Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
「それで、最終的に妖精國側は撤退したんだな? そうか、ウッドワスも撤退の際は妙に大人しかったのか」
ロンディニウムからの報告を聞きながら胸をなでおろす。
まあ、諸々の条件的に負ける事はないと思っていたが、司馬先生の手並みが期待以上で敵味方共に想定していた以上に損害が少ない。
伊達に三国時代に終止符を打ってないって言うか、なんだかんだ今は猫だしと思って、ちょっと舐めていたかもしれない。
「そっか、みんな無事……っていうのはちょっと違うか。円卓軍の兵士の人たちからは少ないと言っても被害は出てるんだし」
岩に腰かけていた俺の両肩に手を置いた状態で、顔だけ俺の肩越しに近づけて一緒に報告を聞いていたキャストリアが、最初に喜ぼうとしてからすぐに声を抑えた。
「そうだな。手放しで喜ぶというわけにはいかない。でも状況を考えれば十分以上の戦果だし、親しい者の無事を喜ぶのは間違ってはいない。犠牲者に対する悼みを忘れないのであれば問題はないだろう」
俺の言葉に頷いて表情を明るくしたキャストリアは、パーシヴァルに労いの言葉を掛けてガレスの無事を喜んだ。
通信越しのそれらのやり取りを少し微笑ましく想い聞きながら、俺は次の展望に目を向ける。
巡礼の鐘に仕掛けておいた術式を利用して、オークニーの鐘を鳴らすことですべての鐘を同時に鳴らすことには成功した。
巡礼の鐘を鳴らして楽園の妖精としての階梯を登った今のキャストリアは魔力だけなら妖精國でも指折りの状態だ。
そして何よりも、これで本当の使命を果たすための準備が整った。
今現在、俺達は湖水地方に存在するアルビオンの遺骸のもとに移動中だ。
そこに、彼女の使命を終わらせるための場所への入り口がある。
「明日には目的の場所にたどり着くだろう。覚悟は出来ているか、アルトリア?」
通信が終わった後、焚火越しに向かい合っていたキャストリアに問いかけた。
炎が揺らめく向こうの表情に揺らぎは少しもなく、燃える薪の一つがパチリと大きな音を立てた後、しっかりとした声音で答えが返ってきた。
「うん、大丈夫。これが私の役目だし、それに……」
一瞬言葉を止めて目を閉じたキャストリアが、少しして再び目を開いた。
はっきりと目が合う。
「私は、統夜を信じているから」
あっけらかんと、笑みすら浮かべて言われた言葉に息を止めた。
そりゃあ、色々と準備はした。
当然、どうにかするつもりでもある。
使命の成就と引き換えにキャストリアが消えるとか気に食わないしな。
しかし――――。
「あはは、すっごく驚いた顔してる。統夜って戦っている時とか土壇場になるとすっごく余裕がある感じになるし、普段も表面上は自信満々って風に見せているけど、実は自己評価は結構低いよね。そう言う所、ちょっと私に似てるかも」
俺が君に似ているなんて、妖精眼を持ってるくせに買いかぶり過ぎだ。
きっと俺は本当の所はキャストリアよりよっぽど弱い人間だろう。
ただ、真面目過ぎない分だけ逃げ隠れが上手で、いつでもそうしてしまえる自分を知っているから深刻になり過ぎずに物事と向き合える。
逃げ出さずに何とかなっているのは、どうにか出来てしまうだけの力を持っているからにすぎない。
「違うよ」
自嘲が苦笑としてこぼれる前に、思考を断ち切るような強い声が耳朶を叩いた。
「統夜は、自分が思っているよりもずっと、強い……ううんこの言い方はちょっと違うか。ちょっと、良い言葉が浮かばないのが申し訳ないけど。でも、きっとね、演じているつもりの姿が、貴方自身が思っているよりも、もっと、ずっと、似合っている人だから」
見る目がないと茶化そうとして、その見つめ合う瞳の色を見て口をつぐんだ。
まったく、そんな目でそんな事を言われたら黙って格好をつけてみせるしかないじゃないか。
実は俺と関わる者の中で、俺に対して一番スパルタなんじゃあるまいか。
