Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第86話   俺とキャストリアの旅路

 

 マンチェスターへの旅の途上。

 俺とキャストリアは野営を行っていた。

 焚火にかけた鍋からスープをすくって器によそい、キャストリアに手渡す。

 受け取ったキャストリアはスープを木の匙ですくって、息を吹きかけて冷ましてから口にした。

 

「うん、美味しい。やっぱり統夜って何気に料理上手だよね」

 

 少し笑ってそう言ってくるキャストリアに俺は肩を竦めてみせた。

 

「そう言うアルトリアは手先は器用なのに、料理は駄目駄目だったけどな」

 

 キャストリアがぐぬぬ、と唸る。

 この子はあれだ、典型的な無駄なアレンジを加えるタイプ。

 伊達にFGO世界線で生まれるべきではなかったチョコ生物を生み出していない。

 

「さ、最近は変な手を加えない分にはちゃんと作れるから!」

 

 変な手と分かっているなら、加えないようにするべきだと思うんですがそれは。

 実際魔術触媒とかちゃんと作れるんだから、変な欲を出さなければ大丈夫なはずなんだよ。

 

「ちゃんと手順を守れば美味しく作れるんだから、そうしてくれ。そこさえ守れば、根がどちらかと言えば大雑把な俺より上手になれる素養はあるんだからな」

 

 注意だけじゃなく、ちゃんと褒めるべきところは褒めておく。

 本人も言っている通り、最初に比べれば変な失敗はだいぶ減ったし腕も上がっているのである。

 キャストリアはちょっと照れた様子で、誤魔化す様に食事を続けた。

 俺もこれ以上突くようなことはせず食事を続ける。

 

「統夜はこの道中の間、何かずっと迷っているよね?」

 

 お互いに食事がすんだ頃合いをまっていたのだろう。

 二人ともに食事が終わったタイミングでキャストリアが真面目な顔でそんな問いを口にした。

 まあ、キャストリアなら気が付くよな。

 確かに俺は迷っている。

 

「そうだな。正直に言うと迷ってる」

 

 鍋や器を魔術で生み出した水で洗いながら素直に答えた。

 

「どんな悩みって聞いても良い?」

 

 一応、聞かれて困るような悩みではない。

 それに、マンチェスターにつく前に少し話しておくべきだろう。

 

「端的に言うと、問うべきか、問わざるべきかだな」

 

 それは同時に、バーゲストとマンチェスターの妖精たちを生かすのか殺すのかという選択に直結する。

 

「より踏み込んで言うならば妖精騎士ガウェインを死という断罪をもって救い、マンチェスターの妖精たちを滅ぼすのか。あるいは残酷でも贖罪を求めて、自身の治める土地の妖精たちについても責任を取らせるのか、だ」

 

 キャストリアにはすでにマンチェスターの妖精たちの所業については説明してある。

 その時のアルトリアの反応は、嫌悪感と怒りと、あとは諦観だった。

 予想はしていたが、やはり驚きはなかったあたりが労しい。

 

「……問うか問わないかでそれが決まるの?」

 

「決まる。問えば、きっとバーゲストは自ら贖罪を選ぶだろうからな」

 

 なお、バーゲストだけを殺す選択肢はない。

 俺はあそこまで歪んでしまった妖精にまで手を差し伸べるつもりはないからだ。

 バーゲストの命を奪うならば、彼らにはあと腐れなく死んでもらう。

 

「バーゲストの罪って何? マンチェスターの妖精たちの行いに気が付かなかったことじゃないよね?」

 

 ――――それは。

 

「それについては、俺から答えるつもりはない」

 

 もしも知る機会があったとしたならば、それは本人からか、自分で気が付くか。

 そうあるべきだろう。

 

「そっか、ちょっと間違ってたかも。統夜は迷っているんじゃなくて……」

 

 そうだな、問うべきだという事は分かっているんだ。

 ただバーゲストの事情を想うと、少しだけ胸が痛む。

 だから本当の所、俺はもっといい方法はないかと未練がましく考えてしまっていただけなんだろう。

 

「まったく。力ばかり強くてもできる事には限りがあるってことだな」

 

