【地雷ジョブ】陰陽師は毎日金欠です! 〜スキルを使うためのアイテムを買うお金が足りないVRMMO〜   作:きなかぼちゃん

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1.本体価格2,530円・別途月額1,650円

 世界初のVRMMO《Legend of Resonance》がアメリカで出てから、もう3年が経つ。

 フルダイブってほんとにできるんだ、って、みんなが初めて本気で思ったあの時。

 わたしには、ただただ遠い世界の話だった。

 

 だって、専用マシン1台で100万円超えとか、学生の財布に優しいわけがない。

 でも今───とうとう、その現実がやってきた。

 

 国内初の和風VRMMO《Shinra Bansho Online》。

 謎だらけのこのゲームは、たったの2,530円(+月額1,650円)でフルダイブができる。

 しかもただヘッドギアを被るだけで。

 

 いやホント……どういう仕組み?

 

 はっきり言って、みんな怪しいと思いながらこのゲーム買ってると思う。

 実は誇大宣伝で本当はそんなゲームなんて無いだとか、脳とか体に悪影響があるんじゃないかとか。

 でもさ、VRMMOへの憧れはそう簡単には止められないもんだよねえ。

 

 どちらにしろ、わたしみたいな普通の大学生でも手が届くほどVRMMOの敷居が低くなったんだから、どれだけ怪しかろうが手を伸ばしたくなっても仕方ないよ~!

 

 でも敷居が低いのは競争率が高いってことで、需要が大きすぎて供給が追いつかずにあっという間にこの《SBO》は異常な倍率の抽選販売に切り替わった。

 

 そして外れること十数回、諦めずに色んな家電量販店の抽選に参加した結果ようやく手に入れた黒いヘッドギアを机に置いて見つめながら、発売日からプレイできるんだなあっていう実感がようやく沸いてくる。

 

 うん、やっぱりこんな小さな機械で、お安くVRMMOができる時代になるなんて最高!

 

 スマホを開いて大学の友達にメッセージを送る。

 えっと『ご飯食べた。スタダの準備完了』っと。すぐに既読がついて『おけまる! もう落ち着かなさすぎて手が! 震える! んじゃゲームの中で!』とテンション高い返事が返ってくる。

 高まってんなあ……話すとクール系なのに何でメッセだとこんなハイテンションなんだろう。

 よし『チュートリアル終わったら合流しよ。無理そうならそれぞれ進める感じで』っと。

 

 これが普通のMMOなら同じサーバーとスタート地点にして始めればいい話。

 でもこのSBOに関してはそうもいかない。

 

 なんせこのゲーム、システム面の情報公開がかなり絞られていてどんなジョブがあるかとか、そもそもスタート地点の詳細すら全くわからない。蓋を開けたらスタート地点が全然違って合流できないパターンもあるかもしれないってことである。

 

 まあ、トレーラーを見ると和風MMOっぽくはあるんだけど。でもサイバーパンクっぽい都会の映像も流れてたから世界感よくわかんないんだよな……。

 

 ふとスマホの時計を見る。おっと、サービス開始2分前だっ。準備しなきゃ。

 

 説明書にあった「おすすめのプレイ姿勢」通りにゲーミングチェアを少し倒してゆったりした姿勢で座り、机の上に置いたヘッドギアを被る。右のこめかみあたりにあるスイッチをオンにすると、視界には青白い文字でちょうどサービス開始までの残り時間が表示されていた。

 

 こういう話題のタイトルはサービス開始直後はだいたい鯖落ちしてログインできないのが普通だけど、VRMMOだとどうなんだろ?

 まあそうなる可能性があるからってスタダ*1しない選択肢なんてありませんけどね!

