Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
妖精國にいくつも折り重なった鐘の音が鳴り響く。
上空から見下ろしていたロンディニウムを囲んでいた妖精國側の軍に動揺が広がっていくのが目に見えて分かった。
動揺から兵の足並みが乱れた所を、巡礼の鐘が鳴らされたことで士気の高まった円卓軍が押し返していく。
戦場を見回して妖精國側の軍勢の中で比較的に動揺が少ない場所を見つけた。
その中心あたりに目的の相手を見つけて、空から一気に下降する。
こちらに気づいた目的の相手、ウッドワスの眼前へと周囲の兵をなぎ倒しながら着地した。
「妖精騎士ランスロット!? 裏切ったのか!?」
恐らくはウッドワスの側近と思われる妖精が、私を目にして驚愕と共に叫ぶ。
「いや、このランスロットは――――」
魔力か何かから察したのか、ウッドワスがこの私と妖精國の私の違いに気づいたようだったけど、最後まで言わせずに右手に生み出したアロンダイトで斬りかかった。
周囲の妖精たちを弾き飛ばしながら、攻撃を受け止めたウッドワスを押し出し空中へ。
「な、めるなぁ!」
しばらく剣と爪で競り合ったあとウッドワスはこちらの剣を爪で弾いて、ロンディニウムから少し離れた地上に落ちていった。
私もそれを追って再び地上に降り立つ。
「やはり貴様、ランスロットではないな。魔力も膂力も奴の比ではない」
着地の時に負傷したのか口から血を唾でも吐くかのように飛ばして破れた服を引きちぎるウッドワス。
なるほど、流石は亜鈴返り。
私の一撃を真っ向から受けてその程度のダメージか。
普通なら厄介だって感じたんだろう。
「口先で時間稼ぎ? そんなことしても無駄だよ。オックスフォードで巡礼の鐘に仕掛けを施した後の戻り際、ついでに援軍を叩いたからね」
「そうか、あの鐘の音はそういう事か……!分かっているのか、あの鐘を鳴らすという事は――――」
「こちらが穏当に済ませていたのに軍を起こして台無しにしたのはそっちだよね?」
まあ、そうなる様に仕向けた部分もあるし、そっちが攻めてこなくてもどこかのタイミングでは結局鳴らすことになったんだろうけどね。
「我々の勇み足だったと……!? 直接的な衝突を避けようとしていた陛下が正しかったというのか! だが、そうであったとしても、勝ちさえすればそれで!」
進退窮まったと思い込んで功を焦ったのか襲い掛かってくるウッドワス。
速いし鋭い。
それに、動物的な勘の良さもある。
亜鈴返りの身体性能をきっちりと使いこなしていると言って良いと思う。
「勝てれば、ね」
でもその動きは今の私にとって、ひどく退屈なものだ。
身体性能を十全に使えている事は認めよう。
同水準の性能を持っていても、それに振り回されずに使いこなせるものはきっと多くない。
それもわかる。
しかし統夜という規格外を知ってしまっている私から見ると、ウッドワスの戦い方は本能任せに過ぎるように感じられる。
私は世界竜アルビオンの世界で何度も統夜と一緒に戦ってその戦いを見た。
時に彼を背に乗せて、一つになったような感覚の中で空を駆けた。
その時に見て感じた彼の戦いからすれば、ウッドワスのそれは稚拙で自身の性能と本能に飲まれた無様な姿にすら見えてしまうのだ。
あー、統夜と一緒に戦った時から考えてはいたけど、これはちょっと私も真剣に気を付けないと。
「何故だ! 何故一撃もまともに当たらない!?」
冷たい目でウッドワスの戦いを眺めながら、彼の攻撃を捌いていく。
捌くまでもないものは軽く流し、あるいは最小限の動きで躱した。
「何だ貴様は! 私の知るランスロットですら、ここまでではないぞ!?」
それはそうだろう。
妖精國の私はそもそもランスロットとしてのギフトに縛られなければ妖精としての姿を保てないからスペック的に限界があるし、何よりも本気で戦っている統夜を知らない。
今の私では所詮は真似事だけど、それでもこの目で見た彼の戦いが、共に空を駆けた経験が私の中に刻み込まれている。
「雑だね、ウッドワス。戦い方がなってないよ」
ましてや、こんな戦力差がある状況で動揺に心を揺らされるとか無様この上ない。
こちらの言葉に奥歯を噛み締めたウッドワスは、それでも屈辱を飲み込んだ。
そして、いったん大きく距離を取って大音声で叫ぶ。
「私は、牙の氏族の長! 排熱大公ウッドワス! ランスロットの真似事などやめて本当の姿を見せろ! 名を名乗れ!」
ふぅん?
