Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第89話   彼女の罪と罪に埋もれた愛の意味

 

 バーゲストとの決闘に勝利した後。

 

「それ、首輪である意味ある?」

 

 露骨なジト目でキャストリアに詰められたが、俺は動じなかった。

 

「割と真剣に意味がある。……実際問題、俺としても悪趣味だと思うから他の形状も試行錯誤はしたんだけどな」

 

 結果として、予備の別の妖精に必要になった場合のアイテムは、チョーカー型に落とし込めている。

 ただ、バーゲスト用は無理だったのだ。

 単純に魔術的な拘束強度が足りなかったというか。

 

 致命的な首という場所を絞めるという形で押さえる事による効果がまず概念的に結構重要である点が一つ。

 予備が結局は首にかけるチョーカーという形に落ち着いたのはこれが理由だ。

 そして動物、特に犬という属性を持っている存在に一種の特効を持ちうる首輪という形状である事による効果の増強が馬鹿にならなかった。

 というか、災厄の一つたり得るポテンシャルを持つ黒妖犬の妖精のバーゲストを縛るうえでコレは必須だった。

 

「嘘を言ってる色じゃない、というか、言い方がそもそも妖精眼で見るまでもないくらいに不本意げ……ゴメン、ちょっと変な趣味があるのか疑った」

 

 キャストリアが申し訳なさそうに素直に謝ってきたが、別に咎めるつもりにもなれなかった。

 

「いや、俺も絵面とか色々考えたからこそ回避したかったわけだしな。そこは突っ込まれても仕方がないと分かっているから気にしなくていい」

 

 むしろそこでシレっと流された方がショックだったまである。

 だって、それってそこで突っ込みが入らない様な認識を持たれてるってことだし。

 さて、少し緩い話を済ませたところで。

 

「それじゃあ、俺はバーゲストと街の事を片付けてくるから、アルトリアは――――」

 

「ついて行くからね?」

 

 圧強いじゃん?

 絶対にやめた方が良いと思うんだけどなあ。

 

「はぁ、言っても聞きそうにないな。後悔するなよ? あと、バーゲスト。君は覚悟を決めろ」

 

 俺たちの会話を決闘で無理をした自分の状態を確認しながら聞いていたバーゲストに改めて忠告する。

 何しろこれからするのは、控えめに言って地獄めぐりだからな。

 

 

 

 扉を破って突入する。

 バーゲストの配下の騎士は連れて来ていない。

 血に当てられて変な風に暴走されても困るしな。

 

 まあ、要するに。

 扉の先は、そんな心配をしなくてはいけないくらいに、吐き気を催すほどの血臭に満ちていた。

 突然に現れた俺に驚いて振り向く複数の妖精たちに肉薄して、その顔を掴み容赦なく地面に叩きつけて埋めた。

 今回に関しては、男女の別なく。

 

 地面に上半身が埋まって動かなくなった妖精たちは無視して、ソレに目を向けた。

 背後で、息をのむ音が二つ。

 だが、今はそれも相手にする時ではない。

 

 最早、残骸としか言えない様なそれは、それでもまだ生きていた。

 きっと、より長く楽しむためなのだろう。

 妖精たちが何らかの手段で延命していたものと思われた。

 

 息はある。

 しかし、すでに精神は機能していない。

 もしまだ間に合う被害者が一人でもいたのであれば、俺はもっと早くにこの街を訪れていた。

 そうしなかったという事は、つまり、そういう事である。

 

「こんな、こんなのって――――」

 

 事情を事前に知っていたキャストリアが、それでも泣きそうな声で言っているのが聞こえた。

 だから来なくていいって言ったんだけどな。

 バーゲストの方は、怒りの気配のみ。

 言葉すら出ないと言った感じか。

 

 でも今は、この人物が先だ。

 性別すらも分からない有様の人物の前に立つ。

 

 ――――つらかっただろう。

 怖かっただろうし、苦しかっただろう。

 そして、何もかもが憎かったに違いない。

 俺がこの世界に来た時点で、とっくにそれらを感じる機能が破壊されていると分かっていたからといって、後回しにするべきではなかった。

 

「――――」

 

 謝罪の言葉を口にしそうになって、口をきつく結んだ。

 卑怯だと思うからだ。

 きっと、その謝罪は自分への慰めの為の言葉でしかない。

 この街を後に回すと決めたのは俺で、これは軽くして良い痛みではない。

 