流石に、自分でもなんでそうしているのかさっぱりわからない、なんて言いながら最後まで使命を投げ出さなかったヤツはいう事が違う。
「ちょっと!? 何で笑うかな!?」
結構いい事言ったのに、と憤慨するキャストリアを見て余計に笑いの衝動が強まる。
笑いもするだろう。
そんな事を言うヤツだから君は、最後まで自分の使命を投げ捨てられないのだ。
そして、そんな事を言われて格好つけるしかないなんて思ってしまうヤツだから、俺は投げ出さずにこんな厄介事だらけの世界と向き合い続けているに違いない。
「お互い、難儀な性格をしているものだと思ってな」
笑いがようやく収まってきた頃に俺がようやくそう言うと、キャストリアは膨れていた顔をキョトンとした顔にしてから、クスリと笑って。
「そうかな? ……うん、そうかも」
そう言って、あらためて俺と一緒に笑うのだった。
翌日、森の中を歩きながら目をこするキャストリアを見ながら、呆れのため息をこぼす。
「だから、そろそろ休めと言っただろう」
あの後、会話が弾んだせいかキャストリアは中々眠ろうとせずに、結局明け方近くになるまで起きていた。
「むしろ一睡もしてないはずの統夜はなんでそんなシャンとしてるかな」
それは単に肉体的なスペックの差だ。
何なら数日、気合を入れれば数か月くらいは寝なくても大丈夫そうだからな、この体。
「誰のせいで一睡もできなかったと思っているんだ。先に見張りを任せて仮眠を取ろうとしたらウザ絡みしてきて阻止しておいて。とびきりに苦い眠気覚ましを口に突っ込まれたいか?」
まあ、なんだかんだ使命の詰めに挑むにあたっての緊張みたいなものはあったんだろうから付き合ったし、口で言っている程には文句があるわけでもないけどな。
「はい、ごめんなさい! 私もシャンとします! だから眠気覚ましは許して!」
背筋を伸ばしてキビキビと歩き出すキャストリア。
そう言えば、深酒して次の朝にダラダラしていたアンの奴の口に強引に突っ込んだところを目撃していたか。
あの時のアンの反応は中々の見ものだったからな。
この過剰に思える反応も納得である。
「へぇ、その眠気覚まし、そんなにスゴイ苦さなのかい?」
不意に周囲の景色が変わって、なんというかぽわぽわした感じの気の抜けた声が聞こえてきた。
キャストリアは驚いて杖を構えているが、俺は慌てることなく振り返って言う。
「何なら自分で試してみるか、マーリン?」
何が嬉しいのか、凄いニコニコとした白っぽい中に毛先などが微妙にピンクっぽい髪色の優男が目に入る。
「流石! 私の事もすっかりお見通しか! あ、薬の方は遠慮しておくよ。今ちらっと見たけど、うん、アレは苦そうだ」
さては千里眼で覗いたな?
その時代を見通す、みたいに言われていたが、過去視の真似事もできるのか。
いや千里眼の応用なのか、もっと別の夢魔としての能力でアルトリアの記憶でも覗いたのかは知らないが。
「アルトリア、構えは解いていい。敵じゃないからな。ただし、あんまり心は許さないように。基本人でなしだからな。何しろ言葉通りに人じゃない」
俺の言い草にマーリンは怒った様子もなく朗らかに笑った。
「まあ、そもそも夢魔のハーフだしね。それにほら、千里眼なんて持っていると、どうしてもねえ? まあ、最近はもっぱら、確定した過去をピントをずらす感じで覗くのが精一杯なわけだけど」
あー、なるほど。
千里眼を応用してる方だったか。
「いやはや、君は実に興味深いね。それに何より、君の描く物語は見ていて飽きないよ! 私はもう、すっかり君のファンと言ってもいい!」
大仰な仕草で熱弁するマーリンに、うわぁ、という顔をするキャストリア。
そう、この男はそう言う男である。
決して悪い奴ではないのだが、感覚が人間とはズレている。
そういう意味では、ある意味で妖精に近いと言っても良いだろう。
妖精との違いは、一応は善悪の区別がつく所と、感覚のズレはあれど正義や善と言った側のパーソナリティを持っている所だ。
