ゼンゼロのキャラを曇らせたくなった時に書くやつ 作:豚足と豚骨の化身
「ジェーン、お前だろ?裏切り者ってのはさ。」
押し倒された女は、その言葉に嘲るような軽い笑みで答えた。
「アタイを裏切り者に断定する程の証拠はあるの?」
「あると言ったら?」
「へぇ……」
直後、ジェーンの尻尾が大きく動く。瞬間、服から拳銃を抜き取って、彼女の眉間へと銃口を向けた。それとほぼ同時に、ジェーンは俺からナイフを奪い取って俺の首筋へと突き立てる。言わば、命の所有権のトレード。
「これでアタイたちはフェアね。有意義な話し合いにしましょう?」
「バカ言え。お前と俺とじゃ命の重さが違うだろ。」
しかし、こちらは臆さない。片や犯罪者、片や一般人の平和を守る治安官。両者の命を天秤に乗せれば、当たり前の如く後者へ傾く。感情の面を排すれば、互いが死んで不利益を被るのは相手方である。
「そう、まぁいいわ。色々聞かせて?どうやってネズミをあぶり出したのか……それと、アタイを生かした目的もね。」
ジェーンは全く動揺する素振りは無かった。それどころか、本質を見抜いた的確な質問を加えてくる。まぁ、後者はどちらにせよ話す内容ではあるが。
「どっちから聞きたい?」
「アタイの正体を暴いた方法。」
疑える場面は多々あった。ジェーンに向けられた明らかに弱い攻撃、「セス」という同名が彼女と知能構造体の治安官から飛び出したこと。だが、それは決定的な証拠にならない陽炎のような事実だ。俺がコイツを裏切り者と確信できた理由は、それとは別。
「俺のバッグ、中に盗聴器があるんだよ。小型のな。俺が治安官の胸ぐらを掴んで頭突きした時、どさくさに紛れて付けといた。」
「あぁ……なるほどね……」
「まぁホテルにチェックインする頃には気付かれてたがな。治安官側の人間に、お前が入っていることは確認できた。そろそろあっちが焦ってお前にコンタクト通してくるだろうさ。」
「班長はアタイほどそういうのに慣れてないもの。仕方ないわね。」
「次の話に行こうか?」
「えぇ、もうだいたい理解したわ。」
次、俺がジェーンを生かした理由……を、話してやりたいところだが、その前に聞いておかなければならないことがある。
「俺の目的の前に、お前の方の話を聞かせてくれよ。何がしたくてここに潜入した?」
「それはもちろん……アンタ達を捕まえるため。」
「嘘なんてついてる余裕ないだろ。あんまふざけたこと言ってると、サイアク脳漿ぶちまける歯目になるぜ。」
「嘘じゃないわ。アタイは治安官よ?悪人を捕まえるのが仕事なの。」
「ならホロウで俺たちが襲撃された時、なぜ裏切らなかった。あそこでの主な敵は俺とボスの2人。お前らなら簡単に捕まえられたはずだ。」
ジェーンが大層嫌そうに顔を顰める。そして、諦めたのだろう……大きくため息をついた後、本意を話し始めた。
「半年前、ちょうどアタイがこの組織に入る前の話よ。とあるテロ組織がね、もの凄い爆弾を作っちゃったの。1つでビルを丸ごと吹き飛ばしちゃうような。」
「続けて。」
「製作者は逮捕できたのだけれど、問題はその爆弾の設計図が別の人間に横流しにされてたこと。」
「……その設計図を受け取ったのがボスだと?」
「えぇ、確証を持って言えるわ。何せこの情報は、製作者様のお墨付きだから。」
ボスが、テロ組織が作った爆弾を持っている。それが事実だとして、何のために?いや、理由は大した問題じゃない。大切なのは、そんなもの使えば十中八九、大量の一般人が巻き込まれる点にある。
「さぁ、アンタの要件を言って。アタイとのお喋りは十分でしょ?」
ジェーンが俺の返事を急かした。「要件」と言われて、浮かぶのはひとつ。「俺以外の仲間を見逃してくれ」。だが事情が変わった。先の話が本当なら、俺がやるべきなのは……
「交換条件だ。俺がお前に協力してやる。だから、ボスと俺を除いたメンバーをどうか捕まえないでやってくれ。」