 無意味と分かっていて、回復薬を使った。

 瞬く間に体は元通りになり、彼女だったその人物に俺はストレージから出した布をかけた。

 目は虚ろなままだ。

 やり方によっては精神を再構築することもできるかもしれないが、それはむしろ喪われた彼女に対する冒涜の類だろう。

 彼女の額に手をかざした。

 

「――――おやすみ」

 

 ただ一言だけ。

 なるべく優しく告げて、一切の痛みを与えずに彼女を送り出した。

 そして、二度とその体が辱めを受ける事がないように魔術によって消却する。

 最後に冥福と、来世があるならばその幸福を願った。

 

 ある家ではすでに死体となっていた人間が半端に食い散らかされていたりしたこともあった。

 またべつの家では反応がなくなって飽きたのか、忘れ去られた様に置き去りにされて飢え死んだような遺体があった。

 ただ血の跡だけが残っていた家もいくつか。

 

 結局、体をまともな状態に整えられたのは半分以下だ。

 途中でキャストリアが泣きそうな顔で止めてきたが、全て自分の手で送り出した。

 

「だって、これは、統夜がやらなきゃいけない事じゃないでしょう?」

 

 それはそうかもしれなかったけど。

 泣きそうなキャストリアにこんなことを言うのは気が引けるんだが、それでも。

 

「そうだな。やらなきゃいけない事じゃない。でも、これは、やりたいことだ」

 

 泣かせてしまうかな、と思ったがキャストリアは泣かないでくれた。

 こちらに音が聞こえてきそうなくらいに歯を食いしばっていたが、それは仕方がない。

 

「何だ、これは――――。いったいどうして、こんな真似を。こんなことになっていて、私は今まで――――!」

 

 すべてが終わった後、血を吐く様な声でバーゲストが言った。

 途中で彼女も俺と代わろうとしたのだが、彼女には一切の口出しも手出しも禁じていたのだ。

 自分の街の住人の悪魔の如き所業の結果をただ見るしかなかったのは悪かったとは思う。

 しかし、あまり言いたくはないのだが、彼女には被害者を送る権利はなかったのだ。

 何故ならば。

 

「妖精たちがこんな真似をした理由がわからないか? 君の行為が、他の妖精たちに目撃されていたからだ。彼らはそれがとても魅力的な行為に見えて真似したわけだな」

 

 なるべく事実だけを言ったつもりだったが、ひどく冷たいきつい言い方になっていたかもしれない。

 とはいえ、流石に勘弁してほしいとも思う。

 他にどう言えというのか。

 色が抜け落ちたような表情に変わったバーゲストを見ながら、つい内心で言い訳をしてしまった。

 

「は――――? え、そんな、え?」

 

 首輪が光を放ち明滅している。

 狂う権利を奪うという、その縛りを守るためだろう。

 彼女の腕が動こうとしてより首輪に強い光が奔ったのは、衝動的に自らの首をへし折りそうにでもなったのか。

 

「ああ。あぁぁぁぁあぁぁぁあぁ!?」

 

 最初に崩れるように膝をついて、そこからさらに地面へ手をついた。

 だが、その手にすら力はなく、顔が地面へ。

 バーゲストはそれを気にする様子もなく、泣き叫び、力の入っていなかった手が、今度は地面を掻きむしった。

 

「バーゲスト!? 統夜、今の言葉ってどういう意味!? バーゲストがこんな風になるって――――!?」

 

 今の俺は、どんな表情をしているんだろうか。

 詰め寄ろうとしたキャストリアが、思わず足を止めるくらいだから、相当ひどい顔ではあるんだろうな。

 あるいは、表情というより妖精眼で見た色がひどいのか。

 まあ、そうだろう。

 実際、最悪の気分である。

 

「悪いが、俺からは言えない。……どうする、バーゲスト?」

 

 彼女が、言いたくないと、そう言ってしまえる性格だったなら俺としても、もっと気が楽だったんだけどな。

 掻きむしった地面の土を握りしめて。

 嘆きの叫びを飲み込んで。

 

「話す。話さねばならない。私は、死ではなく、贖罪を選んだのだから――――」

 

 絞り出すように彼女は言った。

 だが、ここで話すような事でもないといって、バーゲストは立ち上がる。

 その顔はまるで死人の様な色をしていたが、表情は決然としたものだった。

 最後の家から離れ、俺達はバーゲストの家に。

 

