【地雷ジョブ】陰陽師は毎日金欠です! 〜スキルを使うためのアイテムを買うお金が足りないVRMMO〜   作:きなかぼちゃん

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2.遺憾おじさん

▼ようこそ マレビト アリス。▼

▼リスポーン地点が設定されました。▼

▼現在のリスポーン地点は 西京 都 朱雀大路 羅生門前 J-5 です。▼

▼Welcome to Shinra Bansho Online!▼

 

 生ぬるい風が顔に吹き付けて、太陽の眩しさを感じる。半ば夢うつつのまま目を開けると、雲ひとつない青空。

 目の前には巨大な朱塗りの腰屋根を乗せた、重厚な存在感を持つ二階建ての建物があった。幅が異常に長いにも関わらずそれほど奥行きが感じられない。これが超デカい門だと気づくのに少しだけ時間がかかった。

 

 あ、そういえばこれサービス開始前のトレーラームービーにあったやつだ! この建物の門を潜った後には綺麗な碁盤の目状の街が広がっていて平安京そっくりだなと思った記憶がある。

 

 つまりこの門の奥が西京の都なんだろう。

 

 びゅう、と乾いたこがらしと共に門の奥で砂埃が巻き上がった。門の向こう側に覗く広い大通りでは色とりどりの和服を着た人々が賑やかに往来しているのが見える。

 今の自分の格好を改めて見ると、ついさっきかぐやの前で着ていた小袖のままだ。

 

 テレビの時代劇で見る町人がよくこんな格好をしていたっけ?

 たぶんゲームスタートしたらみんな同じ格好なんだろうな、と思いつつ、薄っぺらい草履越しに地面の硬さが伝わる。走ったら足裏そこそこ痛そうだな。VRだけど。

 

 そして、ふと気づく。周りにプレイヤーらしき人が誰もいない。

 人は歩いてるけれど、当り前のようにそこで生活してるって感じのNPC的な雰囲気がある。

 スタダしたからと言ってもそれはわたしだけの話じゃない。周りに誰1人いないというのは流石に変だ。

 むしろサービス直後はスタート地点が人でごった返しそうなものだけど。

 

【親愛なるマレビトさん、森羅万象オンラインへようこそ☆】

「うおっ」

 

 疑問に思っていると、唐突に目の前にホログラム画面が現れた。

 

【うふふ、驚きました? わたしはチュートリアルナビゲーターのよぞらです! これよりソロチュートリアルモードを開始します☆ なお、チュートリアルが終了するまで他プレイヤーは表示されず、マルチプレイを行うことはできません。まずはステータスを確認してみてください! Yes/No】

 

 なるほどね、そういうことか。裾の短い浴衣に半透明の羽衣を纏ったちびキャラの青髪少女が、笑顔でぴょこぴょこ画面上で動きながら音声と文字で答えを提示してくれる。どうやらチュートリアルキャラはかぐやだけじゃないらしい。

 

 迷いなくYesのボタンををタップすると上に別のモニターが現れて一瞬でステータスウィンドウ画面が展開された。わたしはこういうところでNoを押すあまのじゃく女じゃないよ。

 

《ステータス》

PN:アリス

種族:人間

拠点:西京 - 都

JOB:─

LV:1

 

《武器》

右手:なし

左手:なし

 

《防具》

頭:なし

胴:粗末な小袖

腕:なし

腰:粗末な帯

足:粗末な草履

 

《装飾品》

首:なし

耳:なし

腕:なし

右指:なし

左指:なし

 

【マレビトはよほどのことがなければプレイ開始時点から都での恒久滞在権と施設利用権が保証されています。まずはジョブを取得するためのクエストを受注しましょう!】

「え、待って、よほどのことってなに? 街でPKするとかそういう系?」

【あっ、それはさすがにアウトです☆ でも安心してください、都でのPVPは禁止されていますから!】

 

 じゃあ「よほどのこと」はそれ以外の行動ということになるが……NPCをキルするとか、盗みをするとか?

 事実、NPCを殺害したり盗みを働いて装備を奪えるゲームは存在する。だけどそれはオフラインゲームの話であって、オンラインゲームでは普通そういうことはできなくなっている。だってその行動によって影響を受けるのは自分だけじゃないから。

 

 何千何万の人とフィールドを共有するMMOでそれができるとしたら、さすがにヤバイ気がするけど……。

 

 わたしが考えているうちに、よぞらは画面上でちっちっと指を振ってみせた。

 

【まあまあそれは置いといて、なりたいジョブを選択してくださいね☆】

 

 ステータス画面の上にさらに4つのタブが浮かび上がった。

 ええっと【侍】【陰陽師】【歌人】【その他】ね……。

 わたしは陰陽師をやるために西京を選んだので当然迷うことなく【陰陽師】を選択する。

 

【では、マップに従ってマーキングされた目的地へと向かってみてください! ジョブを取得すれば、それぞれに応じた専用武器を装備することができますよ☆】

 

 よぞらがにぱっと笑顔で締めくくって「びゅーん、ひょい!」と指を振るとマップ画面に切り替わる。ウィンガーディアム・レヴィオーサ!?

