【地雷ジョブ】陰陽師は毎日金欠です! 〜スキルを使うためのアイテムを買うお金が足りないVRMMO〜 作:きなかぼちゃん
じ、地雷系姫ちゃん……!
それが初対面の人に対して失礼な考えだとわかってはいるけど、どうしてもその考えが頭をよぎる。
口の中で飴を転がしたみたいな甘ったるい声。
目下にがっつり入った涙袋と濃いめのチーク。薄めに細く入った主張しない眉。
そしてぷるっぷるのピンク色のリップ! ぱっちりとした大きな翠色の瞳でウインクするその姿はまさに姫!
姫、それは男を操る貢がせの権化。
自分だけを守ってレアアイテムを貢いでくれる騎士くん(コンテンツ奴隷)を洗脳によって作り出す恐ろしい魔女!
騎士くんはひとりだけとは限らない。大量の騎士くんを籠絡して円卓の姫騎士団を組織する高次元の姫ちゃんすら存在するのだ!
いや、むしろ見えてる地雷すぎて逆に地雷じゃないのではと錯覚するほどの感動を覚える。
というか普通のMMOならともかくVR世界でここまでヤバ女感出せるのが凄い。普通恥ずかしくて無理でしょ……。
「どうしたの? アリスちゃん。ショコラの顔、何かついてる?」
ショコラさんがずいと近づいて上目遣いでわたしの顔を覗き込んできて、思わずのけぞってしまう。今さっき初めて話したばかりなのに距離の詰め方がヤバくてドキドキする。コミュ強ってレベルじゃないでしょこれ。
「え、ううん! なんでもないです。ええと、その、ショコラさんはこれから早速レベル上げですか? アハハハ」
「ショコラでいーよ! こういうゲームのこと何もわかんないから迷ってたとこなんだぁ。ねね、アリスちゃんさえ良ければ色々教えてほしいな!」
「えっ」
ショコラさんはヤヨイを丁寧に地面に下ろすと、わたしの手を躊躇なく握ってにこりと笑った。
そういうことになった。
※
【《歌人 ショコラ Lv.3》 がパーティーに加入しました】
▼現在地 は 西京 - 辺境地帯 - 黄金平原 I-16 です。▲
※
せっかくDPSとヒーラーのパーティーになったので、とりあえず外に出てモンスターを狩ってみようという話になった。
さっき都に入る時には後ろを振り返らなかったので気づかなかったけど、羅生門の外に出てみると一面の黄金色の草原が広がっていて、緩やかな風で波のようにたなびいている。ところどころに紅葉の木が固まって紅葉していて、真っ赤な林が遠目に確認できた。
現実じゃ山奥にでも行かなければそうそうお目にかかれないような景色なはずだけど、VRMMOの世界では部屋の中にいてもこんなにリアルな大自然が楽しめるってことに感動するよね。
息を吸い込めばほのかな草の香りが心地よく広がる。けど、そんな昼寝でもしてみたい景色の中で、歩きながらわたしはショコラさんに質問攻めにされていた。
「つまりタンクがモンスターのヘイト……じゃなくて、気を引いて攻撃を受けてる間に、DPSがモンスターに全力で攻撃する。それでヒーラーはダメージを受けたタンクを回復する。その繰り返しでモンスターを倒してレベル上げをするんです」
「へぇ〜、アリスちゃんって物知り! すごーい! ゲーム大好きなんだねえ」
「ま、まあ、好きですね」
「もうっ、敬語使わないでったら」
わたしのぎこちない返事に、ショコラさんはぷくうと頬を膨らませて抗議してきた。
ううっ、距離が近すぎて逆にやりにくい! 画面上の文字コミュニケーションならゆっくり考えてチャットを返せばいいだけの話なんだけど、VRでのコミュニケーションは現実と同じで会話中に考える間を与えてくれない。
会話を持たせるためにヤヨイに頼りたくても今はいない。
式神は1回ごとの召喚制限時間が15分らしく、ヤヨイは都を出る前に『あッ時間切れやっ』なんて呟いて消えてしまった。
すぐに再召喚してもよかったんだけど戦闘してるわけでもないのにいたずらに召喚符を消費するわけにもいかないんだよね。ただでさえヤヨイに陰陽師はお金のかかる職業だって釘刺されてるからなぁ……。
「ごめんなさい、あまり初対面の人とタメ口で話すの慣れてなくて……」
思わずぼそぼそ声になってしまう。うわっ今のわたしめっちゃ陰キャだ。その割に不思議なほどヤヨイとは気楽に話せてたんだなあと改めて思う。
「アリスちゃんったら恥ずかしがり屋さんなんだからぁ。かわいっ!」
陰キャモードに入ったわたしに対して、ショコラさんは分厚い袖で口元を隠してクスクスと笑ってみせた。そんな仕草も可愛いキャラクリで様になっている。
ふと思った。ショコラさんは和とは程遠いメイクをしているのにどうして違和感がないんだろう?