見極めることだ。ボスがリーダーに足る人物なのか、今一度。そうでなければ、治安官にボスを突き出せばいい。だがもしボスに何の問題も無ければその時は、この女を裏切ろう。
「あら、アタイがいつ協力が必要なんて言ったの?」
「いざと言う時、ボスに一人で挑むつもりか?お前が?俺らが2人がかりで挑んでも五分だってのに。」
「アタイは治安官よ?コンタクトを取れば何時でも戦力は増やせるわ。」
「なら電子機器はどうだ?お前、大して強くなかったろ。俺ならボスが持ってるパソコンのセキュリティくらい、難なく突破できるが?」
「それは……そうねぇ。はぁ、分かった降参。アンタのその提案、呑んであげる。だからもう銃はおろして。」
苦虫を噛み潰したような酷い顔で、渋々従うことにしたジェーンは、ゆっくりと尻尾のナイフを俺の首筋から脚にあるケースをと移した。
しっかりと相手の凶器が返還されたのを確認して、俺も銃口を逸らしてジェーンの上から身体をどかす。銃のセーフティをかけ、静かに懐へと納めた。
「それで正義の治安官様は、これからどうするつもりだ?」
「さぁ、アタイにもさっぱり。分かりやすく怪しいのは今回の作戦で資源と称して回収したアレだけど、間違いなくボスは罠を敷いてるだろうし、迂闊に動けないわ。」
「そうか、ならこれを使え。」
そう言って、俺はジェーンに向かってとある物を投げつける。指2本分程度の小さなそれを、彼女はいとも容易く尻尾にてキャッチした。そして、不思議そうにそれを見つめる。
「なぁにこれ?USBメモリ?」
「見てくれはな。機能もおおよそ同じだが、刺したパソコンの情報は大体抜いてこられる。その後は、独自機能で一切セキュリティにかからないウイルスを流し込んで、それがアクセスした記録を微塵も残さず消し飛ばすっていう優れもの。」
「なんでこんなもの持ってるの。」
「作った。」
「アンタ……アタイのこと『バケモノみたいに器用』とか普段から言ってるけど、自分も中々イカれてる事に気づいた方がいいわよ。」
「機器に関しちゃ、この組織で俺の右に出る奴は居ないさ。そこは十分自負してる。」
「そう、それじゃあアンタの作戦に乗ったげる。これをボスのパソコンに刺せばいいんでしょ。」
「ちょっと待ってて」と言い残し、ジェーンは部屋を出ていった。ついて行くべきかとも思ったが、こと盗みに関しては俺がいても邪魔だろう。適材適所、俺は自分のできることを真っ当に完遂すぺきだ。俺は微かに熱の残るベットに寝転んで、彼女の帰りを待った。
数時間……正確にはどれくらいかは分からないが、日が暮れた頃に、ようやくジェーンは疲れきった様子で帰ってきた。遅かったことと、今の様子の理由に関して、パソコンを弄りながら問う。
「色々あったのよ。ボス、全く部屋から動かないし常に警戒してるから、アタイも忍び込むのに苦労したわ。」
「それで?目的のものは?」
「ふふっ、バッチリよ。」
ジェーンが自慢げにポッケから小さなデバイスを取り出して、こちらに見せつける。
「はっ、流石だな。」
こちらに投げつけられたそれをキャッチして、手元のパソコンへと差し込んだ。読み込み、ボスのパソコンのデータが画面に次々と流れていく。ホーム画面、検索履歴、メール等々……至って普通な項目の中に、ある一点の異質を感じ取る。
鍵がかけられたファイル。「15桁のパスワードを入れてください」と表示されていた。ジェーンは俺の横から画面を覗き込んで、難し顔をしている。
「パスワード……全く心当たりがないわ。アンタは分かる?」
「いや、全然。だから無理やりこじ開ける。セキュリティぶっ壊してな。」
感覚としては八ッキングである。不正ながら、列記としたデータへのアクセス手段。針に糸を通すような細かい作業だが、俺なら開ける。そうしてロックされたファイルをこじ開けると、画面が真っ赤な警告表示で埋め尽くされた。隣で画面をまじまじと見つめるジェーンは、不思議そうに尋ねた。
