Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制) 作:空門 志弦
ノクナレア旗下の巨人兵の一撃をわずかに読み違えて、無様にも力ずくで弾く羽目になった。
失った左目を補う視界は、失われたものより高精細で視界の範囲もはるかに広いが、以前のものとの違いが顕著な分、慣れるまではどうしても感覚的な誤差が生じる。
キャストリアとの再会からの売り言葉に買い言葉、そこから俺に絡んで来て力を見せてみろと流れるような形で戦いを吹っかけられたわけだが、かえって良かったかもしれないな。
受けそこねた攻撃をしてきた者とは別の巨人兵からの攻撃を一時的に左の視界を封じて、今度はある程度は完璧に近い形で流した。
なるほど、生身の片目だとこんな感じで、ズレはこれくらいか。
次は、左目だけだ。
左目だけの視界は、パワードスーツを装着している時のそれに近い。
というか、ほとんど同じと言って良いだろう。
まあ、義眼として移植したのが結局はチート由来のSF式の義眼だったから、これはある意味当然だ。
使われている技術が同じだからな。
この状態であれば、むしろ今まで生身の目で行っていた見切りよりもより精細で繊細な見切りすら可能になる。
左右、更には背後からも同時に振るわれた武器の一つのベクトルを変えて他の二つの武器を弾かせた。
非常に視野の広い義眼は、驚愕している表情のノクナレアと、はらはらした顔で杖を握りしめているキャストリアを映している。
便利ではある。
だが、正直な話をすると性能が高すぎる節があった。
チート由来のクラスの力を使っている今は良いが、そこを抜きにした時に戦闘状況で使いこなせるかと言うと、怪しい部分がある。
まあ、この義眼は前世ですらアクセサリカテゴリーの装備としては壊れ判定を受けていた超性能。
当然と言えば当然ではある。
しかし、実際にこうして使ってみると生身の眼がそれに劣るのか、というと難しい。
性能面で言えばどう考えても義眼の方が勝っているのだが、なんというか自分の一部としての適合度みたいなものに差異を感じるのだ。
慣れてくればマシになっていくんだろうし、多分こういった装備全般の扱いに適合したブレイカーの方のクラスもアクティブにすれば話は変わるだろう。
とはいえ慣れには時間が必要だし、クラスの力をもう一つ解放するのは現状どう考えても過剰戦力。
おっと、囲んでいたやつらが同士討ちに近い形で弾かれて出来た空間に、機を窺っていた巨人兵のうちの一体が踏み込んできたか。
この間隙を瞬時に判断して突いてきたのは大したものだ。
だが。
「俺を相手にほんの一合とはいえ一対一になるのは、完全に悪手だったな」
敢えて両目を開いて、義眼側の情報は脳で噛み砕き、生身の目からの情報を感覚で処理する。
巨人兵の剣の腹に刀を添わせて勢いを削いで優しく地面にその剣が触れた瞬間、一瞬だけその剣の位置をそこに固定させた。
相手が剣が動かないと感じて対処しようとする意識の間隙を盗んで、一瞬で相手の巨人兵の剣、腕、肩、と駆け上がり、その顎を刀のみねで一瞬で左右から打って脳を揺らした。
目は現状、この使い方がベストか。
チートなしの時は、義眼側を生身の目の性能に合わせるのが正解だろうな。
膝から崩れていく巨人兵を足場に、武器を弾き合って体勢を崩していた三体の方に跳んで、同じように脳を揺らして膝をつかせた。
周囲にはまだ何体もの巨人兵がいるし、人間とは耐久力の違う巨人の事だから、脳を揺らした連中もすぐ復帰するだろう。
だが、これ以上は無駄に思える。
義眼のひとまずの慣らしも終わったし、俺としてはこのあたりで十分じゃないかと思うんだが。
「どうする、まだやるかノクナレア?」
観戦していたノクナレアの方に視線をやって問うと、驚愕の表情を浮かべたままだったノクナレアがはっとしたように表情を引き締めて答えた。
「いいえ。これ以上は無用よ。……下がりなさい」
彼女が手を一振りすると、巨人兵たちが退いていく。
膝をついていた巨人たちは他の巨人の肩を借りて。
……ちょっと強く打ち過ぎたかな?
