Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
開戦から数日、円卓軍はロンディニウムからの援護を受けつつ、着実に相手の戦力を削っている。
しかし、それでも相手はいまだ余裕の構えを崩さずに、戦いは膠着状態に。
そんな状況の中、夜のロンディニウムの中での事。
「馬鹿なっ!? 拠点内にこのようなトラップを!?」
ほんとに来たのか。
あいつ、ホントにどこまで見えてるんだ。
未来視に近い形で情報を持っているとか言っていたけど。
おかげでこっちは手が次々に封じられるし、事前の仕掛けも潰されるしで散々だ。
「まったく、種が割れている暗殺ほど間抜けで無様な策もないな」
この軍師も見た目はただの黒猫だし戦う力はないが、厄介この上ない。
この手の知恵働きが本領のやからは戦えない事すら利用する。
実際に戦力の低さに誘われて見事に罠にかかった妖精騎士が、まるで蜘蛛の巣に囚われた獲物に見えた。
「妖精騎士、いや暗殺騎士ポーチュンと呼ぶべきかな」
まったく、本当にぞっとする話だ。
何が恐ろしいって、相手が完全に詰んでから初めて姿を見せるその姿勢である。
「お、のれ。どこから私の存在を……第一、今回の件は完全に私の独断。どうやって察知できた」
罠として仕掛けられていた魔術によって完全に拘束されているし、これにはモースの呪詛を解析して作られた妖精向けの毒まで組み込まれている。
つまり、とっくに致命傷だ。
「これから死んでいく者に答える必要があるとは思えないな。私が今ここに居るのは君と話すためではなく、ちょっとした仕上げの為だよ」
その前足で促されて、ため息をつきながら手に持った宝玉を手に、ポーチュンに歩み寄った。
「まあ、殺しに来たんだ。殺されもするさ。君もその程度の覚悟は出来ていただろう?」
最早、声を出す力すらなく、パクパクと口だけを動かしている彼に宝玉を押し付ける。
その瞬間、宝玉から強い光が発せられて、立体的な魔法陣が組み上がっていく。
魔法陣が発光しながら回転して、ポーチュンの体が光の粒子へと解けて宝玉に吸い込まれた。
そして今度は宝玉がその形と大きさを変え、一つの形へと。
「上首尾だな。あれで中々、作るものとしてもただ物ではないな」
黒猫が満足げに見上げるソレは、鐘の形をしていた。
巡礼の鐘の最後の一つ、
今の今まで存在していなかった、鏡の氏族の鐘だ。
……ガレスを犠牲にせずに、これを生み出すか。
「幸運にも、元鏡の氏族の妖精亡主の協力が得られたらしくてね。ポーチュンもまんまと誘いに乗ってくれたのも良かった」
顔には出してないつもりだったけど。
これだからこの手の手合いは。
「何だってまた、僕に手伝いを?」
何となく想像はつくが、今は妖精王オベロンとしての顔をしている以上、聞かないのは不自然だろう。
それに、一応は確認しておきたくもある。
「分かっているだろう? と言って済ますのは流石に、手伝ってもらった上では不義理か。端的に言うなら君の姿勢の確認だよ」
やっぱりそんなところか。
とりあえず、言葉には肩を竦めて返して曖昧に答えた。
「統夜は、そういう事もあるだろうと軽く流していたが、私から見ると少し大人しすぎるように見えたからな。……ああ、勘違いするなよ。君の事について彼から何か聞いたわけじゃないぞ」
別に話したところで構わないんだが、変な所で気をつかう奴だ。
「大人しすぎるも何も、ことごとく先回りされて事前の仕掛けは潰されて、手も足も出ないだけだけど?」
しかも、まともに敵対したらアウトと言うオマケつき。
アレを相手に通常の英霊規模なんて話にならない。
たとえ多少規格から逸脱していたとしても焼け石に水だろう。
「君がそう言うならば、そういう事にしておこう。少なくとも今の君からは敵対の意思は感じられないしな」
「知ったような事を言われても、その見た目だと少しもしまらないよ?」
ふむ、と言って毛繕いをするが、それ一体どういう感情表現だ。
人間の時の癖か何かが猫の姿になる事で変換でもされているのか?