「これがセキュリティ?」
「そう、大量の錠前がドアにかけられてるってイメージでいい。今からこれを片っ端から開けていくぞ。」
右から左に流れ続ける大量の文字の羅列を記憶し、それに対応したアンサーを打ち込む。そうして1つづつ、ピッキングしていくのだ。その作業は順調に進んでいた。しかし、数個目で問題が起きた。ビーッと耳障りな音と共に、画面が止まったのだ。
入力漏れでも起こしただろうか。いや、違う。セキュリティが今までのものと全く違うものに置きかわっている。錠前が先程とは別のものに変えられたのだ。そして俺は、このセキュリティの作り方に見覚えがあった。
「軍の旧式暗号文……?」
思わずそんな驚きが口から漏れた。目の前に表示されるのは、旧都陥落以前に軍で使われていた暗号文だった。何でこんなものをボスが知ってるのかと、そんな疑問が頭に浮かぶ。
「えっと……つまりどういうこと?」
ジェーンは頭上にハテナマークを浮かべて、困惑中の俺の顔を覗いていた。それを見て、俺もだんだんと落ち着きを取り戻してゆく。
「これはな、旧都陥落前に軍で使われてた暗号を用いて作られた独自のセキュリティ機能なんだよ。現在はもう使われてない技術を転用した、オーダーメイドの複雑な鍵穴ってわけだ。」
「へぇ……。だからアンタもお手上げと。」
「いや、俺なら解ける。問題は何故こんなものをボスが使っているのかだ。少なくとも、これは軍の関係者じゃないと持ちえないものだからな。」
「アンタも別に軍の関係者じゃないでしょ。」
「俺は数年前まで軍人だった。」
「……ホント?」
「マジ。」
「……知らなかった。でも、まぁいいわ。今はアンタの過去も、ボスの過去も関係ないもの。大事なのはどうやってボスを止めるか、でしょ?」
同感だ。だから、そんな話を進めている間にも鍵開けをどんどん進めていた。そうしてようやく、全ての鍵が開かれる。
「これで……終わりだ。」
最後のエンターをかき鳴らし、画面に表示されたのはボスが企んでいるであろう計画の数々。
「ちょっと、アタイによく見せて。」
その時、ジェーンが更に身を乗り出して俺の目の前でパソコンの主導権を奪い、画面をスクロールし始めた。
「見えないんだけど。」
「アタイの上から覗き込んで。」
「お前、人使い荒いぞ……」
言われるがまま、俺は身体を少し上にあげてパソコンの画面を見る。若干このネズミ女の耳に阻まれて見ずらいが、大体の内容は確認することができた。
それは、TOPSの上層部に位置するとある人間を殺す計画。そいつがいるオフィスビルを、そいつごと吹き飛ばすというめちゃくちゃな作戦が書き記されていた。
爆弾の設計図、爆弾作成の依頼先の情報、ターゲットの特徴から、作戦実行の日時まで……事細かに記されている。緻密なその計画書の最後には、今回俺たちが確保した物資が例の爆弾であることと、それを明日の12時にホロウで試用してみる旨の話が記されてあった。
「TOPSの役員の殺人……一体なんの為にだ?」
「さぁ、アタイにも分からない。ただ……そうね、ボスを止めるなら、やっぱり明日の12時がベストかしら。」
「あぁ、ボスはこのことを隠してた。爆弾の試用をするってことは、恐らく1人になるってことだ。ボスを制圧するなら、1対2が最低条件だろうしな。」
そんな分析をしながら、俺はジェーンの後ろから手を伸ばして資料に添付された写真を確認する。そして画面に映されたのは、先日作ったキャロットであった。ホロウを渡り歩くルート、その線上に赤くバツ印が付けられている。
「……ここで実験するのか。明日はボスの尾行をして、捕まえたところで全部問いただすのが吉かね。」
「アタイも賛成。それが1番無難で最善の作戦よ。多分ね。」
「なら明日まではゆっくりしようぜ。どうせ今日することもないんだ。」
