【地雷ジョブ】陰陽師は毎日金欠です! 〜スキルを使うためのアイテムを買うお金が足りないVRMMO〜 作:きなかぼちゃん
予寮を出て陰陽師ジョブマスター(でいいんだよね?)弓削氏に連れてこられたのは、門の正面をまっすぐ行ったところにある敷地内で最も大きい建物である。ここが陰陽寮本殿だという。
とすれ違う陰陽師たちが代わる代わる軽く礼をしていく。もちろんわたしではなく弓削氏に対してだ。
陰陽博士というのがどれほど偉いのかはわからないけれど、陰陽寮の中でも偉い人なんだろうなあというくらいは察せる。
陰陽寮の中は思ったより開放的だ。壁や天井のところどころに多く開口があり、日の光が差し込むだけでも十分に明るかった。
そして中庭が一望できる廊下の奥の重厚そうな鉄扉を開くと、そこには道場のような空間が広がっていた。突き当りの壁にはほかのゲームでも見覚えがある大きな太極図と五行印が記されていた。
弓削氏とわたしはその中央で向かい合う。
「ンッ! 未熟者アリスよ、陰陽の道を志す際にまず必要なもの、それは式神である。己の内なる太陰、邪心より式を形作る。式神とは、己の陰を取り出し具現化したものと心得よ。それを正面より見据え、死線を共にすることにより、己にもとより備わる陽を合わせ陰陽太極と成す。これが黒狩衣を纏う者の道である」
部屋の奥の太極図にちらりと視線を移してから、尊大にふんっと鼻を鳴らしながら弓削氏が言い放った。 うおおおお! 式神きたー! テンション上がる~!
「わかりました! 今から式神を召喚するんですね!?」
「然り。だがそちのような未熟者がどのような式を召喚するか……今から楽しみであるなぁ~? ククッ」
「あっ、未来予測してるならもしかしてもうわたしが何召喚するかわかってたりとか~?」
「ンンッ! それは……当然図ったうえでの戯れである! 時間が惜しい、早う召喚に移れ!」
わたしをからかうように見下していた弓削氏は一転露骨に目をそらすと、私に1枚の金色の細長い呪符のようなものを押し付けてきた。そしてやることはやったと言わんばかりに部屋の隅へ引っ込んでしまった。
いや、やっぱこれ実はあなた未来見えてないでしょ!?
……ええっと、それはともかくこれどうすればいいんだろう。
【これよりジョブ:陰陽師の取得クエストを開始します。いかなる場合もクエスト完了後のやり直しはできませんので、慎重な選択をおすすめします】
【式神召喚符《特》×1を手に入れました。アイテムインベントリを展開します。インベントリのアイコンをタップして使用してください】
迷っていると、システムメッセージが音声で流れてきた。なるほど、ここからはNPCの案内じゃなくてシステムのターンってわけね。
空中にインベントリ画面が展開される。ええっと、式神召喚符……これかな! えいっ!
【式神カスタマイズを開始します。一度スキップして改めて選びなおすことも可能です】
【あなたの“願望”で自由に式神を作り出してみましょう!】
【───あなたの願望は、何ですか?】
画面上にメッセージが表示されて、すぐに煙のように掻き消える。
【マレビトの“魂の在り方”によって、式神の行動傾向AIを決定します。“魂の気質”を選択してください。《静/猛/忠/奇/スキップする》】
目の前に選択肢が5つ現れた。なるほど、行動傾向ってことはたぶん……性格を決めるってことかな、これ。迷うけどとりあえずスキップして最後まで見てみよっかな。
【マレビトの“気質の在り方”によって、式神の属性を決定します。“魂の性質”を選択してください。《木/火/土/金/水/スキップする》】
【マレビトの“根源の在り方”によって、式神の由来を決定します。“魂の根源”を選択してください。《霧中の庭/星見の間/
【マレビトの“契約の在り方”によって、式神との関係性を決定します。“魂の戒律”を選択してください。《主従/同盟/
そしてさらに【スキップする】を押すと、また最初の“魂の気質”の選択に戻った。
うーんどうしよ……これ本当に迷うやつ! しかも具体的に選択肢によって何が起きるのか微妙にぼかされてるからやらしい! 属性はわかるけど、根源の在り方ってなに!?
「うううううう~~~どうしよう……」
そこから10分くらい経っただろうか、唸り声を上げながらホログラム画面を睨みつけて両手をわなわなと震わせるわたしがいた。
選ぼうとはしてるんだけど、何か違う気がしてスキップをやけくそで延々と連打してしまう。決まらないまま選択肢がずっとぐるぐるしている。
───そして、変化が起きた。
【本当にあなたの願望はありませんか? Yes / No】
「えっ?」
わたしは目を見開いた。ただ【スキップする】を連打していただけなんだけど、なぜかいきなり違う選択肢が出てきたのだ。
いやこれ、違う選択肢ってより優柔不断すぎて怒られてるだけかも……。
でも何も決められないしなあ、願望がないと言えば本当にないのかもしれない。サモナー職がやりたいとは思っていたものの、理想の仲間みたいなイメージがあったわけじゃないからなあ。
なんて思って、小さくため息をついてYesをタップする。
【もう一度問います。本当にあなたの願望はありませんか? Yes / No】
凄い念押ししてくる! たぶんこれ誤タップ防止だろうなあ、と思いながらまたYesを選ぶ。
【警告:初期カスタマイズを行わず《願望なし》を選択した場合、ランダム召喚となり、今後式神のカスタマイズが永続不可能になる上で全ての要素がオート成長に切り替わります。本当によろしいですか? Yes / No】
ランダム召喚という文字列をみてわたしはどこか納得した。
ああ、なるほどね。わたしみたいにいつまでも決められなくて悩んじゃう人向けにシステムが全部決めてくれるってことか~! じゃあもうこれでいいかな! 面倒くさくなってきたし!
