Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第92話   糸紡ぎの妖精と滅びた氏族の妖精亡主

 

「ふぅん、君が今代のアヴァロンの妖精かぁ」

 

 鏡の氏族の住んでいたと思しき廃墟群を抜けている途中で俺達はその妖精と出会った。

 小さな体躯、ピンクブロンドの髪、快活な性格。

 女王の仕立て屋にして、かつての妖精騎士。

 スコットランドに伝わる、糸紡ぎの妖精ハベトロット。

 

 彼女は妖精國の事を調べる中で見つけたFGO世界線とは異なる道を歩んだハベトロットだ。

 マシュ・キリエライトの存在しないこの世界線ではモルガンの方針に賛成はできないが完全に袂を分かつこともなかったらしい。

 結果として恐らくはモルガンの魔術によって延命し、今に至るまで御用仕立て屋としてある程度の距離は取りながらもモルガンとの関係は続いているようだった。

 

「女王御用達の妖精國随一と言って間違いないような仕立て屋が、こんなところで何をやっているんだ?」

 

 意外な人物とひょっこりとかちあった事による驚きもあって、俺は思わずそんな素直な疑問を口にしていた。

 

「別になんてことはない、ただの墓参りだよ」

 

 この妖精國で、墓参りか。

 そもそも死んでも次代が生まれるかそうでなければ消滅する羽目になるようなこの國で墓参りなんて概念が残っていたんだな。

 

「ま、仕事を依頼されたときにスプリガンから聞いた話の真似事っていうか。鏡の氏族にはそれなりに知り合いもいたからね」

 

 あーなるほど。

 スプリガンは元人間の中村何某だもんな。

 そりゃ墓参りの概念くらいは知っているか。

 

「本当にそれだけ。ボクは別に君たちを追ってきたわけじゃないし、敵対するつもりもない。だから君もその杖を下げてくれないかな」

 

 ハベトロットはそう言って両手を上げてみせた。

 キャストリアを手で制して杖を下げさせる。

 妖精眼で見ても言葉に嘘がなかったのだろう、大人しく従って杖を下げてくれた。

 

「そもそも今のボクは、もう戦う力は持ってないんだよね。まだ生きているのだってモルガンのおかげみたいなものだし。若いころのモルガンによく似た妖精に杖を向けられるとか心臓に悪いから勘弁してほしいよ」

 

 げんなりした顔で言ってから安堵のため息。

 まあ、うん、若いころのやんちゃな時分からモルガンの事を知っていたら、そりゃあキャストリアに杖向けられたら怖いよね。

 実際、キャストリアも中々な魔猪の氏族っぷりな性格を秘めているわけで。

 

「戦う力がないのによくここまで来られたね?」

 

 構えを解いたキャストリアが問い、ハベトロットは乗り物にもなっている糸車を叩いて見せた。

 

「ふふん。逃げ足にはそこそこ自信があるんだ」

 

 こうして実際に目にしてみると改めて謎だよなあ、なんなんだろう、ハベトロットが乗ってるこの空飛ぶ糸車。

 妖精パワーで動いているのか?

 それとも、何か妖精の手による超技術の産物だったりするんだろうか。

 

「うん、その目をやめようか。駄目だからね? 大事な仕事道具なんだから、分解とかしないでよ?」

 

 残念無念。

 ハベトロットは数少ない善良な妖精の一人だし、無理やり奪うわけにもいかないしなあ。

 

「怖いからその話はこれで終わりとして。……そっか。こんなところまでわざわざ来たってことは、目的地はオークニーかな? 一応、鐘を鳴らす気はあったんだ。今代の君も、もう鐘を鳴らす気はないのかと思ってた」

 

 モルガンと同じように、か。

 しかしそれは勘違いである。

 まだ鐘を鳴らさずにいるのはどちらかと言えば俺の都合で、キャストリアはそれに合わせてくれているだけだ。

 

「ボクはモルガンに対しては義理も情も恩も、他にもいろいろあるから手助けはしないけど」

 

 ハベトロットの瞳が、まっすぐにキャストリアの瞳に向けられた。

 