あと結構重要な点として、バッドエンドが嫌いで、ハッピーエンドが好き、という嗜好が挙げられる。
ぶっちゃけ、この部分がないと黒幕とかになりかねない節がある人格をしているからな。
「やめろと言ってもやめないだろうし、基本アヴァロンで引きこもりやってるしかないのは退屈なのは分からなくもないから、そこはもう好きにすれば良いけどな。この後も予定が詰まっているから、さっさと案内をしてくれ」
俺がさらっというとキャストリアは驚いた顔をしたが、すぐに諦めた顔をして溜息をついた。
それが正解だ。
今更矯正しようがないんだから、それはそれとして付き合うしかないのである。
「おっと、そうかい? もっとファンとしての熱い思いを伝えたいところなんだが、君がそう言うなら仕方がない」
そう言って、マーリンは不思議と暗くはない洞窟の中を先導して歩きだす。
歩く途中、洞窟に描かれた壁画の数々を目にする。
それは、妖精國の始まりの物語。
「君たちはもう知っていたね。そう、これが、はじまりのろくにんとよばれる妖精たちの犯した罪と、妖精國の始まりだ」
妖精たちが聖剣の製造をサボり、世界は異星の侵略に敗れ一度滅んだ。
地上に残された妖精たちを裁きに来た神は、妖精の手によって謀殺され、神は大地の礎に、神と共にあった巫女は、人間の原材料として消費された。
いっそ、分かりやすい悪意があったなら、この世界は今よりはマシだったかもしれない。
だが、そこにあったのは無邪気な怠惰と、我儘と、残酷さだった。
善悪がなく、正否もなく。
彼らは正しく過ちを知る機会を逸した。
後の氏族の中には、それを知る者もいたかもしれないが、そうしたまともな者から排斥された。
それは、運命であったのか、呪いの発露であったのか。
償う機会はあった。
かつて救世主トネリコと呼ばれた存在がそれだ。
だが、妖精たちは罪の意味も在処も知らず、救世主と呼ばれた一人目の楽園の妖精トネリコは、理想に敗れて使命を捨て、冬の女王モルガンとなった。
そして、すべては手遅れとなり、妖精國は今ここに滅亡を孕んだ世界の雛として可能性の中を揺蕩っている。
「だが君たちが、この妖精國が本当に終わってしまう前に間に合った。おかえり、アヴァロンの妖精。そして、ようこそ、異邦の君」
壁画が途絶え、マーリンの言葉が響く。
それと同時にまた大きく景色が変わった。
美しい、緑あふれる、どこか妖精國にも似た景色。
この特異点に落ちたアヴァロンの影のような場所がここだとマーリンは言う。
「目的の場所は、もうすぐそこだ」
そんな綺麗な世界の中をマーリンの先導で歩くにつれて行き遭うのは、キャストリアの過去の記憶が障害となったもの。
冬の記憶。
妖精國のはずれの村で、妖精たちの身勝手な在り方にその身と心を削られるように生きる彼女を見た。
秋の記憶。
村はずれに住むエクターに出会い共に過ごし、炎の中で滅びる村から死にゆく彼に見送られて旅立つ彼女を見た。
ちなみにこれらは本来なら俺が知るはずのない話だ。
実際には彼女の記憶から生み出される障害を倒して、すこしその悪感情が知れる程度の話。
俺がこれらを知っているのは別の世界線の物語を知っているからに過ぎない。
そして、春の記憶は、やはり障害として現れる事はなかった。
キャストリアは、ちょっと固まった後、諦めたような顔をしたが。
「少なくとも、ここ最近の時間は悪いものじゃなかっただろう? だからきっと、君に春の記憶が存在しないわけじゃない。ただ、今の君にとってそれは、今の自分からほど近い地続きのもので、記憶なんて言う遠い過去のものではないだけだ」
別の世界線の物語を見た時から、思っていたのだ。
カルデアの彼らとの旅が、春の記憶として現れなかったのはおかしいのではないかと。
そして、実際に彼女と共に旅をして気が付いた答えがこれだった。
「ああ、そっか。そうなんだ」
この理屈があっているのかはしらない。
でも、キャストリアはほっとしたような顔をした後に自分の胸に手を当てて、もう片方の手でその手を慈しむように掴んでいた。