ジェーンが俺の前から身体をどけた後、大きく伸びをしてベットに寝転んだ。そうして天井のシミをボーッと数えながら、考える。ボスは……俺たちを裏切った。俺たちホロウレイダーは主に物資輸送、ホロウ内の資源確保、他の反社との抗争などが活動の主であり、一般人を殺すようなことはしない。
「こちら側の世界で無いものを巻き込んではいけない」。それは、この組織においては最も重視されるべき原則であり、秩序なのだ。それを破ろうとしたボスは、組織を裏切ったことになる。
はっきり言って、悲しかった。組織のメンバーの誰からも尊敬の念を抱かれているボスが組織の掟を破った。その事実が、胸に妙な不快感を覚えさせる。
しかし、俺も公私を混同するほど阿呆ではない。組織のために、掟破りのボスは「リーダー」であってはならない。だから、もう彼女への尊敬なんて感情は忘れてしまおう。そう思い、俺は嫌なことを忘れるのにピッタリな物品をバッグから取り出す。
「なぁジェーン。これ、一緒に飲まねぇか?」
それはワインだった。ジェーンがボスのパソコンから情報を抜き取ってる間の暇な時間に、階下の売店に置いてあったいちばん高い酒を買ってきたのだ。俺の提案に、ジェーンは呆れたように言葉を返す。
「一応、これでも治安官の仕事中なんだけど。お酒なんて飲むわけないでしょ。」
「前はカクテル飲んでただろうが。」
「あれはアンタを騙すため。アタイの素性がバレた以上、アンタの前で酔うのはリスクでしかないわ。」
「そうか、そりゃ残念だ。なら話し相手になってくれよ。」
「なに?面白い話でも聞かせてくれるの?」
「いいや。ただ、今ならお前の質問に答えてやるよ。そういう気分なんだ。」
「……へぇ。」
食いついた。目の色が変わったという言葉が似合いすぎるほどに、会話に対するジェーンのモチベーションが変わったのを感じる。俺の隣にあるもう1つのベッドに腰掛ける彼女を横目に、コルクをナイフで抜き取って、瓶の口からそのままワインを喉へと流し込んだ。
「それじゃあ一つだけ、アタイがアンタに対してずぅーっと気になってたことがあるんだけど、聞いてもいい?」
「おー、なんだ?」
「アンタの……自傷癖について。」
ピタリと、俺の手が止まる。
「自傷癖……?なんの事だ?」
「誤魔化すつもり?でも残念、アタイはこれに関して結構確信があるのよ。」
「気の所為だろ。俺はリスカも何も……」
「その顔の傷、自分でつけたものでしょう?潰れた片目もそう。傷口があからさますぎるもの。それに、班長とアンタが戦った時、私を庇ってわざわざ彼女の蹴りを受けたわよね。あれ、必要あった?避けれたわよね、普通に。」
「…………」
「タバコもそう。明らかにハードワークな仕事でも、何でもかんでも請け負うところもアンタの癖由来でしょうね。これ以上、聞きたい?」
「……はぁ。」
いつから気付かれていたのやら。並べ立てられる根拠に、ぐぅのねも出ないばかりだ。
「大して面白くもねぇはなしだぞ。」
「いいわ。興味があるの。」
質問に答えるって言ってしまったし、仕方がない。俺は腹を括って、自身に染み付いた……その呪いの話を始める。
「昔の話だ……」
一般人な、幸せな家庭だった。父親は軍人、母親はエンジニア。両親と食卓を囲むことは少なかったけど、それでも二人は俺を愛してくれていたと思う。普段は姉が作ってくれた料理を、仲良く食べていた記憶が残っている。
「ねぇ、おいしい?」
「もちろん。姉さんは料理が上手だからね。」
「ふふっ、アンタは世辞が上手よね。」
「それ、僕の事バカにしてない?」
「してないわよ。ぜーんぜん。」
そんな、なんて事ない家庭。朝起きて、両親を見送り、学校へ行って、姉と晩御飯を食べて、ベットで眠るような……幸せな毎日。そんなある日、珍しく両親が二人とも休日を取れる日があった。
「家族全員で、どこか遊びに行くか。」