改めてショコラさんの全身を見返して、はっとする。
ウェーブがかった薄めの桜色のロングヘアが、十二単の和っぽさを破壊しないギリギリでメイクを違和感なくしているのだ。これは世界感を破壊しないかつ個性と可愛さを兼ね揃えた姫の追求の結果生まれた気合の入ったキャラクリに違いない! オートスキャニングされたリアル顔面のパーツを適当に変えた私みたいなのとは根本的に違う!
「違和感がない」っていうのは大事なことである。
これがキャラクリ勢の本気かぁ……なんて舌を巻いていると突然隣のショコラさんが駆け出していった。
「あ! アリスちゃん! 向こうになんかおっきい鳥いるよー! 行こ!」
「ショコラさん待って! それたぶんモンスターだから1人で行ったら死んじゃいますよー!」
少し先に、人間くらい背の高さがある大きな雉がのそのそと黄金色の草をかき分けて歩いていた。
名前は遠すぎて読めなかったけど頭上にHPバーが表示されているので敵モンスターなんだろう。
ああっ、さすがにMMO初心者を1人で行かせるわけにはいかない! わたしは使命感でショコラさんの後を追いながら式神召喚符をインベントリから掴み取った。
「うさぎぴょこぴょこみぴょこぴょこ! うさぎようさぎよなに見て跳ねる! 十五夜お月様見て跳ねよ!」
空中に光る五芒星が走る。その中からヤヨイが飛び出してきた。
『オラーッワイやで! はよ再召喚してーな。待ちくたびれたで』
「召喚符節約してたんだってば!」
『おーん、アリスはドケチやなぁ』
「陰陽師はお金がかかるって言ったのヤヨイでしょ!」
あー! ああいえばこういう! もう少し素直な式神だったらよかったのに。
そして戦闘後、ショコラさんに案の定「あの可愛い呪文なに!? もう一回やってみてー!」と瞳をキラキラさせながらねだられた。羞恥心でわたしは死んだ。
※
【レベルアップ! 陰陽師 アリス のレベルが4に上がりました!】
【レベルアップ! 歌人 ショコラ のレベルが4に上がりました!】
※
しばらく流れでこの周辺で雉狩りをしてお互いにレベルが上がったころ、周囲にも続々とほかのプレイヤーが目立ちはじめた。
このあたりはちょうどモンスターがよく湧くポイントだったようで、私たちの他にもパーティーを組んだり、ソロで雉と格闘してる人がちらほら。
うーん、この感じだとこの辺は混んできそうだし、別のところに移動した方がいいかもしれない。
霊符は……あと30枚くらいはあるから大丈夫かな。
「ねえショコラさん、ちょっとこの辺人増えてきたから移動して……みない?」
「いいよぉ~! ショコラもちょっと慣れてきた気がするし、ちょうど別のところ行きたいって思ってたの!」
遠慮がちにタメ口で聞いてみると、ショコラさんは笑顔で同意してくれた。
……あれ、もしかしてこの人結構わたしに合わせてくれてたりする?
