Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
書類の束が、書類の束がまるで塔のように積み重なって、全然、減ら、ない。
くっそ、流石はスプリガン。
思った以上にちゃんと運営していやがる……!
「どうぞ、マスター」
書類に目を通しながらホープが淹れてくれたコーヒーを飲む。
「ありがとう、ホープ」
ホープは嬉しそうに目を細めると、他のメンバーにもコーヒーを配って回った。
全員が感謝しながら受け取って、コーヒーを飲みながら書類を処理していく。
端的に言って修羅場である。
あのヒストからして変態性を発揮せずに淡々と作業に打ち込んでいると言ったらわかってもらえるだろうか。
なぜこんな状況になっているのかというと、まずそもそもの話として、スプリガンが結構真面目に都市を運営していたために運営を維持する上で必要な確認が多いことが原因としてあげられる。
だが、それだけならここまで修羅場にはならなかった。
今の修羅場の一番の原因は、今回の厄災でノリッジを一度放棄するつもりだったスプリガンが、ここ最近の分の書類の処理をしていなかった点にある。
「モースの発生率の増加などの問題もありましたから、手が回らなかった部分もあるのは分かりますが……ネズミにでも変えて煮てやりたくなりますね……」
あの真面目なコーラルが怨嗟でも漏れそうな声色でつぶやく。
気持ちは分かる。
凄く分かる。
俺もしばらく座れなくなるくらいにケツバットでもしてやりたい。
でもそんなことをしている時間すら惜しい。
ちなみにハロバロミアは団員連中を指揮して復興作業中である。
何故こんな手間をかけるのかと言えば、このまま放置していると先々で街が全滅することになるからである。
思わぬタイムロス。
おのれ、やってくれたなスプリガン。
まあ、ただの八つ当たりだけどな!
そんな風に書類仕事をこなしながら益体のないことを考えていると、執務室のドアがノックされた。
返事を返すと扉が開かれてオベロンが入ってきて一瞬怯んだように足を止めた。
俺とコーラルとヒストに、今までにサーカス団に入った書類仕事ができる妖精に、ノリッジで俺たちに協力的だった文官など全員からの視線が集まったからだろう。
「……お邪魔だったかな?」
手元の書類をさっと読み終え、サインをして処理済みの束に重ねた。
「いや、むしろナイスタイミングだ。いくつか話したいこともあったしな」
言ってから残りのコーヒーを飲み干して席を立つ。
恐らくは応接間と思われる部屋に場所を変えて二人だけで向き合った。
「まずは円卓軍との繋ぎに礼を。おかげでスムーズに事が運んだ」
ノリッジに入った時にオベロンが別行動だったのはこれが理由だ。
シャドウフォートの方に合流してもらって円卓軍との交渉を助けてもらっていたわけである。
「うん、お役に立てたなら何よりだよ。そっちも見事な手並みだった」
笑って見せるが目線は中々に鋭いオベロン。
それもそのはず、何せ俺が抑えたムリアンは彼がちょっかいをかけていた駒の一つ。
この時点で俺は一手、返した形になる。
そして、今回のノリッジの事件に乗じてスプリガンも排除したからな。
とはいえ、俺が妖精國に来た時点で盤面はかなりオベロンに傾いている状態で始まっている。
オベロンは先代にあたる存在も含めればかなりの期間を妖精國で活動しているから当然の話だ。
だから大局を見れば、まだまだオベロンが優勢といえる。
まだまだやることは山積みというわけだ。
でも、今はとりあえずそのあたりの水面下の話は置いておくとして。
「で、話したいことってのは他でもない。ウェールズの妖精たちの避難計画を話しておきたいんだ」
ウェールズというのはオベロンの本拠地にあたる、妖精國から不要として排除された弱く小さい妖精たちの森。
オベロンからウェールズの話自体は聞いていたが、FGO世界線の主人公たちとは違って表立っては妖精國とぶつからずに動いていた俺達はウェールズには立ち寄っていない。
そんなウェールズの話を突然切り出されたオベロンは、目を丸くした。
「最初は戦略的に価値が低いから無視しているのかと思ってたけど、君と関わるにつれてそう言うわけじゃなさそうだとは感じてたんだ。でも、この話で確信したよ。君は、ウェールズを戦火に巻き込まないために関わりを持たないように立ち回ってきたんだね?」
まあ、そういう事である。
戦略的重要性が低いのは実際そうなんだが、本音を言えばウェールズの森とそこに住まう妖精たちには一度あって見てみたいという欲はあったのだ。
だが俺が興味を示して関われば、敵から見た時に戦略目標としての価値が生まれてしまう可能性があったのであえて関わる事は避けるしかなかった。
