ゼンゼロのキャラを曇らせたくなった時に書くやつ   作:豚足と豚骨の化身

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朱鳶ー正義の定義・前編ー

 

雨が降っていた。ダンボールの中、雨水は私の傷口に滲みると共に徐々に体温を奪ってゆく。息も荒くなり、身体中の震えも止まらなくなってきたところで、近くから足音がした。その音は少しずつこちらへ近づき、私の前で止まる。

 

「大丈夫ですか!?こんな土砂降りの中何をして……!」

 

背の高い綺麗なお姉さんが、自分が濡れるのも気にせず私に傘を差し出す。もう全身びしょ濡れだったからあまり意味は無かったけど。

 

「要らないよ。濡れるのは慣れてるし。」

 

「そういう問題ではありません。」

 

そう言って彼女は私の身体を抱き上げる。痩せているとは言え私だってそこそこの重さはある筈なのに、お姉さんはそれを感じさせないほど軽々と私を持ち上げた。そのまま私は、お姉さんの家へと半ば強制的に招かれた。

 

「まずはお風呂に入りましょうか。」

 

「別にいいよ。て言うかもうそろそろ降ろしてくれない?」

 

「ずぶ濡れじゃないですか!つべこべ言わずに入ってください!」

 

お姉さんに連行され、私はお風呂に入れられる。お姉さんはとっても綺麗な身体をしていた。私の傷だらけの醜い姿とは大違いだ。

 

「その傷、一体どうしたんですか?」

 

「別に、遊んでて怪我しただけ。」

 

「そんなわけ…………いえ、分かりました。それだけならいいんです。」

 

「 お父さんにやられた 」とは言わなかった。あんなクズの子供であることが、とても恥ずかしいような気がしていたから。私を小さな椅子に座らせて、後ろから優しく頭を洗ってくれるお姉さんは、私に質問を続けた。

 

「その……なんで1人であんな所に?」

 

「あそこは私の家だから。」

 

お姉さんは、私の身体を洗い始める。しかし、石鹸が傷口に当たって突然の痛みがピシャリと私の身体を駆け巡った。思わずそれに顔を顰める。

 

「あっごめんなさい。でも洗わないといけないので、少し我慢してくださいね。」

 

「……分かった。」

 

大丈夫、痛いのは慣れてる。殴られる方がもっと痛いし、この位の苦痛なら何ともない。

 

「それで、家と言うのは……?」

 

「そのままの意味だよ。私はあそこで暮らしてるの。」

 

と言っても、あの場所を私の寝床としたのはほんの昨日のことだったけれど。家から追放されたのに、大した理由は無かった。突然家にやってきた全身からキツイ臭いを漂わせる女が、私が邪魔で仕方が無かったようでお父さんにその旨を伝えた。

 

そうして、お父さんは私を家から追い出したってわけ。まぁ後数時間もすれば、警察に「娘が行方不明になった」とでも言って私を探させることだろう。そんなことを考えていると、いつの間にかお姉さんは私の身体を洗い切っていた。

 

彼女は自分の身体も手短に洗い流して、浴室の外に置いてあったタオルを取ってくる。そして、そのふかふかの布地を私に被せて

身体を包む水気を拭い始める。

 

「なんで私なんかに構うの……?」

 

それは純粋な疑問だった。道端に捨てられた子犬を拾うのとは訳が違う。私は人間だ。間違いなく背景には面倒事が絡んでるのが分かり切っているだろうに、それでも私を家へ招き入れたのは、単なる善性か、それともまた別の意図があるのか。ただ、それが気になっただけ。

 

「道端にずぶ濡れで座ってる女の子なんて見捨てられる訳ないでしょう。それに私は治安官ですから、貴方のような人を保護するのも仕事なんです。」

 

「あぁそう。治安官ね……」

 

合点がいった。お人好しで正義感も強い……お姉さんは正に「治安官」って感じの人間だった。そして、彼女の職業的に私の全身に刻まれた烙印の理由も、なんとなく察してはいるのだろう。

 

「はい、これで終わりです。服は外に置いてあるのを……髪を乾かしたいので、近くの椅子に座って少し待っていてくださいね。」

 