「そこで、ちょっとやり過ぎたかな、とか悪いことしたかな、みたいな反応をするのは一見すると凄く普通っぽいけど、状況的にかえって怖いからね?」
ノクナレアと一緒に観戦していたキャストリアが呆れたような顔で言ってくる。
戦闘中、その心配顔は途中からすっかり諦め顔に、そして最後は呆れ顔に変わっていた。
「ジャンヌさんが基本戦闘面については心配するだけ馬鹿を見るって言ってたのが凄く良く分かった」
ジャンヌ・オルタとは結構仲良くやってたみたいだったが、そんなことも吹き込まれていたのか。
まあ、否定できるのかと言われると、その、うん、自分でも難しい話ではあるから文句は言い難いんだが。
微妙に目を逸らし、刀を鞘に納めて二人の方に歩き始めた。
しかし、その何とはなしに逸らした視線がまずかった。
戦闘が終わってなんだかんだで気が抜けていたのもあるだろう。
普段ならそんな事は無いんだが、流石に慣れない目を検証しながらの戦闘は頭も精神も消耗していたようで、慣れない視界のブレで足の歩幅を誤って、ふらつく。
すぐに体勢を立て直そうと踏ん張った瞬間には、腕を抱かれてキャストリアに支えられていた。
間近になった顔、すぐ近くで目が合ってキャストリアが固まり、おいマテ、自分でやって驚いたのもだんだん恥ずかしくなってきたのも表情の変化で分かったから、腕の力を抜くんだ。
自分が今、割とヤバイスペックである自覚を持ちなさい。
「私の前でいちゃつくのはやめてくれないかしら?」
待つんだノクナレア。
言いたくなる気持ちは、客観的に考えると良く分かるが、今はマズイ。
「べ、別にいちゃついていませんけどぉ!?」
照れる様子は可愛いけど、ちょっとマジで腕を離して!?
ぐおお!?
これ、何気に俺が転生してから受けたダメージの中で五指に入っちゃうのでは!?
「……まあ、そういう事にしておいてあげるから、腕離してあげたほうが良いんじゃない? ちょっと聞いているこっちが痛くなってくる音がしてるから」
言われてようやく俺の様子に気が付いたキャストリアが腕を離してくれた。
「ご、ごめん!?」
「いや、まあ、大丈夫だ」
多分。
痛かったけど、骨とかに異常はない、はず。
「相手が俺ならまあ、良いんだが。今のアルトリアは、急に魔力が増えて加減がおかしくなっているから気をつけろよ」
マジで。
下手に脆い相手にやると事件になるからな?
頭に殺とかの字が付く系の。
鐘を一度に鳴らした弊害がこんな形で現れるとは。
本来なら一つずつ鳴らして、鳴らす間の期間もそれなりには空いてたはずだから、多少は慣らし期間みたいなのがあったんだろうけど、一度に鳴らした所為で強化が一気に来たからな。
「片目を作り物に変えたばかりとかこの子が心配してたのに、あの戦いぶり。それに驚かされた所にコレとはね」
何か色々判断に困る、という風にこめかみのあたりをぐりぐりと指で押すノクナレア。
「あのモルガンが初手で白旗を上げる相手がどんな奴かと思えば……、うーん、いやでも、見た目は中々? 戦ってる時とかガラっと雰囲気が変わってなかなかイケてたし」
グイっと距離を近づけて来てまじまじと観察される。
なお、言っておくがモルガンの初手は白旗じゃない。
ロンゴミニアドのつるべ打ちだ。
それを防いだって言ったら絶対にアレな目で見られるから抗議は心の中だけに留めるけどな!
「ちょっと、距離近いんじゃないかな!?」
間にキャストリアが入ってきてノクナレアを引き離した。
そんなキャストリアを面白そうな目で見るノクナレア。
「ふーん。なるほど、そう言う感じか。いいわ、ともあれ貴方は力を示した。ひとまず話くらいは聞きましょう」
そうして、天幕の一つに案内された俺とアルトリアは、ノクナレアに促されて席についた。
傍付きと思われる妖精が三人分の飲み物をテーブルに置いて、退出してそれぞれが軽く口をつけた頃合いでノクナレアが口を開いた。
「それで、腹案を聞きましょうか」
え、とキャストリアが戸惑う。
しかし、俺の反応は違う。
表情は隠したつもりだが、苦虫を噛み潰したようなそんな心地がした。
「やっぱり君たちは、今の妖精國の状況を正しく理解していたんだな」
この場合の君たちは、ノクナレアとモルガンの事だ。
「そうね。今のままでは私が玉座を継いでも良くて先延ばしであることも、そもそも先延ばしすらできるか怪しい状態まで行き着いてしまっていることも」
声だけ聴いていると平然と言っているように聞こえるが、ティーカップから離した手が握りしめられていた。
「外に活路を求めようにも、その外がそもそも無数の滅亡要因に襲われていて、自分たちの国すら危うい私たちには到底それが乗り越えられない事も……」
キャストリアが息をのんで、俺はただ苦い思いを胸にその独白のような言葉を聞くしかなかった。
「モルガンはそれでも妖精國に固執していた。私としても、マヴの後継として、女王たるべく生まれた者として道を探したけど、結局は先延ばし以上の方法を得られないでいる」
俺との力の差を正しく理解してしまったのだとしても、モルガンはあまりに大人しすぎた。
だから、そうじゃないかとは思っていたのだ。
