「なお、成長補正を与える!」
何が?
「死ね! 転生者ァ! 死んで異世界から帰ってこい!」
は、話をしてくれ!
「GO!」
ということで異世界。
遂にここまで来たか……と言うほどの前提破棄、いやまだ話が飲み込めないのは俺もそうなんだが、一応まとまった所だけ聞いてもらうか。
俺はごく平凡な一般的などこにでもいる元々特別なオンリーワンな高校生だ、それが不慮の事故ってやつで死んでしまいました、ところがどっこい死んでしまった俺が目を覚ますと、あのクソヒゲ耄碌ピカピカ頭の神に異世界へ強制送還された。
物の前提をことごとく省いて限界まで自己都合で他者を操るとこうなるって悪例ですよね、何が異世界転生だ! 望んでねぇよ!
しかもしかもしかも!
俺が転生したのはファンタジーはファンタジーでもダークで救えない上に魑魅魍魎がそこら中に溢れているような地獄だ、剣と魔法が無いと逆に生きていけないレベルの地獄、年に一回地上がリセットされる、比喩じゃなく地上が宇宙からの侵略者によって更地に変えられてしまうらしいのだ、そこは地獄よりもなお苦しい別世界だという。
何故こんな事を知ってるかって? あのクソ神が俺に知識を植え付けていきやがった、それも大雑把に危機感を感じる程度の、あからさまに死にたくなかったら足掻けって催促されてる感じのあれ。
「ぜ、ぜっったい生き残って……かのクソ神様に一発かまさねぇと収まらねぇ」
俺は固く誓う、いつか絶対にクソ神の顎髭全部むしり取る!
よし! 方針は決まったな、現状に目を向けようか! 地獄も地獄で把握しないともっと地獄だからね!
「溶岩、よし! 岩盤、よし! 地獄、よし! 悪魔……よし! 全部よし! ご安全に……出来るかクソボケぇぁっ!」
熱く煮える溶岩が河川の代わりに流れ、その中に岩盤が削れて細長く立ち並び岩の森とでも言うべき場所が乱立し、あからさまに羊角の生えた全身真っ赤な人型で小柄な姿勢の悪い歩き姿のモンスターがウヨウヨと歩いている。空を見れば、岩盤で空が見えない。
ここは地底だ、それも浅い、地獄の一丁目だ、ここから下に潜る毎にもっと酷くなる、かと言って上に行けば地上と一緒に焼き払われる。
「なにも……出来なくない?」
そう、何も出来ない。なにも。一切。出来ない。
普通に考えて下さいね、溶岩まみれのこの環境で焼け死んでない事が普通に奇跡なんですよ、その上でこの中で生き抜こうとする、何が出来るんですか? 俺は何も出来ませんよ、魔法なんて無いんですよ俺には。
「地獄にしたってタチがわりぃぜ……こんなんどうしろと!」
現代知識で溶岩から何かを生み出す? 水をかければ黒曜石になる、んな訳ねぇよ。そもそも水の一滴もないわ! ……あ、そうだ水!
「く……喉が……」
気がついてしまった喉の渇きに焦りを覚える、水筒なんてものはなく自販機もない、不味い本格的に手詰まりな上にこのまま干からびて死ぬ!
「どうにか……何処かに……どこに……?」
幸い耐えられるほどの熱さしか感じない、溶岩が平然と溶けたまま流れている空間であるにも関わらずだ、それはもう皮膚が死んでるだけかもしれないが、とにかく熱くて死ぬんじゃない、極限の乾燥で死ぬ。
「み……みず……」
助かる方法が思い付かない……転生早々に死ぬんだ……思考だけははっきりしている……それだけに死ぬのが怖い、人間死ぬ時は感覚が麻痺して意識も無くなるらしいのに、この世界に転生した俺は死ぬ時まで感覚が生きて思考も止まらないんだ。
どうにか水を……水……水分……水分……水分なら何でも良い、涙すら枯れ果てる地獄で、そんな物あるかは俺にも分からないが。
その時ふと視界の隅に写る影が見えて思わず目で追いかけた、それは遠目で見えていた悪魔だったが俺が死にかけであることを見て、飽きたように帰っていく途中だった。
背中が無防備だ、今なら吸える……、何を……? 俺……今血を吸おうとしたのか……!?