 家に入ったバーゲストは俺達を伴ってまっすぐに一つの部屋に向かった。

 扉を開いて部屋の中に入り俺達を招き入れる。

 綺麗に整えられた部屋は、しかしどこか寒々しく、つもったほこりがしばらく人が出入りしていないことを示していた。

 

「ここって――――」

 

 キャストリアの問いに、バーゲストは瞑目してから、深く息をして口を開いた。

 

「私の恋人の、アドニスの部屋だった場所だ」

 

 そうして語られるのは、バーゲストの罪の話だ。

 彼女が恋多き妖精であったこと。

 多くの妖精たちと愛を交わしたこと。

 最後の恋人、アドニスとの話。

 

 ――――そしてその恋の最後は全て、自分が恋人を食い殺して終わっているという、残酷な結末の話。

 

「アドニスは体が弱かった。弱く小さい彼なら強さを求める私の捕食対象になりえないと思った。でも、私は結局、愛する者を愛しているがゆえに食べてしまう卑しい獣でしか無かった――――」

 

 概ね、その通りではある。

 だが一つだけ。

 それを知る者として、訂正しなければならない。

 バーゲストの為ではなく、彼女を愛した彼の為に。

 

「君の愛が捕食の欲求と深く結びついている事は確かだろう。だが、君がアドニスを食べた理由はその欲求だけが理由じゃない」

 

 バーゲストが驚いた顔で俺を見た。

 

「何故俺がそれを知っているのかというのは、説明が面倒だからとりあえず省く。よく聞けよ、バーゲスト。君が彼を食べずにいられなかったのは、愛していたからというだけじゃない。彼の心の強さに気が付いたからだ」

 

 捕食欲求も、食べてしまった事実も変わらない。

 しかし、そこに横たわる意味は変わり得るのだ。

 

「彼が君に無抵抗に食べられたのは、弱かったからじゃない。彼は自分が長くないことを知っていて、寂しがり屋の君を独り残して死ぬくらいなら、君の糧となってずっと一緒にいようと、そう望むくらいに君を愛していたから、抵抗することなく食べられることを選んだんだ」

 

 バーゲストは、信じられないという顔をしている。

 こういう時、妖精眼を持っているキャストリアとのコミュニケーションの便利さに気づかされるな。

 嘘か本当かというのを一発で理解してもらえるというのはやっぱりでかい。

 

「辛くとも、よく思い出せ。彼の事を、彼らの事を。君以外の誰が、その愛を忘れずにいられるというんだ」

 

 同じ男として、そこは主張させてもらって良いと思うのだ。

 

「すべてを辛いだけの記憶として遠ざけるのは、あまりに寂しいだろう? 彼らの事を全て過去の思い出として封じる時が来るとして、それはきっと君が幸せになれた時であるべきだ」

 

 だから俺は、彼女から贖罪だけに生きる権利を奪った。

 残酷でも幸せを得る可能性を奪わなかった。

 アドニスに限らず、そこには確かに愛があったはずだと信じたからだ。

 

「君には愛の痛みだけじゃなく、愛の温かさも、胸に抱き続ける権利がある」

 

 俺の言葉を聞きながら目をつぶっていたバーゲストは、言葉の終わりと共に目を開いて部屋のベッドの方に振り返った。

 手を伸ばして、フラフラとそちらに歩いて、膝をついて、ベッドのシーツを握りしめて、嗚咽をこぼし始めた。

 アドニス、と。

 もういない愛する者を呼ぶ声が聞こえた気がした。

 

 その姿に背を向けて、ずっと何も言えずにいたキャストリアの手を取る。

 はっとした顔をしたキャストリアに頷いて手を引いて、部屋を出た。

 そうして扉を静かに閉じた。

 少しだけ、一人にしよう。

 彼女には、それくらいは許されていいと、そう思う。

 

 

 




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ダウンしていて昨日は投稿できませんでした。
申し訳ない。


小話

自分の行為を見られてしまった事によって起こっていた悲劇に気づけずに、多くの犠牲を生んだことについては問題が確かにあると思うのですが、恋人との間の事は個人的にはあんまり罪と言いたくない部分があります。

バーゲストは魅力的な妖精ですし、彼女が惚れるような妖精ですから相手もきっと見どころのある妖精だったんじゃないかと思うんですよね。
だから、最後は食い殺されてしまったとして、彼らは申し訳なく思う事はあっても、恨んだりはしなかったんじゃないかなんて思うのです。

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