 

 どきどきしながらその時をじっと待つ。そしてその時が訪れた。

 耳元からクールそうな女の人の流暢なアナウンスが流れる。

 

【Shinra Bansho Onlineは只今より正式サービスを開始いたします。マレビトよ、冒険を始めますか?】

「はい!」

 

 マレビト、というのがSBOにおけるプレイヤーの名前らしい。 

 

 このゲームは音声認証で起動できる。声と脳波パターンを登録してアカウントを紐付けるとかでセキュリティ面はかなり強いらしいけど、そのあたりの詳しいことはあまり知らない。

 

【あなたの現身を創造しています。ヘッドギアを取り外さないでください……50%……85%……100%】

【初めまして、マレビト。ようこそ、森羅万象の世界へ】

 

 何かにぐいっと頭を前に引っ張られるような感覚になって、視界が真っ白になった。

 

 

 

 

「うわっ」

 

 最初にひたすら落ちていく感覚があった。VRだと分かっているのに思わず声が出る。

 一瞬で視界が切り替わり、スカイダイビングのように空から落下しているという事に気づくまで数秒。周りは真っ白だ。身体が目線と同じ高さにある煙のような雲を風を切りながら突き抜けていく。

 

 そして視界が開ける。見渡す限りの緑と茶色。森や山、草原のテクスチャが現れた。

 

 風を切る感覚が和らいでいき、やがて身体が浮遊感に包まれると、空に浮かぶ小さな浮き島の中のひとつにわたしは降り立った。

 

『ごきげんよう、マレビト』

 

 目の前に生えたねじくれた松の木に、半透明の空色の羽衣を漂わせて桜色の着物を纏った天女が座っていた。異常な長さの若竹色の髪の毛が毛先で束ねられてひとまとめにされているのは、まるでぶっとい毛筆のようだ。足下どころか地面に髪の毛が付くくらいあるんじゃないだろうか。もちろん現実でこんな長い髪の人はいない。

 

 天女はひどく面倒くさそうな緩慢な動作で携えた分厚い本を開き、ちらりと冷たい目でわたしを見下ろした。

 

(われ)はチュートリアルナビゲーター・かぐやです。まずはお前の名を教えなさい』

 

 なるほど、和風ファンタジーというジャンルは間違いないみたい。かぐや姫を知らない日本人はそうはいない。やけに仕草が高圧的なのが気になるが……。

 

 そして迷うこともなくわたしの答えは決まっていた。

 

「アリスで!」

『表記を漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベット表記から選択しなさい』

 

 ああそうだった。それは言うだけじゃわからない。

 

「あ、そのままカタカナのアリスでお願いします」

『目録を検索しています……名の重複がないことを確認』

 

 よかったよかった。アリスという名前は超メジャーなので、スタダしなければだいたい先に使われている。この名前が使いたかったのもスタートダッシュを決めた理由の一つ。「_†アリス†_」とか「アリス_0617」みたいな名前はちょっと嫌だしなあ……。

 

 なんでアリスがいいかって? 普通に自分の本名が石川有珠(いしかわありす)だから。

 

『写し身のキャラクタークリエイトに移行』

 

 シュイイン、とSEと目に優しい光がきらめいて目の前に現れたのはドアくらいの大きさの姿鏡だ。そこに映っているのは、白い質素な小袖を着たまんまリアルのわたしの姿である。

 

『画面を操作して詳細なキャラメイクをしなさい』

 

 かぐやが素っ気なく言うと、各種調整スライダーが並んだ画面が目の前に浮かび上がった。

 

 えーっと体型はと、うわっ胸囲スライダーあるよ……。ウエストとか脚の細さまで調整できるのか。リアル通りの下半身デブはなんかヤダし少し細めにしとくか……? あーでもなんか見栄張ってる感じですごい敗北感ある……あとできるからって巨乳にするのもなんだかな……。ログアウトした時の格差に絶望しそう。

 

 ていうか、そこまで体型変えるなら顔も完全に別人にしないとめちゃくちゃ恥ずかしいぞこれ。

 でもわたし理想のキャラクリとか特にないんだよなあ。リアル顔面ちょいちょい変えるくらいでサクッと始めようと思ってたし。

 ウケ狙いの配信者とか、しっかりロールプレイしたい人たちは時間かけてものすごく作りこむのかもしれないけど……。

 

 ……これ悩むと沼だ! ゲーム始められなくなるやつだ。それより大事なのはスタートダッシュよ!

