ゼンゼロのキャラを曇らせたくなった時に書くやつ   作:豚足と豚骨の化身

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千夏〜大切だから〜

 

「羽のアホ!スカポンタン!ドブカス!もう知らんわ!」

 

「ちょっと、ちなっちゃん!?」

 

ウチはそう言って、練習場を飛び出した。元はと言えば羽が悪いねん。いっつもいっつもウチのことバカにして、一度痛い目におうたらええ!

 

六分街を駆け回って、ウチは逃げ場所を探す。でも、いつもの秘密基地いっても、多分みつかるわな……。そう思って、とりあえずウチは適当な路地裏で隠れてることにした。ここなら多分探しに来ても見つからへんやろって、そう思った。

 

最初はそこにおって、ずっと羽への文句ばっかり考えとった。でも暫くして頭が冷えてきて、だんだんウチは怖くなってくる。ちょっと言いすぎたかもしれへんし、羽の言い分も聞かずに飛び出してきてもた。

 

………………ホンマは分かっとる。羽は最近、ウチが全然曲を書けへんことを知ってた。だから、元気づけようとしていっつもあんなことしとんのやって。

 

「ウチが悪いのなんて……わかっとるのに……アホ……」

 

ウチはウチを責め立てるように、そんな事を口にする。謝らなあかんことなんて分かってる……分かってるけど……でも、そんなん無理や。

 

曲も書けへん、踊りも踊れへん、おまけにウチは暴言だけ言って逃げてきてもた。今さら「ごめん」なんて言って、戻ることなんてできない。合わせる顔が……ない。

 

「どうしよか……」

 

ウチはゆく宛を失った。店長さんのとこ行っても絶対見つかるし……外で寝るとか絶対嫌や。少なくともアイドルがやっていい事やあらへん。

 

「どうしたんだい?」

 

「うわぁ!!なんや!誰!?」

 

突然隣に男が現れていた。スーツ姿の、いかにも普通のサラリーマンっちゅう格好した人や。ウチは驚いてバッと身体を跳ねあげて、距離をとる。

 

「いやぁ、悪いね。驚かせてしまったよ。」

 

爽やかに笑うその人は、「困ってるみたいだったからさ」と、私の隣に姿勢を低くして座り込む。

 

「誰かとケンカでもしたのかな。こんなサラリーマンでいいなら、お話聞くよ。」

 

「いや……他人に話すような悩みでもあらへんし……」

 

「そうかな?他人だからこそ、今後関わらない人間だからこそ、聞ける話もあると思うけど?」

 

「そぉ?ならまぁ……聞いてくれるって言うなら……話すけど……」

 

 

 

 

 

そうして、ウチはある程度の事を話した。友達とケンカしたこと、ウチ自身の思い、行き先が無くて困っていること。だいたい全部やろか。それを聞き終わって、男の人は深々と頷きながら口を開く。

 

「そうか……それは大変だったね。」

 

「せやねん、ウチ……もうどうすればいいのやら……」

 

「…………そうだな。」

 

ぐっとウチの顔を覗き込んだ青い目が、少し霞んでるように見えた。とても暗い色で。その反面、和かに微笑まれたその顔からひとつの提案が出される。

 

「暫くウチに泊まるかい?」

 

「…………え?」

 

「あぁ、いや……別に変な意味はないんだよ。ただゆく宛が無いならと思って。どうせ僕は一人暮らしだし、君のためにもなると思ってね。」

 

「いやでも……知らん男の人についていくのは……」

 

「ならここで野宿するの?危ない人も多いのに。」

 

「それは、そうかも知れんけど……」

 

「それに男の家に泊まったことは無いんだろう。いい経験になるじゃないか。曲を作る材料になるかも。」

 

「うーーん…………」

 

「よく考えてくれるかい。キミのためなんだ。」

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

……ウチはアホか。いや断言するわ、アホや。結局口車に乗せられて、ホイホイついてきてもた。結局お風呂までお世話になって、羽達にどう説明すればええねん。「優しい男の人に拾ってもらいました。」…………って、アホか!無い無い、絶対無いわ!

