Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
数日の間マンチェスターの状況を確認して、とりあえずの問題は無さそうである事は分かった。
多少不安定な所が見えていたバーゲストもマンチェスターの防衛力の強化にうちこむにつれて落ち着きを取り戻して行った。
この様子であれば、マンチェスターの事はひとまず彼女に任せても大丈夫だろう。
「わかった、貴方に指示された通りにこの街の防備はしっかりと整えておこう。目的地はオークニーという事だったが、どんなルートを想定しているんだ?」
そうだな、いくつかの想定はあったが、今の状況だと。
「シェフィールドやエディンバラを迂回して鏡の氏族の元領地から湖水地方を抜けるルートになるだろう」
実はFGO世界線とはもとから色々と差異がある上に俺の干渉もあって、今の妖精國の状況はFGO世界線とはかなり違っている。
特に大きいのはシェフィールドの状況の違いである。
サーカスの存在が前面に押し出されている上に、予言の子の噂話を上書きするようにサーカスの演目によって広められた物語の影響も広がっている。
「現状シェフィールドとエディンバラの間で度々軍同士のにらみ合いが起こっているからな。今もちょうどエディンバラのノクナレアが軍を動かしているんだろう?」
俺が言えばバーゲストは頷いて返した。
「そうだな。ちょうど軍事調練と称してノクナレアが軍を領地の境界線あたりに動かしたという話が入ってきている」
FGO世界線との違いの結果としていわゆる予言の子ブーム的なものは下火になっていて、モルガンに対する反乱の機運みたいなものは、まだはっきりとした形になっていない。
恐らくそのあたりから時の運が不足していると考えでもしたのだろう。
本編では反乱の動きを見せていたシェフィールドの領主ボガードが、まだ大人しくしている。
そしてベリルが存在しないし、当然ベリルが固執していたマシュも存在していないので、シェフィールドへ故意に軍を向けようと画策する者がいない。
またモルガンやその周囲も北で動きを見せるノクナレアへの抑えとして、ボガードの反抗的な姿勢を容認しているわけだ。
「シェフィールドは元より防衛力の高い都市だ。もともと北方のノクナレアへの抑えとしての役割があったし、あまり大きな声では言えないが、反乱の準備をしていたなんて疑いもある。理由はあまり歓迎できるものではないが、妖精國でこれから起こる大厄災の事を考えれば心強いかもしれない。私の方からそれとなくモースに対する備えをしておくように伝えておこう」
シェフィールドへのアプローチはどうしたものかと考えていたので、そこをバーゲストが担ってくれるのなら渡りに船だ。
「悪いが頼む。事前の心づもりが出来るだけでもだいぶ違うからな」
シェフィールドは妖精國の中でも屈指のまともな街だが、領主のボガードはちょっと癖が強い。
なので街自体は放置で良いし、反乱に動く様子がない現状ではボガードにも手出しの必要がないのでわざわざ関わって問題を起こすようなこともない。
「しかし、そうか、湖水地方の方面を抜けるのか。軍が動いているエディンバラ方面よりはマシだろうが……」
バーゲストの懸念も理解はできる。
鏡の氏族の領地だった場所も湖水地方も何かと問題がある土地だからな。
モースも多いし、他の場所より強力だ。
「……まあ、君がいるのであれば、いらぬ心配というものか」
それはそうではあるのだが。
「私は全く数に入ってないその言い方、どういう了見かな」
ほら、キャストリアがむくれているからさ。
悪気がないのは分かるんだが、君たちほんと相性悪いな。
「確かに私は、一般的な妖精と比べても魔力は低めかもだけど!」
あー、まだ鐘を一つも鳴らしてないもんね。
微妙にそこはコンプレックスなままだったか。
鐘を鳴らして行けば、凡百の妖精では太刀打ちできない魔力になるんだけどなあ。
「バーゲストは別に悪気があるわけじゃないからな。絡まずに出発しような」
キャストリアの手を引いて歩きだす。
出発前の軽い会話のつもりだったんだけど、思わぬ落とし穴というか。
なんだかんだでマンチェスターの滞在中、キャストリアは何かとバーゲストに絡んでたから予想しておくべき事態ではあったか。
「ちょ、統夜!?」
はいはい、出発しますよー。
「それじゃあ、バーゲスト。悪いが諸々任せた」
まとめて色々丸投げして足を速めた。
このままだといつまでも出発できなくなりそうだからな。
「ああ。任された。その、出発前に何かすまなかったな」
いや君は悪くないんだ、キャストリアのコンプレックスと、そのコンプレックスを軽視していた俺の問題だ。
マンチェスターからの出発は、そんな感じのなんとも言えない出発となった。
「あのなあ、アルトリア」
そんな出発した日の野営の時の事。
「前から言っているが、鐘を鳴らせば君の魔力の問題は解決するわけで、変なコンプレックスを持つ必要はないんだぞ?」
微妙に移動の間ずっとご機嫌斜めだったキャストリアをなだめる。
「そりゃそれについては何度も聞いていたし、疑ってもいないけど。それとこれとは話が別というか……」
村を出る前からの年季の入ったコンプレックスだし、中々払しょくするのが難しいのも分からなくはない。
諸々の経験から自己肯定感が低いのがなかなか抜けきらないんだろう。
それでも出会ったころに比べると大分ましなだけどな。
「アルトリアにはアルトリアの良い所があるし、別に羨むような必要はないと思うが」
そこまで言ったところでキャストリアが俺に向けて静止の為に手のひらをつきだしてきた。
「ストップ!」
大分必死な様子に疑問を感じながら、言葉を止めた。
「これ、そのまま喋らせると、私が褒め殺しされる流れでしょう!?」
褒めるまでもなく真っ赤なテンパり顔だけどな。
そう言うならまあ、口をつぐむとしよう。
「そのニヤニヤ顔はどうかと思うけどぉ!」
なんだね。
「言いたいことを言って良いのか?」
反応可愛いなとか。
絶対照れるだろうから黙ってニヤニヤするだけにとどめたんだが。
「言わなくていい。ほら、鍋がぐつぐつ言ってるから!」
おっと、確かに。
仕方がない。
いじるのも、ほどほどにしておくこととしよう。
そんな、色んなアレなことがあったマンチェスターからの出発の日としては、平和な一日であった。