出した。

 

「始まったみたいよ。発生源は想定通り港にほど近い海上のあたり。モースが港から上陸してきてる」

 

 なるほど。

 そういう事なら、事前の計画から大きな変更はせずに済みそうだな。

 

「コーラル。事前の計画通り、牙の氏族をそれぞれ護衛に割り振って地区ごとに住民の避難をさせてくれ。案内の主導は住民の大多数と同じ土の氏族に。風の氏族は伝達能力の高さを生かして避難部隊の連携を助けるように」

 

 俺の指示にコーラルが深く頷いて天幕を出ていく。

 

「ホープ、君は此処に残ってポンと共に全体の指揮を。基本は事前の計画に沿って、何か判断に困る問題が起こった時は俺とのパスを通じて伝達の力で指示を仰いでくれればいい」

 

 書類仕事をしている俺たちを、雑用などをこなして助けてくれていたホープに指示する。

 

「はい! 任せてくださいマスター!」

 

 ホープもすっかり明るくなったなあ。

 実に良いことだ。

 共に書類仕事をしていたポンにも視線を向ければ、頷きを返された。

 

「ガレス。君は避難場所になる此処の防衛だ」

 

 天幕を覗き込んでいたガレスに指示を出すと、ビシッと敬礼を返してきた。

 

「了解しました!」

 

 元気よく言ってから覗いていたことに申し訳なさでも感じていたのか逃げるように駆けて行く。

 そんなガレスを頑張ってねと見送ったキャストリアがこちらに向きなおった。

 

「それじゃあ、私たちはモースの排除だね!」

 

 キャストリアがぐっと胸の前で両手を握ってみせるのを見ながら俺も椅子から腰を上げた。

 肩を回して書類仕事で固まった肩を解して武器をストレージから取り出した。

 

「そういう事だ。可能な限り水際で数を減らすぞ」

 

 天幕を出て駆け出す。

 キャストリアとジャンヌ・オルタに追随して駆け出す。

 通りに沿っていくとちょっとタイムロスになるので、ジャンヌ・オルタとキャストリアに目配せをおくる。

 ジャンヌ・オルタは心得たように頷いて、キャストリアはちょっと戸惑った顔をした。

 

「失礼、レディ」

 

 ちょっと二世を思い出しながら気取って言って、戸惑うキャストリアの腰を抱く。

 冷静になると腰が引けそうなので、その前に容赦せずに地を蹴って空へと踊り出す。

 

「ちょっとおぉぉぉ!? 統夜ぁぁぁ!?」

 

 ジャンヌ・オルタもまた高く跳躍して街の建造物の屋根に飛び乗った。

 俺はそれよりもさらに高く跳び上がり上空に生み出した魔力の足場から港の方を俯瞰する。

 

「高い高い、怖い!」

 

 キャストリアが俺にがっしりとしがみついてくる。

 冷静になればこの位の高度は魔術でどうとでもなるだろうに。

 いや、流石に心の準備がなさ過ぎたか。

 

「このまま一気に港まで跳ぶぞ。舌を噛むなよ」

 

 今度は最低限の注意だけ行って、港の方へ向けて空を駆けた。

 視界の下方ではジャンヌ・オルタが建築物の屋根を跳んで港へと直進している。

 何度かの跳躍の後、港へとたどり着いた。

 港には結構な数のモースがたむろしている。

 

「もうちょっと! 心の準備させてほしかったんだけど!?」

 

 懐から魔術触媒を取り出しつつ苦情を言ってくるんだが、でもなあ。

 

「悪いな。一秒が惜しかったんだ」

 

 モースは突然湧いて出るから迎撃がどうしても後手になる。

 実際に海上で突然発生したモースを確認されてすぐに港に急行したのに、すでに港はモースであふれている始末。

 

「分かるけど! でも、あとで覚えてろぉ!?」

 

 はっはっは。

 その荒れた口調、なかなかにお冠だな。

 うん、まあ後で何か埋め合わせはするよ。

 俺から離れて地上に向かって墜ちながら触媒をばら撒くキャストリアに心の中で返事を返す。

 

 俺もまた空中で刀の柄に手をかけて魔力を通した。

 キャストリアの魔術によって眼下で複数の爆発が起こり、モースが吹き飛ばされて行く。

 討ち漏らされたモースに対して抜刀と共に魔力を解放して刃を飛ばす。

 視界にぽっかりと空白が生まれてそこにキャストリアと共に降り立った。

 

「ちょっと、数多くない?」

 

 背中合わせのキャストリアが思わずと言った様子で零した。

 確かに想定より数が多いな。

 このあたりも、何かのバタフライエフェクトか?

 

「そうだな。思ったよりは多い。だがまあ、この程度であれば問題はないだろ」

 

 倒しきれなかったモースが包囲の輪を狭めてくるが、包囲の外から猛烈な火炎が迸ってその輪を崩した。

 

「ちょっと遅れを取ったけど、かえっていいタイミングだったかしら?」

 

 炎の向こう側から少し遅れて追いついたジャンヌ・オルタが姿を現す。

 

「ああ、いいタイミングだ。俺は右から、二人は左からで頼む」

 

 ジャンヌ・オルタによって食い破られた包囲の穴を右と左に分かれて押し広げる。

 未だ半包囲と言った状態から徐々に切り崩して行き逆に俺と二人で挟み込む形に持っていく。

 至近のモースは刀で直接切り裂き、時に魔力によって伸長した魔力刃で薙ぎ払う。

 群れから離れて散って行こうとするモースは魔力刃を飛ばして切り裂いた。

 

 別れた二人の方に目をやれば、ジャンヌ・オルタが近づいてくるモースを旗で薙ぎ払い剣で切り裂く。

 キャストリアはバフをかけたうえで前衛をジャンヌ・オルタに任せて、その後ろから魔術でモースの数を減らしていった。

 とりあえず第一波はどうにかなりそうだが、問題は此処からだな。

 

 

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