 

 ってことでもうリアル体型のままでいいことにする。

 

 顔のパーツは少し鼻高くして目の色変えて……あっこのすみれ色なんてよさそう。二重にしてちょっとだけ、ちょっとだけ大きく……。髪は黒髪のままでいいや。ゲッ伸ばしすぎた。ウワッ、わたしここまで髪伸ばすとこんな感じになるんだ。なんか面白い。これはこれでありか? んーでも流石にこれだと欝陶しいから三つ編みにしてみよ。サイドテール、三つ編み、っと。おー! 自分で結ばなくても一瞬で髪型変えられるの最高すぎる! ありがとうVRMMO! まっこんなもんかな? 髪型はまた後で変えれるだろうし。

 

 とりあえず納得したわたしは画面のOKボタンをタッチした。すると大きな姿鏡がSEとともに光となって消えた。

 

『次に今後の冒険の拠点となる、あなたが初めに降り立つ場所を選択しなさい』

 

『霊験あらたかな古き都、西京』

『神を否定した光と鉄の都、東京』

『半人半獣が跋扈する、龍が支配する峡谷、那護弥』

『北の果て、凍てつき、忘れ去られた幻想が生きる雪原、蝦夷』

『西の果て、火に満ちたあやかしの巣、熊襲』

 

『MMO形式のゲームを初めてプレイする初心者ならば西京、東京、那護弥を推奨しているわ。その他の拠点はより高難易度……艱難辛苦を求める愚か者だけが選ぶといいわ。あと、一度選択した拠点をゲーム開始後に再度変更することはできないからそのつもりで』

 

 かぐやがふわりと空中に浮いて手を翻すと、空中に画面が広がって大きな日本地図を形成した。拠点の位置らしき赤い光が5つ点滅している。

 どうやらマップは日本列島をそのままモデルにしてるみたい。

 

「えっと……サモナー*2をやりたい場合はどうしたらいいですか? 召喚術師みたいな」

 

 わたしはどうせVRMMOを初体験するならペットを連れ歩けるジョブがやってみたいと思っていた。今までやってきたゲームの経験から、それに当てはまるのはサモナーかテイマー*3のどちらかだろう。

 そして派手そうな魔法職をやってみたいという気持ちもあるので、テイマーじゃなくてサモナーっぽいジョブを選ぶことに決めていた。

 

『ふうん、つまり喚起カテゴリということ? ならば式神を使役できる陰陽師が最も近道でしょうね。であれば、西京で始めなさい』

 

 かぐやはひどく面倒くさそうに前髪をかきあげた。受け答えはAIなんだろうけど、人の応答次第でこんなにリアルに表情が変わるNPCを作り出せるのかとびっくりする。

 

 それにしても陰陽師かあ。和風ファンタジーど真ん中だな。式神ってワードを聞いただけでもなんだかワクワクする!

 

 それに初心者向けってことは、西京はゲームが進めやすい拠点ということになるんだろう。わたしは別にMMO未経験じゃないけど高難易度に最初から突っ込むほどドMじゃない。普通に考えれば簡単なスタート地点でスタダするのが1番効率がいい。

 

「じゃあそれで! 西京にします!」

 

 かぐやは松の木の横枝に再びふわりと腰掛けると、佇まいを直した。

 

『アリス、あなたはこれからこの世界の主人公です。Sinra Bansho Online運営一同、マレビト・アリスのゲームスタートを歓迎いたします、だ、そうよ。───せいぜい楽しみなさい』

 

 かぐやが軽薄な笑みを浮かべるのが見えた。そして、再び視界が切り替わる。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

【Shinra Bansho Online】ナビゲーターかぐやアンチスレ【性悪おばさん】

 

 

34:名無しのマレビトさん

最速で出来た個スレがチュートリアルNPCのアンチスレなの草すぎる

 

35:名無しのマレビトさん

隔離スレやぞ

 

36:名無しのマレビトさん

ずっと見下ろして話してくるから偉そうなんだよね

 

37:名無しのマレビトさん

かぐやウザかったからぶん殴ろうとしたけど空飛び始めて無理だったわ。ていうかあいつ敵対しようとするとめちゃくちゃニヤニヤしながら罵ってくるから絶対性格悪い

 

