Fate Night Unnamed ~チート転生者はデスマーチに挑む(ほぼ強制)   作:空門 志弦

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第99話   俺と彼女たちの心配と叱責

 

「なるほど……つまり私たちは妖精國を覆う呪いの核たるケルヌンノスが目覚めてからそれを貴方が打倒するまでの間を生き残らなければならないわけね」

 

 用意されたホットチョコレートを飲みながらこれからの事をノクナレアと話し合う。

 天幕には念のため防音の結界が張られて、入口も閉ざされていた。

 内部には、甘い匂いがふんわりと漂っているが、話している内容は甘さからは程遠かった。

 

「そうなる。妖精たちを送還するにはあの呪いが色んな意味で邪魔だからな」

 

 呪いを祓い罪を濯がなければ、楽園への扉は開かれない。

 今回妖精たちが送られるのが、あのアヴァロンそのものであるかは定かではないが、彼らが罪ゆえに帰還を許されなかった妖精の裔であるという事実は重い。

 罪なき者のみ通るがいいとマーリンは己の宝具を用いる際に口上を述べるが、それはつまり罪あるものは通る資格がないという事。

 おそらく彼らを送還する術式は、あの呪いを祓わない限りまともに機能しないだろう。

 

「妖精國の領主たちに接触していたのは、その準備をさせるためもあったのね。巡礼の鐘に細工をしたり、厄災を祓ったり、一体幾つの策を同時並行で巡らしているんだか。怖い人間ね」

 

 流石に少なからず司馬先生の助言を貰っているので、そんな目で見られるのは心外だ。

 

「ウチには見た目に似合わず頭が切れすぎる軍師様がいるからな」

 

 まあ、あの黒猫の見た目はあくまで仮初のものだけども。

 FGO世界線でもライネスの姿で疑似サーヴァントとして現界していたから本当の姿は謎だ。

 でも女性服を送られて煽られたりしていた逸話があるくらいだから、きっと線の細い中性的なサディスティックな表情のよく似合う人物だったんだろうなあ、などと勝手に思っていたりする。

 

 おっと、一瞬あの可愛らしいのに内面の怜悧さがはっきりと滲んでいる猫の目が脳裏に浮かんで、ちょっと寒気が背筋を撫でたぞう。

 よし、滅多なことは考えない事にしよう。

 怖気を鎮めるために、程よく温くなったホットチョコレートを一口。

 甘い匂いが鼻腔を抜け、ほのかな苦みと確かな甘みが舌を滑って、喉から胃へと温かみが落ちていく。

 

 ――――なるほど、美味いな。

 これがノクナレアの領の名産のチョコレートか。

 さっきから話に入り込む余地がないキャストリアがずっとチビチビと飲んでいるのも頷ける味だ。

 

「これ、帰り際にいくらか売ってもらえるか? 割と真剣にお土産にしたい」

 

 ノクナレアが目を丸くしてから、クスリと笑う。

 

「良いわ。その値段の交渉は、この話が終わった後でね」

 

 なんだかんだで名産を褒められれば悪い気はしない様で、少し機嫌がよくなった気配がする。

 だからというわけでもないだろうが、ノクナレアから次に告げられたのは一つの忠告であった。

 

「私にとって、國とは民。それがすべてとは言わないけど、私にとってその比重は明らかにそちらに傾いているわ。だから貴方の案にも乗る気になった」

 

 でもね、と彼女は続ける。

 

「モルガンにとって、妖精國とはこの國の空と大地よ」

 

 まあ、バーヴァン・シーとかを筆頭に一部例外がいないでもなさそうだけど、基本的には女王となった時に私は妖精たちを救わないとか宣言したくらいだもんな。

 気持ちは痛いほど分かるけど。

 俺だってFGO世界線の知識があって妖精が必ずしも邪悪なだけの存在じゃない事や、例外的な善良な妖精が存在している事を知らなかったら、ほとんどの妖精はすっぱりと見捨てていたと思う。

 

「だから、私のようにすんなりいくとは思わない事ね。たとえ、それが正しいのだとモルガン自身にも分かっていたとしても、いえ。むしろだからこそかしら」

 

 ああ、それは、きっとそうだろう。

 彼女の苦難の道のりと、それゆえの選択。

 救世主トネリコとしての歩みと、妖精國の女王としての日々。

 妖精は生き残ったとしても、どうしようもなく妖精國の滅びは免れないなんていう解しか存在しないなんて、彼女にとっては筆舌に尽くしがたい苦渋の味のする現実に違いあるまい。

 

「モルガンは必ず、貴方に杖を向けるでしょう」

 

 忠告であると同時に、それはまるで予言のようでもあった。

 そしてそれは、俺自身もきっとそうなるだろうと思っている、もうすぐそこに迫っている未来なのだ。

 

 

 

 ノクナレアの忠告を受け取った後、オーロラについての注意喚起など話すべきことを話し、丁々発止にチョコレートの価格交渉を楽しみ、俺とキャストリアはノクナレアのもとを離れた。

 途中途中でキャストリアとノクナレアの二人が衝突していたのはご愛敬といったところだろう。

 今回はロンディニウムに合流していたサーカス団からレッドラ・ビットが馬車を引いて迎えに来てくれていて、だいぶ行程は短縮された。

 

 ちょっぴりだが、もう少しゆっくりでも良いんだけどな、と思ったのは秘密だ。

 なんでそんなことを思ったかって?

