Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
「いやはや、まさかこのような短絡的な手を取られるとは。今まで陛下との衝突を避けて慎重を期してきた貴方の行いとも思えませんな」
金庫城の一室に押し込めたスプリガンとの対面での彼の第一声がこれだった。
表面上は余裕を見せてはいるようだが、内心の焦りが透けて見える。
一応説明しておくと、厄災を祓ったあとに遅れて合流した円卓軍の部隊と共に金庫城を押さえたのである。
スプリガンは無血開城のていで鐘だけ鳴らさせて、街をモルガンによって滅ぼさせたくなかったら、という脅しでこちらに退去を求めたけど、まあ無視した。
俺が単独で動いている状態で、戦闘中も戦闘後も何もしかけてこなかった時点で、モルガンが俺との衝突は最大限避けようとしているのはほとんど確定的。
「問題はない。お前の名前で表面上はお前の策が成った様にモルガン側には声明を出すからな。巡礼の鐘も今はまだ鳴らさないならモルガンは動かないさ」
ぶっちゃけ鐘の現物がいつでも鳴らせる状態で確保できているのならば、慌てて鳴らす必要もないのだ。
鐘を鳴らすことによってキャストリアの力を底上げすることもできたりするんだが、現状戦力は足りているし。
嘘とバレバレの声明でも動かなくていい建前を作ってやれば、モルガンは動かないだろう。
「は……巡礼の鐘を鳴らさない? いや、それは……だがそれならば確かに、ならばこの現状は」
策士、策に溺れたなあ。
モルガンの手出し無用の厳命を軽く考えすぎだ。
スプリガンは元が普通の人間だから、そのあたりの感覚が鈍いんだろうな。
俺の今回の戦闘を見てもモルガンならば勝てる、あるいは勝敗はともかくとして俺がモルガンの存在に配慮するに違いない、と安易に楽観したんだろう。
「極論、武力部分での勝敗はすでに定まっている。ある意味でモルガンは最早、俺の共犯者に等しい」
モルガンは彼我の戦力差を正しく測れてしまった。
である以上は俺が妖精國の終わりを露骨に推し進めない形で動いている間、モルガンは全力で俺の動きを黙認するだろう。
たとえそれが、ほとんど現実逃避に過ぎないとしても。
これまでのモルガンの動きを見るにまず間違いない。
「モルガンは戦えば敗北が必至であることに気が付いている。だからこちらが決定的な動きを見せるまでは衝突を回避しようとしているんだ。それが今の彼女に出来る最大限の延命策だから」
うん、正直モルガンには凄くすまないことをしていると思っている。
俺に対する彼女の動きというか正確には動きのなさなんだが、そこからある種の諦観と、それでも少しでも妖精國にとってより長く生き残れる道を選ぼうとする意志が感じられて、本音を言うとちょっと胸が痛い。
「馬鹿な。それほどに戦力差があるというのですか? あのモルガン陛下を相手に?」
信じられないといった表情をするスプリガン。
まあ気持ちは分かる。
だが残念ながら事実だ。
「モルガンの今までの判断では証拠としては不足か?」
スプリガンは少し考えてから深く溜息をついて肩を落とした。
「読み違えましたか。いや、貴方の私に対する扱いを見るに、私は最初から詰んでいたわけですな」
まあ、そういう事だな。
「身も蓋もないことを言うなら日ごろの行いが悪かったな。お前は野放しにするには質が悪すぎた。悪いが盤面から排除させてもらう」
スプリガンは目を丸くして、それから苦笑した。
「ははは、日ごろの行いと来ましたか。そう言われては、返す言葉もない。……私はどうなりますかな?」
まあ、殺しはしない。
彼も妖精國の被害者ともいえるし、その行いの悪辣さも質の悪い妖精たちに対する報復と考えれば、あんまり責める気にはならないというか。
いや、でもそれでもちょっと悪質か。
比較的マシな妖精を騙しやすいからと狙い撃ちにしてる節があるからな、この男。
「そうだな、死ぬことはないだろう。最終的にはさて、妖精国ではない現実のどこかに流れ着くのか、あるいは生まれた場所に戻ることになるのか」
特異点が閉じたのちに彼についての可能性はどういった形で基底世界に落ち着くのか。
恐らく何らかの形で無理なく、彼にとっての本来の時間、俺達にとっての過去に差し込まれる形になるんじゃないかと予想するが。
「無責任な話ですなあ」
負けを悟って居直りやがったな?
