ゼンゼロのキャラを曇らせたくなった時に書くやつ 作:豚足と豚骨の化身
息が上がる。心臓が嫌に鼓動する。今さっき、ビリーが慌てた様子で私に伝えた文言。曰く、アイツが血を吐いて倒れたとのことだった。今は、ブレイズウッドの医療室にて寝かされているらしい。
私はそれを聞いて、考える間もなく走り出した。なんで、なにがあった、大丈夫なのか……疑問と不安が私の頭を渦巻く。やがて、病室の扉が見えてくる。私は乱暴にドアノブを掴み、勢いよく扉を開けた。
ガンッと大きな音がして、中の景色が私の視界に飛び込んでくる。カリュドーンの子の面々、部屋中央のベッドに上半身を起こした状態でいるバディの姿、そして、ベッドの白いシーツを染めた大量の赤。
「いいか?ビックダディさん。」
「あぁ、問題ない。話すべきことを話してこい。」
「……恩に着る。」
そう言って、ベットの上の患者は静かに立ち上がった。
「……ぁ、立って……大丈夫……?」
散らかった思考で私が絞り出したその質問に、返答する人は居ない。
「なぁ、お前さん。ちょっと付き合ってくれよ。」
ただその代わりに、いつもと変わらない様子で、私のバディはそんな提案をしてきた。私はどう言葉を返すべきかも分からず、ただ呆然と頷く。
「まぁ、今の今まで隠し通すのもギリギリだったんだ。むしろよくここまでやってこれたって感じだ。」
そんな軽口を叩き、笑いながら、私の手を引く姿が眼前にあった。悲壮感を微塵も感じさせない……諦めたような声色に、逆にこちらが名状しがたい悲しみに襲われたように感じた。
まだ確定した訳ではない。その口から、直接聞いた訳でもない。ただ私はどこかで確信していた。気づいてしまっていた。目の前のこの男はもう死ぬのだと。
気がつくと、私は彼のトラックの前まで連れてこられていた。
「……アイアンタスク。いつ見ても壮観だろ?ほら、お前さんは、助手席に乗りな。」
「……その身体で運転する気か?今は安静に……」
「運転するわけ無いだろ。こんな状態でハンドル握ったら、普通に事故るからな。話したいだけだよ。ほら、乗った乗った。」
「お、おぅ……」
私は勢いに押され、そのまま流れるように助手席へと座らせられらる。直後運転席の扉が開き、私のバディも深々と腰をかけた。それからエンジンをかけ、ただ一言を口にする。
「……落ち着く音だ。」
そこからは沈黙。それが1分か、10分か……はたまたもっと長かったのか、私には分からない。なにせ、現状の事で気が気じゃな買ったから。ここ4ヶ月の思い出のフラッシュバックと、えも言えぬ後悔や不安が頭をぐちゃぐちゃにする。
かと言って、「なんでこんなことになったんだぁ?」なんて、聞き出す勇気は私には無かった。だから言葉を待つ。この息が詰まりそうな空気の中で、相手が話し出してくれることを信じて。
「……生まれつきの病気なんだ。」
それが初めの一言だった。道端に転がってた私のバディの、運命を定めた自叙伝……その1ページ目。
「エーテル適性減退症候群……って知ってるか?」
「なに……?それ。」
「まぁ、いわゆる不治の病だな。身体のエーテル適性が高くなる代わりに、一部臓器のエーテル適性が著しく低くなる。俺の場合は胃と肺だな。」
曰く、今回の吐血も恐らくそれが原因であるそうだ。またホロウ内での喘息、刺激物の摂取が苦しくなるなど……その症状は多岐に及ぶらしい。その話を聞いてようやく、私はコイツがニトロフューエルを頑なに飲まない理由が分かった。
「ニトロフューエルは味が美味いだけに惜しかった。全く不便な身体だよ。」
初めて二人で仕事をこなした日の夜、ニトロフューエルが口に合わないと評していたのは……嘘だったらしい。自らの不調を隠し通す為の、悲しい嘘。
「エーテル侵食がヤバいってならさぁ、ホロウに入らなければ良いんじゃないのか?ほら、ホロウに入らずとも稼げる職業なんていくらでもあるし……。」
「……まぁ普通はそうなるよな。」
私の意見に、「でもダメなんだ。」と、ただ端的に返す言葉は、その身体に巣食った残酷な真実を後に続けた。
「この病気にかかった人間は、例外なく20代近くで命を落としている。そして、俺は今年で24だ。多分、もう死ぬ。」
その言葉を最後に、再び私たちの間には静寂が訪れる。まるで、私がどう答えるのかを待っているかのような沈黙。嫌な汗が頬を伝う、脈拍がグンと脚をはやめる。