 そりゃ、アレだよ。

 現在進行形で、甘んじて防御を緩めて受けたライネス渾身の踏みつけで、足の甲の骨が粉砕されるんじゃないかってくらい痛いからだよ。

 

「正直、対案が思いつかないし、彼女が代わりに消えればよかったなんてことも思わない。だから、これだけで勘弁してやる。私たちの優しさに感謝しろよ?」

 

 理不尽な事を言っている自覚はあるんだろうに、自信満々の顔でそう言ってのけるあたり、実にライネスらしい。

 とはいえ、これはみんなの心配をライネスが代表して伝えてくれたという事でもあるわけで。

 痛みを何とか耐えきって、俺は神妙な顔を維持した。

 

 ライネスの背後にはやれやれといった表情をしたいつものメンツ。

 あ、いや、目は結構怖いかもしれない。

 分かりやすく目つきの悪いジャンヌ・オルタより、心配混じりの怒った目のメルトリリスより、どこか達観したような色のあるカレンの目の方が怖い不思議。

 

 ねえ、キャストリアさん、何をカレンに耳打ちしているのかな。

 そしてカレンは何に納得して頷いた。

 あと今気が付いたけど、シオンの顔の心配顔は俺の義眼のヤバさに気が付いちゃった事による別の意味の心配顔だな?

 そのハンドサインは後で面貸せってことですね。

 

「まあ、見ての通りだ。多くは言わないが、みんなに心配をかけた点については少し反省したまえ」

 

 そう言って、ライネスは俺の顔をがっしり掴んで自分の顔の間近に引き寄せた。

 そして額のくっつきそうな距離でまじまじと俺の左目を観察する。

 

「ぱっと見では義眼とは思えない出来だな。本当に君の持ちだす道具はとんでもないものが多い」

 

 ちなみに帰ってきた俺を真っ先に空を飛んできて出迎えたメリュジーヌは、左目を見た後に、

 

「うん、良く似合っているんじゃない? カッコイイ」

 

 なんて言って目を細めて笑った。

 竜の独特な感性的に気にいったのか、気をつかってくれたのか。

 あの時のパスから流れてきた感情の感じだと多分両方なんだろうなあ。

 なお到着が早朝だったので朝が弱い彼女はまだ眠かったらしく、そのあとすぐに俺にくっついて眠ってしまったので、シャドウフォートの彼女の寝室まで運ぶことになった。

 

「まあ、とりあえず大きな支障はないみたいでなによりだ」

 

 目のあたりを優しく手で撫でてから、ライネスが身を離す。

 そして、軽く肩を竦めた。

 

「少し体を休めるように言ってやりたいところなんだが、君に招待が来ている」

 

 古式ゆかしい豪奢な装飾を施された封蝋が押された封筒が取り出されて、俺に差し出された。

 

「モルガンから君宛だ。今回の戦いの正式な戦後交渉とあわせて対話の機会を設ける旨が書かれている。……まあ今日明日くらいは休めるだろうから、英気を養って備えると良い」

 

 手紙を受け取り、息を吐く。

 思った以上に早かったな。

 もう少しキャストリアを休ませたかったところだが、まあ、しかたないか。

 俺自身?

 ははっ、悲しいけど、この位は日常茶飯事だし。

 もう慣れたとも。

 

 なお、その日はカレンに凄くかいがいしく世話をされた。

 キャストリアが耳打ちしていたのは、リラックスしている時はまだ微妙に目の不慣れさでミスをしたりするのがばれていたっぽくて、それについてだったらしい。

 カレンが有無を言わせぬ感じの圧を出していたので、大人しく従った俺であった。

 

 

 





いつも閲覧ありがとうございます。
お気に入り登録や評価、感想と誤字報告にも変わらぬ感謝を。

ちょっと本格的にダウンして寝込んでいました。
本気で布団から起き上がる気力と体力がなくて、ずいぶん投稿間隔があいてしまいました。
もうちょっとこう、まとまった休みが取れていたらここまで長引かなかったと思うんですが、中々難しいんですよねえ。

そんなわけで、今回は小話はちょっとおやすみです。

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