 そして碁盤の目をした都のマップの東に青いマーカーが点滅した。

 

▼陰陽寮本殿 C-8 が 目的地に設定されました。▲ 

 

 

 

 

 羅生門をくぐるとまず目の前に広がるのは遙か向こう側にまで続く目抜き通りだった。

 色とりどりの服装をした数え切れない人たちが往来しているその終点には、遙か遠くからでもその大きさが実感できるほどに巨大な漆塗りの構造体がある。今くぐった羅生門も大きいけれど比べものにならない。

 

 リアルすぎるVRの景色にただ見惚れていると、ガラガラと音を立てながら牛車が目の前を横切って思わず飛びのく。御者台から気難しそうな男の人が硬い表情でわたしを見下ろしたのが見えた。

 

「邪魔だ!」

「す、すみません」

「フン、鄙びた田舎者が。都の道理も知らぬ者が多すぎる」

 

 男の人は毒づくと「近頃の都はどうなっているのだ」なんて呟きながらそのまま牛車と共に去っていった。

 田舎者て。ずいぶんと虫の居所がよくなさそうだ。突っ立ってて邪魔だったのかな? 頭ではNPCだと分かっていても、反応がリアルすぎてなんだかばつが悪くなる。

 

【NPCには全てそれぞれ固有の人格AI・名前・設定が付与されていて、現実の人間と寸分違わない挙動を行います☆ あっ、ゲームのキャラだからってヘンなことしたら怒られちゃいますから、めっ、ですよ! 気を付けてくださいねっ】

「え、すべてのキャラ? もしかしてここ歩いてる人全員?」

【はい☆】

 

 よぞらは瞳をきらめかせてウインクした。さすがにうっそだぁ。

 ゲーム開発には全く詳しくないけど、NPCすべてにそんな莫大なリソースを割いてたらとんでもないことになるなんてただの大学生であるわたしでもわかる。

 わたしがよほど訝しんでいる顔をしていたのか、よぞらはひどく面白そうにクスクスと笑った。

 

【うふふ、信じられないですか? もし気になるならお話してみるといいですよ! 仲良くなれば固有クエストも受注できちゃうかもです☆ で・も、まずはジョブを入手してからがオススメです!】

 

 ナビゲーターらしく、露骨によぞらはせっついてくる。せっかくスタダしたのにぼうっと突っ立ってるのも何なので、とりあえず目的地に向かって歩くことにした。

 

【都の内外で妖魔が跋扈する西京では異邦の戦士たるマレビトを積極的に受け入れています☆ 猫の手も借りたいということですね!】

【おっと! あの朱雀通りの一番奥にあるのが帝がおわす大内裏! 太政官たちが24時間365日働き続けている西京の政治的中枢です。ブラックすぎてかわいそう~! あ、レベルを上げると入れるようになる施設なので、また確認してみてくださいね☆】

 

 道すがら、空中に表示されたままのマップの端っこで勝手に喋り続けるよぞらの説明に耳を傾けつつ、やがてわたしはマーカーが示したであろう場所に到着した。

 

 背の高い築地塀に囲まれた、巨大な貴族屋敷のような場所だった。

 正面の門扉は開け放たれていて、屋根の鬼瓦にはわかりやすく五芒星の紋章が描かれていた。

 そしてゆったりとした黒づくめの衣を纏った人たちが出入りしているのが見えた。

 おっ、なんか陰陽師っぽいなあ。どことなくお香のような匂いが鼻をくすぐる。

 

『目的地に到着しましたね☆ では陰陽寮へ入りジョブマスターからクエストを受注してください! わたしの案内はここまでです。それじゃ、はぶ・あ・ないす・でい〜!』

 

 そう一方的に言うとマップ画面からよぞらが消えた。

 和っぽい恰好なのになんで去り際の決めセリフは英語なんだ……。

 

 

 

 

【☆ナビゲーターよぞら からのワンポイントアドバイス☆】

マレビトさんは帝の勅令により、都での滞在と活動が認められています!

今や妖魔の脅威は日に日に増しており、都の守り・治安維持にはあなたの力が必要なのです!

