Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ソールズベリーの孤児院で私は育った。
今にして思えばいくつもの思惑が絡みついていた場所であったことが分かるが、当時の私にとってはそれはあずかり知らぬこと。
私はそこで日々を過ごし、成長し、そして彼女と出会った。
妖精騎士ランスロットと呼ばれている彼女。
私にとって師であり、姉であった妖精。
いま私がこうして戦っている理由の最たるもの。
「動機が何であったとしても君が行ってきた事が無に帰すわけじゃないし、その行動の結果が変わるわけでもないだろう」
ノリッジを出発する前、少しの間だけ話すことができた彼の言葉を思い出す。
自分は白光の騎士などと大層な名で呼ばれるような者ではないのだと。
本当はそんな個人的な理由で戦っているだけなのだと言った私に、彼はごく軽い調子で当然のことを言うように返した。
私が戦う理由を彼に話したのは、ある意味で彼が私の叶えたかった事を叶えている人物だからだ。
別の世界線の彼女を何一つとして憂いの影なく幸福にしている彼に問うために。
どうすれば彼女を苦しみから救うことが出来るのか、と。
「ああ、まあ、聞いてくるよな。しかし、さて、どう答えたものか……」
私の問いに彼は困った顔をして、しばしの間考え込んだ。
「君への誠意として、言葉は飾るまい」
そして心臓に杭を打たれたような心地のする言葉を。
「君には無理だ」
容赦なく口にした。
「想いが足りないとか、力が足りないとか、そう言う話じゃないんだ。ある僧の言葉を借りるなら、ただただ、間が悪かっただけで。そして、その間が良くなるまで待つ時間が、もう君にも彼女にも妖精國にも残っていない」
逆に言えば、自分もまた何も特別なことはしていない。
たまたまタイミングが良かったから、彼女を幸せにできただけだと、事も無げに言うのだ。
「それでも、偶然にも幸福に出来たあの子を、幸福なままでいられるようには努力しているつもりだけどな」
そう言って少し照れ臭そうに言う彼を見て、不意に納得が胸に落ちてきた。
私の知る彼女とは違う彼女は、偶然にも最初に彼と出会う事が出来た。
本当に、たったそれだけの違いなのだと。
だがそれは、あまりにも――――。
「考えている事は分からなくはないがな」
苦笑する彼を見て、自分が強く奥歯を噛み締めていた事に気づかされた。
「きつい言い方をしたが、彼女のもっとも根深い問題は彼女自身にしか解決が出来ないという話にすぎない。君が彼女に与えていたものだって、確かにあるだろうし……」
それは、そうなのだろう。
そうあって欲しいと思う。
だが、あの日に雨の中たたずんでいた彼女を見てしまった私はどうしても、それ以上を望んでしまうのだ。
そんな私の気持ちを表情から見て取ったのか、彼は一度言葉を止めて目を閉じ、ため息をついた。
そして、再び開かれた目が私を鋭く射抜く。
「もしも、彼女の憂いが晴れる時があるとしたならば、それは彼女の始まりにまつわる物語に決着がついた後の話になるだろう」
その内容と、別人のような空気を発し始めた彼に瞠目した。
ただ者ではない事は分かっていた。
遠目にだが彼があの巨大な影を倒す場面を見ていたからだ。
それを抜きにしても、彼には端々に強者の気配のようなものがある。
「しかし、その時に君は存在しない。悪ければ、あの槍を使って寿命を使い切っているか、そうでなくともこの妖精國と共に、あるべき形へと還元されている。だから君が彼女のために出来る事は、今の彼女を縛る物語を終わらせるための遠回りな助力くらいだ。……まあ、結局やることは変わらないんだけどな」
「それはつまり――――」
気が逸り、声が上ずったのを自覚しながら、答えを急かした。
「円卓軍を率いてアルトリアを助けることだ。巡礼の旅が終わりこの國の物語が一つの決着を見れば、結果的には彼女の物語にも、何らかの形で終わりが訪れるだろう」