そうして、俺達はそこにたどり着いた。
星の内海、その中の聖剣を打ち鍛える、鍛冶場。
そして、楽園の妖精が星へ還る祭壇とも言うべき場所。
「それじゃ、行くとしようか」
アルトリアの手を引く。
「え、ちょっと待って、統夜!?」
問答無用である。
変に思い悩まれると面倒だからな。
「いや、ちょっとまって、君も行くのかい!?」
マーリンも驚いているようだが、今は無視で良い。
というか割と大体が思惑通りって顔をしているマーリンのあんな顔は中々レアだな。
やっぱり俺の現在と未来はまともに千里眼で見えないのが響いているのかもしれない。
「信じろ」
信じていると、演じている姿がそれでも似合っているといった彼女に、ただ一言だけ。
それでキャストリアは覚悟が決まったみたいで、表情が一気に引き締まった。
そして、二人で光の中に身を投じた。
光の中で彼女を前に招いて、自分は後ろから抱きすくめるように、共に選定の杖を握る。
「この姿勢は流石に――――」
気持ちは分かるんだが、魔力を同期させたり、息を合わせたりで必要だから諦めてもらうしかない。
「必要条件だ。我慢して、集中しろ。始めるぞ」
俺が促せば、しばらく唸っていたキャストリアが大きく深呼吸をしてから目を閉じた。
俺もそれに合わせて目を閉じた。
不思議な感覚だ。
思考だけで製図をしている感覚、とでも言えばいいんだろうか。
キャストリアが妖精國で得てきた様々な経験を材料に、心や感情で製図を行いそれを基に積み重ねた思い出で肉付けしていくような、そんな感じだ。
本来なら都度、キャストリアからそれらが消費されて行くんだろうが、そこで助けになるのが出会ったばかりの時に渡したネックレス。
あれは魔除けなんかの効果もオマケとして付いているが、その本領は持ち主の精神に感応し日々それを蓄積する性質にある。
精神感応性の高い性質を持ったチート由来の鉱物に、メディアの協力なども得て手を加えたこの時の為のアイテムというのがこれの正体だ。
色々と本来の聖剣の鍛造とは違う部分は、俺のチート由来のクラフタースキルと、未熟ながらも錬金術師として積んだ経験で助ける。
だが、やはり、それでも決定的にリソースが足りない。
本来であれば、妖精國でも屈指の魔力量に育ったキャストリア一人丸ごとがリソースになる工程だ。
FGO世界線では、別のサーヴァントが身代わりになる事で彼女に猶予を与える事に成功していた。
しかし、あの世界線と違う今この場所には、そのサーヴァントは存在しない。
ネックレスと、俺の魔力とスキルの助力で何とかなれば最高だったんだけどな。
この手は最後の手段だったが、仕方あるまい。
一応、その後のフォローの為の手はいくつか用意もしてあるし、問題ない、はず。
誰に対するでもない言い訳をこぼしながら、覚悟を決めて、それを行った。
ぐちゃり、と生々しい音がして、左側の視界が失われる。
覚悟していたせいか、痛みはそれほどでもなかった。
「統夜!?」
悲鳴のような声を上げてキャストリアが振り向きそうになる。
「振り向くな。心を落ち着けて、鍛造に集中しろ」
歯を食いしばる音が聞こえて、目じりに浮かんだ涙が、残された右目に映った。
それでも、彼女は振り返ることはせずに踏ん張った。
そうだ、それでいい。
どうせ反対されると思って先に言っておかなかったのは悪かったが、これは想定の範囲内。
眼球という、魔術的にシンボリックな部位。
彼女と共に旅をしてそれを見続けていた目であるという、この鍛造に適した意味付け。
そして、俺という規格外の存在の受け皿となり、その力に浸され続けていた肉体の一部であるという事実。
結果は想定を上回るものだった。
俺の体の一部というのは思った以上の魔力触媒だったらしい。
魔術的な意味をいくつも重ねてブーストされていた部分もあるだろう。
鍛造の手応えが、劇的に変わったのがわかった。
――――なんてものを炉に焚べるの!?
馬鹿、ホント馬鹿!
信じられない!