一家の大黒柱は、この期を逃すまいと提案をする。母は微笑み、姉は嬉しそうに飛び跳ねていた。本っ当に嬉しかった。大好きな家族と過ごせる、貴重な休日。この上ない幸せだと思った。
あんな事件が起こるまでは。
遊びに行った遊園地。そこで、旧都陥落が起きた。膨張したホロウに、俺たちの家族も巻き込まれた。軍人の父と、ホロウに対する耐性が高かった俺と姉は、ある程度問題はなかった。
しかし、母は違った。急速に進んだ侵食、母の姿は一瞬にして犬のようなエーテリアスへと変わったのだ。そして、かつて母だったそれは、父を食い殺した。そこからの記憶は曖昧だ。
「逃げて!アンタだけでも!」
姉の声が脳みそに木霊する。いつからか降っていた大雨に、姉の脚から流れ出る血が溶けだしていた。恐怖で足がすくんでいた。父の死体を貪る母を、俺は呆然と見ていた。
そして、エーテリアスはこちらを向く。新しい獲物を見つけたと言わんばかりに眼光が光、こちらに飛びついてくる。
「逃げなさい!」
姉の声に、突然俺の身体は弾かれたように走り出す。大好きな家族を置いて、俺は逃げ出した。背後で姉の悲鳴が聞こえる。泣いて、叫んで、いつの間にか俺はホロウの外にいた。
「ねぇ君!大丈夫!?しっかりして!!」
知らない大人が俺の肩を揺さぶっている。至る所で泣き叫ぶ人の声と、サイレンの音が混じりあっている。
「僕……は……」
言い終わる前に意識を失う。そして目を覚ますと、俺は避難所にいた。誰かが運んでくれたのだろう。それから、数ヶ月の避難所生活が始まった。
地獄みたいな時間だった。死んだ家族の事を思い、ほとんど食事は喉を通らなかった。特にキツかったのは、鏡を見た時。オオカミのシリオンの顔が映ると、脳みそであの光景が鮮烈にフラッシュバックする。
「おぇぇ……げぇぇぇ……」
吐き気がして、それ以上に怒りが湧いた。
「クソッ……なんで僕だけ!僕だけ逃げて!僕だけ生き残って!死ね!死ねよ!家族を見捨てたクソ野郎が!死ね!!」
避難所で初めて鏡を見た時、そんなことを何時間も叫んでいた。そうして結局、僕は怒りに任せて自分の片目を潰した。
別の日は耳を抉り、また別の日は口を耳まで裂いた。そんなことを続けていた。それがダメだと分かっていても、気付くと怒りが、目の前に反射したクソ野郎を殺したいと叫んでいるのだ。
避難所生活が終わってから、俺は住む場所を失った。当時は16歳……だが、訳ありの高校生を雇うほどの余裕がある職場も存在しなかった為、食い口すらも失った。
そこから暫くはホームレス生活。まぁ食えるものが無いので、基本的にはゴミ箱を漁ったり路地裏のネズミを食ったりしていた。最初は腹を下していたが、次第にそれもなくなった。日々増え続ける傷を布で覆い隠し、野良犬のように生きていた。
初めてマトモな飯を食べたのは、ホームレス生活から1年かそこらが経った時。旧都陥落から1年も経つと、次第にチンピラのようなバカが街へと繰り出してくる。
路地裏で、女性を襲う男が2人いた。関わりたくもないので、横を通り過ぎようとすると、「何ガン飛ばしてんだよ」と、男の方から突っかかってくる。
「汚ねぇ……ホームレスか?はっ、哀れだなぁ。」
「やめてください。僕は何もしてないでしょう。」
「あぁ?こっちをジロジロ見てただろうが。お前みたいなキッショイ奴が居るとよ、萎えんだよ。」
「そんな理不尽な……」
「はぁ?黙れよ。殺すぞ。」
そこからは殴る蹴るの暴力。後から数人仲間も来て、6人の集団で俺をリンチしていた。襲われていた女の人は、いつの間にか逃げていた。
ゲラゲラと笑う声が頭の中を反芻する。気分が悪かった。必死に辞めてくれと叫んでも、返ってくるのは暴力と嘲笑。「なんで僕がこんな目に合わなきゃならない」、そんな感情が渦巻く。もう、うんざりだったんだ。
気付くと、男たちは頭から血を流して死んでいた。コンクリで頭が潰されたもの、両手両足がバキバキにおられたもの、首の骨が折れたもの……そして、真っ赤に濡れて誰の血かも分からなくなった俺の手。
