Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第87話   私と終わりを導く男

 

 モルガン陛下に見いだされて妖精騎士ガウェインとなってから随分な時が過ぎた。

 相変わらず氏族間が不仲な問題は残ったままで、厄災もまた繰り返し起こっていたが、それでも大きな問題はなく妖精國は続いている。

 いつまでも変わらずに続いていくと思っていた世界に僅かな変化の兆しが見え始めたのはごく最近だ。

 

 モースの数が厄災の時期が近いことを差し引いても異常に増え始めていた事と、もう一つ。

 鏡の氏族が残した予言の時が近づいていた事。

 16歳の予言の子を狩りだすために様々な方策がとられたが、何しろ決して外れないとさえ言われていた鏡の氏族の予言であったので妖精たちの口からその予言はいまだに期待をもって語られていた。

 

 これにはモルガン陛下の治世が非常に苛烈で厳しいものであったことも関係していただろう。

 陛下には少なくない恩があり、敢えて考えないようにはしていたが、そんな私でも時に思うことがある。

 その治世は妖精國を存続させるためのものであっても、妖精たちの為のものではない、と。

 

 しかし、恩の事を別にしても今の私は妖精騎士ガウェイン。

 その名に恥じぬ騎士として、忠義を尽くさねばならない。

 微かな不安や不満、変化の兆しのようなものはあれども、私はそれでも妖精國はこれからも変わらずに続くのだと思っていたのだ。

 

 だが、その日は唐突に訪れる。

 妖精國のどこからでも見えるような光の槍が妖精國の近海に何度も突き立ち、遠く遠雷の様な音が木霊した。

 私の治めていたマンチェスターの妖精たちも不安げにし、街では多くの憶測が飛び交う。

 そんな中、私のもとにキャメロットへの召喚命令が届いた。

 

「この妖精國に、外界よりの来訪者が現れた」

 

 あまりにも厳しい、私たちでさえ一度も見た事がないくらいに厳しい顔をしたモルガン陛下が、儀礼すら置き去りに口を開いて、その場にいたすべての妖精たちは驚愕する。

 私が知る限りでは、初めての事だった。

 思わずほかの妖精の顔を窺えば、やはりただの一人の例外もなく驚き、私と同じようにほかの妖精の顔を窺うものもいた。

 

「厳命する。この来訪者たちに対し、こちらから敵対することまかりならず」

 

 冷厳に告げられた命に対する反応は混沌を極めた。

 驚くもの、興味深げにするもの、反発するもの、ただ唯々諾々と受け入れるもの、それぞれがそれぞれの反応を返す。

 しかしその混乱によるざわめきも、陛下が床を杖で打った音でぴたりとやんだ。

 

「特に、この者との敵対を固く禁ずる。良く顔を覚えておくように」

 

 そう言って魔術によって生み出された幻影の姿を私たちは見た。

 美男と言って良いだろう容姿に、黒髪、強い意志を感じさせる瞳に、どこか飄々とした表情。

 それを見たその時は、この場にいた誰一人考えもしなかっただろう。

 この男が鏡の氏族の予言すら超えて、この妖精國の幕を引く事になるかもしれないなどと。

 

 だからその後の話は、思えば随分と悠長な内容であった。

 相手から接触があった場合どうしたら良いのか、相手から攻撃された場合は反撃は許されるのか、逆に友好関係を結ぶのは構わないのか、などなど。

 まったくもって、笑い話だと言っていい内容だ。

 

「その、件の男が妖精たちで構成されたサーカスを引き連れてソールズベリーに入ったという情報が……」

 

 言いにくそうに配下が告げた言葉に、あの陛下が本気で怪訝そうに首を傾げた時は、不敬にもついついこの方もこんな顔をすることがあるのだなと思ってしまった。

 それが起こったのがモースの討伐の報告でたまたま私が登城していた時だったのである。

 

「サーカス? 何故サーカス?」

 

 小さく囁かれたその困惑の声が変わり種とはいえ牙の氏族である私にはしっかりと聞こえた。

 私としても同じように不思議に思ったのを覚えている。

 陛下があれほど言葉を選ばずに言えば恐れている相手が、何故か妖精たちを引き連れてサーカスをやっているのである。

 正直、訳が分からなかった。

 

 その後の情報も良く分からないものばかりだった。

 何故か予言の子と疑われる妖精を連れているとか、元はと言えばはぐれた妖精たちで構成されていたサーカスに、立ち寄った街で新たな妖精たちが参加しているなんて話も入ってきた。

 何故か入団の儀式として、地面に頭から植えられるなんて噂まで同時に届いて、流石にそれは何かの冗談だろうと思ってたら、本当の話だったりしたこともあったな。

 

「入団の儀式というか、いらぬちょっかいをかけた妖精を地面に埋めてから配下に降している感じみたいですけどね」

 