もしかしてこの人、距離の詰め方がすごくて純粋なだけですごくいい人なのかもしれない……。
どうしよう、心の中で姫呼ばわりしたのがすごく申し訳なくなってきたぞ……。
そのうえ、ショコラさんはMMOが初めてのわりにすぐに戦い方を覚えていた。
ヒールをくれるタイミングも一度教えただけでしっかり合わせてくれるようになるくらいにはすごい。
これで本当に初心者だというなら、もしかするとショコラさんはVRMMOの才能があるのかもしれない。
ちなみに歌人は5・7・5と5・7・5・7・7で言霊(歌)を繋いで色んなスキルを繰り出すジョブみたいだ。
俳句とか和歌みたく言葉を組み合わせて詠唱して回復術を放つ、って聞いてめちゃくちゃ難しいな!? って突っ込みそうになったけど、ショコラさんが言うには使いたいスキルに応じで自動で言うべき言霊をサポートしてくれるから今のところ失敗することはないらしい。そりゃさすがに全部マニュアルで歌えってのは無理があるよね。
ということでわたしたちが移動したのはちょうどさっきから遠くに見えていた紅葉林の入り口だった。
この辺りはまだあまり人も来ていないらしく、どこか人気もなくがらんとしていた。狩りするにはちょうどいいかも。
林の中は木漏れ日が差し込んでいるものの、少し薄暗い。踏みしめる地面は紅葉の落ち葉で真っ赤に染まっている。
今のところモンスターは見当たらないけど、もう少し奥に入れば何かいるかな?
「あ! アリスちゃん! あそこ狐いるよ! かわいい~!」
ショコラさんが右斜め前の木立の隙間を指さしてまた駆け出していく。
え? 待って、どこ? きょろきょろと視線を動かした、瞬間。
『アリス横やッ』
「えっ」
ヤヨイが体当たりしてきて吹き飛ばされる。そしてちょうどいたところを紅葉色の影が高速で横切った!
上部にHPバーと名前。《幻獣 紅狐 Lv.5》。
距離を取ってクルルル、と紅い狐がこちらを威嚇していた。
『こいつは幻術で化かして仲間と分断してくる妖異やな。言うて本体は雑魚やけど』
「雑魚なのか……」
『こいつだけならなぁ。雑魚いうてもダンジョンとかで出てきたら悲惨やで。パーティー分断されて合流できないまま他の妖異に各個撃破されたら詰むやろ?』
「あー、そういうことね」
なるほど、いわゆるギミック系モンスター。さっきショコラさんが追いかけていった狐をわたしが見えなかったのはつまり「化かされた」ということだろう。
とりあえずショコラさんと合流しないといけないので、インベントリから霊符を引っ張り出して《炸裂符》を連発すると、あっけなく紅狐は消滅した。
「よ、弱すぎる」
『それ含めて化かされたってことや。ほなショコラの姉ちゃんを探しに行くで』
「オッケー、えっと、向きはこっちだっけ」
ヤヨイと一緒にちょうどショコラさんが消えていった木立の方へ向かおうとした。その時だった。
【パーティメンバー:歌人 ショコラ Lv.4 が殺害されました。仇討ちを実行しますか? Yes/No】
唐突にアナウンスが鳴り、空中に選択肢画面が展開された。
「は!?」
いやいやいやいや。ショコラさん死んじゃったの? モンスターに殺されたのか? 間に合わなかった? てか仇討ちって何だ?
あーもう! こういう時は困った時のヤヨイだ。
「ねえっヤヨイ、仇討ちって何!?」
『お? なにそんな焦ってん……ってショコラの姉ちゃん死んどるやんけ! てか仇討ち選択出るってことはPKされとるやん。穏やかやないなあ』
「PKって……初日から他のプレイヤー殺すとかバカでしょ……」
PKやるよりまずレベリングしろよって突っ込みたくなる。
ていうか運営も運営だよ。ゲーム開始直後はPK不可にするでしょ普通。そのうち初心者狩りだらけになるわっ!