「がんばってって、応援はしておく。きっとそれは本当ならやらなくてはいけない事で、モルガンも含めたボクたちが投げ出してしまった事だから」

 

 事情を思えば投げ出したと言ってしまうのはあんまりにも自分たちに厳しいと思ってしまうけどな。

 俺がいる所為であんまり予言の子として認知されず、予言の子である前提に立って言葉を掛けられる事ってこの世界線では大分少ないせいか、キャストリアが驚いたような顔してるぞ。

 

「応援なんてしていいの? 巡礼の旅を完遂するってことはつまり――――」

 

 巡礼の完遂は、ほとんどモルガンの女王としての治世の終わりを意味する。

 より踏み込んで言うならば、妖精國と妖精たちの終わりすらも。

 

「良いんだ。むしろボクらは無理に延命し過ぎた。それにいい加減、アイツが休んだって許されるだろう?」

 

 そうか、と。

 その言葉で、彼女が敵対しない事をなるほどと納得できてしまった。

 モルガンの過去も、今に至るまでの行いも全て知っているなら、そう言う結論になってもおかしくはない。

 

 彼女はモルガンが肩の荷を下ろして、女王モルガンでも救世主トネリコでもなかったころの彼女に戻れる日が来ることをずっと待っていたのかもしれない。

 きっと彼女自身が言っていた通りに、義理とか情とか恩とか、そう言ったものに背を蹴とばされているに違いない。

 

「他力本願も良い所だろうけど、ボクに出来た事は多くない。仕立て屋として、あともしかしたら古い友人として、モルガンと関わりを持ち続けることくらい」

 

 と言いつつ、モルガンが娘としているバーヴァン・シーの世話をちょこちょこしているらしいなんて話もあったりするわけだが。

 どおりでバーヴァン・シーがFGO世界線にくらべて妙に大人しい感じなわけだよ。

 

「いやいや、意外とそう言うのが助かったりするものだと思うなー」

 

 そうそう、その通りって、あれ、この声は誰の声?

 声のしたほうに振り返ると、明らかに普通じゃない様子の霊のような何か。

 

「「きゃぁぁぁぁ!?」」

 

 おおう、キャストリアとハベトロットの二人が見事にシンクロを。

 そんな事になった原因を見つつ、妙な感慨を覚えた。

 そう言えばFGO世界線のメリュジーヌも、こんな感じでこの霊のような存在に驚かされてた気がするな。

 

気持ちは分からなくもない。

今更に亡霊が怖いとか言い出す奴はいないだろうけど、ぶっちゃけそこ抜きにしたって、誰もいないと思っていたところから声が聞こえてきたら普通は戸惑うだろう。

あわせてうっかり姿が目に入ったら、その見るからに亡霊っぽい見た目だもんな。

 思わず声を上げてしまったとして誰が責められるというのか。

 

「ごめんごめん。そんなに驚かせる気は……なくもなかったけど。良いリアクションをありがとう」

 

 見た目アレなのに性格ゆるっゆるなのは、なんて言うか脳が誤作動起こしそうな心地になるわ。

 

「鏡の氏族の妖精亡主、であってる? 今までも何度かここを訪ねたことがあるけど、一度も遭遇しなかったのはもしかして、避けられてた?」

 

「あんまり驚かせてもかわいそうかなって。でも今回はほら、みんなで楽しそうに会話してたからつい、フラフラ―っと」

 

 

 FGO世界線でもそうだったけど、ほんとに性格が軽いなあ。

 まあでも、出てきてくれたのはむしろありがたいともいえる。

 この世界線における鏡の氏族の全滅理由がFGO世界線と同じであるかの確認は取らなければならないからな。

 

 

 





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小話

マシュがいないので、この世界線のハベトロットの立ち位置は中立的な感じに落ち着いています。
ちなみに糸紡ぎの妖精であるがゆえに、結局はその本能からくる欲求に従い仕立て屋の道を選んでいたりするわけです。
なお、この世界線ではモルガンの衣装は本人の要望を聞きつつハベトロットが仕立てたものとなっています。

モルガンの要望を聞いて、
「ちょっと露出過多じゃない?」
と思ったとか、思わなかったとか。

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