彼からオーロラ様の本性についてはすでに聞かされている。
その在り方と、二人の間の歪な繋がりも。
だが巡礼の旅が終わり、妖精たちの罪が許された先に、あの二人の関係の一つの結末が待っていると彼は言う。
「この妖精國のメリュジーヌに笑顔で生きる未来があるとしたら、そうして物語が終わったその先だ。その先にある未来が幸福なものであるとは限らないし、決着に際して命を落とさないという保証もないが」
「ですが、貴方はこの妖精國に生きる彼女の事も気にかけてくれている。その命に、そして未来にも、心を砕いてくれるでしょう?」
サーカスの団員達の話を聞き、短い間とはいえこの目で本人の人となりを見た。
移り気な妖精たちでさえも彼を慕い信じていた。
だから、私も彼の事を信じようと、そう思うのだ。
例え彼女が迎えた未来を私自身が見る事はかなわないのだとしても。
可能性に過ぎずとも、彼女が幸福な未来を掴み得るかもしれないというのなら、私が戦う理由としては十分だ。
「パーシヴァルさん?」
ガレスに名を呼ばれて現実に引き戻された。
戦場で物思いにふけるとは我ながら迂闊な話である。
気を引き締めなければならないだろう。
何しろ今から円卓軍にとっては初めてと言って良い、本格的な戦闘が始まるのだから。
ガレスには頷くだけで返事に代えて、槍を高々と掲げる。
「陣形を組め! 訓練通りだ! 一人の敵に対し、常に二名以上で当たるように心掛けるように!」
陣形が組み上がり気勢が整った。
司馬先生の言う通りに、相手はこちらを軽く見ている。
だから、こちらが準備を整えるのを止めもしない。
その油断、遠慮なく突かせてもらう。
こちらはノリッジからの武器の供給を受けている上に、ロンディニウムからの物理と魔術の両面からのアシストも受けられる。
こちらに戦闘経験の不足があったとしてこの条件であれば決して遅れは取らないだろう。
「行きます!」
ガレスが武器を手に突撃するのに並んで自分も肩を並べて足並みを合わせて敵に突貫した。
相手は盾を構えていたが、気にせずに盾へ槍を突き出し、盾ごと敵兵を吹き飛ばした。
さらに踏み込み、槍を薙いで周囲の敵を薙ぎ払う。
ガレスも着実に敵を倒しているようだ。
私とガレスの開けた穴に兵たちが殺到して、更に敵陣のほころびを広げていく。
あちこちで敵の呻き声が聞こえるが、すぐに兵の波にのまれて聞こえなくなった。
軽い怪我ではすむまい。
少なからず、死者も出ているはず。
だが、今は心を鬼にしなければ。
「パーシヴァルだ、討ち取れ! こいつさえ倒せば、あとは烏合の衆だ!」
恐らくは敵の先陣の指揮官であろう妖精が私に剣を向けて叫んでいるのが遠目に見えた。
今の円卓軍はとっくに私だけの組織ではないのだが相手はそれが分かっていないらしい。
司馬先生が悪い顔をして防諜を引き締めていたこともあるだろうし、元から情報収集に大して力を入れていないというのもあるだろう。
「我が槍を恐れぬならば、いくらでもかかってくるがいい!」
相手の勘違いに乗って、敵を挑発した。
私に気を取られて、ここにばかり兵が集中すれば当然全体としてのバランスは崩れる。
あとはこちらがその乱れを突く事が出来ればより優位に戦闘を運ぶことができる。
「ちょ、パーシヴァルさぁん!?」
付き合わせてしまうのは申し訳ないが、ガレスなら大丈夫だ。
目線と共に笑みを浮かべれば、それを受けたガレスは少しひきつった顔をした後に腹をくくったようだった。
『少々無茶と言えなくもないが、悪くはない。しばし持ちこたえたまえ。すぐに兵が敵陣を崩す』
あずかっていた通信機から司馬先生の声が聞こえた。
その言葉通りこちらの兵は敵の乱れを見逃すことなく、見事に敵を押し切った。
結果としてはこちらにも少なくない負傷者が出たが、相手にそれを遥かに超える損害を与える事に成功。
初戦はこちらの勝利といって間違いのない形で終了することとなった。