妖精國で大した魔力もないのに裸一貫からずる賢さと忍耐力でここまで上り詰めた男だから、なんだかんだで図太い。
「お前に対する責任なんぞ俺にあるわけがないだろう」
「同じ人間だというのに、つれない話だ」
今度は共感や同情を求める方向か?
「あんたも外の人間であるならば、同じ人間だからなんてどれだけ白々しい言い草かわかりそうなものだけどな?」
人間ほど多様で、それでいて同族同士でいがみ合う生物も中々いないだろう。
これについては一応は同じ氏族なら大きく争わない妖精と比べても人間の方が明確にろくでもないと言える点の一つだからな。
「あーこれは、分が悪いですな。私も妖精ばかりを相手にしていたせいで気づかぬうちに鈍りましたか」
そのしぶとさは大したものだとは思うぞ。
「潔く負けを認めて大人しくしておくことだな。こう言ったらなんだが、その方がマシな結果になる」
その言葉だけは、しっかりと目を合わせて、ゆっくりと告げた。
スプリガンは息をのんで、しばし黙り込む。
ただの脅しというわけでもないという事は一応は伝わったようだ。
「貴方を止めなければ、この世界は消えてしまうというのに?」
なるほど、流石にその程度の話は伝えているのか。
しかし一方的に過ぎる言い方だな。
「この國の連中はモルガンを絶対視し過ぎなきらいがあるな。そもそもの話としてこの國はもうとっくに限界だ。お前なら薄々は気が付いているんじゃないか?」
また、しばしの沈黙。
状況の不穏さは元はと言えば妖精國の外の人間である彼には明白であったのだろう。
スプリガンは深く深く息を吐いて、座っていた椅子の背もたれに背を預けた。
「この國は、限界ですか。私の今までの時間も積み重ねも、すべて無駄になる訳ですか」
しわがれた声をこぼしたスプリガンは、一気に老け込んだかのようだ。
「私はそんな事にも気づかず、いや、違いますな。……ふ、なるほど、現実から目を背けていては、策などなるはずもなし」
この様子であればこちらがよほどの隙を見せなければもう変な気は起こさないだろう。
少し残酷だったかもしれないが、死という最悪の形で幕を引くよりはマシと思ってもらうしかない。
もう会わずに済ませたいもんだな。
この手の相手と話すのは疲れる。
「えっと、大丈夫?」
部屋を出ると気になって外で待機していたキャストリアが聞いてきた。
「まあ、少し話し疲れたくらいだ。大したことはないよ」
キャストリアがちょっと呆れたような目で見てくる。
「統夜って私に嘘が意味ないって分かっているのに、そう言う強がりは絶対言うよね」
それは、自分自身に言い聞かせている部分もあるからなので、見逃しておいて欲しい。
「そんなに疲れてまで話をする必要があったの?」
「ああ。必須だった」
これは本当の事だ。
スプリガンを盤面から排除できるかどうかは、非常に大きい分岐点になる。
まずオーロラの手札が減る。
FGO世界線ではスプリガンはオーロラを将来的な傀儡とする目的で色々と手を貸していたのだ。
またモルガンやバーヴァン・シーの死にも関与していた。
しかもかなり胸糞の悪い形で。
ただ、このあたりはすでに色々と差異が生まれているこの世界ではそこまで気にするものでもない。
しかし、そもそもの話として故郷に帰るすべがなく、今の自分の居場所となった金庫城に固執しているスプリガンとは必ず敵対する運命にある。
敢えてスプリガンのホームである金庫城に軟禁しているのは、ここに居る事が出来る分にはある程度の妥協が期待できるからだ。
実際に反発は想定の中では大分マシな方で少なくすんだ。
「それなら仕方ないけど。あんまり無理するようなら、ジャンヌさんに言うからね」
そいつは勘弁。
今はメルトリリスも合流しているし、すぐにシャドウフォートの面々とも合流することになるだろうから集中砲火を受けてしまいます。
ゆるされよ、ゆるされよ。
……うん、冗談でもあの六人の真似とかないわー。
反省しよう。
閲覧ありがとうございます。
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ちょっと投稿遅れてしまいました。
申し訳ない。
小話
スプリガンはあんまり戦いが得意でないタイプなので主人公とモルガンの力の差というものが良く分からない感じです。
どっちも自分から見ると化け物以上の化け物なので、その間にある差が良く分からないわけですね。
結果的により深く知っているモルガンの力に対する印象が勝ってしまって判断を誤りました。