Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第9話    悪魔憑きとチートと強化魔術

「それで、幼女趣味の我が弟子は、幼女をさらってくる以外の成果は何か得てきたのかな?」

 

 カレンを寝かしつけた後、俺はライネスとの情報交換の場でいじられていた。

 なんだかんだ、被虐霊媒体質による怪我の事や、急な状況の変化に疲れていたと見えて、カレンの寝つきは早く、眠りは深いようであった。

 

「だから幼女趣味じゃないっての」

 

 思わず前世分の年齢も加味した感覚で過剰反応したのは失敗だった。

 俺の今の体との年齢差を考えればそこまで気にすることじゃなかったんだよなあ。

 軽く流すべきだったんだ。

 ライネスも、今にして思えば冗談のつもりだったんだろう。

 しかし、過剰反応したせいですっかり嬉々としてつついてくるようになってしまった。

 

「そうかな? 私についても、この歳じゃなかったら初めて出会った時、見捨てられていたような気がするんだが?」

 

 まあ、大人の魔術師なら自己責任って感じに、あえて関わらなかった可能性は確かにあるが。

 

「子供を見捨てるのは、寝覚めが悪いだろうが」

 

「魔術師らしからぬことを言う。いや、実際に君の自認としては魔術師というわけではなかったわけだし、当然か。まあ、そういう君だから、私とも今の関係に至ったわけだし、いじるのはこのあたりで勘弁しておこう。……拾ってきた以上はちゃんと面倒を見ろよ?」

 

「分かってる。とりあえず、カレンにかかる諸経費は俺の給金から引いてくれ。屋敷に戻ったら、服とかいろいろ揃えてやらないとだな」

 

 俺が頭を掻きながら言うと、ライネスが眉をひそめた。

 

「そこから用意が必要なのか? どんな扱いだったんだ」

 

「ほとんど丁稚っていうか。まあ、清貧を旨とする教会の孤児の扱いとしては普通の範囲ではあるんじゃないか」

 

 服なんかは最低限だが、食事はちゃんと十分に与えられていたようだし。

 ただし、愛情の類は一切与えられていなかったと思われる。

 あの年齢の子供が、他者に何の期待も持っていない目をしているとかいまだに腹立つ。

 もっと詰めておけばよかった、あの神父。

 

「そっちの話はまた後でするとして、魔術師の件についても進展はあったぞ」

 

 考えていると、まだちょっとイラっと来るので話を切り替える。

 なお、この進展はほとんどカレンの手柄と言って良かった。

 倒れていた場所の付近で、最近まで見かけなかった怪しい人間に心当たりはないかとカレンに聞いたら、見事にそれらしい人物がヒットしたのだ。

 ただこれによって、魔術師と悪魔の相関関係はほぼ確定となった。

 

「被虐霊媒体質といったか? それほどの精度なのか?」

 

 カレンの体質についてはカレン自身とライネスに話した。

 当事者であるカレンにはちゃんと知っておいてもらう必要があったし、表向きの庇護者になるライネスも同様だ。

 

「悪魔についてはまず外れないと思っていい。あれはそういう体質だ」

 

「本当に妙な知識ばかり豊富だな、君は。しかし、教会から引き離したのは正解だな。あのまま教会に属していても、その体質では、まずろくな未来はなかっただろう」

 

 そうだね、まさにその通りで、しまいには人間の形も保っていないような末路らしいからね。

 悪魔探知機として生きて、その際の霊障で徐々に人間の姿を失っていくとかなんとか。

 本人の性格的に普通にそれを受け入れていたっぽいのが、かえって救いがない。

 

 まあ、その未来は、もういなくなった!

 ってやつなんだけど。

 いなくなったというか、可能性がなくなったというか。

 聖堂教会にカレンの異能に代わる悪魔の探知手段は用意しないとなんだよなあ。

 ちょうどいい機会だから、今回の悪魔には役に立ってもらうとしよう。

 

「ライネスが依頼主から聞いた詳細にあった人物とも特徴が一致しているから、まず間違いない」

 

「だろうな。流石にこれで別件という事はないだろう。いつ仕掛けるつもりなんだ?」

 

「今日、今から」

 

 その魔術師が悪魔を使役しているのか、力を借りているのか、あるいはすでに乗っ取られているのか。

 そのどれであっても、さっさと片付けないと面倒なことになるのが目に見えている。

 すでに探査の為のドローンを複数、カレンが倒れていた路地周辺に放っているのだ。

 そして、今まさに、相手を捉えた。

 

「網にかかったな。じゃあ、さっさと片付けてくるわ」

 

「君の事だから心配は不要だろうけど、一応、気を付けるように。あと、あまり派手にやりすぎるなよ」

 

 心配するか、注意するか、どっちかにしない?