相手が尋常の相手じゃないと認められる程度には理性が残ってたか。
こっちの情報を少しでも引き出そうって魂胆かな。
でも、その言い草はいただけない。
「聞き捨てならないね。別に僕は妖精騎士ランスロットの真似事なんてしているつもりはないよ」
顔を隠していたバイザーをはずして素顔を露わにして見せた。
「この容貌も声も在り方も、愛する人がくれた僕自身のモノ。真似事呼ばわりをされるいわれはない」
なるほど、確かに私の在り方は彼の知るメリュジーヌが基盤になっているかもしれない。
だがそうだとしても、彼は私を私として扱ってきた。
彼との日々で私もまた私として己を形作った。
他でもない、彼だけのメリュジーヌとして。
「我が名はメリュジーヌ! 我が愛しき片翼が、出会いし時に胸に抱いた美しきの姿を象り生まれ、彼の傍らで彼と共に歩む竜! 排熱大公ウッドワス! この僕程度を越えられずして我が片翼にその爪と牙、届くなどと思うなよ!」
竜としての翼を広げて、力を更に解放してウッドワスへと踏み込んだ。
翼の羽ばたき、足の踏み込み、魔力の噴射、それらすべてのタイミングを同期させて一瞬で懐へと踏み込み、握りこんだ右拳を体の中心へ叩き込む。
そして、拳の着弾と同時にアロンダイトを生成して、射出した。
アロンダイトは相手の腹に突き刺さり、打撃と射出の勢いでウッドワスを吹き飛ばした。
こちらの踏み込みに反応できなかったウッドワスは吹き飛んでいった先で土煙を上げながらゴロゴロと地面を転がり、その途中でアロンダイトが爆発して爆炎の中に消えた。
普通ならこれで終わっている所なんだけど、爆炎の中から毛皮を焦げさせたウッドワスが飛び出してこちらに蹴りかかってきた。
「丈夫さは大したものだけど、やっぱり雑だよ」
片手でいなして、その蹴りは私の背後の大地を砕く。
すぐに態勢を立て直して今度はくるりとこちらの足元に蹴りを滑らせてきた。
こちらは軽く飛んで蹴りを躱して、隙のできた上半身に翼をはためかせて勢いをつけた蹴りを浴びせる。
再び吹き飛んでいくウッドワスだが今度は空中で猫か何かみたいに姿勢を整えて地面に着地して、弾かれた様に再びこちらに向かってきた。
流石に単純な攻め手ではこちらを崩せないと悟ったのか、近くまで戻ってくると私の周囲を高速で円を描いて走り始めた。
視線を散らしてこっちの隙を突こうとしているんだろうけど、まだ甘い。
何度か死角を突く形で飛び掛かってくるけど、それってあくまで人間型の生き物の死角であって、本質的には竜である私にとっては死角たりえない。
次はフェイントを仕掛けてきたけど。
「それじゃ見え見えだ」
相手の腕を掴んで再び腹に一発と見せかけて顔面に拳を叩きこんだ。
よっぽどさっきの腹への一撃が印象に残っていたんだろう。
必死で身をよじって避けようとしていたから顔への意識がすっかりお留守だった。
「フェイントって言うのはこうやるんだ。単発の小手先だけで騙そうとしたって、騙されてくれるのは間抜けだけだよ」
地面を転がっていくウッドワスに鼻で笑ってから告げた。
頭への一撃は流石に堪えたのか、ふらつきながらなんとか起き上がったウッドワスは、信じられないといった表情を浮かべている。
うん、まあ、気持ちは分かる。
少なくとも人型のままの私が相手であれば、本来はここまで一方的な戦いになるほどのスペック差はないから。
「だからさ、何度も言っているけど、君、雑なんだよ」
言い含めるように言う私に、悔し気に顔を歪めるウッドワス。
正直、ウッドワスのレベルで戦えていて駄目だしするのは酷と言えば酷なんだけどね。
本当なら十分強いし上手いと言って良い域には達している。
でも、彼らが敵に回してしまったのは、統夜なのだ。
「言っておくけど、僕の戦技なんて真似事も真似事。彼に比べたらせいぜいが、おままごとみたいなものだから。君はもしかすると、モルガンが君の力を軽んじたから今回の戦いに良い顔をしなかったなんて勘違いしているかもしれないけど、それは大きな勘違いだ」
再び翼をはばたかせ踏み込みと共に魔力を炸裂させる。
カウンターで迎え撃とうとしたウッドワスだったけど、その一撃は眼前の残像を空しく貫いただけだった。
それを彼の真上から逆しまに眺めていた私は、彼の首を両手で絡みとって空中で一回転しながら地面に叩きつけた。
地面に大の字で倒れたウッドワスを両手と翼から生み出した何本ものアロンダイトで磔にする。
「モルガンは心底から君を案じたんだよ。勝てるはずもない相手に挑みかかろうとしている君を慮ったんだ。君は美辞麗句ばかり並べたてるくせに、結局は自分しか見る事が出来ない女に熱を上げる前に、分かりにくくても確かに自分に情を向けてくれていた相手にちゃんと気付くべきだ」
ほんとに。
いくら外面が良いからってあのオーロラに熱を上げるとかないと思う。
「ちょうどいい機会だから、ちょっと頭を冷やしてみる事だね」
そう言って、思いっきりウッドワスの頭を蹴り飛ばした。
「がはっ!?……へ、陛下……私は……」
ちょっと蹴り方が強すぎたかな?
幻覚でも見えているのか、ウッドワスは虚空に手を伸ばしてから呟いて、意識を失った。
念のため状態を確認する。
よし、死んではいない。
体の損傷も亜鈴返りの生命力なら大してかからないうちに問題なく回復するだろう。
今頃はロンディニウムの方も決着が付いているだろうから、あっちの兵たちも連れ帰ってもらわないとだし。
とはいえ、細かいことは分からないし、とりあえずこのまま引きずって行って後始末は司馬先生に任せれば良いか。
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小話
メリュジーヌの人型での戦闘スタイルは、統夜の戦闘スタイルの影響が非常に大きい感じになっています。
なお真似事とはいえ何度か一緒に戦った程度でこのレベルで戦い方が身についているのは、統夜とメリュジーヌの繋がりの深さと、竜としての性能ありきです。
逆にそれだけの好条件があっても真似事レベルが限界、とも言えます。
また、モルガンの心情の予想とウッドワスがオーロラに熱を上げている事を知っていたのは統夜経由です。
更に言えば彼女がわざわざ統夜みたいな感じでウッドワスに忠告をしたのは、統夜がウッドワスとモルガンの二人の間の溝をどうにかしたいと思っていたからですね。
あと純粋にオーロラの本性を知っているものとして、あれに熱を上げるとかないわー、という気持ちが強かったのもあるとかないとか。