……いや、そうだな、水分なら何でも良い……水分なら、血でもいい……!
「血…………!」
「ぎぃ!?」
なけなしの体力を振り絞り小柄の悪魔の首筋にかぶりつき、顎の力の限り噛み付く。
__ぐちゃり、ぐちゅり、ジュルル!
「モギィ……!」
「んん! んんん~!」
__ズゾゾゾ……ズゾゾ……
「キィ……」
「ゴクゴク」
数分間、俺は無心で悪魔の血を飲んで飲んで飲み干した、どうにも血を吸っている間は意識が飛んでしまっていたが、腹が膨れるほど血を飲んだことで喉の渇きは癒えた。
倫理観と、味覚は失ったが。
悪魔の血は酷く不味い、タバコの吸殻を水に解いた中にシナモンぶち込んだ味がした、これでもマイルドな表現だ。
「キ……」
「悪魔……まだ生きてたのか……殺すか? いや下手に殺して仲間にバレたら……そもそも悪魔がこの世界の住民だとして悪か善か分からないし……迂闊だったか……」
「二……ニン……ゲン……」
血を吸い尽くした悪魔が言葉を話す、話せるのか、驚いた、それよりもまだ言葉を話す気力が残っていたことに驚いた。
「ニンゲン……コロス……クウ……ナカマヨブ……!」
「うわ、相容れないやつじゃん」
悪魔は溶岩に投げ捨てた、グズグズに溶けて骨も残らなかった。
【経験値を獲得、レベル上昇を確認、レベル2になりました】
「耳鳴りか……いや、レベル? レベルって言ったか?」
俺の脳内に響くアナウンスが淡々と情報を伝えてくる、この異世界はレベルの概念があるのか、それとも俺だけがそうなのか、どっちでもいい、ゲームのように倒して強くなれるなら利用しない手はない。
【レベル2になったことでステータスの閲覧が可能になります】
更に続くアナウンスと同時に脳に直接情報が刻まれる感覚があり、それに従って言葉を発する。
「開示」
《ヨミビト》レベル2
基礎能力値 2
追加能力補正値 なし
スキル
《吸血》レベル1
《進化する体》
ただシンプルに、上記の文字だけが並ぶ、だが俺には分かる、何がどうであるかが分かる、知りたいと思った解説が脳に直接刻み込まれる。
ヨミビト、これは俺の種族だ、この世界に転生したからこそヨミビトなのだろう、漢字にすると黄泉人、死後の人間ということか。
次に基礎能力値、これは俺の筋力や持久力やそういう身体能力のパフォーマンスの高さを数値に表しているんだ、高ければ高いほど良い。
その下の追加能力補正値は……スキルにある《進化する体》で追加されている項目で、恐ろしいことに基礎能力値と追加能力補正値の掛け算により最終的な能力が出力される。つまりこの値を増やせばどこまでも強くなれる。
最後にスキルを見よう、《吸血》はその名の通りか、吸血行為に関する技量を示す、使えば使うほどスキルは新しい効果、強い効果を発揮するだろう。
「やっぱりあのクソ神、遊んでんだろ」
こんなもん用意するくらいなのでやっぱり人の生死で遊んでる神だわ、俺の拳があのクソ神の顎を捕らえるまで生きることは絶対諦めないことにした。
当面は基礎能力と追加能力補正値を伸ばす方向で行くとしよう、どうせなら地獄で一番の地獄になってやるのも、一興かもな、そうだよクソ神を落とすための地獄だよ!