38:名無しのマレビトさん

AIにキレてて草

なんて言われたん? 別に何も感じなかったから普通にキャラメイクして始めたんだけど

 

39:名無しのマレビトさん

それが普通だから。現実と感覚変わらないVRなのにいきなり他人ぶん殴る方がおかしいよ。

 

40:名無しのマレビトさん

実質かぐや殴ろうとした奴隔離スレなんだよねここ

気に入らない奴をとりあえず殴る発想がない常人には理解できない世界なんだ

 

41:名無しのマレビトさん

俺らは“VR”に試されてるってワケ

 

42:名無しの考察者さん

検証のために敵対したから台詞ちゃんと記録してるぞ。

 

「くすくすくす、目の前のNPCを初見で殺すような知性の欠片もない下等生物に興味は無いの。お前たちマレビトに最初から価値などない。せいぜい箱庭でままごとに興じていればいいわ」

 

なおそれ以降はキャラクリ進行以外の話は一切無視されるようになった模様

表情と声がリアルすぎてマジで軽蔑されてる感じで普通に傷ついたんだけど……

 

43:名無しのマレビトさん

俺達が悪い

 

44:名無しのマレビトさん

正論定期

でもかぐやってやっぱプレイヤー見下してるくさいし偉そうなのはマジだな

なんでそんな設定なのか知らんけど。世界観的に重要な要素なの?

 

45:名無しのマレビトさん

俺も同じようなこと言われたけどよくある性格悪いプレイヤー向けの運営のブラックジョークみたいなもんだろ

 

46:名無しのマレビトさん

おかしいのはNPCを最初に殺害しようとする俺達なんだよね

 

47:名無しのマレビトさん

NPC殺害可能ならまあ1度は試すわ

 

48:名無しのマレビトさん

それが通用するのはオフゲだけなんですよ

ていうかNPC殺害するメリットがあるって前提の思考がまず終わってるんだ

 

49:名無しのマレビトさん

NPC殺して装備奪うのは当然ですよね?

 

50:名無しのマレビトさん

そこら辺歩いてたモブNPC攻撃して監獄行ったアホおるか? 俺だよ

24時間ログイン不可になって草 暇すぎてスレ見るしかやることねえ

 

51:名無しのマレビトさん

お前の人間性も限界と見える

ていうか実際NPCって殺せるんかね?

 

52:名無しのマレビトさん

攻撃できるなら殺せるんだろ

重要NPCなら殺したら何かあるかもしれんがそれは検証奴に任せるわ どうせ誰かやるだろ

 

53:名無しのマレビトさん

スタダでそれどころじゃないから気にしてない人多いんだろうけど、かぐやって結構会話通じるんだよね。世間話くらいの話題なら普通にほとんど答えてくれるぞ。ゲームシステムに関しても聞けば色々教えてくれる。LoRやったことないけどVRMMOのAIってあのレベルで違和感なく話せるん?

 

54:名無しのマレビトさん

基本的にわからない質問にはテンプレで返される LoRと同じかどうかは知らんけど、どれだけ回答パターンを記憶させてるかだと思うよ まあかぐやぶっ殺そうとするやつが出てくるのは想定内だろうしその辺の反応がリアルなのはおかしいことじゃない

 

55:名無しのマレビトさん

仮にめっちゃ親切なチュートリアルNPCだったとしても殺すヤツは殺すからな

かぐやが偉そうかどうかは別に何も関係ない

 

56:名無しのマレビトさん

で、実際にかぐや殴れたやつおる?

まあおらんからアンチスレできてるんだろうけど

 

57:名無しのマレビトさん

そもそも道具もなくはるか上を飛び回る相手を出会い頭以外で攻撃するのは無理

 

58:名無しのマレビトさん

殴ったら瞬間移動で消えたし空飛び始めたら石投げるくらいしかできんかったわ

なお当たらん模様

 

59:名無しのマレビトさん

マレビトは空も飛べない下等生物だから仕方ないんだ……

*1
ネトゲにおけるスタートダッシュの意

*2
召喚系ジョブのこと

*3
モンスターを手なずけて仲間にするジョブのこと

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