 サーカスが訪れていた時期にムリアンの話した内容を聞いて、理解できるようなあんまりしたくないような話だな、と思った。

 予言の子を連れながら、いまだ一度も鐘を鳴らしていないことを不思議に思ったりもした。

 しかし、この頃にはモルガン陛下は相手の思惑に一定の予想が立てられていたようで、サーカスのことについても鐘を鳴らさないことについても、特段疑問に思っている様子がなかった。

 

 そして、ノリッジの一件である。

 厄災だまりから生まれた巨大な呪いの影を、あの男が言葉通り一蹴したというのだ。

 倒れ込むだけでノリッジを壊滅させるような影をただの蹴りの一発でのけぞらせて、手にした剣で周囲の海ごと消滅させたという。

 引き連れたサーカス団は住民の避難を助け、その後は合流した予言の子を担ぐ円卓軍と共にノリッジの復興に精を出しているらしい。

 

「スプリガンは捕らえられたな。……力だけの男ではなかったか。それとも優秀な参謀でも付いているのか?」

 

 ノリッジからはスプリガンの名義で報告が挙げられていたが、陛下はその内容があの男によって捏造されたものだと考えているようだった。

 しかし、あえてそれを咎める事はしないようだった。

 ノリッジの件で強いというのは分かったが、そこまで恐れるほどであるかはまだ私には疑問だったが、基本的に妖精國に対して害はなしていないし、囚われた相手はあの油断ならないスプリガン。

 

 むしろノリッジは彼らに治められる方がマシなのではないかとすら思ったので私も特に口出しはしなかった。

 他の氏族長達なども特に異論をはさまなかったあたり、日ごろの行いの結果がにじみ出ている様な気がした。

 正直、彼らの行いはむしろ正義のそれであり、妖精を助け、またサーカスによって楽しませている彼らに私は少しの好感すら抱き始めていたのかもしれない。

 

 しかしそれは、過ちだった。

 私は、私たちはあまりにも無自覚だったのだ。

 彼の力にも、彼の意思にも、そして何より、自分たちの罪に対して。

 最早、すべては手遅れだった。

 

 いいや、とっくの昔に、あるいはこの國の始まりから、きっと手遅れだったのだ。

 それを知っていたのは、私たちの中ではモルガン陛下ただ一人で、私たちは陛下だけに全てを背負わせていた。

 だから、これは私たちの受け入れるべき結末なのだろう。

 私はその日、彼に負けて、それを思い知ることになった。

 

 

 

「ガウェイン様。その、お話にあった例の男と住民の間でトラブルが」

 

 ノリッジの厄災からしばらくして、部下からそんな報告を受けた私は頭痛を覚えながらも急いで現場に急行した。

 現場にはなんというか、何本かの足が地面から生えていて、あの噂は本当だったんだなと、実感として理解する羽目になった。

 とりあえず部下たちに埋まっている妖精たちを助けてやるように指示しながら、その男の前に立った。

 

「街の住民が無礼を働いたようだ。領主として謝罪しよう」

 

 ここ最近の妖精國の混乱の渦中というか、渦そのものと言ってもいいであろう男と真正面から対峙する。

 その男は一見すると優雅に道の端に腰かけていた。

 容姿が良いことも相まって実に絵になる様子だった。

 腰かけているのが地面に埋まっている妖精の上でなければだが。

 

 私が来るのをずっとその状態で待っていたのだろうか。

 何なら手にはコーヒーの入ったカップすらあって、その横では困ったような呆れたような顔の妖精が立っている。

 情報通りなら、恐らくは彼女が予言の子だろう。

 

「遅かったな。危うく椅子になっている彼の腰がやばいことになるところだ」

 

 そう思うならば座らないでやってほしいと思うのは間違っているのだろうか。

 他の妖精たちの足はなぜかぴんと立っているのに、椅子にされている妖精の足だけ倒れているのは、座りやすくするためか?

 そうだとしたら、なんというか、今まで思っていたのとは別の意味で恐ろしい男だな。

 

「まあ、冗談はこのくらいにしておくか」

 

 そう言って男は立ち上がると、軽々と埋まっていた妖精を地面から引き抜き、妖精たちを救助していた私の部下たちに引き渡した。

 

「その相手の絡み方も確かに質が悪かったけど、統夜ってそう言う時は本当に容赦がないよね」

 

 微妙に慄くように予言の子が言えば、統夜と呼ばれた男は軽く肩を竦めるだけで答えとした。

 少し住民たちに教育を施したほうが良いのだろうかとも思ったがとりあえずそれは横に置く事とする。

 

「詫びもかねて、私の屋敷に招待したい。受けてもらえるだろうか?」

 

 モルガン陛下からの厳命もあるし、私としてもこんなことで彼らと敵対することは避けたい。

 予言の子が男の方に目を向けると男は頷いた。

 

「わかった、その招待を受けよう」

 

 

 

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