信じたくないと心が叫んでいた。でも、信じなければならなかった。現実は残酷だ。そこから目を背けるのは、逃避と同じである。だから、私は答えを出さなければならない。
「明日には、ここを出るのか?」
「あぁ……。」
「なら予定通り、盛大に送り出してやらないとな〜。それが、カリュドーンの子がアンタに送れる最大の贈り物ってやつだ。」
私達に病気の事を隠し通していた。それは何故なのかを考えてみた。そして気づいたのは……きっとコイツは自分の事で悲しんで欲しくないんだと思う。だから、病気のことを何でも無いかのように笑い飛ばすんだ。
「ありがとな、パイパー。」
私のバディは、そう言って笑っていた。
「あぁ、だから……絶対死ぬほど楽しめよっ!」
それをアンタが望むなら、私も笑って返そう。それがきっとアンタにとっても私にとっても……それが一番いい道なんだから。
そこからの展開は早かった。病室に居るヤツらへ送迎会を開くと宣言しに行くと、皆は何かを察したようにそれを肯定してくれた。元々用意はしてあったから、その日の夜に送別会は開かれた。
喧しいくらいのどんちゃん騒ぎ。ニトロフューエルの飲み比べでぶっ倒れるやつもいれば、肩を組みながら訳の分からない歌を歌ってるやつもいる。
皆がこの場所を離れる仲間のことを悲しみ、新たな未来を歩むことを祝福する。たとえその道が長くは続かなくとも、その思いは決して価値の無いものでは無いのだ。
そうした賑やかな祭りの最中、少々その流れについていけなかった私は少し離れたところで夜風を浴びていた。ニトロフューエルを飲みすぎたせいか、若干胸焼けがする。
「なんだ、もうギブアップか?若いんだからもっと飲んでくりゃいいのに。」
そんな時、背後から声が聞こえた。振り返ると……そこにはオレンジジュースを片手に持った、今回宴の主役様が立っている。
「なんだぁ、抜け出してきてもいいのか〜?皆に引っ張りだこのはずの宴のメインキャストなのにさぁ。」
「いいんだよ。あんまはしゃぎすぎるとここでショック死しそうだから。」
「とんでもないブラックジョーク……。笑えないぜい、正直。」
「はは、悪い悪い。」
それから私たちは、何気ない話をした。もう出来なくなってしまう他愛ない行動を、少しでも多く拾い集められるように。好きな映画、過去の話、仲間内での愚痴……。
しばらくそんなことを続けて、もうパッと出せるような話題も無くなった頃、突然私のバディはどこからともなく木とロープで作られた雑な十字架を取り出し、それを地面に突き刺した。
「なぁ、これなんだと思う?」
「…………まさかとは思うけど、墓かぁ?」
「おぉ!正解!お前さん達がそそくさと宴の準備をしてくれてる間に即席で作ったんだ。」
「まだちょっと気が早いと思うぜい。アンタはまだ生きてんだからさ〜。」
「まぁな。でももう死ぬし、どうせならここに墓を建てたいだろ。」
そう言って、オレンジジュースが空になったジョッキを勢いよく墓の前へと置いた。それから「頼みを聞いてくれよ。」と、私の方へと振り返る。私はその視線に首を傾げる。
「また、誰かがここから旅立つことになったら俺にも祝わせてくれよ。その時はニトロフューエルを一杯、俺に奢ってくれ。新たなる旅立ちのその前夜に、俺を加えてくれ。」
「なんだ、そんなことなら……お安い御用だぜい。」
「……ありがとう。」
そういうことならと、私は相方に「少し待ってて」と伝え、その後バーニスのヤツからもう2杯ドリンクを貰ってきた。そうして右手のオレンジジュースを手渡す。
「それならさ〜今日はアンタの旅立ちに乾杯しないとだろ〜?だからもう1杯だけ付き合えよっ!」
「あ〜……俺自身のことをすっかり忘れてた。そうだな、俺も送り出してやらないとだもんな。」
私たちは墓の前へ立った。向かい合って「どっちから宣言する?」なんてくだらない話し合いと共に……。それなら私からと、口火を切ってみる。
「あ〜そうだな〜……アンタの旅立ちと、いずれ訪れる死が幸せなものである事を願って……かな。」
私に続くように、目の前の男は宣言した。
「それじゃあ俺は、この場所での約束が残り続け、お前さんの未来が言い表せないくらいの幸せで満ちている事を願って……」
月明かりにライトアップされ、私たちは互いに微笑んだ。そうして息を合わせて、その手の杯を突き合わせる。
「「乾杯……!!」」
カコンッと小気味良い音が鳴り響き、飛沫が舞う。その水沫は綺麗な光となって消えていった。