彼女に言われたように浴室を出て、それらしき服を見つける。当然、これらの衣服は全てお姉さんのものであった。私の身長とは全く合わないので、裾を床に引ずる羽目になる。私はそんな間抜けな格好のまま、洗面台の前にある椅子に座ってお姉さんを待つ。

 

しばらくして、お姉さんが出てくる。正に、水も滴るいい女という感じの。彼女も服を着て、近くの棚からドライヤーを取りだし私の背後に立った。

 

「すみません。子供用のサイズの服が無くて……」

 

「別にいい。ていうかそもそも私は助けられてる立場なんだから、文句は言えないでしょ。」

 

まぁ殆ど強制のお節介ではあったが、それでも匿ってもらったのも事実ではある。ドライヤーから吹き出す強い風が私の湿った髪をなびかせる。

 

「お姉さん、家族は?」

 

「両親が……とはいえ家は別ですが。」

 

「仲は良い?」

 

「えぇまぁ…はい。」

 

「そう、幸せなんだね。」

 

別に、羨ましい訳じゃない。人には人の暮らしがあり、それは人によって違うものだ。私はゴミみたいな家庭に産まれる運命だったてだけだから……気にしない。そんなことを考えてる内に、私の髪は綺麗に乾いていた。

 

「私も髪を乾かしてから行くので、自由にしておいてください。」

 

「じゃあドライヤー貸して。」

 

「……へ?」

 

「髪乾かしてあげるから、早く。」

 

「自分で出来ますが……」

 

「やられっぱなしは嫌なの。」

 

「……それじゃあ、どうぞ。」

 

そうして私にドライヤーが手渡される。スイッチを入れて、彼女の髪へと指を通した。綺麗で、サラサラと私の手から風に吹かれて逃げていく。私は1本1本を丁寧に捕まえて、そのまま髪先までを緩やかに撫でる。

 

「綺麗な髪だね。」

 

「そうでしょうか?別に大した手入れなんかはしてないんですけれど……。」

 

「それに、いい匂い。」

 

私は彼女の髪の毛へ鼻を近づける。ふわりとして、優しい花の香りが流れた。同じシャンプーを使ったんだから私も同じ匂いがするのかな、なんてことを思う。まぁだとしても自分の髪の匂いなんて分からないけど。

 

「はい、乾いたよ。」

 

「ありがとうございます……」

 

「これ、どこに片付ければいいの?」

 

「あぁ、私が片付けますから……先にテレビでも見ておいてください。」

 

「分かった。よろしくね。」

 

そうして私はお姉さんに手元のドライヤーを渡して、洗面台を離れる。そのままテレビの前にあるソファーに腰をかけ、真っ黒な液晶に映る自分の顔を見ながらお姉さんを待つことにした。

 

しばらく鏡写しの自分を見て、私は物思いにふける。この場所には綺麗なお風呂と、いい匂いのシャンプーと、ふかふかのソファーに大きなテレビがある。

 

もし……私がお姉さんの妹としてこの世界に生を受けたなら、私はここで彼女となんてことのない話をしながら幸せな日常を楽しめたのだろうか。もし私があんなクソ野郎の元に産まれていなかったら、幾分かマシな人生を送れたのだろうか。

 

「はぁ……貴方はバカだね。そんな幻想、無意味なのに。」

 

私はテレビに映る大バカに向かってそう言い放った。もう考えるのはやめよう。時間を無駄にするだけだ。私は人形のように力無くソファーの上で横になった。

 

私も疲れていたのだろう。何せ道端で雨に打たれながら寝ようとしていたのだ。12歳の子供にとってそれは苦行なんて言葉じゃ表せないような愚行である。ふかふかのソファーに身を任せ、静かで綺麗な部屋を見つめていると、段々と瞼が重たくなってくる。

 

あと数時間でどうせあのクソ男に連れていかれるんだ。それに、今回は治安官に拾われたなんて面倒くさい状況にもなっている。難しいことは後で考えよう、今はただ……この微睡みに身を任せたい。かくして、私は快適なソファーの腕に抱かれて意識をゆっくりと手放した。

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