Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第90話   マンチェスターの妖精たちに課すもの

 

 しかし、これ、ひっでえなあ。

 黙々とマンチェスターの妖精の罪状を処理しながら被害の広がりに思わず心中でこぼした。

 それでも妖精國のルール的には人間という資源を粗雑に浪費した罪といった感じになるんだろうか。

 

 人間としての視点で見れば、それこそ吐き気を催す邪悪と言ってしまいたくなる。

 だが、しかし、である。

 彼らは妖精國の妖精なのだ。

 

 人間は彼らにとって人権などと言うものが存在しない、良くてペット、悪ければ消耗品のおもちゃ程度の存在。

 その前提に立つと、罪の程度というのはどの程度と考えるべきか。

 さらには、その行為に走らせた原因がバーゲストにあるという点も悩ましい。

 バーゲストの行為を見る事がなければ、彼らはあんな真似はしていなかっただろうからだ。

 

「ねえ統夜。バーゲストにかけていた言葉って……」

 

 そんな風に書類を処理しながら頭を悩ませている時、書類の移動やお茶くみなど、出来る事で手伝ってくれていたキャストリアに問いを投げられた。

 バーゲストが配下の者に呼ばれて席をはずしているタイミングを見計らったのだろう。

 しかし、そこに気が付いたか。

流石は妖精眼。

 

「そうだな。アドニスの事に関して以外は俺の希望的観測、というか、そうあって欲しいという願いみたいなものだ。本当の所が分かるのはバーゲスト自身だけだろう」

 

 何ならアドニスの件だって俺の知る世界線における解釈の一つと言った感じで、この世界でどうだったかなんてわからない。

 あの後部屋から出てきた彼女の様子からは、俺が願いと共にかけた言葉が、どの程度正しく、どのくらい間違っているかというのは分からなかった。

 でもきっと、それで良いのだろう。

 真実は彼女だけが知っていれば良い。

 

「統夜って、結構そう言う部分はロマンチストだよね」

 

それはそう。

というか愛の話にすらロマンを見いだせないようなら、きっと俺はこんな生き方はしていない気がする。

 男が生きていくうえでロマンというものは結構大事なのである。

 

「あと嘘も本当もひっくるめて、言葉ってものとそこに込めた心に、力と意味があることを信じてる」

 

 キャストリアのその言葉に込められた感情の強さに、思わず顔をあげて、目が合った。

 

「……最近ね。本当に最近だけど。妖精眼で見る嘘の色が、醜いだけじゃなくなったんだ」

 

 ――――それは。

 息を詰めて沈黙した俺に、キャストリアは語る。

 嘘の色が一様ではなくなった事。

 醜いだけではない、複雑な色合いを持つ嘘が見分けられるようになった事。

 その色のグラデーションの中に美しいと思える色合いもまた見る事が出来るようになった事。

 

「統夜って、私の前でも結構平気で嘘を吐くよね。もちろん私を騙したりする嘘をついたりはしないけど。くだらない嘘とか、誰かのための嘘とかは悪びれる事もなく堂々と。それを見ているうちにね、いつの間にか」

 

 まあ、人間ってのは本当の事ばかりでは立ち行かない生き物だからな。

 人を傷つけるような嘘はもとから嫌いだから言わないようにはしているが、それ以外は特別避けようとはしなかった。

 

「もしかして狙ってた?」

 

 それは流石に買い被りである。

 

「狙ったわけじゃない。単にことさらに嘘を避けるのも違うと思っただけだ」

 

 キャストリアの前でだけ嘘を避けるというのなら、ある意味それ自体が嘘じゃないのか。

 そんな風に思ったのもあった。

 

「そっか。それでも、お礼は言っておくね。この目で見る世界がほんの少し変わって、私はそれが嬉しかったから」

 

「その感謝は、ありがたく受け取っておくよ」

 

 妖精眼に映るものが変わったのは、嘘から目を背けずにその違いに目を凝らしたからなのだろうか。

 それとも、キャストリア自身の心の在り様の問題なんだろうか。

 でも、そうか。

 彼女の妖精眼ですら、そんな風に変わっていくというのなら。

 

俺はそれがどんなに傲慢な行為であるとしても、妖精國の妖精たちのその歪な在り様を否定しよう。

 傲慢に身勝手に、ちょっとは俺好みになる様に価値観を押し付けてしまおう。

 その手始めとして、まずは此処、マンチェスターだ。

 

 バーゲストが死の救済を選んだならあと腐れなく始末するつもりだったが、彼女は贖罪を選んだ。

 ならば、彼女の罪を模倣した妖精たちにも、罪の意味を教えて、償いの価値を知らしめよう。

 ある意味で彼らにとっては一番厳しい道かもしれないが、なあに、バーゲストという監督がいるのだ。

 きっとやり遂げる事が出来るだろう。

 

「――――彼、ずいぶん悪い顔をしているが、あれはどういう顔なんだ?」

 

 いつの間にか部屋に戻ってきていたバーゲストが、ちょっと引いた様子でキャストリアに聞いていた。

 キャストリアは肩を竦めてみせてから答える。

 そのしぐさ、俺に似てない?

 いかんな、俺って実は結構キャストリアに悪影響与えていたりするのか?