 

「なんか身体ガッチガチだね。大丈夫?」

 

「…………大丈夫、多分やけど。」

 

「そうか、まぁ次期ここも慣れるさ。」

 

そう言って、彼はウチの前に夕食を出す。アカン、このままやと完全にウチの面子が死ぬ。夕食だけは断ろう……そう思った時に、ウチの腹の虫がありえんくらいの咆哮を飛ばした。

 

「はは、お腹すいてたんだね。いいよ、食べなさい。」

 

「…………でもぉ」

 

「いいの?餓死しちゃうよ?」

 

「………………」

 

食欲には、勝てへんわ。

 

 

 

 

 

それから三日経った。結局、三日間ウチはこの人にお世話になってしまった訳やな。流石にこれ以上はウチの中の倫理観が、絶対超えたらアカンラインやでって警鐘を鳴らしとる。やから、「明日には帰るわ」と彼に伝えた。すると、「そっか。」と爽やかな笑みで返される。

 

目の前に出されたカレーライス。いたくスパイシーな匂いが漂うそれに、ウチは手をつける。暫く食べ進めてると、穏やかな口調で彼が話し始めた。

 

「ひとつ思ったことを言ってもいいかな。」

 

「うん?ええで?」

 

「キミさ、もし僕が悪い男の人だったらどうしてたの?」

 

「…………へ?」

 

「いや、もし僕がキミを騙してキミを襲うような悪い男だったら、今頃キミは大変なことになっていたよ?」

 

ウチは全くそんなこと、頭の片隅にもなかったからホンマにびっくりしたわ。ほんまや、この人の言う通りならウチやばかったやん。…………気をつけな危ないな。

 

「つ、次からは知らん人にホイホイついて行かんようにするわ。」

 

「次ね、こんな事言っておいてなんだけどさ……」

 

グラッと、頭が急に重くなる。驚く暇もなく、ウチの瞼はどんどんプレス機みたいに視界を押し潰していって、やがてウチの視界は真っ暗になった。アカン……これ、眠…………

 

「次なんて、ないんだよ。」

 

そんな声が聞こえたような、聞こえなかったような。ウチはそんな曖昧な記憶を最後に、意識を失った。

 

 

 

 

次に目が覚めた時、外はもう夜になっとった。目を開けたベッドの上、窓の奥に大きな満月が見えた。ぼんやりと霞がかった意識が徐々に晴れていって、そこでやっとウチの腕が動かんことに気がつく。

 

「な、なんや……これ……。どうなってんねん!」

 

ガチャガチャと金属音がなって、鈍い痛みがウチの手首を襲った。ウチの身体に縛られてることに気づくのには、そう時間はかからへん。怖くなって辺りを見回すと、暗がりの下、不気味に月明かりで照らされた彼が立っていた。

 

「ちょっと、何や!?何するつもりや!」

 

「何って…………食事の時に説明したでしょ。」

 

そいつはゆっくりとベッドに乗ってくる。ウチに跨って、そんで自分のネクタイをするりと外した。ギラついた目がウチのことを捉えて離さへん。ウチは蛇に睨まれたカエルみたいに、身体がガッチガチに強ばって動かんくなってしもうた。

 

「悪い男に襲われるって。女が男の部屋に入っておいて、タダで帰れるわけないじゃん。」

 

冷ややかな声、大きな手がウチの方へと伸ばされる。

 

「本当はもっと乱暴してもよかったんだけど、キミのことが大切だからね。」

 

「嫌や!やめっ、やめて!!」

 

怖い!嫌、嫌嫌嫌……絶対嫌や!怖い怖い怖い!

 

ウチは心の中で叫んだ。声は出なかった。出そうとしても、喉の奥がつっかえたみたいになって、喉元で叫び声が押し殺される。涙だけがウチの恐怖の捌け口になって、決壊したダムみたいに大量に流れてくる。

 

「楽しもうよ。千夏ちゃん。」

 

「た、助け…………」

 

その手が、ウチの脚に触れそうになる。その舌が、ウチの口へと伸びてくる。恐怖のあまりに、声にもならないような、すり潰された音が喉の奥から漏れ出る。

 

次の瞬間、男の姿が消えた。

 

甲高い音と、鈍い音がほぼ同時に響いた。飛び散ったガラスが、月明かりを乱反射して綺麗に輝いている。その中に、天使の羽を持った黒い影があった。ウチは、その姿を知ってる。

 

「…………羽。」

 

「今、ちなっちゃんに何しようとしてたの……?」

 

羽の目はウチを見てなかった。その視線、真っ黒な殺意を持ったそれが突き刺す先には、バラバラに大破した机と、その上に転がった男の姿。

 

羽は1歩、また1歩と男に近づいて行く。そしてその前で脚を止め、手元の武器を振り上げた刹那、ドアを蹴り開けて中に入ってくる人物がいた。

 