 まあ、力でどうにかなることについてなら、大体どうにかできるだけでも随分なインチキではあるんだけどな。

 

「……統夜はさ。もうやめたいとか、思ったことはないの?」

 

 そりゃあ。

 

「何度もあった。というか、最近だってそれなりに頻繁に勘弁してくれとかは思ってる」

 

 おや、キャストリアの目がまん丸く。

 

「何だ、素直に言わないと思ってたのか?」

 

 俺の問いにキャストリアは頷く。

 確かに普段なら適当に誤魔化すか、強がってみせていたかもしれない。

 

「わざわざ二人だけになれた時に、そんな顔で聞かれたらな」

 

 妖精眼でバレバレであるにしても素直に話すのは憚られる事ってのはある。

 でも、それだって時と場合にはよるのだ。

 

「俺が君に教えられる事は、そんなには多くない。それでも、しいて言うのなら、そうだな。たとえば自分にとっての優先順位を良く考える事とか」

 

 ちょっと説教臭いかな、と思いつつキャストリアの顔を見れば、どちらかというと説教臭さが気になるというよりも子ども扱いされている感じがしている時の顔をしていた。

 

「……あたりまえじゃないかって顔だな? でも、これが意外と分かってなかったりするんだぞ?」

 

 案外、自分自身のことが分かっていなかったりするのだ。

 特に余裕がない時なんかは見誤りがちだ。

 

「それこそ、君はなんで自分が使命を投げ出さないのかとか、自分でも分かってないんじゃないか?」

 

「それは……」

 

 実際の所としては、自身が思っているよりもキャストリアがまじめで優しく、意思も強いってだけなのだが。

 今までの経験で色々と自己肯定感が削られて卑屈になっている所為で自覚できていない。

 自分の弱さ、醜さをちゃんと自覚できているのは悪いことじゃないが、そればかり見ていては見えなくなる物もある。

 

「君は自分で思っているよりも多くの美点を持っているんだから、そこにもちゃんと目を向けたうえで、もう一度自分と向き合ってみるんだな」

 

 そうすればきっと、今よりも色々なことについて自信をもって選択できるようになるだろう。

 

「そして納得できる自分なりの理由を見つけると良い。君と俺の差なんて、いくばくかの年の功と、その理由を見つけているかどうかの差くらいのものさ」

 

 そう話を結んで、鍋をどかしてフリーになった焚火にケトルをかける。

 キャストリアは黙って目を閉じて考え込んでいた。

 しばらくの間、くつくつとケトルの中の湯が沸く音だけが周囲に響く。

 湯が沸騰してケトルが笛を吹いたような音を上げ、同時にキャストリアが目を開いて深く溜息をついた。

 

「……すぐには難しそうだけど、色々と考えてみる事にする」

 

 沸騰した湯でコーヒーを淹れて、それぞれのカップに注いだ。

 そして、キャストリアの分にはミルクと砂糖をたっぷりと入れて手渡した。

 

「そうすると良い。焦る必要はないさ。今の君は一人じゃないんだからな」

 

 カップを受け取ったキャストリアはふんわりと微笑んで小さな声で、うん、とだけ答える。

 そのあとは難しい話はせずに、夜空を眺めながら他愛のない話をした。

 

 妖精たちの酷い所であるとか。

 逆に、時々同じ種族とは思えない良い妖精が居たりして驚かされる事とか。

 今までに訪れた街の感想を話したりもした。

 

 あとはサーカスの仲間たちの話も盛り上がった。

 アンは土の氏族だけあって大道具の仕事は大したものだけど、舞台の上にあげるとてんで駄目だとか。

 ポンが意外にも楽器が上手で驚いたとか。

 そしてタンがあれで面倒見が良いのは中々に詐欺臭いよな、なんて二人で笑いあった。

 

 それはマンチェスターにたどり着く少し前の、静かな夜の出来事。

 空気を読んだのかと思うくらいに獣やモースの襲撃もなく、心ゆくまで語りつくした。

 気が付けば空は白み、夜通し話してしまっていたことに気が付いて顔を見合わせてまた二人で笑った。

 その後、交代で見張りをして仮眠をとり、俺達はマンチェスターへと旅立つのだった。

 

 

 

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