翌朝、私はブレイズウッドの出口まで見送りに来ていた。
「良かったのかぁ?本当に総出で見送らなくてよ〜。」
私の周りには誰もいない。見送られる本人が、あまり引きずって欲しくないとの事で、事前に全員に挨拶をしていたらしい。私を除いてな。
「いいんだよ。皆に見送られたら俺がしんみりした空気に泣いちまう。」
笑顔で送り出して欲しい言った本人が泣くのは、どうやらコイツにとってはプライドに関わってくるらしい。随分面倒なものを抱えてるなと思いながら、私はそんな自負心野郎の背中にあるトラックを見据えた。
「それに、そいつのこともだ。良いのかい?ウチのオンボロトラックなんか使ってさ。」
「まぁ、アイツはまだまだ長生きできるからな。後先短い俺と走るより、ここで使ってもらった方が嬉しいよ。」
「まぁアンタがそれでいいなら良いけど……」
若干渋っている私を目前に、私のバディは突然「受け止めろよ」と言ってポケットから何かを投げてくる。慌ててキャッチすると、それは鍵であった。
「これは……」
「アイアンタスクのキーだ。お前さんが持ってろ。」
「えぇ……!?私、大型車の免許とか持ってないけど……?」
「それは頑張って取ってくれ。」
「無茶振りだぜい。それ……」
「頼むよ。お前さんに使ってもらいたいんだ。」
そう言われると、断りずらくなる……。仕方がないと、私はため息をついて鍵をポケットにしまった。
「こいつにそこまで信頼を置くなんてさ〜、アンタも中々の変わりもんだよなぁ。」
「そうか?割と妥当だと思うけどな。命の恩人だし。」
「それはそうだけどさぁ……。」
そこで、言葉が途切れた。何を話せば良いのか、途端に見失う。何を言うべきか思考を巡らせると、どうしても、もう別れなのだという事実を見てしまう。そうすると、悲しくなるのだ。
「……なぁ。」
「うん。」
「もう、行くよ。」
「……うん。」
「俺はさ、最期にお前さんと出会えて良かったと思ってるよ。」
「それはお互い様だぜい。私も、アンタに会えてよかった。」
「それと、ありがとうな。笑ってくれて。」
「……私に涙なんて似合わないからなっ!」
あぁ……ここで行かないでと言えたならどれだけ良かっただろう。アンタの残り短い人生を、ここで過ごしてくれと言えたならどれだけ幸せだったろう。
でも、きっとそれをアンタは望まない。誰かに悲しまれ逝くことを、アンタは良しとしない。私は……ちゃんと笑えているだろうか。アンタを笑って送り出せているだろうか。
「それじゃ、元気でな。」
「あぁ……アンタも……」
「もちろん、死ぬまで元気で居るつもりさ。」
私のバディはトラックに乗り込んで、直後にエンジンがかかる。もう行ってしまうのだと、無意識に手を伸ばした。しかし、トラックは走り出す。もうこの手は届かない。
伸ばしていた手を上に掲げ、大きく手を振った。強く唇を噛んで、その姿が見えなくなるまで。そうして私のバディがすっかり姿を消した頃に、ようやく涙が頬を伝う。
「泣くのは似合わないって、言ったばっかなのになぁ……」
嗚咽と、押し殺したような私の泣き声が静かにブレイズウッドに響いていた。
「てなことが……昔あったんだな〜。アイツの生死は分からないけど、多分もう死んでると思うぜい。間違いなく、幸せにな。」
一連の話を終え、私は隣に居る若者へと目を向ける。
「なんですかその話ぃ……めっちゃ悲しいじゃないですかぁ!!」
物凄い泣いていた。鼻水、涙ダラダラで。「そこまで心動かされる話だったか……?」と思いながらも、それを慰める。
「全く、最近の若いのは感受性が豊かで羨ましいぜい。ほら、泣きやみな〜。別れに涙は似合わないからな〜。」
「うぅ……そうですよね。はい。」
しばらく流れ出る涙を拭っていたりして、ようやく少し落ち着いたころ、地面に置いてあるアイツ用のニトロフューエルを隣の若者へと持たせた。
「えっと……どうすればいいんです?これ。」
「アンタ乾杯用のジョッキ持ってないだろ?だから代わりにコイツのを使わせてもらおう。」
「いいんですかね……。」
「いいのいいの……それくらいなんとも思わないぜい。コイツはさ。」
「……分かりました。」
そうして私達は杯を掲げる。そして最後に一言、宣言するのだ。
「アンタの新たなる旅立ちに……」
「はい、新たなる旅立ちに……」
互いのニトロフューエルを高く打ち合わせ、3人で別れと祝いの乾杯を。声高らかに。
「「乾杯……!!」」