「辞めるんだ羽!もう、気を失ってる。」

 

店長さんとアリアちゃんだった。

 

「千夏ちゃん、大丈夫!?」

 

アリアちゃんが鎖を解いてくれて、ウチの身体は解放される。少し痛む手首をさすりながら、心配そうにウチを見るアリアちゃんに対し「何もされてないわ」と、安堵を込めた一言を返す。

 

「……良がっだよぉ!」

 

すると、アリアちゃんは思いっきりウチのことを泣きながら抱きしめてくれた。…………アカン、めっちゃ痛いわ。アリアちゃんって知能構造体やもんな、あたりまえや。

 

「あ、アリアちゃん……骨、骨が逝ってまう。」

 

「あっ……ご、ごめんなさい!」

 

バッと手を開いて離れるアリアちゃん。それと入れ替わるように羽がウチに向かって歩いてくる。その目に怒りが灯っていることは、誰が見ても明らかやった。

 

「どういうつもり!?飛び出した挙句、知らない男の人についていくなんて!」

 

「その……これには理由がやな……」

 

「理由も何も無いよ!僕が遅れてたら、アイツにちなっちゃんが襲われてたんだよ!?」

 

「………………ごめん。」

 

「大体なんでこんなこと?いつもみたいにお互い謝れば、それで終わったじゃん!」

 

「…………だって」

 

「そもそも、ちなっちゃんは危機感が……」

 

「だって、ウチは二人に比べて全然アカンやん!!」

 

ウチが叫ぶと急に、世界の音が何も無くなったみたいになった。アリアちゃんも羽も、二人とも目を見開いてウチのことをじっと見つめとる。きっと驚いてんねんやろうな。でも、そんな事お構い無しに、ウチの口は勝手に動いた。

 

「最近、ウチは曲も書けへんくなってきた。全然思い浮かばへんねん。何も。踊りも下手、作曲も出来ひん、そんなウチはただ偉そうに羽に愚痴だけ吐いて、そのまま逃げてもた!」

 

そんなウチが、みんなと一緒におっていいはずがないやろ。

 

「ウチは……みんなに合わせる顔が無いわ。」

 

全部言い切って、ウチは下を向いたまま誰かがウチのことを貶してくれるのを待ってた。迷惑を掛けて、何もかもダメダメなウチを叱ってくれるのを、ビクビクしながら。

 

でも、それはなかった。代わりに、羽はウチの肩に手を置いて一言だけ口にする。

 

「ねぇ、ちなっちゃん。」

 

ウチは顔を上げた。羽の顔は怖いくらい真顔で、そこから発せられる言葉は何やろうかと……ウチは怖くなってまう。

 

「今から海行こっか。」

 

「…………はぁ?」

 

だから、あまりの想定外にウチは唖然としたんや。

 

 

 

 

 

タクシーに揺られてた。店長さんが送ってくれるとも行ったけど、羽が「ちなっちゃんと二人で行きたいから」とその提案を断った。気まずい空気がウチらの間を流れる。深夜のラジオだけが、その沈黙を静かに彩っていた。

 

羽がウチに話しかけてくることはなかった。ましてウチから話題を切り出すなんて、もってのほかや。ウチは外を眺める羽を見つめながら、どうするべきかと頭を悩ませた。

 

やがて満月に照らされた海と、そこに広がる砂浜が見えてくる。ポートエルピスから少し離れたこの場所で、ウチらは止めてもらった。タクシーを降りて砂浜を歩く。

 

羽の足跡の横に、ウチの足跡をつけて、ウチらは無言のまま歩き続けた。潮風がなびいて、髪を揺らす。暫くして、羽が口を開く。

 

「ちなっちゃんが行方不明になってさ、僕……気が気じゃなかったんだ。ホント、何にも手がつけられなくなるくらいには。」

 

「……それは、ホンマに申し訳ないって思っとる。」

 

「それは見たら分かるよ。だからもう、それには怒ってない。」

 

「なら、何に……?」

 

「分からない?ちなっちゃんがさっき言ったこと、『合わせる顔が無い』ってやつ。」

 

「……でも、事実や。」

 

ウチは妄想エンジェルや。作曲とダンスをして、二人のことが大好きなのが妄想エンジェルの千夏や。でも、ウチはいま作曲ができてへん。それも今までの比にならんくらい、全く、何も思い浮かばんのや。

 

「今のウチは、『妄想エンジェルの千夏』やない。それを名乗る価値がないねん。」

 