だが実際にそうだとモルガンとある意味共犯と言ってもいいマヴの後継であるノクナレアの口からそれを聞くと、また感じるものがあった。
「遅かれ早かれ、この妖精國は滅びる。そしてその期限は恐らく、最大限遅く見積もってもそんなに遠いものじゃないでしょう。実際、色々な綻びが見え始めていた。氏族間の対立とか、ボガードの強まりつつあった叛意とか。予言の子の噂が広まっていたこともその一つと言って良いかも。でも中でも一番わかりやすいのは大厄災の予兆ね」
モルガンはまだ何とか出来ると思っていたみたいだけど、アレはきっと目を逸らしていただけだろう、と。
そして、いい加減に自分が代わって女王になるしかないと軍の動きを活発化させていたとノクナレアは言う。
「でも、貴方が来た。貴方は、この國に来てすぐにモルガンを黙らせて、オーロラやムリアン、果ては妖精騎士ガウェインまでをも懐柔し、スプリガンとウッドワスを降した。そして、ノリッジを襲った災厄を祓ってさえ見せたわ」
オーロラは手駒に出来そうな妖精をこっちでおさえて身動き取れなくしただけで、別に懐柔はしてないんだけどな。
まあ、端から見れば懐柔した風に見えるのか。
「一見すると内側から妖精國を切り崩しているように見えるけど、いろいろ知っていて國をある程度俯瞰して見る事が出来る私の目から見るとちょっと違う。貴方がやっていることはつまり、妖精國の病巣の排除。そうでしょう?」
ほぼ正解と言って良いだろう。
そして、そしてそれは大体そのまま、オベロンと俺の暗闘の軌跡でもある。
だが、ほとんど事前設置の爆弾の解除みたいなもので、リアルタイムではさっぱりと言って良いほど手を出してこなかったのは少し意外だった。
むしろ俺の仕掛けの方の手伝いの方に積極的で、邪魔は全くといって良いほどしてこなかった。
じゃあ、オベロンが邪魔に動けたかって言うと、俺との戦力差とか、そもそも義務だけどさして乗り気ではないとか色々あるから、微妙な線ではある。
だから意外ではあるが、想定の範囲内でもあったりはするのだ。
「聞かせて。異邦人たる貴方は、いったいこの妖精國に何を描こうとしているのか」
真剣な表情と力のこもった声を受けて、俺は深く頷きを返す。
「難しい話じゃない。最初からこの妖精國で語られているだろう? 要はより良い形での予言の成就が俺の目的だ。楽園の妖精は使命を果たした。あとはこの國に生きる妖精の罪を呪いを祓う事で雪いで、妖精を伝承の元に妖精郷に還す」
本当ならもっと早くに訪れていた結末を。
最短ならケルヌンノスが現れた時に、あるいはトネリコがまだ楽園の妖精であった時に果たされていたはずのエンディングを。
罪を認め償い、帰るべき場所に帰るというゴールを目指すのだ。
妖精國は最早どうしようもない。
その国土それ自体が滅びの特異点の基点になるほどに。
ここに固執し続ければこれと共に滅びるしかなくなる。
だが、その前にちゃんとした結末を描いたなら、きっと基底世界に何らかの形で妖精國に生きた妖精たちの足跡と物語は残るだろう。
目を閉じれば、サーカスで旅を共にした妖精たちの姿が浮かんでくる。
正直、妖精國の妖精たちは、色々と質が悪い。
だが全てがそうではないし、その他の大多数の妖精たちだって悪というわけではないのだ。
俺は団員達との旅を通じて、彼らは変わり得ると確信した。
まあ、団員や一部の妖精たち以外は今のままだと不安を覚える部分が大きいので、最後に一つだけ大仕掛けをするつもりではあるが。
「ハッピーエンドとは言い難くとも、ゲームオーバーではない、あるべきだった本当のグランドエンドを。俺はこの妖精國に、それを描くつもりだ」
閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。
小話
間にその辺のエピソードを一話挟む形になってテンポが悪くなるかなーと思ったので細かい話を思い切ってカットしていますが、左目はチート由来の機械式義眼となりました。
これは、魔術的に捧げた左目が何をしても再生できなかったためです。
一方で機械式の義眼が機能しているのは、この義眼の機能があまりに多岐にわたり、左目の補完というより新たな身体機能の拡張としてカウントされたため、という理屈です。
何しろ、「別に英雄じゃないけど目で殺す!」 とか目からビームを撃てたりする、トンデモ義眼なので。
そして、モルガンが大人しい理由の補強要因がこれです。
まず内側がほとんど詰んでて、実質精々時間稼ぎしかできてない状況で、これはFGO世界線と基本的に変わらないわけなんですが、外の状況が天と地ほど違う。
まず、外に文明が現存しているので上書きしようと思うと当然反発がある。
そもそも、外側に統夜が付いているのでその時点で詰んでいるんですが、そこを抜きにして、現実に根付けたと仮定しても、内憂が酷いから外に活路を見出したいのに、外は外で崩壊要因がスクラム組んでタップダンスしてるような最悪な状態なんですよね。
要するに、FGO世界線と違って妖精國を存続させる勝ち筋自体が存在しないんです。
活路を求めるために外の状況を調べたモルガンは、ひっそりと一人で膝をついたとかつかなかったとか。
そして現れる統夜。
色んな意味でロンゴミニアド連射もやむなしだと私は思いますまる。