 

「あれは、悪だくみしている時の顔だね。間違いないよ」

 

 悪だくみとは失敬な。

 

「もとの予定の中でもちょっと厳しめの方向で行くことに決めただけだ。別に悪だくみじゃない」

 

 俺が言ってもキャストリアは胡乱なものを見る目で俺を見た。

 

「嘘を言っている様子はないけど、嘘じゃないからと言って真実だとも限らないんだよね。知ってる」

 

 うん、これ明らかに俺の悪影響あるな!

 

「違うっていうなら、何をしようとしてるのか言えるよね?」

 

 言えるとも。

 なにも憚るところなんてないからな。

 

「ちょっとマンチェスターの妖精たちに、バーゲストの感情をリンクさせるだけだぞ。ついでに類感魔術的手法でバーゲストの受けた縛りも共有させて発狂と自死と償いに逃げる道を潰すだけだ」

 

 何だ二人して。

 そんな鬼とか悪魔でも見るような顔をして。

 

「いや、うん、あの者たちのやったことを思えば、やりすぎという事はない。ないとは思うんだが……」

 

 私はかなり手心を加えられていたんだな、なんてそんなしみじみ言わなくても。

 

「エグイ。何がエグイって、償いだけに生きる権利を奪う事が、バーゲストと他の妖精たちで真逆なくらい意味が変わっているのが、凄くエグイ」

 

 あれは真っ当に償う意思と、自罰的な感情があるものにとっては過剰な自傷を防ぐような効能がある。

反面、ただ罪の意識から逃げたいだけだったりすると償いに没頭することで罪から目を逸らすことができなくなるという、ある意味で諸刃の刃。

だから、つまり。

 

「妖精たちが、ちゃんとできれば何の問題もない話だな」

 

「できないって分かってて言ってるよね」

 

 YES!

 心中でだけ元気よく答えた。

 でも表向きは微笑むだけに留める。

 まあ、すぐにはきっと無理だと思うが、先の話は分からないというのも本当の事なのだ。

 

「ある意味、君の心の傷を蒸し返すような真似でもあるわけだが、協力してもらえるか?」

 

「あ、一応バーゲストに選ばせるつもりはあったんだ」

 

 そりゃそうだろう。

 ちゃんと断られたら別案で行くとも。

 

「いや、その案で行こう。私としても、あのままで良いとは思えないからな」

 

 俺の案がなかったら、罪を犯した街の妖精たち全てを自分で始末してたんだろうなあ。

 完全に腹が決まっている表情だったし。

 キャストリアもそれが分かっていたみたいで、俺の案に対してこれ以上の文句は言わなかった。

 

 結果として、作戦は翌日に決行された。

 罪を犯した妖精たちは一か所に集められて、大規模な儀式魔術によってバーゲストの味わった地獄の様な感情の動きを追体験することとなった。

 どうなったかって?

端的に言って阿鼻叫喚である。

 

 うずくまって吐きながら泣きわめく妖精がいた。

 何度も何度も見えない何かに謝っている妖精がいた。

 逆にただ呆然と自分の手を見つめているような妖精も。

悲鳴、絶叫、嗚咽、ざりざりと地を掻きむしる音、ごすごすと大地に頭を打ち付ける音。

様々な音がないまぜになってその場に満ちた。

 

 流石にキャストリアは別の場所で待機させている。

 妖精眼でコレを見るのは絶対に良くないと思ったから、今回はかなり強く言っていう事を聞かせたのだ。

 共感の元としてその場にいる必要があったバーゲストは、冷厳とした眼つきでそれを見つめていた。

 

 享楽的でわかりやすい楽しさを求めて、そればかりに耽溺してきた妖精たちにとって、これは正に劇薬だろう。

 彼らは今日、初めて罪というものの存在を、それを冒して味わう罪悪感の味を知った。

 愛と、それが失われる痛みを知った。

 あくまで追体験でしかないが、良くも悪くも無邪気であった彼らにはそれで十分すぎたのだろう。

 

 彼らは数日使い物にならなくなった後、何かに追われるようにこちらの指示に対して勤勉になった。

 根が飽きやすくこらえ性もない連中の事だから大して長くはもたないかもしれない。

あるいは、もしかすればの話だが、この中から本当の意味で成長する妖精も出てくるかもしれない。

 しかし、ひとまずはある程度の期間持てばそれで充分である。

 

 勤勉になるほどにやることがあったのかというと、実はあったのだ。

 マンチェスターの守りを固めるための各種作業が。

 俺が彼らを生かしたのには実は単に贖罪の為というだけではない、いくつか理由がある。

 

 感情の共有をさせるための魔術の試験運用であったり。

 罪悪感というものを知った妖精のサンプルを得るためだったり。

 そして最も大きな理由として、大厄災が起きた時にモースが襲う場所を増やすことで一つ一つの街の受ける圧力を分散させるという目的があった。

 

「ここでは血が流れ過ぎたし、恨みが染みつきすぎた。恐らく一番の激戦区になるぞ」

 

 マンチェスターを発つ前に俺がバーゲストに忠告すると、彼女は静かに頷いた。

 

「その分だけ他の街の圧力が弱まるのだろう? それならそれでいい。私も、彼らも、償わねばならないだけの罪を犯した。妖精國の最後の戦いであれば償いの舞台として、この上ないさ」

 

 その瞳には贖罪だけではない、妖精國を守る妖精騎士としての意思もまた漲っていた。

 

 

 

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