 まあ、多分に照れ隠しが混じってるのは分かるけども。

 そんなやり取りがあった後、すっかり夜の更けた街へと俺は飛び出して行った。

 

 

 

 

 そいつを見つけるまでに時間はかからなかった。

 魔術師ってやつはなんて言うか科学の産物を軽んじるところがあるから、この時期まだ存在していないドローンのしかもSF仕様のステルス付きなんて完全に思考の外。

 おかげで追跡は非常に容易だ。

 ドローンからの情報をもとに先回りして路地で待ち受ける。

 

 まんまとやってきたそいつは、表面上は驚いた様子を見せた。

 でも、実際のところはどうだろうか。

 俺にはいまいち、この男がもう、人間には見えないんだよなあ。

 

「ここの霊地を管理している魔術師の使いかな? 私はもう、ここを離れるつもりなんだ、見逃してはもらえないかな?」

 

 血の匂いが濃いし、気配の質が人のそれじゃない。

 周辺の人払いを事前に済ませておいたにせよ、音の反響がなさすぎるというか。

 奴の周りの空気の質がどうにも異様だ。

 

「猿芝居はやめておけよ、悪魔憑き。お前は明らかに人界にあだなす類だ。見逃す気はねえよ」

 

 俺の言葉に、その男の口が、裂けるかのように歪な笑みを形作った。

 

「ばれた」「ばれたな」「ばれたか」

 

 口は一つなのに声が三重に重なって聞こえた。

 そういえば、イタリアにはそんな悪魔の伝承がいくつかあるんだったか?

 割と典型的な、人に憑いて伝承の皮をかぶった類。

 型月世界でいう所の、真性の悪魔ではない偽物の悪魔だな。

 

 ともかく悪魔は確定、依り代になっている魔術師はもう手遅れとみて良いし、そもそもこいつ、悪魔を呼び出すために何人か犠牲にしていた節がある。

 加減は不要だろう。

 一気に踏み込んで、ボディーブローを叩き込む。

 ゴムタイヤか何かを叩いたような感触。

 俺の力で、手応えがこれってことは、体からしてもう人間のそれじゃないな。

 

「なんだお前」「おかしい」「みえない」

 

 なんか、ダメージとは別の所で動揺してるな?

 見えない?

 疑問を感じつつも攻撃を仕掛け続けるが、有効打が入っている感じはなかった。

 

 まさか、こんな早々と実戦でつかう事になるとはな。

 吸血鬼の次は悪魔とか、俺の引きは一体どうなっているのやら。

 強化魔術を全身に巡らせて、最初と同じようなボディーブローをうち放つ。

 

「「「ぎゃぁぁ!?」」」

 

 よし、ちゃんと通ったな。

 相手が痛みに怯んだのをこれ幸いとラッシュを仕掛ける。

 悪魔付きの体はあちこちが吹き飛んでボロボロになっていくが、三つの声が人間には聞き取れない呪文のようなものを唱えると逆戻しのように元に戻っていった。

 

 回復じゃないな。

 服まで元に戻っている。

 時間の巻き戻しか、因果の操作か。

 

「やっぱり過去が見えない邪魔される」「現在はかろうじて見えるがぶれる」「未来はノイズしかない」

 

 過去、現在、未来をそれぞれ見ている感じか。

 これはあれだな、過去と現在と未来についてを叫ぶとかいうマロケファルスあたりが伝承の元だな?

 発言に気になるところはあるが、ネタは割れた。

 

「見ている現在と過去の入れ替え、ってところだな?」

 

 おっと、そこで黙るのは良くないんじゃないか?

 図星ですって言ってるみたいに見えるぞ?

 そういう事なら、話は早い。

 要は一撃できっちり仕留めればいい。

 現在に立脚する、見ている主体が完全に消えてしまえば、入れ替えも何もないだろう。

 

 ドローンから、解析完了の連絡が入る。

 時間稼ぎは済んだ。

 いわゆるアイテムボックス的作用のある量子ストレージから、本来ならパワードスーツ装備の状態で使う武器を呼び出す。

 今の強化魔術を使っている俺なら、生身でも使えるだろう。

 

「『ホロウ・ピアッサー』アクティベイト」

 

 虚構を穿つといった意味を持つ、見た目上は武骨なガントレット型の杭打機であるこの武器は、ちょっと変わった性質を持つ。

 収集したデータをもとに、その存在に特攻を持つ杭を生成するのだ。

 ゲーム的には実体を持たない敵に特攻を持つ特殊武器の扱いだった。

 受肉しつつも、その本質が概念的な情報である悪魔には、おあつらえ向きの武器と言って良い。

 

 そして何よりも重要なのは、物質的でない敵に対しての性質を付与することにエネルギーが消費されるために。

 威力が!

 少なくとも物理的には、とっても限定的って事!

 

「さあ、覚悟しやがれよ、悪魔憑き。お前の為の特注の杭でぶち抜いてやる」

 

 一瞬だけ逃げるそぶりを見せたが、こちらに向かってくる悪魔憑き。

 逃げた先で詰んでいた自分でも見えたのかね?

 まあしかし悪魔が死中に活とは、なかなかお笑いだ。

 

「その血の匂いの分の因果はきっちり払っていくんだな!」

 

 ホロウ・ピアッサーで悪魔憑きの体のど真ん中を穿つと、機構が稼働し杭が撃ち込まれた。

 撃ち込まれたその杭は、まばゆく発光してその体を焼き尽くしていく。

 

「塵は塵に、灰は灰に、だったか?」

 

 ホロウ・ピアッサーを収納しながら、悪魔憑きに対する皮肉を込めてその一説を口にする。

 物理的な肉体も、それ以外も、跡形も残らず悪魔はこの世界から祓われたのだ。

 

 こうしてカレンとの出会いや、悪魔との遭遇という予想外の出来事はあったものの、今回の事件もしっかりと締めくくることが出来たのであった。

 

 

 

 

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