なので安心して、陰陽寮・衛府・風韻殿(ふういんでん)などの各機関にご協力くださいね☆

その際は「マレビトであること」を明かすとスムーズにお話が進みますよ!

 

 

 

 

「なるほど、マレビトよ、陰陽師を志すか。ならば通るがいい」

 

 門をくぐろうとすると帯刀している門衛の人に声をかけられたので、自分がマレビトであることと陰陽師になりたいということを話すと、頷きながらそんなことを言われる。

 

「此処から右手にある黒壁の建物が見えるな? あれが予寮(よりょう)だ。向かい、所定の手続きを済ませよ」

「ありがとうございます!」

 

 よぞらのいう通りあっさりと話が進むなあ。マレビトっていうのは都でも結構いい感じの立ち位置にいるみたいだ。ある程度、NPCに話しかけやすいようゲームが設計されているのかもしれない。そうじゃなきゃ怖くて話しかけられない人だっていそうだもんね。

 

 言われた通り予寮と呼ばれた建物に入ると、中はどこか役所のような雰囲気だった。

 天井は高く、中は壁もなく開放感がある。服を見るに陰陽師じゃない人たちも訪れているようで賑やかだ。

 奥には受付らしきブースがずらりと並んでいて、その向こう側では机に向かって山積みの書類と格闘している陰陽師たちがたくさん見えた。

 もちろん持っているのはペンではなく筆で、みんな流麗な筆遣いで木簡や紙に文章を書きつけていた。

 

 それだけなら「ああ、よくできてるなあ」で済んだと思う。でも、

 

「すご……」

 

 思わず声がこぼれる。なんと人間は座っていないのに、筆が青白く光ってひとりでに動き書類を処理している机がいくつもあったのだ。いわゆる魔法的な自動筆記というやつだ。

 画面の向こう側じゃなくて、人の息遣いすらわかる目の前にファンタジー世界がある。その事実を改めて実感して、胸がドキドキした。

 

「そちが、マレビトか」

 

 筆がひゅるひゅるとなめらかに動くさまをぼうっと見つめていたら、くぐもった低い声が前から飛んできた。

 はっとして視線を戻すと、いつの間にかそこにいたのは丸顔に金縁の眼鏡をかけた男性だった。後退気味の頭髪にはまばらに白髪が見える。汗っかきなのか、青白いハンカチのような布で額を拭っていた。やや小太りっぽく、ゆったりとした陰陽師の服でもすこしお腹が出ているように見える。

 

「あっ、えっと」

「何も言わずとも、よい。そちがこの陰陽寮を訪れることは卜占(ぼくせん)により、既に、定められし……こと」

 

 そんなことを言いつつ手元の書類めちゃくちゃ確認しながら、わたしの顔を交互に確認するように見まくってる気がするけど本当に定められてる……? 

 

 やがて確認が終わったのか、その小太りの男性は指で眼鏡の位置を直しながら尊大に胸を張りわたしを見た。

 

「ンッ! そして吾輩こそが陰陽博士第四席・弓削早雲(ゆげそううん)である。まことに遺憾であるが、まことに遺憾であるが……そちのようなマレビトなるものに陰陽の道を授けよと帝より勅令を承っておる。そう、まことに遺憾であるが、な」

「は、はあ」

 

 この人めっちゃ遺憾の意を示すじゃん。

 しかも大事なことだから2回言うどころか3回も言うじゃん。

 

「……して、そちの名は」

「あ、申し遅れました。アリスです。陰陽師になりたいと思って来ました」

 

 どこか探るような問いかけに、わたしはぺこりと礼をする。

 よぞらが言うように現実の人間と見分けがつかないほどのAIだというなら、NPCであっても礼は尽くすべきである。それでこそゲームが楽しくなる気がするし?

 

「そう、アリス。ンンッ! それもまた、我が卜占によって既知であったが、敢えて事象を確定させるためにそちに名乗らせたということだ。これが卜占の深奥たる星兆による未来予測である。理解したか?」

 

 ほ、本当にそうでしょうか? なんかめっちゃ目泳いでない?

 ていうか完全に今はじめてわたしの名前を知りましたって感じでしたよね?

 

「ふん、存念があるようだな」

 

 存念ってなんだっけ? わたしは首を傾げた。弓削氏は無視して話し続けた。

 

「だが、それでよい。疑問を投げかけるとは、また己の未熟と向き合うことに外ならぬ。なれば未熟者アリスよ、付いて参れ! 今より陰陽の道、現と夢のはざまに挑む術を、陰陽博士たる吾輩が教示してやろうではないか。ンンッ! 遺憾ではあるがな」

 

 また言ったし! 4回目!

 




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