「それ、本気で言ってるの?」

 

「いつだってウチは本気や。」

 

「誰にだってスランプってのものはあるでしょ。」

 

「……っ!羽には分からんやろうな!自分の存在価値が揺るがされることへの恐怖なんて!!」

 

「はぁ!?」

 

そうや、羽に理解できるわけが無い。何でもできて、明るくて、誰をも引きつける羽が、ウチの気持ちを理解することなんてできるわけあるか。

 

「羽に比べて、ウチは何にもできやん!何にも無い!」

 

ウチは意地になっとった。多分、それは羽も同じ。深夜だってことも忘れて、ウチらはお互い声を張り上げて、睨み合って、主張した。

 

「羽はダンスも歌も上手い!」

 

「ちなっちゃんだって、お菓子作り上手じゃん!」

 

「羽は人付き合いも、ホロウでの戦闘もできる!」

 

「ちなっちゃんは妄想エンジェルの中で一番集中力が高いし、努力家だよ!」

 

「じゃあ羽はゲーム得意やろ!」

 

「それは大してステータスに入らないでしょ!」

 

言い出したらキリがあらへん。互いの良いところを言い合って、言い合って。全然引こうとせえへん羽に、ウチも負けじと言い返す。そんな口論がずっと続いて、続いて、ついに羽の頬に一筋だけ涙が零れた。

 

「なっ、羽……今、泣いて……」

 

「っ!違うよ……目にゴミが入っただけ……」

 

「はぁ、なんやそれ!言い訳にしては無理があるやろ!」

 

「うるっさいなぁ!!」

 

羽の涙はどんどんと増していく。その姿を見て、ウチもつられたんか、自然と涙が流れた。目と目の間が締め付けられるような痛みだった。羽は手でその涙を拭うが、それでもとめどなく溢れるそれを、何度も何度も拭って、その後に弱々しい声を出す。

 

「だって……ちなっちゃんが、ちなっちゃんを否定するんだもん。ちなっちゃんの自己評価が低いのは知ってるけど、それでも『何もできない』なんて言われたら僕だって怒るよ。」

 

「はぁ!?なんで羽がウチがウチを否定して怒るねん。訳分からんわ!!」

 

「大好きな人が否定されるのは辛いの!」

 

「大好きって……なんや、それ。」

 

「大好きだよ!ちなっちゃんが作った曲も、ちなっちゃんも!僕に初めて妄想をくれたのは、ちなっちゃんなんだ!ちなっちゃんは、僕の初めての推しなんだよ!」

 

「……………………わけ、わからんわ。」

 

なんやねん、推しって。なんでウチが羽の推しになんねん。

 

「ねぇ、ちなっちゃん。妄想エンジェルのこと、嫌い?」

 

「……そんな訳ないやろ!大好きや!!」

 

「なら、『ReDreaming Angel』を作ったのは誰?」

 

それは、妄想エンジェルの曲や。アリアちゃんが、羽が、ウチが、それを聞くお客さん達みんなが、妄想を夢を……見られるように、離さないように、叶えられるように、そう願って作った曲や。何度も何度も書き直して、何度も何度も録り直して、寝る間を惜しんで作り上げた曲や。それを作ったのは……

 

「ウチ……や。」

 

「『鼓動のリズム』は?」

 

「ウチや……」

 

「『天使ロード中…』は!?」

 

「ウチや!」

 

「『心、妄想色に』は!」

 

「全部全部、ウチや!ウチが作って、みんなで歌った、妄想エンジェルの大切な歌や!」

 

そんなの分かってる。そうや、みんなで作ってきたんや。妄想エンジェルは、羽と、アリアちゃんと、ウチで作ってきたものや。それはウチもよく分かっとる。

 

「でも、今のウチはもう曲を書けへん……。」

 

ずっと言っとるやん。曲を書けへんウチに意味は無いって。だから逃げたんや。だから、どんな顔すればいいか分からんかった。ウチは今真っ暗闇の中におる。膝を抱えて、泣きじゃくっとる。もう誰にも見つからないように、小さく、小さく身を縮め込めて。

 

「そんなことない!」

 

それでも羽、アンタはウチを見つけるんや。光の一切入らない暗闇の中でも、眩しいくらいの光でウチを照らす。

 

「僕の知るちなっちゃんは、そんな事で諦めない!音楽が大好きで、一度考え出したら周りも見ずに突っ走るキミは、何度でも努力し続けるんだ!」

 