「まあ、敵対する気はないよ。統夜に遭ってしまった時からね」
一目見てすぐに分かった。
あいつが、この妖精國を終わらせる者であると。
そして、その後もあいつは行動でそれを示し続けた。
今も明確な意思をもって、妖精國の終わりを描き続けている。
そう、ただ生まれ持った使命のみに従い妖精國を滅ぼそうとし続けていた俺とは違って、明確な自分自身の意思をもってだ。
だからだろうか。
最初から負けが決まっているからという以上に、あいつの描く物語を見てみたいという欲がちらつくのは。
「司馬先生、首尾は?」
恐らく鐘が生み出されたときの光が外にも漏れていたのだろう。
決着に気が付いたライネスがやってきて軍師に問う。
「成功だ。彼に伝えてくれ。メリュジーヌも首尾よくいったのだろう? タイミングは事前の打ち合わせ通りに」
軍師もそうだが、あいつも敵には容赦がないな。
ポーチュンの暗殺を見越して、返り討ちにして巡礼の鐘の生成に利用するところとか。
今回の敵軍の従軍者と指揮官であるウッドワスはご愁傷さまだな。
「了解だ。統夜にはそのように伝えよう」
去って行く彼女を見送って、息を吐いた。
「ロンディニウムでの戦いは明日で決着、という事になるのかな?」
俺の問いに軍師は前足を巡礼の鐘にかけて振り返った。
「油断はできないが、恐らく。だが、問題はその先だ。ここに至るまで動かなかった以上、モルガンはもう能動的には動かないとみて良いだろうが、だからと言ってこちらに協力してくれるかとなると話は別だ」
だろうね。
理性では諦めに傾いていたとしても、感情の面で納得が出来ているかと言えば違うだろう。
「まずは何とかして彼女を納得させる必要があるだろうね」
まあ、屈服させても倒しても構わないわけだけど。
あいつは、きっとそうはしないだろう。
「今までの行動で妖精國の要所への仕込みはだいたい済んでいるが、結局この國は女王モルガンがすべてと言っても良いからな」
確かに妖精國は結局そこに帰結する。
そこを突破できなくてずっとこの国を亡ぼすことができなかった者としては太鼓判をおしてもいい。
唯一その後釜になり得るノクナレアは付け入る隙が多いし、敵対するまでもなく統夜とアルトリアが居れば交渉も難しくないだろう。
「彼ならモルガンの事も最終的にはどうにかするだろうが、ずいぶんな遠回りをしたものだ。もっとわかりやすく力で解決してしまえばとっくに終わっていただろうに」
「口では文句みたいに言っている割に、口もとが笑ってるけどね」
「そうだな。我ながら少し意外なんだが、ああいった類の馬鹿な男の事を私は嫌いではないらしい」
君もそうなのだろう?
と、目線で問われた気がした。
好きか嫌いかでと問われれば、きっと答えは、気に食わない、になるだろう。
たった一人に押し付けるには過大なものを背負っておいて、その解決において縛りプレイまで自分からするとか、馬鹿じゃないのかと思う。
俺やアルトリアだってあそこまで酷いものは背負ってない。
少なくとも俺達の使命には、はっきりとしたゴールが見えている。
しかも、あいつのおかげでそのゴールも間近だ。
一方のあいつはどうだ。
いつ終わるのかもはっきりわからない、一つだけでも世界の興亡がかかっている問題が連続で襲ってくるんだぞ。
そんなのに向き合っているくせに、アルトリアを背に庇うように使命を助けて、俺の使命については自分の方がそれにふさわしいって嘯いてくる。
本当に馬鹿じゃないのか。
もっと自分の苦労とか負担とか真面目に考えたらどうなんだ。
やりたくてやってる?
そうだとしたって限度ってものがあるだろう。
「無粋な視線を送ってしまったらしい。忘れてくれたまえ」
――――ちょっと、考え込み過ぎたか。
本当にこの手の相手はやりにくいな。
「別に、そんな事はないさ。ちょっと視線の意味を測り損ねちゃって、考えこんじゃっただけだよ」
なんて誤魔化して、にへらと笑った。
実際、俺が気にする事でもない。
たとえ結果が見えているにしたって、俺達は共犯者であると同時に競合相手なんだからな。
閲覧ありがとうございます。
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ちょっと不調が響いて投稿ペースが落ちています。
しばしご容赦いただけると幸いです。
小話
出落ちのポーチュン君。
まあ、暗殺とか準備万端に整えられていたら通らないよねっていうお話。
彼が独断専行しちゃったのは、むしろモルガンの憂いを晴らそうとする忠誠心からなんですが、情報不足で侮りが生まれました。
モルガンは力による恐怖で妖精國をまとめている関係上、自分の力に疑念が生まれかねないため統夜やその周辺の戦力をあまり喧伝できず、命令で干渉を封じるくらいしか出来ていないのがあちこちで響いている感じですね。
今回のロンディニウム侵攻も本音としては押しとどめたかったけど、政治的に難しかった感じです。