俺はその時初めて、殺しと盗みを覚えた。殺したチンピラ共から金だけ抜き取り、銭湯で身体を洗い流し、マトモな飯を食った。ファミレスの、なんて事ない1品が、どうしようもなく美味く感じた。
それからは適当なチンピラを見つけてはボコボコに気絶させ、盗んだ金で生計を立てていたが、それだけではやはり安定しなかった。ホロウレイダーを始めたのはその時だ。
元々、機械には強かったから……奪った金で店で1番安いパソコンを買って、独学でホロウの探索を始めた。その頃には、だんだんと自分の顔を見るのにも慣れていた。
次第にホロウの次元の動き方の法則性、エーテリアスの特徴、敵との戦い方を覚えて言った。そうしてある日、ホロウの中で遭難した軍の人間を助ける。
戦えるプロキシ……物珍しく、貴重な戦力だったからだろう。俺はホロウレイダーでありながら、軍にスカウトされた。父親と同じ仕事に興味があったし、不安定な仕事での生活も苦しかったから、俺はその提案を呑んだのである。
旧式の軍事暗号を知ったのもその時。物知りな先輩に教えて貰った。そこからはまぁ……普通の軍人の生活をしていたと思う。ただ、息苦しかった。軍の規則正しい生活や、チラつく上層部の人間の舐め腐った態度。
数年軍人をやったけれど、結局環境に馴染めなかった俺は軍を辞めてホロウレイダーへと戻った。そこからは色んな所を転々とて、今はボスの元で仕事をしてる。
「と、まぁこんなことがあったわけだ。自傷癖は昔の名残り。」
「なるほどねぇ。ごめんなさい、嫌なこと聞いちゃって。」
話が終わったあと、ジェーンはシュンとした態度でこちらに謝ってくる。彼女らしくも無い態度に、俺は軽く笑って謝罪を否定した。
「別にいいさ。新エリー都じゃ、悲劇を持ってるやつは珍しくない。それに俺は、『一般人を殺さない』なんて信念を語っておいて、9人も人を殺してんだ。謝られるような人間じゃ無い。」
「そう、それじゃあアタイは何も言わないわ。アンタがそれでいいならね。」
「あぁ、ありがとう。」
いつの間にか、ワインのビンは空になってた。そろそろ寝なきゃな……ただ最後に、ジェーンに聞きたいことがある。
「なぁ、俺も一つ質問いいか?」
「……いいわよ。さっきのお返し。」
「お前の本当の名前は、一体なんなんだ?ジェーン・ドゥ(名も無き女)は、明らかに偽名だろ?」
「それは……ごめんなさい。流石に無理よ。こっちも仕事だもの。本当の名前は教えて上げられない。アタイの仲間も知らないトップシークレットだからね。」
「まぁそうか。そりゃそうだわな。興味本位だ。忘れてくれ。」
「えぇ、そうさせてもらうわ。」
一粒すら滴ることが無くなったワインの瓶を床に置いて、俺は布団を被って横になる。
「今日はもう夜も遅い。寝るぞ。」
「電気は消さなくていいの?」
「さっき質問に答えられなかったお詫びに、お前が消してくれ。」
「ははぁ、そう来るのね。いいわ、アタイが消したげる。」
パチッと音がして、視界が一気に暗くなる。今日は治安官と戦って、ボスの裏切りを知って……疲れた。もう、眠ろう。次第に薄まっていく意識の中で、最後にジェーンの声を聞く。
「ありがとうね…アタイに協力してくれて。さようなら。」
俺は、そのまま意識を手放した。
「……ここ……対象です…………」
微かに声が聞こえる。窓の外の光が、まぶた越しに視界に差し込んでいた。もう、朝だ。目を覚まそう。そう思った時、ハッキリと声が耳に届いた。
「10時20分、対象を確保しました。」
昨日戦った治安官の声。手首に冷たい感覚が走る。俺は目を瞑ったまま、今の状況を整理する。まず手にかけられたのは間違いなく手錠だ。これは夢では無い。すぐそこに、治安官がいる。
何故……?
いや、答えは分かりきっている。ジェーンが、裏切ったのだ。
俺はパソコンのセキュリティ突破シーンを雰囲気で書いている。現場からは以上だ。