だからウチは、そんな眩しいアンタに憧れた。そして何度でも、アンタに近づきたいと思うんや。何度でも、羽の手を取りたくなるんや。

 

「妄想エンジェルにはちなっちゃんが必要なんだよ!ちなっちゃんの曲が、踊りが、存在が……絶対に要るんだ!欠けちゃいけないんだ!」

 

あぁ、眩しいなぁ……もう。

 

 

ウチは……ウチの、ホントの気持ちは…………

 

「ウチは、妄想エンジェルの曲が描きたい!」

 

叫ぶ。心のままに。熱に浮かされたその心音が、遠くまでま響くように。ウチの妄想が、決して絶えないように。ウチは妄想エンジェルの千夏や。曲が書けんくなっても、踊れんくなっても、絶対どうにかしたる。羽の為に、アリアちゃんの為に、ウチは妄想エンジェルであり続けなあかん。

 

「帰ろう!ちなっちゃん!」

 

「…………うん!」

 

ウチは羽の身体を抱きしめた。強く、強く。羽の方も、もう手放さないと言わんばかりに抱き返してくる。その時、ウチらを眩い光が照らした。

 

海の奥から、日が昇っていた。ウチらは腕の力を抜いて、二人で横に並んで朝日を眺める。なんか羽みたいやな……なんて思ってけど、口に出すのはやめといた。絶対イジられるわ。

 

「何かお願い事でもしとく?」

 

「なんで朝日にやねん。流れ星やろ、それ。」

 

でも、そうやな。言いたいことはあるわ。

 

「ウチは絶対もっと凄くなる!強くなって、強くなって、いつか絶対に羽とアリアちゃんに追いついたるわ!!」

 

ウチの、今の気持ち。覚悟って言ってもいいかもな。この気持ちは大切だから、忘れないように。ウチの中に、刻みつけるんや。

 

「へぇ〜ちなっちゃんやるねぇ。じゃあ僕も……」

 

そう言って羽はめいっぱいに息を吸って、叫んだ。

 

「僕もカップ麺は流石に作れるようになる〜!!」

 

「やめい!またボヤ騒ぎ起こすつもりか!?」

 

「え〜、酷くな〜い?」

 

「酷いも何も、前科持ちやろ!」

 

互いを見合う。どうにもおかしくて、ウチは笑った。羽も笑った。二人でしばらく笑っていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「じゃあ私は、妄想エンジェルを新エリー都最高のアイドルグループにする!!」

 

振り返ると、アリアちゃんがいた。彼女の背後の道路には、店長の家の車が停めてある。きっと、ウチらを迎えに来てくれたのだろう。ほんま、ありがたい限りやわ。

 

「ずるーい!それは僕たち皆の願いでしょ〜!」

 

「せやで!アリアちゃんだけには言わせんわ!」

 

ウチと羽は、アリアちゃんの元へと駆けてゆく。

 

思えば、今日……ギリ昨日やろか……まぁ、今回のことは不思議な出来事だったような気がする。大切なものに悩まされ、大切なものを失いかけ、大切なものに救われた。

 

大切やから辛い、大切やから怖い、大切やから尊くて、大切やからどこまでも眩しく存在する。ウチらの妄想も、過去も、今も、全部全部大切やから、大変なんや。

 

「あぁぁぁぁ!!」

 

ウチは突然大きな声を上げた。目を丸くして、羽とアリアちゃんはこちらを見ている。「ど、どうしたの?」と、若干怯え気味のアリアちゃんが聞いてきた。

 

「いや、今めっちゃいい歌詞思いついたわ!」

 

「おぉ〜、まさかのスランプ脱出?」

 

「こんな事してられへん、早く帰って書かな!」

 

ウチは走り出す。

 

「ちょっ、急に走らないでよ。」

 

羽が後をついてくる。

 

「二人とも、置いていかないで〜!」

 

ちょっと遅れて、アリアちゃんも動き出した。

 

 

朝焼けに白く光る浜辺を、ウチらは駆ける。朝日と潮風に背中を押され、真っ直ぐと。大切なものを各々の心に握りしめて、そして、帰るんや。ウチらの六分街へ。

 

 

 

そうやなぁ……ほな、この曲の題名は………………





前半やろうと思っただけなのに、予想に反してだいぶ長尺になったわね。千夏ちゃんは、チョロくて常識欠け気味で自己評価低いから可愛いと思うんだ。まじFall in Love。
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