わたしは迷いなくYesを押した。
瞬間、無機質なシステムメッセージと共に足元が眩しく輝き光の線が舞う。そしてゆっくりとそれは五芒星を構築していき、その中心に淡い光の柱が立ち昇る。部屋の中だというのにびゅうびゅうと風が舞い髪の毛を揺らした。
【召喚を承認】
【召喚術式起動】
【霊脈接続完了】
【霊魂転写開始……気質……性質……根源……戒律】
【情報が見つかりません!】
【転写再構築───完了。封符調伏。召喚式、星天律令。……同期完了。式神、現界───】
五芒星の中心がひときわ大きく輝いた、来る! わたしの式神!
思わずこぶしを握ってドキドキしながらその時を待つ。そして、
【式神顕現準備0%…25%…50%───システムエラー! 召喚術式をシャットダウンします】
えっ? なんか今変なこと言わなかった? システムエラー?
何が起きてるの、と思った瞬間、ぱっと風がやんだ。
一瞬にして五芒星が光の塵になって消えた。
もちろん式神が召喚されているということはなくて、道場には何の変化もない。
もしかして……失敗した……?
【コードリライトを開始します。代替スキルを仮想構築───スキルが追加されました】
【リアルタイムオートバグフィックスを開始───完了。式神召喚符×1をアイテムインベントリに追加しました】
《式神召喚【低位】》
属性:魔法アクション
CastTime:詠唱に依存
消費MP:0
詠唱:うさぎぴょこぴょこみぴょこぴょこ! うさぎうさぎよなに見てはねる! 十五夜お月さま見てはねよ!
式神を召喚する。
このアクションはアイテムインベントリ内の《式神召喚符》を1枚消費して発動する。条件を満たさない場合発動できない。
『己の内にある闇を取り出すことで式神は造られる。それを厭うならばより恐ろしい怪異を狩ることだ』
「は?」
びっくりして変な声が出る。消費MPが0とか、そういうところにびっくりしたわけじゃない。問題は詠唱欄だ。何この詠唱。おかしいって。早口言葉か?
【スキルを詠唱して式神を召喚してみましょう】
心の中で突っ込んでいると、無情にもアナウンスが響く。唱えろっていうの? この恥ずかしい詠唱を? 真面目に?
【スキルを詠唱して式神を召喚してみましょう】
思わず部屋の隅で一部始終を見ていたであろう弓削氏に目線を向けた。するとひどく鬱陶しそうに弓削氏はわたしを見た。
「何をしておる。未熟者」
「えっ、でもこれ……」
「フン、稀代の占者たる吾輩の時間を無駄にするなと言うておるのだ。式神召喚儀は己との対話である。どのような未熟者であろうと、己のみで完遂してみよ! それこそが陰陽の道、その序である」
つまりこれを自分の力だけで終わらせないとジョブ取得クエストも完了しないということである。
うう……そんなのってないよ……。
でも、恥ずかしいだけで立ち止まっていても仕方ない。
これはゲーム! ゲームだから! 見てるのもNPCだけだからっ!
わたしは強く目を閉じた。そして、覚悟を決めた。
「うさぎぴょこぴょこみぽっ……」
【詠唱に失敗しました】
完全に噛んだ。空中に赤いエラーメッセージが浮かんだ。鏡で見なくても恥ずかしさで血が上り頬と耳が赤くなってるのがわかる。うぐぐ。
「うさぎぴょこぴょこみぴょこぴょこ! えーっと、うさぎ! うさぎよなに見てはねる!
十五夜、お月さまッ、見てはねよ!」
わたしはそのままヤケクソで叫んだ。20の大学生にもなってこんな小学生みたいな早口言葉を大声で叫ぶのはいくらなんでも恥ずかしすぎるって!
言い終わって大きく一息つく。
ふう、やり遂げたぜ。そして、何かを失った気がする……。
直後、わたし目の前がチカチカと光り輝いた。
「うおお」とびっくりして少し後ろに飛び退くと、それはやがて粒子となって見慣れた動物の形を形成する。
『おいーっす! ワイはザ・グレート・ルナティック・ラビットことツキノウサギや! 気軽にヤヨイとお呼び! 問おう! あんたがワイのマスターか!?』
「???」
なんて?
光が収まった後、そこいいたのはエセ関西弁で喋るやたらハイテンションな白い小さなノウサギであった。両足で直立して器用に腕を組みながら、耳をぱたぱたと前後に動かして赤い瞳でわたしを見あげている。
わたしはぽかんと口を開けたまま何も言えなかった。何、これが式神なの? てかなんで関西弁? そもそもウサギがなんで人の言葉喋ってんの。いやそれはMMOだからいいか……。
『なんですのその反応……いくら式神でも親にそんな顔されたら傷ついちゃいますわぁ~! オヨヨヨ』
黙っていると、目の前のヤヨイと名乗る白いノウサギはおいおいと目を擦り泣き真似を始めた。情緒が不安定すぎるだろ。
てか、明らかに嘘泣きじゃないこれ。だってなんか指の隙間からチラッチラッてこっち見てんじゃん!
完全にツッコミ待ちである。
なんだか申し訳ない気分になりわたしは慌てて口を開いた。
「あの……えーっと。ごめんね? わたしはアリス。あなたが……わたしの式神でいいの?」
『お、ようやく反応してくれたやないかい! せやで、ワイの名はヤヨイ! ツキノウサギのヤヨイや。よろしくなアリス!』
ヤヨイと名乗ったウサギはそう言って表情を一転させると、サムズアップしながら出っ歯をぎらつかせた。キモ……。