泣きたくなる気持ちを怒っているふりをして抑えつけて、心の槌で力の塊のようなそれを鍛え上げる。
分かってる。
これは私を、失わせないためだ。
出会った頃に統夜にしては珍しく強引なやり方で渡してきたネックレスだって、結局はこの時の為だった。
きっと、片目を使う事も以前から考えていたに違いない。
ずっと、出会った最初からそうだ。
この人は私を助けてくれる。
なんでって、問う事は少し怖くて出来なかったけど。
だって返ってくる答えはきっと、自分がそうしたいと思ったからだって、そんな答えに決まっていて。
きっとその時には、私の目に私だけに向けられた彼の優しい、あの色が映るのだ。
彼が誰かに手を差し伸べる時に見える、あの言葉に出来ない様な色が。
でも、それから目を逸らしたって、結局は意味はなかった。
彼は私を助けてくれて、ホントは私が一番に歩かなければいけない道の数歩先を常に歩いていて。
否応なくその姿と、目を逸らせなくなるあの色が目に入った。
マンチェスターの時は、今まで生きて来て一番に妖精眼を持っていたことを疎んだ。
バーゲストと向き合っていた時も、犠牲になっていた人間のもう残骸としか言えない様な亡骸を送ってあげていた時も、彼の色はいつもと違う、見ていられない様なひどい色で。
見たくなかったけど、見る事でその痛みを知ってあげられた事は良かったとも思った。
彼は、自分で自分を、力以外は普通の人間だって言う。
それはきっと、本当の事。
私の妖精眼に映る彼の色は他と比べても、特に変わらないものだ。
怒って、笑って、悲しんで。
表面上は上手に強がっているけど、本当に普通。
でも妖精眼を抜きにしてみると、他にはいない様なとびっきりのヒーローみたいに見えた。
多くに手を差し伸べて、多くを救って。
力があるからその分だけ他の奴より余裕があるだけだ、なんてよく本人は言っていたけど。
それだけで出来る事だとはとても思えなかった。
だから、私は自分の妖精眼を疑った。
あんな人が、まったく他と変わらない風に普通にしか見えないなんておかしいって。
でもいくら目を凝らしても、見れば見るほど、彼は普通の人で。
でもある日、そんな普通の色の中に、少し違う色が混ざっているのが見えるようになった。
彼らしい、あの優しい色だ。
本当にほんの少しだけど、きっとそのほんの少しが、彼を彼たらしめているんだと分かった。
そんな違いが見えるようになって、妖精眼で見る世界はずいぶんと印象が変わった。
ずっと、目を閉じてしまいたくなるような物ばかりに見えていたけど、見方を変える事が出来るようになった。
極論、彼は私の世界を変えてくれた人だと言ってもいい。
ずっと、ずっと、ずっとだ。
出会ってから、その背を追って歩いていた気がする。
その背を見て、生き方を見て、歩いてきた。
そうだ。
これがきっと、込めるべきもの。
心を槌に。
今は私の背を支え、手に手を添えていてくれる彼を感じながら、槌を振るう。
貴方の背を見て、その足跡を辿るように歩いて、私は少しだけ自分が使命を手放さないでいた意味が分かった気がした。
それはきっと、そんなに難しい話じゃなくて。
自分の心に従う、そんな単純な答えで良いんだって。
胸を叩く感情、その鼓動に合わせるように、イメージの中で槌を振るった。
きっと、誰かを助けられるような、彼のような、そんな力が宿りますように。
平凡な普通の人と変わらない在り方の中に、ほんの一滴の色を混ぜて、たったそれだけで諦めずに歩き続ける彼の力になれるような。
そんな、導きの星のようなカタチを。
驚くくらいスムーズに想いが形になっていく。
きっとこれは彼の手から伝わってくる不思議な熱のおかげだ。
また、助けられてしまうけど、きっと、いつかは、背を追うだけじゃなく、その隣を歩める自分になれる事を願って。
折角彼が、私には存在しなかったはずのこれからの時間を拓いてくれたんだから、それくらいは欲張らなくっちゃ嘘だと思うのだ。
そうして、気づけば私は、自らの役目を果たし、見事に星の剣を鍛え上げる事に成功する。
少なからずは彼のおかげ。
だけど一息ついたら、その目の事だけは絶対に怒ってあげなくちゃいけない。
私に未来をくれてありがとうって、お礼だけは言った後にだけどね。
閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。
実はパソコンがクラッシュしまして。
久々に血の気が引きました。
ただでさえ体が不調なのに勘弁してほしい。
これだからOSのアップデートは嫌いなんですよね。
しかも何気にこれで二度目だったりするので。
そんなこんなで投稿がちょっと遅れまして、その関係で文章量が二話分以上に膨らんでいます。
分けても良かったんですが、今回はまとまっていた方が形として奇麗なのでそのままにしました。
長くて済みませんがご容赦を。
小話
長くなりすぎるのでカットしていますがハベトロットとはすでに分かれて、鏡の氏族の妖精亡主は統夜たちに力を貸した後に妖精國の未来を託して成仏しています。
ちなみに、ここまでお付き合いいただいた読者の皆様にはわかり切った話だと思いますが、キャストリアが統夜に向けている感情は、非常に重いです。
出会ってからここまでの付き合いがあまりに濃いですし、キャストリアの前だと普段わりと悪ノリしたりする部分を差し引いても、格好をつける事に成功し過ぎているというか。
妖精國は状況が控えめに言ってアレなので、必然的に本気で頑張らざるを得ず、それをずっと見せられていたキャストリアがもらい事故的に目を焼かれ続けるという。
しかもそんな状況でありながら、ずっとキャストリアに心を砕いているので、まあうん。