ただ、先々を考えるとノリッジと同じく手は打たねばならない。
そうしないと全滅の憂き目を見る事になるからだ。
呪いの厄災たるケルヌンノスが目覚めたその時に。
オベロンの肩に止まっていたカイコガに似た姿をした妖精のブランカが飛び立って俺の周りをくるくると飛び回る。
オベロンはその姿を見てかすかに微笑んだ。
「ブランカが君にお礼を言いたいみたいだ。……僕もお礼を言うべきかな?」
すぐに微笑みを隠して飄々とした顔に戻って言うオベロンに俺は肩を竦めた。
「白い姫君の礼はありがたく。それで十分だからオベロンの分は不要だ。もとより自己満足の為の行いだしな」
礼儀としてブランカの分の礼だけを受け取り、オベロンの分は固辞した。
言葉にしたすべてが歪むという呪いのような特性を持った彼にこれに関する礼を口にさせるのは、悪趣味に感じたからだ。
俺は、オベロンのウェールズという土地とそこに住まう妖精たちに対する複雑な感情を知っているから。
意図を察したオベロンはどこか複雑な表情を一瞬だけ見せて。
「そうかい?」
とだけ返した。
「避難先は円卓軍の本拠地のロンディニウムが良いだろう。勝手に話を進めて悪いが、彼らを受け入れられるように一部を改装するようにすでに指示を出している」
あまり深く突っ込むのも無粋なので、実務的な話に移った。
「恐らくこれから一度か二度、ロンディニウムは戦場になるだろうから、避難はその後だけどな」
なるべく戦いは避ける形で動いてはいるが、完全にゼロとはいくまい。
牙の氏族長のウッドワスあたりが中心になってキャメロットの生臭妖精あたりと共に声を上げるだろうし、そうなればモルガンとしても立場的に拒否は出来ないだろうからな。
これは俺だけじゃなくライネスも司馬先生も同意見であるのでかなり確度の高い未来と言って良い。
「そうだね。最低でも一度は戦いになるだろう」
そしてそこはオベロンとしても想定していた事なのだろう。
驚いた様子もなく頷いていた。
まあロンディニウムには司馬先生がいるし、シオンやBBも一緒になって城壁などに手を入れてもらっているから攻め落とすとなると難易度がちょっとヤバいんだけどな。
これについては、軍の指揮を任されるであろうウッドワスが憐れなくらいである。
なお攻めあぐねていると、そのうち俺が合流して背後から本営を強襲することになるわけだ。
何なら、俺が着く前に上手く攻めすぎると切り札としてメリュジーヌが放たれるというオマケつき。
「これで負けるようなら、私は軍師などと名乗れていないさ」
そう言った司馬先生は、猫の姿だというのに大層邪悪な笑みを浮かべているように見えたものである。
なおその時に傍にいたライネスもまた見るからに悪い笑顔を浮かべていた。
二人の顔を思い出しつつ、心中でウッドワスに合掌した。
「まあ、どうあれまだ先の話だけどな」
恐らく俺がオークニーの巡礼の鐘を確保するために、キャストリアと共に遠く北に離れたあたりのタイミングを狙ってくるんじゃないだろうか。
衝突を避けるように言われたのはあくまで俺に対してだ、とか言い訳して。
「あの山になっていた書類をまずは片付けないといけないだろうからね」
おのれオベロン。
急に目の前の現実に引き戻しおったな?
「楽しそうに言ってくれるじゃないか。なんだ、手伝ってくれるのか?」
おおん?
と心中で絡みつつ睨みつけると、オベロンはそそくさと立ち上がった。
「いやあ、流石に遠慮しておこうかな! それじゃ、僕はやらなくちゃいけないことがあるのでこれで!」
窓を開き、姿を小さく変えてブランカに飛び乗って、文字通り飛んで逃げた。
期待はしてなかったけどな!
まあ、オベロンの情報収集能力と人脈には助けられてるから良いんだけど!
でも、それはそれとして、今度会った時は絶妙に微妙な味のハーブティーでもてなすことにしよう。
そうしよう。
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小話
ロンディニウム攻略は、妖精國側から見るとひどいクソゲー仕様です。
城壁が強化されているからまず侵入が非常に難しいですし、密集しているとシャドウフォートの火力支援が降ってくる。
ウッドワスならともかく、並の妖精ならまずミンチ。
まあ、牙の氏族は後々の為にあんまり減らしたくないという意図もあって多分飛んでくるのはトリモチ弾的な何かになるんですが。
なお統夜が遠方に離れている時を狙ったとしても、彼が本気で移動した場合、妖精國程度の面積だと端から端まで比喩じゃなく秒で移動できるので、そもそも意味をなさなかったりもします。
しかも本編でも書いていますが、妖精國と比べても強化されているメリュジーヌが切り札として温存されているわけで。
うん、まあなんだ。
ごめんね、ウッドワス。