『そういうアホをぶっ殺し返すためにあるのが仇討ちシステムな。トリガーは色々あるんやけど、PKされたプレイヤーの代わりに仇討ちでPKKすれば経験値とか実績がボーナスで貰える。今はパーティメンバーがPKされたから、仇討ちするかどうかをアリスに委ねられてるってことや』
PK抑止のためにメリット込みで復讐できるようにしましたってことか。
うーん……どうしようかな。初日からPKするようなヤバい奴に関わりたくないけど、ここでスルーしたらショコラさんと気まずくなりそうでなんかヤダなあ……。
「仮にソイツと戦ったとして、デメリットを教えて」
『負ければ普通に死ぬからデスボックスになっていくつかアイテム巻き上げられるのと、1時間再ログイン不可になるくらいやな。これは普通に死んだ時のペナルティと変わらん。あと仇討ちで相手を殺してもカルマは溜まらないから安心おし』
「カルマってなに?」
『モラルに反する行為をすると上がる数値やな。高まると罪人扱いになって利用できない施設が出てくるんやで。あと一部NPCからクエストが受けられなくなる。他にも色々デメリットあるんやけど、1番キツいのはプレイヤー殺したら名前が赤くなってそのことが周りにバレることやと思うで』
そして仇討ちは復讐システム。PKしてもデメリットないならやってもよさそう。それに。
「ショコラさん、いい人っぽかったもんなあ……」
姫っぽかっただけですごい優しそうな人だったし、このゲームで初めてパーティを組んだ人だ。
しかもMMO初心者だし、万が一PKされたからってゲームをそのものを嫌いになってほしくない。
狩り中もはしゃぎまわって楽しんでいたショコラさんの姿を改めて思う。
よし、腹は決まった。顔を上げる。
「オッケー。じゃあやろうかな」
『感動した! それでこそマスターや!』
ヤヨイが勢いよくガッツポーズして、わたしは頷いた。
まだサービス開始初日なんだから、レベル差なんてほとんどないはず。それに死んだところで奪われるアイテムなんてたいしたことない。
わたしは画面に浮かんだYESのボタンを押した。
【仇討ち成立。決闘を開始します。決闘が終了するまでログアウトすることができません。この間、正常なログアウト処理をせずにアプリケーションを終了した場合、168時間のログイン停止処置が行われます】
168時間ログイン不可!? うわっ結構重いな。途中で回線ぶっちぎって逃げるのを防ぐためなのはわかるけど。
【マップに仇討ち対象をマーキングします】
マップを見ると近くに爛々と光る赤い点が前方のちょっと先に出現していた。ショコラさんを殺したプレイヤーかここにいるということだ。
わたしたちは警戒しながら歩を進めた。静寂の中、サク、と落ち葉を踏みしめる音だけがひどく不気味に聞こえた。
※
初日にPKするやつなんてただのバカ。PK好きでももうすこし我慢しろよ! なんて思ってたら、想像以上のバカが現れた。
ヤヨイが裏声で絶叫した。
『ハァ!? こいつもう100人以上殺してるやんけ! ヤバすぎん?』
「バトロワゲーと間違えてない? この人」
『それにしたってホームラン級のバカやで』
キルリーダーか何か?
「あん? もうそんなに殺してたか? どいつもこいつもやる気ねえから数えてなかったわ。こっちはPVPやり続けたらどうなるかわざわざ検証してやってるってのによー。非協力的すぎねーか?」
木漏れ日に照らされて、背丈に不釣り合いな長刀を持った、血まみれのツインテ金髪ロリ侍がケロっとした顔でそんなこと言う。
見た目は女の子なのに声が凄まじく低い。落差で脳がバグりそうだが完全にネカマ野郎だと察する。
検証、検証ねえ……まあ言いたいことはわかる。でも流石にそれはモラルがなさすぎるだろ。それやるならせめてフレンド内で殺し合うとかさあ……。なんかやりようあるじゃん……。
ていうかこの辺りに人気がなかったのはこいつのせいでしょ!
「理屈はわかるけど、人のサービス開始直後の楽しい時間を一方的に奪うのはちょっと許せないかな」
「ああん? さっきの歌人はお前のフレかぁー?」
「ついさっき知り合ったばかりだけどね。でもあんたをぶっ殺す理由にはなるかも」
わたしは大学生だからそこまで考えてないけど、社会人の人なんかはわざわざ有休取ったりして万全の体制で計画的にスタダに臨んでいるはずだ。
この侍も同じなのかもしれない。でも初日から人に迷惑かけるのはダメだろ。PKも仕様って言われたらそうなんだろうけどさ。
モンスターに倒されるならしょうがない。でも検証のためにフレンドが理不尽にデスペナ食らわされるのは腹が立つ。
まあこれもそもそも運営のせいだと思うけどね!?
ただ、銃があっても悪いのは引き金を引いた奴であることは自明である。
わたしはインベントリから霊符を引き出して両手に構えた。そいつはため息をついた。
「つまんね。陰陽師はもう飽きるほど殺したぜ。ま、全員柔すぎてしょうもなかったけどな。侍が来てくれたらもっと楽しめたのによー」
「イキってんじゃねえぞっ厨二病バカ」
「仇討ちシステムって便利だよなぁ。狙わなくてもわざわざそっちから来てくれるから手間が省けるし俺っちも殺しまくれるからよ! おら行くぞ!」
ロリネカマ侍が中段に長刀を構えた。わたしたちは突撃した。